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距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる  作者: 歩く魚
東堂涼

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毒ブチまけ

 昼休みの終わりまでにはまだ時間があった。

 教室へ戻る途中、ふと思い立って図書室に寄ってみた。

 借りたい本があったわけではないし、関係がバレないように数メートル先を歩く巻島にも言っていない。ステルス入室だ。

 今ごろ彼女は、俺が後ろにいると思い込んでいるのだろう。

 

 しかし、それは果たして本当に「思い込み」なのだろうか。

 今この瞬間に空に二つ目の月が出現したとして、世界中の誰もが空を見上げなければそれを認識できない。

 認識できないということは「無」と同義である。

 であれば、反対に巻島が背後に俺を「感じる」のであれば、俺は存在しているということに――。


 そんなことはどうでも良かった。

 俺が言いたかったのは図書館に入り込んだということだ。

 静まり返った図書室は、いつものように落ち着いた空気に包まれている。

 昼休みということもあり席にはまばらに数人。

 それぞれの静寂を楽しんでいるようだった。


(なにか面白い本は──)


 本棚には様々な本が並んでいる。

 参考書に始まり、哲学書やスポーツ関連のもの。

 中にはライトノベルまで置いてあった。

 ラノベ作品のラインナップも不思議で、俺が産まれた時くらいに人気だったものから、異世界に転生した主人公が実況動画を投稿するという謎なものまで。後者に関しては誰にも借りられていないのか、めちゃくちゃ綺麗。

 まさに多種多様というやつだな。


 だが、どれも今の気分ではない。

 深い学びや感動、笑いが欲しいのではなく、例えればショート動画のようなものが読みたい。

 少しページをめくっただけで、本当か分からないしすぐに忘れてしまうような無駄な知識を得られるもの。

 時間を潰すには最適だろう。


 そういったカテゴリに意識を合わせ、視界の端から端へと流れていくタイトルを脳内で読み上げつつ歩いていくと、ちらりと人影が見える。

 背筋をまっすぐに伸ばし、制服を完璧に着こなし、金色の髪が光を受けて揺れていた。

 俺と同じクラスだが近寄りがたい存在――天王洲セラ。


(うわぁ……)


 思い出すのは、あの日。

 俺と巻島が本当の意味で知り合ったと言える日の出来事。


『でもさ、まさかキウイ・ソルジャーの正体がアイツだったとはな……』

『この後、どうなるんだろうなぁ。俺としては正義の心を取り戻してほしいけど――』


 違う、ここじゃない。

 隆輝と話している最中に消しゴムが転がってきて、天王洲に届けに行ったんだ。


『……何?』

『落ちてたよ』

『……あら、ありがとうございます』


 天王洲は男子を苦手としていることで有名で、実際にその態度を隠そうともしない。

 事実、俺が「どういたしまして」と返す前に、彼女は消しゴムをハンカチで丁寧に拭いていた。


(でもまあ、別に話しかけるわけでもなし……)


 取り巻きはどうしたんだろうとか、お嬢様が図書館で本を借りる必要はあるかとか、疑問はいくつか浮かんでくる。

 しかし、それを知ったところで意味はない。

 泡は泡のまま水面に浮かぶか、弾けて割れた方が良い。

 俺に気付いている様子もないし、静かに通り過ぎよう。

 彼女が立っている棚に目を向けると、面白そうな本を見つけた。

 

 タイトルは「恋愛心理と現代の言葉選び」。

 流行っているベストセラーの文庫本。

 人間関係の距離感をどう築くか、みたいな内容だったはず。

 恋愛やら人間関係なんて、傾向はあれど同一はない。

 物は言いようの世界なのだ。

 とはいえ、もしかするとだ。これを読めば巻島との距離感を見つけられるかもしれない。

 そう思い、手を伸ばすと――。

 

「あっ」


 手が触れた。

 俺の指先に重なったそれの持ち主は天王洲だった。

 

(よりによってこの本かよ)


 男嫌いが恋愛心理を?

 それを異性に悟られるなんて気まず過ぎる。

 俺が軽く手を引くと、天王洲は一度、無言で俺の方をちらりと見た。

 その瞳は冷たく、俺の存在そのものを測るような鋭い光を含んでいる。


「……どうぞ」


 感情を一滴も感じさせない声。


「……いや、俺はパラパラめくるだけのつもりだったから。読んでくれていいよ」

「要りません。あなたの手が先に触れた時点でもう読めませんから」


 それが天王洲の通常運転だとは知っているが、ここまで塩対応されるとさすがにムカついてくる。

 そもそも教室のドアだって、全ての生徒が毎日触れる可能性がある。

 こいつはドアが開いている時にしか入れないのか?

 それとも足で開けるのか?


「……わかった」


 怒りは湧いていたが言い返す気にもなれず、俺は素直にその場を引いた。

 そのとき、不意に背後から軽やかな足音が響いた。


「悟くーん」


 巻島だ。彼女は俺を見つけるやいなや駆け寄ってきて、そのままぴたりと隣に並んだ。


「もう、先に教室戻っちゃったよ?」

「ちょっと本を探しに……って、わざわざ戻ってこなくていいだろ」

「だって悟くんがいないと退屈なんだもん」


 巻島はにこっと笑い──そして天王洲に目線を合わせる。

 彼女は天王洲の見ていた文庫本を確認すると、自然な顔で口を開いた。


「こんにちは、天王洲さん。お昼に図書室なんて意外だね」

「……読書は趣味ですから」

「さっきの悟くんに対する言葉、酷いと思わない?」


 いつの間にか巻島の笑顔の質が変わっている。

 というか、今入ってきたはずなのに、どうして俺と天王洲のやり取りを知っているのか。


「別に。私は思ったことを言っただけです」

「でも、それってもっと優しく言えるよね?」


 巻島の声が一段、柔らかくなる。

 釘を刺すような柔らかさだった。


「無意識なのかは分からないけど、もう少し気をつけた方が良いと思うな。その相手が悟くんなら、僕は黙ってられない」


 はっきりとした宣戦布告に、天王洲はほんの少しだけ睫毛を揺らした。

 巻島の言葉に反論はしなかった。

 ただ、俺の方を見て言う。


「巻島さんはアイドルをされてるんでしたよね。芸能界には明るくありませんが、彼女は『モテる』というやつだと思います。……どうしてあなたに執着しているんですか?」


 そんなこと俺に聞かれてもな。

 いや、理由は知っているが――。


「その本に書いてあるかもよ? ――あ、天王洲さんは読めないんだったね」


 横から毒をブチまけた巻島は、そのまま「悟くん、行こっ?」と俺の手を引いていく。

 俺は初めて、彼女のことを頼もしいと思った。

忘れていていいヒロインは天王洲のことでしたが、私も忘れそうなので登場させました。実はこの章でもう一度出てきます。


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