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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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ライフハック

 良い具合に電車に乗れてしまったせいで待ち合わせの十五分前に渋谷に到着してしまった。

 流石に土曜日は人の数も半端ではなく、満員電車に乗っているという錯覚に陥りそうになる。


「待ち合わせ場所は……」


 今朝になってメッセージが来た。

 ハチ公前は人が多いということで、駅から少し歩くことにはなるがLAFTで落ち合うことになっている。

 文房具やキャラクターグッズ、コスメ、食器、挙句の果てにはインテリアまで扱うLAFTは高校生でも楽しむことができる場所。

 一階入り口の横には季節に合わせた商品が売っていて、もうすぐ夏が近いということで風鈴が並ぶはずだ。


 人混みをすり抜け、よく分からんメンズ脱毛の勧誘を横目に、ちょうど青になっていたスクランブル交差点を進む。

 自撮りだか他撮りだか分からない外国人が迷惑だ。

 ようやく跳ねられる危険から逃れ、センター街へ入る。


 右を見るとデカいガチャガチャ専門店があり、多くの若者が吸い込まれていた。

 いつから人気になったのだろう。

 いつから高くなったのだろう。

 

 ありきたりな疑問が浮かんで消えるまでの少しの間に、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 その人物の横には男が歩いている。

 付かず離れずの距離感で身振り手振りを交えながら話しているが、もう一人の反応は皆無。

 ナンパ男が話しかけているのである。


 俺はひとつため息を吐くと、小走りで近付いていく。

 こういうのは最初の一歩が出れば後は流れに身を任せるだけ。

 女性に付き纏う男の反対側――つまり彼女を挟むように位置どりする。

 まず俺に気づいたのは男の方だった。


「なんか用? いま、俺がこの子に話しかけてんだけど」


 声の矛先が変わったことに女性――東堂先輩が反応する。

 視界の端に彼女の心配そうな瞳が入り込んだが、そんなことは些事だ。


「用もなにも、この子は俺の彼女なんだけど」

「なっ……」


 先輩からすれば真実ではない。

 否定の反応が口から出かけたようだが、この場においては俺の彼女のフリをするのが最適だと理解して頷く。

 それを目にした男は一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたが、今更引くに引けないのか食い下がってくる。


「はぁ? お前が彼氏だって証拠はないよな」

「無かったら何なんだよ。お前が涼に迷惑かけてるのは変わらない」


 呼び捨てにしてしまったが仕方ない。

 名前を教えるというデメリットはあるが、俺たちが知り合いだと読み取らせるメリットの方が大きいからだ。

 だが男は引き下がらない。


「別に俺は迷惑かけてねぇよ」

「それを決めるのはこの子だし、世間一般から見たらお前は迷惑をかけてるのに気付けないバカだろ」

「はぁ!? お前、俺ボイスレコーダー持ってるからな? 名誉毀損だ。今から警察行くか?」

「別に良いけどシバかれんのはお前だぞ? 付き纏いは都の条例で規制されてるし、数メートル並んで歩くだけでアウトだけど」


 男の顔がわずかに歪んだ。


「お、俺がそんな付き纏ったって証拠がどこにあんだよ!」

「録画してたけど? 頭悪いんだから言い訳する前に逃げろよ」


 本当は録画なんてしていないが、この状況でリスクのある選択を取れるわけもなく。

 男は「うぐっ」と言葉を詰まらせると、舌打ちしながら去って行った。


「……ふぅ」


 あー怖かった。

 とはいえストレス発散にもなった。

 怒りはカス野郎にぶつけるべし。

 ストレス社会と呼ばれる現代を快適に生き抜くライフハックだ。


 注意点としては、女子の前でやるとドン引かれる可能性があること。

 隣にいたのが巻島なら、俺ももう少し言葉遣いに配慮していただろうが、今は違う。

 敬意を払う必要がない相手に敬語は必要ない。


 だが、東堂先輩は俺に何を思ったのか、妙に熱い視線を向けて口を開いた。


「……こんにちは、七里ヶ浜くん」

「あ、こんにちは」

「ええと……あなたが何もしなくても私が無視すれば済んだ――違うわね。ありがとう。助かったわ」

「いえ、お節介だったかもですけど、何かあってからじゃ遅いですから」

「――っ」


 先輩は急に黙り込んでしまった。

 立ち止まっていた俺たちは、どちらともなく歩き出した。


 ちらりと見れば、先輩の肩が少しだけ震えている。

 今ごろ男への恐怖が……というタマではないだろう。

 俺への怒りかもしれない。


 この無言の時間はアンガーマネジメント的な、気持ちの整理だろう。

 予想は当たったようで、LAFTに到着すると先輩は俺を視界に収めて言った。


「――さぁ、デートを始めましょう」


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