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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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38/69

特別な時間

 下校のチャイムが鳴り、俺は教室を出た。

 タイミングを見計らったかのように巻島からのメッセージがきて、誰にも見られないよう返信する。


『悟くん、今日もお疲れ様!』

「お疲れ様は葉音の方だろ」

「調子はどう?」

『おかげさまで最高かも!』


 俺は今から巻島へのプレゼントを見にいくんだ、もっと元気になってくれ。

 そう言いたい気持ちを抑え、普段通りの返信を心がける。


「それは良かったよ」

「またレッスン終わったら話そうな」

「頑張れ」

『……ねぇ悟くん』

『なにか僕に隠してることない?』


 キーボードに向かっていた指が止まる。

 それどころか思考まで固まっていた。


「隠してること?」

『うん』

『今日の悟くん、いつもと違う気がする』

『どこがって言われるとわかんないけど』


 おいおい、なんだよこの嗅覚は。

 これが俗にいう「女の勘」ってやつなのか?

 世のサプライズ男たちは、みんな嘘発見器にかけられているということか?


「そんな怪しい言葉ないよ」

「怪しいことはないよ」


 大切なところで誤字をしてしまう。

 これじゃあ余計に怪しまれてしまいそうだ。

 

『そっか』

『なら僕の勘違いだったかも』

『悟くんから女の子の影を感じた気がして』

「そういうのはないから安心してくれ」

『そういうのはないんだね!』

『ありがとね!』


 よし、なんとか誤魔化せたようだ。

 そもそも女の子の影なんてないし、強いて言えば該当する東堂先輩は俺になんて興味なし。

 巻島が不安に思う要素なんてミリもなかった。


(っと……そろそろ行かないとな)

 

 待ち合わせ場所である昇降口。

 俺が着いた時、すでに先輩は到着していた。

 

「すみません、待ちました?」

「ううん。私もいま来たところよ」


 先輩は待ち合わせとかちゃんとするタイプだろうから、おそらく嘘だ。

 申し訳ない気持ちを抱きながら、他の生徒に見つからないよう学校を出た。

 俺たちが向かったのは渋谷――を通り過ぎて原宿。

 二人で歩くのはかなり緊張する。

 恋愛的な意味ではなく三者面談的な意味で。


「巻島って、ハーブティーとか好きなんですかね?」


 ふと聞いてみる。


「ええ、好きだと思うわ。前に喉にいいって教えてあげたら、それからよく飲んでるって言ってたから」

「なるほど……じゃあ、そっちの方向もありか……」


 巻島との付き合いの長さは先輩の方が圧倒的に長い。

 比べ物にならないくらいにだ。

 女子同士でしかできない会話もあるだろうし、それを知れるのはありがたすぎる。


 何店舗か回って雑貨屋に入る。

 そこにはオシャレなアクセサリーや、良い香りのハンドクリームが並んでいた。


「これ、どうですかね」


 俺が手にしたのは小さいハンドミラー。

 派手じゃないくらいの装飾が付いていて、持ちやすそうだ。


「……綺麗。葉音なら似合うと思うわ」

「ですよね。持ち歩きやすそうだし……でも、こっちのも良いかもな」


 こう言っては悪いが、鏡を見つめる先輩は意外にも年相応に見えた。


「先輩、好きなんですか?」

「え……?」


 一瞬、俺の問いの意味が分からなかったようだが、すぐに。

 

「あ、そうね。私もこういうの、好きよ」


 と頷いた。


「試してもらってもいいですか?」

「……え?」

「試しに、どっちが持ちやすいか。鏡、渡しますね」


 そう言って先輩に鏡を手渡す。

 指がほんの少しだけ触れる。雪のように冷えている。

 先輩は両の手に鏡を持っているが、考え事をしているのか、ぼうっとしていた。

 

「……先輩?」

「……あ、ごめんなさい。なんでもないわ。どっちのミラーも可愛いけど、こっちの方が使いやすいと思う」

「じゃあ、こっちにします」


 中々に良いものを選んだ気がする。

 俺は先輩お墨付きの方を持ってレジへと向かった。

 


 

 下校のチャイムが鳴るより少し早く、私は教室を出た。

 たった数分であっても、身だしなみを整える時間が欲しかった。

 化粧直しのために鏡を見る。

 唇の色をほんの少し濃くした。

 校則ギリギリ。でも、注意されてもいいと思った。


(落ち着いて。これはあくまで葉音のための――)


 言い聞かせても、足取りが軽くなっていく自分をごまかせない。

 昇降口で七里ヶ浜くんと合流したとき、彼は普段と変わらない表情で、少しだけ気まずそうに挨拶してきた。


「すみません、待ちました?」

「ううん。私もいま来たところよ」


 そう答えながらも、どうしてか胸が疼いた。

 たぶん、気を遣われているのが分かってしまったから。

 でも、それでもいい。全て自分の責任。

 彼が運命の人だなんて思わなかった、愚かな私が招いた関係性だ。


 電車に揺られて原宿につくと――休日ほどではないけれど――人の波が続いている。

 道行くカップルが手を繋ぐ光景に、自然と目が向いてしまう。


(……手なんて、握られたことないのにね)


 彼との距離はそれほど遠くない。

 少しだけ歩幅を合わせてみた。気づかれないように、慎重に。

 並んで歩いていると、あの日から今が続いているような気がして、少しだけうるっとしてしまう。

 でも、彼は前だけを見ていた。


「巻島って、ハーブティーとか好きなんですかね?」

「ええ、好きだと思う。前に喉にいいって教えてあげたら、それからよく飲んでるって言ってたから」

「なるほど……じゃあ、そっちの方向もありか……」


 彼の目が真剣になるたび、私は自分の心が遠ざかっていく気がした。

 でも、それでも。彼が自分の知識だけでも頼ってくれているのが、ただただ嬉しかった。

 何店舗か回って二人で雑貨屋に入る。

 シンプルだが上品なアクセサリーやハンドクリームが並んでいる。


「これ、どうですかね」


 そう言って彼が手に取ったのは、小ぶりなハンドミラーだった。

 丸いシルエットで、ガラス面には繊細なレース模様の彫りがある。


「……綺麗」


 思わず口から漏れていた。

 七里ヶ浜くんは私を通して葉音を見ているのに、私は私として答えてしまった。

 恥ずかしさと悔しさを誤魔化すように笑う。


「葉音なら、似合うと思うわ」

「ですよね。持ち歩きやすそうだし……でも、こっちのも良いかもな」


 悩んでいる彼の横顔を見ているだけで幸せだった。

 こんなに自然に隣にいられるなんて。

 他人から見れば「普通」の時間だとしても、私にとっては「特別」過ぎる時間。


「先輩、好きなんですか?」

「え……?」


 心臓が跳ねた。

 すぐに、彼はミラーのことを聞いただけだと理解する。

 深い意味なんてない。

 私のことを覚えてもいない。


「あ、そうね。私もこういうの、好きよ」

「試してもらってもいいですか?」

「……え?」

「試しに、どっちが持ちやすいか。鏡、渡しますね」


 そう言って彼が私に鏡を手渡した時、指が触れた。

 その一瞬だけで、全身が熱を持った気がした。


(ダメ……こんなの、ダメって分かってるのに……)


 彼は私の恋人じゃない。葉音のものだ。

 私の一番大切な友達の好きな人だ。

 この時間だって葉音のためのプレゼント選び。

 なのに。彼がこちらに視線を向けるだけで、声をかけてくれるだけで、心が浮き上がってしまう。

 あの行動を選んで良かったと思ってしまう。

 

「……先輩?」

「……あ、ごめんなさい。なんでもないわ。どっちのミラーも可愛いけど、こっちの方が使いやすいと思う」

「じゃあ、こっちにします」


 嬉しそうに笑う彼の横顔。

 葉音を思って選ぶ顔。

 私の存在なんて、ただの手伝いでしかない。

 

 だとしても、こんな時間がずっと続いてくれたらと――そんなことを心のどこかで願ってしまった。

 

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