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【3章開始】距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
二兎芽莉彩/天王洲セラ

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もちろん映画だけど

 極太の芯が通った声。

 振り返ると、そこには堂々とした涼の姿が。


「おはよう悟。今日も世界一カッコいいわね」

「あ、ありがとう……」


 サラッと言われすぎて否定もできない。


「そして、おはよう葉音。今日もとびきり可愛いわよ」

「涼こそ綺麗だよっ」


 二人とも褒め合っていて、実際にその言葉は本心なのだろうが、視線がぶつかり合う場所には火花が散っている。


「でもね葉音……その手鏡は私と悟の二人で選んだものなの」

「へぇ?」

 

「意味が分からないかしら? 私と、悟の、二人で選んだ。つまり共同作業ということよ」

「ずいぶん共同作業のハードルが低いんだねぇ?」


 怖いんですけど。

 涼は葉音とマウント合戦を繰り広げながら、さも当然のように俺の隣に位置どりし、自由だったもう片方の腕を手に入れる。


「涼はどうやって、この場所を見つけたのかな?」

「愛故に、というやつかしらね。さ、行きましょうか」


 愛故にじゃないんだけど。

 え、俺ってもしかして発信機とか仕掛けられてる?


 疑問を口から出すこともできないまま、俺は学校への道を進むことになる。

 

 ……というよりも、両隣が歩くのに引きずられている。

 この前にグネった足首がまだ痛むし、助かると言えば助かるが。


「悟くん、今日の放課後はなにするの?」

「いや、特に予定は決めてないんだけど」

「本当っ!? それなら僕と一緒に――」

「なら私と映画にでも行かない?」


 俺が一つ答えるたびに両側でバトルが始まる。


「ほら、この前言ってた映画。ヒーロー物のやつを観ましょうよ」

「涼は甘いね。僕はタイトルも知ってるし、その前の作品も全部観たよ」

「マジで!? どの作品が良かった?」

「僕はねぇ……ソーサラー・ナチュラルが好きかな」

「元魔術師が医者になるっていうのが面白いよな!」


 まさか葉音がここまでシリーズを観てくれているとは。

 なんか隣から「ぐぬぬ……」という声が聞こえてくるが、怖いからスルーさせてもらう。


「あー……そういえば入場者特典のカードがコンプできてなかったな」


 今作の特典はビジュアルカード。

 主役のナチュラルからヴィラン、よく分からんモブまで十種類ほどのラインナップである。

 

 そのカードに使われている写真のクオリティがかなり高く集めたいのだが、ランダムな上に一人で十回行くのは流石にキツい。


「なら、葉音だけじゃなくて私も連れて行くべきよね?」

「確かに」


 今度は反対側から「ぐぬぬ……」と聞こえてきた。


「……ねぇ葉音。私たち、時には分かりあうことも必要じゃないかしら?」


 戦いは続くものと思ったが、涼の声は思いもよらず優しかった。


「どういうこと?」

「私としても悟との二人だけの時間は大切よ。でも、私たちはどちらも悟を幸せにしたい。離れてほしくない」

「そうだね」


 即答されると恥ずかしい。


「刺激が必要だと思うのよね」

「二人じゃなくて三人でする時もあった方がいいってこと?」

「さすが葉音。その通りよ」


 涼が指をパチンと鳴らす。


「……今ってなんの話してるの?」

「もちろん映画だけど」

「当然、映画の話だけど」

「…………そうすか」


 こんなに信用できない「もちろん」「当然」がこの世にあるとはな。

 

 まぁ、こんな平日から取って食われるようなことはないはずだ。

 今日はシンプルに映画を観れるのだろう。


 俺は地球人に捕まった宇宙人のような気分で、学校への道のりを歩き続けた。


 ・


「さ、三人でって……」


 悟、葉音、涼。

 人通りの少ない道には、実はまだ追跡者がいた。


 派手な髪色、朝だというのにバッチリ決まったメイク――二兎芽莉彩は、涼の言葉を耳にしてワナワナと震える。


「先輩は東堂先輩にも襲われたってこと……?」


 まさしくその通り。芽莉彩は焦っていた。

 まだ葉音だけなら「運」で納得もできる。


 たまたま自分にアプローチの機会が回ってこなかっただけだと。

 気の迷いで悟が関係を持ってしまっただけなのだと。

 お墨付きの自分なら、いつでも巻き返せる。


 だが――流石に二人もライバルがいるのは聞いていない。

 片やオンライン握手会が秒で完売するアイドル、片やファッション誌の専属モデル。


 自分が可愛いという自覚はある。

 自覚はあっても、この壁はあまりに高すぎた。


 ネットの海で揺蕩うしかできない自分に勝ち目はあるのか?

 もう、悟は手の届かないところに行ってしまったのではないか?


 思考がどんどん危険な方向へ向かっていく。

 脳内で実践される「手段」が怪しくなっていく。


「悟先輩が奪われるなんて……絶対に嫌だ」


 しかし、どうすれば魔王二人から姫を助け出せる?

 こちらにはパーティを組む仲間もいないのだ。


「私だって、先輩を幸せに……」


 言葉だけの存在になりつつあることを、自らが一番良くわかっている。

 このまま飛び出していって悟を連れ去りたい。

 でも、足が動かない。行くなと脳が警告を発している。


 結局、芽莉彩は後ろから様子をうかがうしかできなかった。

 唯一と言っていい成果は、悟が片足を引きずっているのを知れたこと。


「……諦めない。私が一番先輩のことを――」


 ぶつぶつとうわごとのように呟く。

 葉音に完膚なきまでに叩きのめされた「あの日」以来、芽莉彩の精神は不安定な橋のように揺れていた。


 では、その次はどうする?

 橋から落ちないように渡りきるのか、橋を直すのか。

 どちらも必要なことだったが、彼女は。


 ――橋を直すことを選んだ。

戦って共倒れになるか、手を取り合うか。


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