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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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痴態

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


 それが果たして皮膚にどれほどの影響を与えるのかは迷信めいているが、清潔に保たれた枕に顔を埋めていた。

 反対に細く長い足はバタバタと忙しない。


 巻島葉音の胸は、かつてない程に高鳴っていた。

 今まで自分のアイドル活動に理解こそ示してくれていたが、現場に来るほど興味を持ってくれなかった悟が、「楽しみだ」と言ってくれたのだから。


 彼に救われてからというもの、葉音の仕事へのモチベーションは完全に悟にシフトした。

 その相手に肉眼でパフォーマンスを見てもらえる機会ができるならば。

 彼女のやる気はさらに増していた。


 だが、この鼓動が「かつてない」理由はそれだけではない。

 

 ――やはり悟は何かを隠している。


 あの日の「彼」と悟を繋ぎ合わせるまでに組み合わされてきたパズル。

 今、葉音の脳内には新たなピースが続々と集まっている。


(……悟くんは魅力的な人だから、いろんな子に好かれるのは当然。でも、でも――)


 悟くんに手を出す子は許せない。

 怒りというより殺意に近い感情。

 しかし、それを悟に見せたくはない。

 もう怖がらせたくない。

 葉音は負の感情を丁寧に包み、ギュッと圧縮して胸にしまう。


 悟とのMINEが始まってからずっとソファに座っていた葉音は、ようやく仰向けに寝転がる。


 ――?


 では、みっともなく全身で喜びを現していたのは、普段の高圧的な態度からは想像できない乙女を放出していたのは誰か?


「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


 ――東堂涼だった。


 繰り返しになるが、涼は枕に突っ伏して悶えていた。

 悟とのMINEはとうに終わっているが、かれこれ三十分ほどこれである。

 

 この痴態に至るまでの道のりを辿っていこう。



 

「デートの練習は週末――楽しみにしてるわよ?」

 

 精一杯大人ぶってみた涼は、その日のうちから行動を開始した。

 

 まずはダッシュでフェイシャルエステの予約。駅近の隠れ家サロンだ。

 毛穴の奥までスチームで開き、酵素洗顔で汚れを落とす。

 丁寧なマッサージで顔まわりがポカポカになって、むくみがスッと引く。


「もうちょっと小顔になれますよ」


 これ以上小さくなってどうすんねん、とはお姉さんも思っていたことではあるが、涼は甘い言葉に全力で乗っかりフェイスラインを引き締めるコースを追加。

 金なんてどうでもいい。

 愛しの彼のために少しでも綺麗になりたいのは女子の総意である。


 翌日の放課後は美容院。

 ミリ単位での調整。

 トリートメントでつやっつやの髪へ。


 帰宅後、パックをしながら爪を整える。

 ネイルはクリア系。

 仕事柄、派手なものはできないが「女の子らしさ」は出したい。

 頑張ってる感が出すぎない程度で。


 夜のスキンケアは手抜きゼロ。

 導入液、化粧水、乳液、かなりお高いパック。

 手のひらで優しく包み込み、好きな人に見られる日だと肌に言い聞かせる。


「お願い、明日だけは肌荒れしないで……!」


 神に祈るというより、己のホルモンバランスにひれ伏すような気持ちだ。

 そして、ようやく悟にメッセージを送ろうとして初めて、自分がデートプランを全く考えていなかったことに気がついてしまう。


「……ど、どうすれば……」


 デートなんてしたことがない。

 仕事で暇がなかっただけじゃない。

 そもそも異性に対して好意を抱いたことがなかった。

 自分を深く知ることなく性欲に塗れた視線を向けてくる相手にどうして心を許せるのか。

 いっときは、自分の恋愛対象が同性ではないかと悩んだこともあった。


 だが、それは杞憂だった。

 今の自分は昔の自分に胸を張って言える。

 「ちゃんと、あなたにも好きな人ができる」と。


 でも、とてつもない矛盾を抱えることにもなってしまった。

 押し潰されそうな罪悪感と、それでも近付きたいという願い。

 もう少しだけ。そんな言い訳を盲目的に飲み込みながら、涼は目下の事態に集中する。


 最初にスマホで調べてみる。

 恋人はどんなデートに行くのか。

 初デートは普通のデートと違うのか。

 どのくらいの時間に集まって解散するのか、解散しなくてはいけないのか。


 そうしてようやく平凡なデートコースがまとまったことで、ついに悟にメッセージを送ることにした。

 緊張する。どんな仕事よりも緊張する。


(……大丈夫。私ならできるわ)


 あの時、デートまで漕ぎ着けた自分の機転に誇りを持った。

 そうだ。私はできる。

 たとえ彼の目が葉音に向いているとしても、その成果は自分に向かないとしても。

 その記憶に私が残ってくれるのなら、少しでも身を捧げられるのなら本望だ。


 指の震えはおさまっていた。

 メッセージを打ち込み、三度読み返してからついに送信した。


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