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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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私が困るのよ

 学校の最寄りの改札を抜けてすぐの待ち合わせ場所には、すでに東堂先輩が立っていた。 

 もう何度も見ているはずの制服姿。

 けれど立っているだけで絵になるようなその姿に、思わず言葉が遅れる。


「遅くなってごめん」


 俺が声をかけると、先輩はゆっくりと振り向き静かに頷いた。


「……遅くないわ。私が早かっただけ」


 目線が合い、彼女が優しく微笑む。


「じゃあ、行きましょうか」


 先輩は極めて自然に俺に腕を絡ませ、ちょうどきた電車に乗り込む。


「今日はどこに行くんだ?」


 前回は前夜に大まかな予定を教えてもらえたが、今回は情報がない。

 彼女のチョイスに間違いはないだろうが一応聞いてみた。


「今日は――プラネタリウムに行こうと思っているの」



 渋谷駅から程近くにある小さなプラネタリウムは、それほど混んでいなかった。

 チケットを買おうとすると先輩に止められ、彼女が買ってくれる。

 投影まであと十分ほどあり、ロビーで時間を潰すことにした。


「渋谷にプラネタリウムなんてあるんだね」

「本当は池袋にしようかと思ったんだけど、学校からじゃ少し遠いじゃない? それで調べてみたらここを見つけたの」

「なるほど……小学生ぶりくらいにきたかも」


 ふと口にすると、先輩が「意外」と目を丸くする。


「あなた、夜景とか星とか……そういうの好きそうなのに」

「好きだけど、誰かと来る場所って気がして」


 言いながら、自分でも何が言いたいのか分からなくなる。

 先輩はふっと笑って、小さく呟いた。


「……そうね。特別な相手と来る場所かもしれないわね。いつか、葉音も連れてきてあげるのよ? ここじゃなくて、もっと大きいところに」

「ここじゃダメなのか?」


 一度行った場所の方が勝手がわかると思うんだが。

 しかし、先輩は首を横に振る。


「私が困るのよ。他の場所に行ってくれなきゃ、ね」


 その意図が分からなかったが、俺は聞き返さなかった。

 投影が始まるというアナウンスがあったからだ。


 投影が始まると、照明がすっと落ちた。

 少し前までざわついていた空気が一変し、柔らかくも深い静寂が場内を包み込む。


「始まるわね」


 小さく先輩が言い、俺は頷く。

 ふわりと、天井が緩やかに輝き始めた。

 ひとつ、またひとつと白く小さな光が広がっていき、やがてその数は数え切れないほどになっていく。


 目を奪われた。

 まるで、本当に夜空の下に寝そべっているようだった。

 ただ天井に映しているだけなのに、それ以上の臨場感と没入感があって、俺は息を呑んでいた。


 それが俺のものだったのか、あるいは隣に座る先輩の唇から漏れたものだったのかは分からない。

 けれど、その呼吸ひとつすらも空気の温度を変えてしまうように感じる。


 ふと、横にいる先輩に視座を向けると、その横顔がほんのわずかに星の光に照らされていた。

 学校ではまず見ない、柔らかな表情。


 長い睫毛の下で目元が穏やかに細められていて、肩まで落ちる艶のある黒髪が、星空の明滅と一緒に光を帯びている。

 夜空を纏っているようだった。


 誰もが憧れる東堂涼の顔ではなく、一人の女の子として星を見上げているような。


(……こんな顔、するんだな)


 ナレーションがゆっくりと流れ始める。

 銀河の成り立ち、幾千万の星が連なってできた宇宙の話。

 耳には入ってきているけれど、俺の意識は依然として隣に向けられている。

 

 その時、先輩がわずかに動いた。

 視線がこちらに向けられる。

 俺を愛しむような瞳に心臓が跳ねた。

 それを悟られないように、俺は慌てて目を逸らす。


 情けない。大人びた先輩の前で、中学生みたいな反応をしてしまった。

 そう思った矢先、耳元で、小さな笑い声が響いた。

 それは星の瞬きのようだった。


 

 上映が終わり、外に出ると空はもう暗くなっていた。

 ここが都会、渋谷の街ということも関係しているが、どうしても先ほどの光景には見劣りしてしまう。


「綺麗だったね」

「えぇ。本物の星を見てるのかと思ってしまうほどに。……誰かさんの面白い反応も見れたしね?」


 そう言って、先輩は意地悪そうに俺を見た。


「涼ちゃんが隣にいたら、誰だって緊張すると思うよ」

「それは……悟もそうなのかしら?」

「もちろん。当たり前に」


 俺が言わずとも、彼女なら今までの人生でそれを実感しているはずだ。

 それなのに、なにに衝撃を受けているのか動揺を隠せない様子で「ふぅん」と漏らした。


「……この後、どうする?」


 二人で駅の方面へと歩き始め、俺は聞いた。


「ちょっと暗くなってきたし、もう帰っても――」

「も……もう少し一緒にいない?」

「行きたいところでもある? いいよ」


 街灯の光によって、前を向いて歩く先輩の顔はよく見えない。

 ただ、妙に緊張した声色で。

 俺はそのまま先輩についていくことにする。


 たどり着いたのは代々木公園側とは反対の、渋谷と原宿の間にある商業施設――宮下パークだった。


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