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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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59/69

めちゃくちゃ良いじゃない!?

 ハイブランドやレコードショップ、それに飲食店などが肩を並べる中、屋上はデカい公園という独特の構造をしている宮下パーク。


 俺たちは端っこにポツンと設置されているエスカレーターを登り、最上階の宮下公園に到着した。


 ビルに囲まれた空の下には人工芝と散歩道、スケートボードの音が響く自由な空間。


 いくつか並んでいるベンチのほとんどにはカップルや、イヤホンで音楽を聴きながら空を見上げる女の子が。

 同じ空間にいながら、誰もが他人には見えない閉鎖的な物語を生きている。


「カップルが多いなぁ」

「あら、私たちだって他の人からは恋人同士に見えてるのよ?」


 そう言うと、先輩はいつものように腕を組んでくる――かと思えば、手持ち無沙汰だった俺の手に、自分の手を重ねてきた。


 氷のように冷たく、しかし心が落ち着く柔らかい感触。

 俺が何も言えないでいると、細い指の一本一本が俺のそれと絡み合ってくる。


「……あ、あそこが空いてるわね」


 俺の心音など知らないと言いたげに、誰も座っていないベンチを見つけた先輩は腕を引く。

 二人で腰を下ろしてもなお、その手が離されることはなかった。


「……ふぅ。疲れてないかしら?」

「大丈夫。飲み物でも買ってこようか?」

「ううん、平気よ。悟こそ喉が――」


 そこまで言って先輩の言葉が止まる。


「……やっぱり喉が渇いたから買ってくるわね」

「それなら俺が――」

「いいの私がいくから。それより、悟も何か飲んだほうがいいわね」

 

「いや、俺はぜんぜん――」

「まだ涼しいとはいえ脱水症状を甘く見てはいけないのよ!? いいから飲みたいものを教えなさい!」

「えぇ……じゃあサイダーで」


 荒波のような怒涛の勢いで押し切ると、先輩はさっさと立ち上がり去っていった。

 俺の座っている場所からだと何処に自販機があるか分からないが、彼女は知っているようだ。

 帰ってくるまでの間、少しだけ休ませてもらうことにしよう。


 ・


 自販機の前に着いた私は、悟くんから自分が見えないか念入りに確認した後、胸に手を置いた。

 誰かが隣にいたら聞こえてしまうんじゃないかというくらい、心臓が強く鳴り響いている。


(ど、どどどどどうすれば……)


 もちろん理解している。

 私は葉音と悟くんのために、あくまで教える立場だということ。

 昨日の夜、立場を悪用するのは最後にしようと決めたことも。


 でも――きっと恋は矛盾よりも強い。


 彼の隣にいるだけで冷静な自分が消え去ってしまう。

 違う自分にコントロールされているのではないかと思ってしまうほどに。


 今、どうして自分が狼狽えているのかというと、それは――


(――これってキスができるんじゃないかしら!?)


 宮下公園はカップルの聖地と言ってもいい場所……とSNSに書いてあった。

 撮影で昼間に来たことはあったが、まさか夜がこんな、こんな良い雰囲気だとは。


 腕を組むのは大丈夫だった。

 かなり攻めたと思った手を繋ぐのも。

 

 なら、これはもしかして……?

 そう思うと、途端に怖くなってきた。


(私、口臭とか大丈夫よね!?)


 気をつけてはいるけれど、好きな人とするのに万全はない。

 しかも、悟くんは違うけど、私は初めてなのだ。


 あぁそうだ、悟くんは葉音とキスしてるんだから、比べることができてしまう。

 私は期待外れだなとか嫌だと思われたらどうしよう。


 自分だって美しいという自負はあっても、葉音みたいな完全無欠の美少女とのキスなんて、それはもう天国のような気分のはず。


(え、何を買ってきてほしいって言ってた? サイダー? サイダー!?)


 初めてのキスの味はずっと覚えていると聞いたことがある。

 ということは、私の記憶に刻まれるのはサイダーの味。


(めちゃくちゃ良いじゃない!?)


 これから一生サイダーしか飲まないようにしよう。

 自販機にも売り切れてないし、早く買って戻らないと怪しまれてしまう。


(……これで最後にするから、神様。今回はだけは許してください)


 空に向けて強く祈ると、私は投入口に百円玉を入れた。


 ・


 十分くらい経った気がする。

 未だに帰ってこない先輩を探しに行こうかと思った時、向こうから歩いてくるのが見えた。

 手にはサイダーのペットボトルが握られている。


「ごめん、遠かった?」

「い、いや? ぜんぜん近かったわよ?」


 そこそこ時間がかかっていたようだし、手間をかけさせてしまったかもしれない。

 だから謝ろうと思ったのだが、彼女は挙動不審気味に否定した。


「そ、その……私も喉が渇いているから、先に飲んでも良いかしら」

「買ってくれたのは涼ちゃんなんだし、いくらでも」


 先輩は俺の隣に座ると、危なっかしい手つきでサイダーを飲む。

 よっぽど水分に飢えていたのか、ゴクゴクと音を鳴らして半分ほど飲んでいた。


「の、飲みすぎてしまったわね……残りはぜんぶ悟が飲んでいいからね」

「ありがとう」


 ペットボトルを受け取る。

 回し飲みするタイプなんだ、という驚きは丸めて捨て、口をつける。

 爽やかな甘さと炭酸が口内を駆け巡り、一日の疲れが軽減されていく。


「……たまに飲むサイダーって美味しいよな」

「そうねその通りだと思うわ」


 飲んでいる時、やけに先輩に見られていた感覚があるが気のせいだろう。

涼がんばれー!という人も

悟ふざけんなー!という人も

葉音早く来いー!という人も

応援の評価ポイントをいただけると嬉しいです!

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