ソーサラー・ナチュラル
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『ははは! 地球は私がいただく! お前のようなただの医者に止められるものか!』
『――それはどうかな?』
白衣を纏った男――ナチュラルが数本のメスを投げる。
すると、それは一メートル進むごとに倍へ倍へと増えていき、さらに物理法則を無視した軌道で標的に突き刺さる。
『ぐっ……おおおッ!』
地球征服を目論むズィースは激しい雷霆を放つが、それはナチュラルに炸裂する寸前にかき消された。
『――ヒノ! どうして私の邪魔をする!?』
『あなたが母を殺した日から、私はあなたの娘じゃなくなった。……ただの復讐者になったのよ! ナチュラル!』
ヒノの呼びかけに応じ、医者は自らの背後に巨大なメスを生成。
『お前は不老不死みたいだが――痛みには耐えられるのかな?』
大挙する魔術の紐によって動きを封じられたズィースをメスが両断する。
『ぐおおぉぉぉぉぉぉぉぉおッ!』
真っ二つにされた神を何重にも拘束し、ナチュラルは無数の分身を生み出すと、一斉にメスを放つ。
『も、もう……やめてくれ……』
『地球から出ていくんだな?』
『あぁ、約束する……もうお前たちには手を出さない』
『次はこんなものじゃ済まないぞ。お前を生きたまま解剖して、板に貼り付けて後世の研究材料にしてやるからな』
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エンドロール後の映像が終わり、シアターが優しい灯りを取り戻す。
俺は一度、深呼吸してから椅子に座り直した。
「やっぱり……名作だな。今年ベストの可能性すらある」
「まさかズィースが、ナチュラルがお医者さんになるキッカケだったとは思わなかった」
「えっと……私はこのシリーズは今回が初めてなんだけど、どういうことだったの?」
どの作品も三周はしている俺、前の二作を観ている葉音に対して、涼は初ナチュラルだったようだ。
コンパクトに解説してあげよう。
「そもそも、ナチュラルは一流の魔術師として名を馳せていたんだ。地球上で一番と言ってもいいほどの実力者だったわけだが、ある日、彼の頭上から雷が落ちてくる。失恋で魔術を使う気が失せていたナチュラルは危うく死ぬところだったんだが、アスピンっていう医者に庇われて一命を取り留めるんだが……代わりにアスピンが死んでしまうんだ。本来であれば、脅威から未然に人々を助けるはずの魔術師。脅威にさらされた人々を助ける医者。アスピンは未然にナチュラルを救って死んだわけだろ? つまり、魔術師としての仕事をしたわけだ。アスピンへの感銘と自分への戒めを得たナチュラルは、彼の代わりに医師になることを決意する。時に医者として助け、時に魔術師として助ける。悪の医者を成敗するのが一作目だな。二作目では、かつて共に戦ったブルー・マジシャンが敵になってしまうんだ。お互いの信念をかけた戦いの末、ナチュラルは彼女を説得してヒーローへと戻す。そして今作で明かされたのが、実は一作目でナチュラルを狙った雷は、全能神であるズィースが引き起こしたものだということ。魔術師として強くなりすぎたナチュラルを消そうとしていたわけだな。対するのは神ということで、流石のナチュラルも苦戦を強いられただろ? でも、ズィースの娘であるヒノのおかげで神に対抗する力を手に入れたってこと。今後の作品でもナチュラルは核になるだろうな」
うんうんと頷きながら語り終えると、涼が目を丸くしていた。
反対側の葉音も同じだ。一体どうしたのだろう。
二人は、状況が飲み込めていない俺の顔を見て、同時に笑い出す。
「ふふっ、悟ったら子供みたいね」
「カッコイイだけじゃなくて、可愛い一面もあるなんてズルいよね」
「…………何が?」
熱のこもった解説をしただけなのだが、二人の目には納得や尊敬ではなく優しさが浮かんでいる。子供の成長を見守る母親のような。
気恥ずかしくなった俺は、それとなく視線を逸らすのだった。
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「――あ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
映画を観た後は個室のカフェに行き、二時間ほど雑談して解散した。
二人は無理やり俺に万札を握らせるとタクシーにぶち込み、こうして自宅近くに到着したわけだ。
「明日、金を返さないとな」
いくら二人が芸能人だからといって、何から何までたかるわけにはいかない。
考えながら家までの一分を歩いていると、先日グネった足が痛むのに気付いた。
「病院、行った方がいいのか……?」
独り言が多くなる。
めちゃくちゃ痛いわけではないし、ヒビすら入っていなさそうだから軽視していたが、一度診察してもらうべきだろうか。
とりあえず、今日は湿布を貼って様子見だな。
玄関に到着し、バッグから鍵束を取り出す。
そのまま鍵を開けようとするが、手元のジャラジャラという音は別に、背後から足音が聞こえた気がして手を止める。
誰かが道を歩いていると思いたかったが、明らかにウチの敷地内から聞こえた。
しかも、声をかけてくるでもなく、背後で止まっている。
(……泥棒的なやつか?)
いくら鍛えているとはいえ、背後から攻撃されれば太刀打ちできない。
ホラー映画のような振り向きの恐怖を感じながらも、俺は勢いよく身体を反転させた。
そこにいたのは――
「……あ、あー! 悟先輩、奇遇ですねぇ!?」
この場にいるはずのない後輩――二兎芽莉彩だった。
後輩のターン!
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