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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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もう購入済みよ

 おお貢がれを回避して、次の店へ向かう。


「価格帯をもっと落とすならここかしら」


 二店舗目は「studying」といい、規模は先ほどの店より大きい。

 店員の数からしても、NN7は一人だったのに対して、こちらは四、五人はいる。

 服の数も段違いで、壁際にずらりと並んだハンガーラックに、等間隔で名札が付けられていた。

 

 これが先輩の言っていたセレクトショップというやつで、名札の場所ごとに違うブランドの服なのだろう。

 中古本を売っている店で「ホップ」とか「マンデー」とか分かられているのと同じだと考えると、驚くほどすんなり理解できた。


「……先に言っておくけど、ここの店員さんは態度が悪いわ」

「はぁ」

「こちらを友達だと思っているのか、馴れ馴れしい接客スタイルの人が多いの。この店舗はまだマシだけど、原宿とか新宿は地獄ね」

「そんなにか……」


 たまにいるんだよな。距離感近い人。


「声かけはノルマだから仕方ないけど、自分に似合う服をオススメって紹介してきたり、ノリが寒いのよ」

「よ、よく知ってますね……」

「たまにメンズ服も着るのよ。セレクトショップとしての質は悪くないから寄るんだけど……キツいわね」


 巻島に害を為す人間でもないのに先輩がここまで言うのは珍しい気がする。

 俺の気持ちを察してか「いざとなったら私が守るから、悟は気にしないでね」と言ってくれるが、余計に身構えてしまう。


 だが、今日は落ち着いた日なのか、店内にヤンチャそうな店員こそいれど「何かありましたら〜」以外に話しかけてくることはなかった。


 ……いや、違うな。

 よくよく観察してみると、店員の目が怯えている。


「……もしかして涼ちゃん、一回店の中でキレたりした?」

「してないわよ?」


 先輩は可愛らしく首を傾げる。

 俺の勘違いだったようだ。


「話したくないから消えてほしいとは言ったけど」


 それそれぇ!

 あらかじめ釘は打たれていたというわけか。


 しかし、そのおかげで快適に店内を回れるというのも事実。

 先輩は並べられている服を一通り見て、俺に何着か手渡す。

 そのまま近くに立っていた店員に声をかけ、戻ってくる。


「そこの試着室に入るわよ」

「涼ちゃんも!?」

「さ、流石に……私は入らないわ」


 驚いた。言い方的には二人だったよな。


「まずはこれを着てちょうだい。ボタンは留めて、タックインは……しなくていいわね。それが終わったらこれ。セットアップだから一緒に着てね」

「わ、わか……った」


 テキパキとした指示。

 既に半分くらい忘れているが、最初に着る服は覚えている。

 先輩に試着室のカーテンを閉められ、着替えを始める。


「……どうかな?」


 シュレディンガーの俺を解放して先輩の前に姿を現すと、彼女は頷いた。


「良いじゃない」

「この服って……なんなんですか?」


 なんなんですか、という質問が馬鹿げているのは理解している。


 一つ一つ紐解いていくと、黒い半袖のシャツだ。

 質感はあみあみ……?

 色に反して夏にも着れそうである。

 襟や胸ポケットも付いていて、その部分だけ色が違った。

 シャツはシャツなんだが名前はわからない。


「ポロシャツっていうのよ」

「ポロシャツ」


 綺麗なおうむ返し。


「私たちの父親世代が好むイメージのある服だけど、最近は若者の間で流行っていてね。一枚で着てもいいし、何か羽織っても似合うわ」

「なるほど。いっぱい着れるってことですね」


 俺の感想がアホすぎる。


「それじゃあ、次はセットアップの方ね。ポロシャツは一回脱いで、悟が着てきた白いシャツの上に着てね」

「よし」


 もう一度カーテンが閉められ、指示通りに着替える。

 今度はセットアップ……黒い上下セットの服だ。


 ポロシャツとやらより少し分厚く、独特の質感をしていた。

 動物の皮を短くカットしたような手触りで、上品な光沢を放っている。


 シャッという音と共に、先輩に俺の変化を見せつける。


「うん。こっちも良く似合ってるわよ」

「ジャージみたいで着やすいな。これはなんていうの?」

「トラックジャケットよ。ジャージと同じものだと思ってくれていいんだけど、流行っているのはこっち」


 後から聞いた話だと、トラックジャケットはファッションミックスのジャージという感じらしい。


「これは……そうね、あんまりフォーマルじゃなくていいデートの時とか、夜にコンビニに行く時とかにオススメかしら」

「動きやすいし気に入ったよ」


 オシャレな服は動きづらい印象がある。

 身体に色々と巻きつけているという物理面でも、良い服だから汚したくないという精神面でも。

 しかし、この服は黒いから汚しても目立たないだろうし、着ていて気持ちがいい。


「これ、買おうかな。ついでにさっきのポロシャツも」


 あと一ヶ月ちょっとで夏休みだ。

 ポロシャツは夏に着れそうだし、トラックジャケットは夏の夜から秋にかけて長く使える。

 センスの良い人に選んだもらったから、客観的に見てもダサくもないはず。


「それぞれいくらですか?」

「ポロシャツが二万円、トラックジャケットが各三万円ね」

「よしそろそろ帰ろうか。俺は今からウニシロに行くから――」

「もう購入済みよ」

「――はい?」


 先輩の言葉に耳を疑う。


「試着している間に買ってしまったわ。私が選んだ服なんだから、似合わないはずないし」

「い、いやいや……俺はこんな大金持ってないんだけど」

「心配しなくても、私から悟へのプレゼントよ。カフェを奢ってくれたし、ぬいぐるみも買ってくれたでしょ? そのお返し」


 倍返しなんていうレベルではない。

 俺が払ったのはせいぜい五千円。対して服は合計で八万円。

 泉に財布ごと投げ入れたって女神様はここまでくれない。


 恋人の練習なのに本気になりすぎだ。

 隆輝の言葉が頭の中を駆け巡り、絶句していると、先輩が俺の手を握った。


「もらって……くれないかしら。これでも私、前にあなたに強く当たったことを後悔しているの」

「そんなの、気にしなくて――」

「本音を言えば、嫌われたままじゃ嫌なのよ。だから私のために……ね?」


 自分の思考が見透かされているような気がして黙ってしまう。

 

 巻島に辛い思いをさせないためというのもあるが、先輩自身も俺との関係を修復にしようとしてくれていたのか。


「なら……ありがたく着させてもらうよ」

「本当に? 良かったわ」


 安心したと言わんばかりに胸を撫で下ろす先輩。


「でも、それにしても貰いすぎだ。いつか、なにかで返すよ」


 至極当たり前の事を言ったまでだが、彼女は嬉しそうに、しかし寂しそうに笑顔を作った。


「……期待してるわね」


 かくして、おお貢がれから逃れた俺は、その先でおお貢がれされてしまったのだった。

この物語はフィクションです。

店員はノンフィクションです。


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