報告
放課後の街は、すでにオレンジから群青へと色を変えはじめていた。
帰り道にコンビニに立ち寄ったせいで、少しだけ遅めの帰宅。
制服のまま部屋に転がり込むようにベッドに沈み、スマホを取り出す。
画面には見慣れたアプリのアイコン。メッセージアプリだ。
通知はひとつ。送り主はもちろん巻島だった。
『悟くん、無事に帰れた?』
「ちょうどいま家に着いたところだよ」
『そっかぁ!』
『おかえりなさい!』
巻島はレッスンがあるらしく、午後の授業の途中で抜けてしまった。
この前のことがあってから、前にも増して逐一連絡してくれる。
『でね、ちょっと報告!』
続けてメッセージが届く。
文章のテンポが速い。
明らかに勢いそのままに打ち込んでいるのが分かる。
『実は今度ね、涼と一緒にファッション誌に載ることになったの』
「この前のアレとは違うやつ?」
『そう! まだ仮スケジュールだけど、来月号で特集ページが組まれるんだって!』
前にデートした時も――あれは結局使われたのか分からないが――ファッション誌の撮影だった気がするが、巻島の喜びようから今回の仕事は「デカい」のだろう。
どちらかといえば、モデルである東堂先輩のフィールドだ。
「めちゃくちゃすごいな」
『でしょ!?』
『でも、レッスンと並行して撮影に向けて頑張ろうと思って』
『しばらく学校に行けないかも』
これも覚えがある。
学業と仕事の両立は、俺が想像できないくらい大変なはずだ。
今だって一週間学校に来たかと思えば一週間休み。
どこぞの国の出勤形態みたいになっているのだから。
『悟くんには応援してほしいな?』
『できれば、ちょっと寂しがってくれてもいいけど』
『冗談だよっ』
いつもの巻島らしい冗談交じりのトーンに少し笑みが溢れる。
けれどその裏には、見えないプレッシャーや不安もきっと隠れているのだろう。
(……応援してるって、ちゃんと伝えないとな)
俺はスマホを持ち直してメッセージを打ち込む。
「今日の巻島かっこよかったよ」
「ファッション誌も楽しみにしてる」
「発売日に買いに行くよ」
「でもキツイ時は休んで」
送信ボタンを押した瞬間に既読がついたが、返事が来たのはしばらくしてからだった。
『うわぁぁぁああ、悟くんに褒められたぁああ』
『スクショするね!? スクショしてロック画面にするね!?!?』
「しないでくれ」
ネットは怖いからな。
いつどこから情報が漏れるか分からない。
『あっ、ごめん、真面目に返すね……!』
『ありがとう。すごく嬉しい。頑張るね』
それからも少し話をして、俺は家事に手をつけることにした。
喜ぶべきことであり、何の心配もないはず。
だというのに何故か、胸のどこかがざわついている気がする。




