第5話 堕ちた天使と、残骸と。
猫耳の少女を見て、少年は絶句した。
「お兄ちゃん? どうしたの?」
猫人といって、猫耳の生えた人間というのはごく稀に生まれてくることがある。
そういった人たちは差別されて性格が歪むことも多いが、良い環境で育てば基本善良な人間に育つ。
しかし、この少女の場合はそれではない。
なぜならば、猫人は先天的なものであり、決して後天的に発現するものではないからだ。
では、猫人以外で猫耳が生えるときとはどんなときか?
それは一択である、魔女だ。
我に返った少年は、とっさに柄から刃を抜く。
「え?! お兄ちゃん!?」
「だまれ!近寄るな! 魔女!」
そういって、少年は、刀身から宙を飛ぶ青い斬撃を放つ。
これはこの少年 スティグマ・アーバンティアの固有魔法であり、確認できた限りではこの斬撃で切り裂けなかったものは存在しない。
「ちょ!ちょっと、お兄ちゃん、なにしてるの?!」
少女はその斬撃を横に避けた。
ギリギリで、斬撃が少女の頬をかすめ、少し血が出る。
「痛い! やめてよ、お兄ちゃん!」
少女は涙目になりながら抗議する。
少女の立ち振る舞い、喋り方、呼吸の一つまでそれらは、完璧にノア・アーバンティアであった。しかし、
「君が本当にノアなら、試しに、その傷 "治癒" してみてよ、できるよね?」
固有魔法は、魂に依存すると言われている。
たとえば、二人の人間がいたとして、その二人の魂を入れ替えれば、二人の持つ固有魔法も入れ替わるのである。
つまり、この子が、本当にノアならば、固有魔法の治癒が使えるはずなのである。
「........」
回答は沈黙、その理由は明白である。
「お前はノアなんかじゃない! 魔女だろ!」
今度は避けられないように数十もの青い斬撃を広範囲に散りばめた。
「ちぇ、お兄ちゃんのケチ!」
少女はそう言って首に掛けたペンダントを外し、飛来した斬撃に向かって振り下ろし、打ち消す。
「お! 割りとダメ元だったけど、ホントにペンダントで防げた! お兄ちゃんすごいよこのペンダント!」
少女はノアのような喋り方は崩さずに、明らかにノアではない文脈が飛び出た。
「黙れ!魔女が!」
「ママもペンダントにこんな効果があるなら、教えてくれればよかったのに。」
少女の足元から、いきなり猫耳の群生がこちらまで生えてきて、首に絡まる。
「なっ!」
「え? お兄ちゃん、魔女は猫耳を使うってたしか初等教育の範囲だよね? もしかして授業真面目に聞いてなかった?」
少年の息が苦しくなる。
少年は、何度も触手を斬りつけるか、やはり意味はない。
(僕は、ここで死ぬのか?)
首を絞められ、意識が遠くなってきたときであった。
急に触手から解放され、息が出来るようになる。
少女を見ると、その身体は震えており、その目は赤と青のオッドアイとなっていた。
「え?ノアちゃん、なんで死んでるのに意識あるの?」
「知らないよ、けど、わたしの家族を傷つけるつもりなら、見過ごせない。」
一つの口で、二人分の会話がなされる。
「う、うーん? あ! なるほど! ノアちゃんのママも子供欲しさだけでスゴイもん作ったね!」
「お兄ちゃん、急な別れになりそうで、ごめんね。」
そう言ったノアの右手の先から、光の刃が現れる。
「ノア.....ノアなのか!」
そして、ノアの首元へと刃が放たれた。




