心強い味方
夕陽を浴びながら、俺は渋谷をあてもなく歩いていた。
平日だと思えないほど人が多く、夜が姿を現すにつれて更に増えていくのだろう。
(プレゼント……何がいいんだろう)
何の理由もなく出てきたわけじゃない。
巻島に渡すプレゼント探しだ。
女子の好きなものはなんとなく知っている。
紅茶にハンドクリーム、アロマとかだ。きっと。
でも、そういう「好きそうな物」を挙げていっても、どこかしっくりこない。
俺のことが好きな巻島にプレゼントを渡すのは簡単だろう。
だって、俺が選んだというだけで喜んでくれるのだから。
その辺で拾った石ころですら大切にしてくれそうだ。
そうではなく、俺は巻島が欲しい物を贈りたい。
そもそも俺は、誰かに何かを贈るという行為に慣れていない。
他人と深く関わらないように生きてきた。
全てが「気持ちだけ」で済めばいいと思ってきた。
「……形にするって難しいな」
デカい雑貨屋に入って眺めてみるもしっくりこず、スマホを取り出す。
「彼女 プレゼント」で検索してみるが――出てくるのはどこか他人行儀な贈り物ばかりでピンとこない。
アクセサリーは似合うだろうけど、重い。
香水にするか? 香りの好みは難易度が高すぎる。
手紙? こんなもん事故確定だ。
なにも思いつかず、時間だけが過ぎていく。
自分の無力さがじわじわと浮かび上がってくる。
東堂先輩は、もう渡すものを決めたと言っていた。
きっと巻島の好みも、センスも、全部踏まえて完璧なものを選んだんだろう。
(俺に足りないのは土台の部分だな)
徒然草だかなんだかに書かれていた気がする。
何か新しいことを始めようとしている人間は「上手くなってから人に披露しよう」と思うものだが、これは間違いだ。
たとえバカにされようがなんだろうが、初心者のうちから上手い人たちの中に混ざって練習することで、やがて大きく成長することができると。
オリジナリティというのは最初から出すものでなく、基本の上に成り立つ物。
土台があれば「唯一無二」になれるが、土台がなければ「歪」になってしまうのだ。
つまり何が言いたいのかというと、巻島には今後もプレゼントする機会があるはず。
毎回のように悩むのは情けないし、ここは一つ頭を下げて東堂先輩の知識をいただくとしよう。
翌日の昼休み。俺は弁当を持たず校舎の階段を上っていた。
目的地は三年生の教室――東堂先輩のもとへ向かう。
一月前なら絶対に避けていたはずの空間。
なのに、今の俺はそこのドアをノックしようとしている。
人間は変わるもんだ。
「失礼します」
教室のドアを開けると上級生の視線が突き刺さる――と思ったが、ここでの俺は無名の存在。
「何か用がある下級生」以上でも以下でもなく、注目もほとんどなかった。
ざっと室内を確認すると、すぐに先輩を見つけることができた。
俺のクラスと違い――それでも注目はされているが――静かに過ごせているようだ。
「……七里ヶ浜くん?」
東堂先輩がこちらに気づいた。
読んでいた文庫本を静かに伏せると、椅子から立ち上がる。
「少し、時間いいですか」
「……えぇ、もちろん」
彼女の目が見開かれたように見えた。
今日の今日で驚くのも無理はない。
少なくとも拒絶の気配ではなかった。
俺たちは教室の外、廊下の端にある窓際まで移動する。
昼の光が斜めに差し込んでいて、東堂先輩の長い髪が煌めいた。
「昨日の話……覚えてますか?」
「ええ、もちろん。……どうかしたの?」
「少し考えてみたんです。自分なりに、巻島へのプレゼント」
「……それで?」
言葉は冷たいが、温かみはある。
「……正直、全然思いつきませんでした。悔しいですけど、俺の経験が少なすぎて。だから……先輩の知識を貸してもらえませんか」
東堂先輩は言葉を失ったようだった。
心なしか、肩がかすかに揺れている。
「……ふふ」
不意に小さな笑い声が漏れた。
「なんだか、夢みたいね」
「夢ですか?」
「…………そうよ。だって、あなたが私に頭を下げるなんて」
「先輩が俺に良い印象を持っていないのは知ってます。でも、巻島のためなら心強い味方になってくれますから」
「――ッ」
先輩は少しの間なにも言わなかった。
「……それなら、今日の放課後。時間、あるかしら?」
「あります。お願いします」
「じゃあ……一緒に行きましょう。あなたが葉音のために選ぶ物、私も見てみたい」
声は少しだけ震えていた。
風邪ですかね。
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