気持ち悪かったかしら
ロブスターカフェを出てから服屋までは五分も歩かなかった。
代々木公園の方に戻り、手前を渋谷駅側に折れるとすぐに見える商業施設、ポルコが目的地だった。
「メンズ服にも色々あるけど、渋谷で見るならここかしら」
「ポルコの向こう側にも色々服屋があるけど、こっちの方がいいの?」
東堂先輩は頷く。
彼女を先頭にエスカレーターに乗る。
「一本二本入ったところにはKIND REDとかTHRERとか若者向けのお店が多いけど、KIND REDは安い代わりにデザインが垢抜けないし、THRERは値段も質もちょうど良いけど、他のブランドの真似事感が強いのよ。
代々木公園側にあるLOT MUSICIANはデザインも着心地も良くてオススメだけど……高校生が手を出すのはかなり厳しい値段ね」
凄まじい情報量にフリーズしかけるも何とかついていく。
二階に到着し、再度エスカレーターで上を目指す。
「気に入ったブランドがあるなら店舗に行くのもいいけど、そうじゃない人。広い選択肢の中から自分に似合うものを見つけたい時なんかはセレクトショップがおすすめね。
ポルコにはメンズ向けセレクトショップがいくつか入ってるから、悟に似合って丁度いい値段のものを探しましょう?」
やはりというか、日頃から服と手を取り合って生きている先輩は知識も豊富だった。
しかし、それよりも俺が驚いたのは表情。
隆輝が好きなアニメを語る時と同じで、きっと、俺がヒーロー映画の話をする時も同様なのだろう。
先輩から人間味を感じてついつい嬉しくなる。
「涼ちゃんって服が好きなんだね。新しい一面が知れて嬉しいよ」
「なっ――す、少し話すぎてしまったみたいね」
照れたように目を逸らした先輩だったが、すぐに顔色が悪くなる。
「……気持ち悪かったかしら」
「ぜんぜん。むしろ知らないことを教えてくれる人は好きだよ」
そう言うと、先輩は小声で「良かった」と繰り返し、しばらくの間は上階を眺めていた。
そのまま三階、四階と無心で上がっていくと、ついにこのエスカレーターで行ける最上階に到着する。
「へぇ、この階にも服屋ってあるんだな」
エスカレーターを降り、少し進んだところで立ち止まった先輩に問いかける。
前に一度だけここに来たことがあるが、その時は『ジャジャ馬の珍妙な旅路』の公式ショップが目当てで、他には目を向けていなかった。
ざっと見回してみると、有名なゲーム会社が生み出してきた錚々たる顔ぶれのグッズや、また別の会社のフィギュアなどが並んでいて、普段使いできる服を売っているようには思えない。
しかし、これが俺のような「オシャレ弱者」と東堂先輩のような「オシャレ猛者」の違いなのだろう。
むしろ、こういうフロアにひっそりと佇む店こそ一流の商品を取り扱っているのだ。
先輩を見てもよく分かる。
泰然自若とした顔つきは、もちろんこの時であっても……あっても……。
……なんか困った顔してないか?
「……あの、悟……?」
「どうしたの?」
「その……ちょっと個人的な事情で放心しちゃってて、行きすぎちゃったわ……」
なるほど、先輩も人間らしい間違いをするらしい。
「それじゃあ下に戻って――」
言いかけた俺は、正面に面白いものを発見する。
「パキモンセンターじゃん」
「パキ……なにかしら、それ?」
視線の先には俺の身長ほどもあるパキモンのフィギュアが飾られていて、すぐ横がパキセンの入り口になっている。
「パキモンって知らない? 俺たちが子供の時からあるゲームで……」
「あぁ、言われてみれば小さい時に見たことがある……かも」
パキモンは日本どころか世界中で有名だ。
ゲームやアニメに明るくなさそうな先輩であっても、存在自体は知っているということだ。
「せっかくだし、ちょっと寄ってもいい? 特に買いたいものがあるわけじゃないんだけど」
「悟の好きなものなんでしょ? もちろん見ましょうよ。そのパキ……ってやつ、葉音も言ってた気がするし」
「ありがとう。多分、涼ちゃんが気にいるパキモンもいると思うよ」
「ふふっ、それは楽しみね」
というわけで、俺たちは先にパキセンに足を踏み入れたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
「こいつらいつまでデートしてんねん」と思ったそこのあなた。
前置きが長いからこそ、後半で気持ちよくなれるわけです。
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