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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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55/69

推理

 モデルレッスンが終わると次はテレビ番組の収録。

 巻島葉音の所属するアイドルグループ全員が出演するバラエティ番組であり、人気のある芸人コンビがMCを担当している。


 メンバーが歌やダンスといった所謂「アイドルの仕事」以外に挑戦し、身体を張る時期が終わり安楽椅子探偵状態の芸人が美味しくするというスタイル。


 グループと芸人のどちらのファンも楽しめる三十分ということで、かなり評判が良い。


 今日は葉音のみが違うスケジュールで動いているため、こうしてスタジオ間の移動時間が発生していた。


 現在二十一時。葉音は後部座席で揺られながらスマホを眺めている。

 いや、眺めているというより――穴が開きそうなほど見つめている。


(――か、かっこいい〜っ!)


 画面に映っているのは七里ヶ浜悟。

 ポロシャツを着ているものとセットアップのトラックジャケットを着ているもの。

 二枚の自撮りを交互にスライドさせている。

 どちらも葉音が見たことのない服装だった。


 それにしても心臓に悪い、と葉音は思う。

 日課になっている悟とのMINE。

 今日は返事が早いと喜べば、「これ、今日買ったんだけどどうかな?」と唐突に自撮りが送られてきたのだ。


 無意識に涎を垂らし、しばらくアイドルがしてはいけない顔をしていたが、メッセージを送っていないことを思い出す。


「すっっっっっごく似合ってる!」

「なんでこんなにカッコいいの!?」

「いつもと系統変えたよね?」

「どうしよう悟くんがもっとモテモテになっちゃう」

「こんなの全世界の女子がほっとかないよ」

「この写真保存していい?」

「もう保存しちゃったけど」

「うへへ」


 世界が世界なら「閃光」という二つ名が付けられそうな速度でメッセージを送る。


『こんなに意味をなさない質問があるなんて』

 

 一通り言いたいことを言って満足したタイミングで返事が来た。


『でも、本当に似合ってるか不安だったから』

『そう言ってもらえて良かった』

「うんうん!」

「悟くんはどんな服着ても似合うよ!」

『流石にそれは盛りすぎだろ』

「そんなことないよ?」

「着ぐるみとか着たら絶対可愛い」

「実は僕、未来が見えるんだよね」

『なるほど』

『訪れない未来が見えるのは分かった』

『そろそろ風呂入ってくるよ』

『この後も頑張れ』


 夢の時間が終わりを告げる。

 悟のツッコミはときどき理解できないが、好きな人が自分に反応をくれること自体が嬉しかった。


 最近は、ファンにどんな対応をすれば喜んでもらえるのか、少しずつ思いつくようになっていた。

 自分が悟に何をされたら、言われたら嬉しいか想像すれば良い。


(悟くんに気付けてから良い事しかないなぁ……)


 自分を探しに来てくれた日を思い出すだけで身体中に――特に下腹部に幸せが溢れてくる。


(はぁっ……悟くんっ……)


 ここにいるのが自分一人であれば、節操のない行動を起こしていたかもしれない。

 もどかしい気持ちになっていると、ふと、何かが引っかかった。


『本当に似合ってるか不安だったから』


 本能と理性が乖離している。

 どこが問題なのか、二つの自分をゆっくりと重ね合わせていく。


(……悟くんが気に入って買ったわけじゃなくて、誰かにオススメされて買ったってこと?)


 まず最初に思い当たるのは、当然だが店の店員だろう。

 悟が山室隆輝あたりと服を買いに行き、彼に選んでもらったという線は薄い。

 隆輝が服に詳しいとは思わないし、何より二人の体格が違いすぎる。


 やはり店員のチョイスか。

 いや、待てよ。葉音は検索アプリを開き、先ほどの悟の写真を読み込ませる。

 三秒も待たずに結果が表示された。


(……ポロシャツが二万円で、トラックジャケットが三万円)


 おかしい。高すぎる。

 服の値段としては妥当ではあるが悟は高校生だ。

 バイトをしているわけでもないのに、少なくとも合計で五万円。


 自撮りからはパンツを確認することができないが、デザイン的にトラックジャケットはセットアップでもおかしくない。

 そちらも買っている可能性は十二分にある。


 それを悟が払うのか?

 確実に似合っていると実感しているなら、葉音が悟に感じているような「運命」ならともかく、彼は半信半疑だった。心から信じ切れていなかった。


 十万円近くも払うはずがない。

 であれば――


(……誰かに買ってもらった?)


 本人ですら気付いていないが、星のように煌めく葉音の瞳から光が失われていた。

 同時に、ついさっき自分が送ったメッセージが現実に飛び出してくる錯覚。


 ――どうしよう悟くんがもっとモテモテになっちゃう

 ――こんなの全世界の女子がほっとかないよ


 恋とは違う。愛とも違う。

 自分でも驚くほど冷えた何かが全身に回っていく。

 血管を通り、全身に張り巡らされていく。


(……悟くんが素敵だって気付いた誰かがいるんだ。僕と悟くんの仲を邪魔しようとする泥棒猫が……許せない)


 悟が誰か他の女と出かけることは浮気ではない。

 悪いのは女の方だ。優しい悟を誑かし、騙そうとしている。


(僕が排除しなくちゃ)


 女としての質で自分に勝てる人間など、ほとんどいないだろう。

 だからといって油断はできない。

 相手は自分がいない時期を狙って悟にアプローチしているのだから。

 絶対に尻尾を掴んでやる。


(多分、前に感じた不安も同じ相手だ……誰なの?)


 異性との関わりはほとんどないと、前に悟自身が言っていた。

 仮にではあるが、悟の交友関係は自分の知っている範囲だと思っていい。

 葉音は一つずつ、丁寧に可能性を探っていく。


(いちばん怪しいのは二兎さん。でも、おいそれと出せる金額じゃない)


 どうして「あんな態度」かは分からないが、芽莉彩は悟に恋をしている。間違いない。

 だが、ただの高校一年生が貢げる額じゃない。

 僕は出せるけどね、と心中でマウントを取って次の可能性を手に取る。


(財力で言えば天王洲さん……はないか)


 セラならいくらでも、その気になれば店ごと買えてしまうはず。

 しかし彼女は男性に対して嫌悪感を抱いていて、悟との関係性も良くない。

 彼女が悟を好きになることなんて、未来永劫ないだろう。


 芽莉彩には愛があり、財力がない。

 セラには財力があり、愛がない。

 どちらも「相手」になり得ない。


(じゃあ、一体誰が? 悟くんと関わりがあって、それでいてお金も持っていて――)


 葉音の手からスマホがこぼれ落ち、柔らかいカーペットに抱きしめられた。

 一瞬だけ回路が繋がり、電球に明かりがついた。

 それはすぐに消えてしまったが、核心に迫っている。


 いるかもしれない。

 悟と関わりがあり、決定的な否定をせず、かつ高校生らしからぬ財力を持っている。

 そして、葉音の不在をいち早く予期することができ、自然に包囲網を抜けることができる。

 灯台下暗しという言葉を体現できる一人が。


(もしかして――)


 関係のない答え合わせにはなるが、葉音の一連の推理には二つばかり間違いがある。

 だが、肝心の部分だけは――しっかりと正解を導き出していた。

悟のことになるとIQが上がる女、巻島葉音

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