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【2章完結】距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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歯車

 七里ヶ浜悟が無駄な決意をしている時、天王洲セラは本を読んでいた。

 

 一般的な高校生の例に漏れず、このクラス内にはいくつかの派閥が存在していたが、その中でも異質なのがセラを取り巻く空間。


 クラス外にまで波及しているコミュニティなのか、日によってメンバーはバラバラだったが、誰もが「おしとやか」という共通点がある。


 女子による、女子のための空間。

 セラは望んで彼女達たちを集めたのではなく、勝手に向こうが自分を囲んでくるだけ。

 名前を覚えているのはほんの一人二人だけで、他は気にも留めていなかったが、楽であるのは間違いない。


 セラは男が嫌いだ。

 なにをやってもガサツで知性のかけらもない。


 得になるかどうかで人付き合いを決めなさい、とは天王洲グループを束ねる祖父の言葉であり、彼女はそのように生きてきた。


 関わる相手に順位を付け、それ以外を排除したい彼女にとって、少なくとも同学年の男子は眼中にない。


 ……とはいえ、この嫌いは「嫌悪」ではなく、まだ運命に気付いていないだけでもあった。


 心の中に「みんな」がやっていような恋愛への羨望がないわけでもなく、それは両手の間にも表れていた。


「……セラさん、今日も美しいですよね」

「本当に。わたし、セラさんは天使とお人形さんのハーフなんじゃないかと思うんです」

「私とそう思います。本を読む姿だって一枚の絵画のようですし」

「そういえば、セラさんはどんな本を読んでらっしゃるのかしら。のぞいてみたいです」

「やめなさい。セラさんの憩いの時間を邪魔してはいけませんよ」

「そうですよね……」


 取り巻きが背後でしている会話も、セラの耳には全く入っていない。

 なぜなら、彼女は先日図書館で借りた本に夢中だからだ。


『――つまり、恋愛を成就させるためには適切な言葉遣いが必須である。褒め言葉を一つとっても「可愛い」のか「綺麗」なのか、それとも内面を褒めるべきなのか。これらは相手の人生経験や性格を踏まえて臨機応変に選んでいかなければならない。


 その柔軟な姿勢が、今まで思いもしなかった恋を自覚させる手伝いをしてくれることもある。あなたは「運命」という言葉を理解しているだろうか?


 巷で人々が恋焦がれる「運命の人」というのは、どのタイミングで現れるのか。一目見た時に電流が走るなんていうのは滅多にない。


 大抵の場合、人は運命に既に出会っているのに気づくことができない。そして、それを不意にしてしまう。


 もし私の言葉が信じられないなら、自分の足で運命を探しに行ってみるといい。探しに行く場所の見当がつかないなら、すぐ近くにいる友達にでも――』


 セラはパタンと本を閉じ、後ろへ振り向いたと思えば、躊躇せずに声をかける。


「運命とはどこにあると思いますか?」

「う、運命ですかっ!?」

「セラさんが私たちにお声を……」


 数秒前まで和気藹々と会話していた女子たちが石像のように固まる。

 そのまま沈黙が続くこと十秒。

 ついに、片方が口を開いた。


「ええと……放課後の渋谷、とかですかね……?」

「………………なるほど」


 セラは顎に手を当てて考える素振りをしながら頷く。


「ありがとうございます。私、少し用事があるので失礼しますね」


 そう告げて席を立つと、セラは教室から出ていく。

 「これで合ってたのかな?」という取り巻きの言葉は聞こえない。


 廊下を進み、生徒のいない静かな場所まで来ると、セラは手に持っていたスマホを操作して耳に当てた。

 ほとんど間をおかず応答がある。


「……もしもし、爺かしら。私の今日の予定はズラせる?

 ……そう。なら明日の予定はどう?

 ……そうしてちょうだい。明日は少し行かなければいけないところがあるの」


 ・


 日に日に募っていく想いと後悔。

 その二つが心の中で混ざり合っておかしくなりそうだ。


 どうして彼の隣にいるのが私じゃないの?

 話すたびに違った一面が見れて嬉しい。

 でも、私には限界がある。

 全部を見ることができるのは私じゃない。


 大切な友達を裏切るわけにはいかない。

 ずっと支え合ってきた仲間。今までもこれからも。


 その目で私を見てほしい。

 その口で私の名前を呼んでほしい。

 その心で私を抱きしめてほしい。

 私の向こうに他の人を見ないでほしい。


 彼を見つけることができたのは運なんかじゃない。

 彼女がずっと努力してきたからだ。

 自分の経歴に傷が付くことも恐れない覚悟の成果。


 次はどこに行こうかな。どこに行ったら喜んでくれるかな。

 好きなものも嫌いなものも全然知らない。

 彼という血が少しずつ私の中に流れていく。

 それが、たまらなく嬉しい。


 私がやっていることはただのハイエナ。

 あの子の努力を踏み躙る行為なんだから、許されるわけがない。


 どうせ私は代わりなんだから。

 どうせ私は手遅れなんだから。

 どうせ私は勝てないんだから。


 最初に考えていたことを忘れちゃいけない。

 せめて、彼の思い出の中で生き続けたい。

 これ以上、嫌われていると感じたくない。

 あんなズルいことをした責任を取らなきゃいけない。


 ――もう、これで最後にしよう。

ぜんぜん不穏じゃないですよ

ついに次回から第2章クライマックスです

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