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(22) この世界に新たな秩序をもたらすのですわ

 俺たちは、世界樹の根のさらに奥深くへと進んでいた。ミルティナスの結界とリィゼルの神聖魔法によって体力はある程度回復したが、張り詰めた空気は依然として緩まなかった。黒猫の妖精は、まるでマスコットのようにベリシアの肩に乗ったまま、可愛らしく鳴いている。

 精霊の瘴気は、レイストルを倒してもなお立ち込め、世界樹の根はますます黒さを増して異様な脈動を続けていた。それは、まるで世界樹そのものが苦しみに喘いでいるかのようだった。

 やがて、目の前に巨大な洞窟の入口が現れる。世界樹の根の奥深くに穿たれた、明らかに人工的な穴。

 それが「黒環サーヴァ」の入り口だろう。だが、その入口は黒い茨のような植物と鉱物が混じり合った異様な壁で覆われていた。

「ここが、『黒環サーヴァ』でしょうか……。魔力の奔流が、これまでとは比較にならないほど強くなっています」

 ベリシアの紫紺の眼差しが、奥を鋭く見据えていた。

『油断するな、アイザワ。ここからが本番だ』

 聖剣エクス=ルミナの声が、意識の中に緊張を伴って響いた。

 警戒を強めながら接近すると、異様な壁が生き物のようにうねり始め、巨大な顔と腕を持つ異形の存在が姿を現す。世界樹の根を歪めたかのような姿のトレント。その背後には、大量の黒エルフ隊が控えていた。

 トレントの上に一人の女が立っていた。細身で華奢な体つきに、黒い魔石を飾った法衣をまとう。首元や手首には鎖を巻きつけている。白に近い銀髪を高く結い上げ、冷たい紫の眼差しがこちらを射抜く。

「まさかレイストルが倒されるとは。――彼も偉大な礎となりましたわね」

 その口調には侮蔑が混じり、仲間への哀悼の情など微塵も感じられない。

「ルミリアズ――とかいうヤツか。ミルザはどこだ!」

 俺はエクス=ルミナを構え、鋭く睨みつける。

「焦りなさいますな、魔王ゼルヴァ。その表情、良い男だねぇ」

 ルミリアズは冷笑を浮かべ、自信に満ちた態度を崩さない。

「さて、無駄話はここまでですわ。アノン様の秘術、その片鱗を味わっていただきます」

 両手を広げると、鎖が不気味に輝き始める。

「精霊よ、我が術に従え! 『強制起動・虚無の嵐≪アビス・ストーム》!」

 瘴気が一層濃くなり、精霊たちの悲鳴のような音が響き渡る。それは精神に直接干渉し、幻覚を引き起こす。リィゼルとカルナスの表情が歪み、動きが鈍る。

「ぐっ……!」

 カルナスが膝をつき、額を押さえる。

 リィゼルも顔色を悪くし、身体を震わせた。彼女の「真巫聴」は、精霊の苦しみを直接感じ取ってしまう。

「精神攻撃か……卑劣な……!」

 魔力を集中し、干渉を振り払おうとするも、過去の後悔やミルザへの無力感が幻覚として何度も蘇る。

「陛下、お気を確かに!」

 ベリシアが精神防御の結界を張ろうとするが、ルミリアズの術はそれをすり抜けていく。

 その隙に、トレントが腕を振り上げて襲いかかる。黒エルフ隊は一斉に矢を放つ。

「チッ……!」

 攻撃を受け流しつつ防御魔法を放ち、敵の攻撃を逸らすが、ルミリアズの術が続く。

「グゥッ……!」

「ゼルヴァ様、下がってください!」

 ベリシアが躍り出て、魔法剣でトレントの攻撃を捌く。乱れた銀髪が揺れ、紫紺の視線が鋭く光る。

 リィゼルが神聖魔法を再度発動させた。

「……皆を、護り、ます! 浄化の光≪ピュリファイ・ライト》!」

 清らかな光が精霊の瘴気を薄め、幻覚を打ち消し、仲間の混乱を和らげていく。

 同時に、ラズが前へ飛び出し、攻撃魔法を放つ。

「すべての命を尊重すべきです……! 貴女の行為は、許されません!」

 赤い眼差しが怒りに燃え、融合魔法でルミリアズの術を打ち消していく。

「ほう、神聖と闇の融合……。面白いですわね。ですが、それも無力ですわ」

 ルミリアズは、不敵な笑みのまま、精神攻撃を続ける。

 と、不気味な音が起こり始めた。

 地面が揺れ、大きな地響きが奥から響く。

 いや、床や壁が脈打ち始めている。世界樹そのものが、変動を始めたのだ。

「フフフ……聞こえますかしら? アノン様の御業が、この世界に新たな秩序をもたらすのですわ」

 彼女の表情は狂気に染まり、恍惚とした笑みを浮かべる。

 地響きはさらに激しくなり、瘴気は濃度を増して視界を奪っていく。

「くそっ、このままでは……!」

 エクス=ルミナを握り直し、歯を食いしばる。打開策が必要だ。

 レイストルとの戦いで消耗したうえ、攻撃が容赦なく襲いかかる。

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