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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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練習のためならいいわよね?

 隠れ家的なカフェはこぢんまりしているイメージがあったが、ロブスターカフェにはかなり奥行きがあった。


 だが、等間隔に並んでいるテーブルや椅子は店が過ごした月日よりも年季を感じさせるものだし、インテリア一つとってもセンスが良い。

 

 最初から人気を狙っていたのではなく、知る人ぞ知る名店がSNSなどで紹介されてバズった結果の人の列なのだ。


 俺たちが通されたのは店の奥の方にあるソファ席。

 座面が低くて驚いたが、むしろこれがチルだかエモいだかなのだと、周囲の客の満足げな顔を見て思う。


「雰囲気いいですね」


 店員に渡されたメニューを先輩に差し出しながら言う。


「――ありがとう。ここの近くにもう一つお洒落なカフェがあるんだけど、そっちは店員さんの態度が良くないのよね」

「個人経営だと結構アレなところが多いですよね」

「敬語」

「……多いよね」


 先輩は「よろしい」という言葉をメニューに載せ、俺に渡してくる。


「オススメはカレーよ。あとはアップルパイも美味しいけど、悟は甘いの好きかしら?」

「実は甘党なんだよ。でも、せっかくだからカレーにするよ」


 手を上げて店員を呼ぶ。

 ゆっくり歩いてきたのは大学生くらいの女性だ。


「カレーのセットが一つ、烏龍茶で。それで――涼ちゃんは?」

「〜〜〜ッ!」


 再び顔を押さえて俯く先輩。

 何をしてるんだこの人。


「サラダボウルとアイスティーでお願いします……あとアップルパイを二つください……」


 不審に思っていると蚊の鳴くような声で注文した。

 注文を繰り返し、一礼して店員が去っていく。


「あの、どうしたの?」

「なんでもないの……気にしないで、本当に。こっちの話だから」

「……?」


 よく分からないが、気にするなと言われたから触れないでおこう。


「っていうか、アップルパイ二個も食べるの?」

「一つは悟のよ。私の奢りだから」

「えっ? いきなりどうして?」

「これは良いの別枠だから。いや、むしろ全部私が持つわ。持たせてちょうだい」

「話が全く見えてこないんだけど……」

「気にしなくて良いの! これはデートなんだから余計なことを考えてないで、話しましょう!」


 特務機関の最高司令官のようなポーズを取りながら先輩が言う。


「良い機会だわ。悟のことを色々教えてちょうだい」

「確かに俺たちって関わる機会は多かったけど、お互いのことは全然知らないな。質問し合うのは?」

「そうしましょうか。まずは私からね」


 お手本を見せてくれるということか、ありがたい。

 質問することで相手を知れるのはもちろん、そこから話を広げることができる。

 しかしジャブは難しい。

 どのくらい踏み込んで良いのか、ちょうど良い塩梅を――。


「好きな女の子のタイプを教えてもらおうかしら」

「いきなり踏み込みすぎじゃない?」


 涼しい顔して懐に潜り込まれた。

 それとも俺を試しているのか?

 アクシデントに冷静に対応できるかどうかを。


「タイプかぁ……」

「もちろん葉音が好きなのは知ってるけど、悟自身の好みはまた別でしょう? それが気になるのよ」


 うーん、としばらく悩む。


「ありきたりだけど、美意識が高い子。あとは尊敬できる人が好きだな」

「……なるほどね。髪の長さは?」

「似合ってればなんでも良いと思うけど、強いて言えば……長い方がいいかな」


 ボブも可愛いけどロングは正義だ。

 先輩はわずかに顔をほころばせる。


 さて、次は俺の番だろう。

 最初に先輩がぶっ込んできたせいで距離感が分からない。


「涼ちゃんの……好きな食べ物は?」

「わっ、わた――――ふぅ」


 深呼吸。


「私はアボカドが好き。悟と同じで甘いものも好きだけど、食事制限であんまり食べないようにしているの」

「モデルって大変そうだよな」

「もう慣れたわよ。それよりも私は、自分が出来上がっていく方が嬉しいの」


 巻島もそうだが、先輩も自分の仕事にやり甲斐を見出している。

 少なくとも今の俺には考えられない素晴らしい心がけだ。


「素直に尊敬するよ」

「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。でも、悟だってすごいじゃない」

「どうして?」

「いざという時に人を助けられるから」


 彼女はまっすぐに俺の目を見る。


「俺の趣味……って大層なもんじゃないけど、知ってたっけ?」


 俺が言うと、先輩の顔には戸惑いの色が浮かんだ。


「……葉音から聞いたのよ」

「そういうことか」

「まぁいいわ。次の質問に行きましょうか」


 混乱しかけていた場の空気を変えようと先輩が口を開く。


「毎日ハンバーグを食べるのって飽きるわよね」

「そりゃあね」

「じゃあ、たまには他の料理を食べたいってこと?」


 頷く。


「浮気ってどこからだと思う?」

「うーん……異性と二人で出かけたら、とか?」

「なるほどね。でも、練習のためならいいわよね?」

「今の話ですか?」


 あぁ、と心の中で理解する。

 先輩は俺が罪悪感を抱かないように聞いてくれているのだ。

 

 ――これは葉音のためだから勘違いしないように、とも。


 俺たちは付き合っていないと伝えなきゃいけないのは分かっているが、いまいちタイミングが掴めない。

 もう手遅れだとも思う。


 彼女の好意を無駄にしないためにも、ご教授いただくルートで行こうと思う。

 とりあえずは同意しておかなければ。


「まぁ、いいんじゃないですか。練習ですから」

「そうよね。……練習なんだったら」


 少し冷えた声が耳に届いた時、注文したカレーが運ばれてきた。


読んでいただきありがとうございます!


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