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(9)二人の人間と知り合いました

 魔王国の辺境にある回廊の出口を抜け、俺たちは地上界の街道を歩き始めた。

 魔封の指輪のおかげで、体内の強大な魔力は半分に制限され、外見も人間の冒険者そのものになっている。隣には、同じく人間態のベリシア、少し前をフィーユが歩いている。見慣れない地上界の景色に、僅かな緊張と、新しい世界への好奇心が混じり合う。

 街道沿いの景色は、魔界に繋がる場所だけあってか、

 どこか荒々しい。遠くに見える山の頂が、三日月のように欠けているのが見えた。

「あの山の欠けは、第二次クルン遠征時に、当時の魔王陛下が放った魔法の余波によるものだと伝えられています」

 俺が山を眺めていると、ベリシアが解説してくれた。山の頂を吹き飛ばす魔法。魔王の力は、規格外だったらしい。俺も、訓練すればああなれるのか?

 あくる日には、街道の脇に深い崖が現れた。底が見えないほどの深さだ。

「わー、深い崖! 小さい頃、こういう崖から落とされる訓練したなー」

 フィーユが、崖を覗き込みながら元気よく言った。落ちる訓練? バルド、一体どんな訓練を孫にさせてたんだ。獣人族の訓練は、想像以上にハードらしい。俺には無理だな、絶対

 そんな日が続いた。

 街道沿いの景色は、雄大だが、どこか戦いの痕跡や、自然の厳しさを感じさせるものばかりだった。そんな中を、俺たちは歩き続ける。

 しばらく進んだ時だった。前方から、悲鳴と怒号、金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。異変を察し丘を駆け上ると、視界が開けた先に襲撃の現場が目に飛び込んできた。

 街道脇に荷馬車が何台か停まり、商人たちが武器を持った集団に襲われている。盗賊団だ。商人は悲鳴を上げながら逃げ惑い、護衛らしい数人の兵士が応戦しているが、数で圧倒されている。これはまずい……!

 ベリシアと顔を見合わせる。冒険者として、困っている人を見過ごすわけにはいかない。それに、これは実戦経験を積む良い機会だ。

「行くぞ!」

 俺が駆け出すと、ベリシアとフィーユも無言で後に続いた。その時、別の方向からも、襲撃現場に駆けつけてくる二つの人影が見えた。こちらも、冒険者風の装束だ。

 俺たち三人は、商隊を襲う盗賊団に斬り込んだ。魔封の指輪で力が制限されているとはいえ、魔王の体は伊達じゃない。前の世界では考えられない速度と力で、訓練で習った剣技を繰り出す。バルドに叩き込まれた動きを、体が勝手に覚えていた。

「そこだ、フィーユ!」

「任せて! にゃー!」

 フィーユが猫のような素早さで駆け抜け、盗賊を地面に叩き伏せる。

「援護します!」

 別の方向から来た二人組の一人、魔法を使う女性が、商隊の護衛兵に防御魔法をかけている。温かい光が護衛兵を包み込んだ。もう一人の剣士が、力強い剣技で盗賊と渡り合う。

「こっちも手伝うぞ!」

 剣士の方が声をかけてきた。

 ベリシアが、相手の剣士に顔を向けた。彼女は、共闘相手にも冷静に指示を出し魔法で援護する。

 俺は目の前の盗賊に剣を突きつけた。相手が怯んだ隙に、訓練で習った体術を組み合わせる。一撃、腹部を蹴り込む。盗賊は呻き声を上げて倒れ伏した。

「なかなかお強い」

 剣士の方が、俺に声をかけてきた。

「ああ、あなたも」

 短く答える。彼も手堅く盗賊を倒していく。

「防御魔法、助かります!」

 ベリシアが、光の魔法使いに儀礼的に礼を言う。おそらくべリシアは不要だと考えているだろう。俺もフィーユも、盗賊の攻撃がかすりもしない。

「いえ、困っている時はお互い様ですから」

 光の魔法使いは優しく応じた。

「まだ残ってるぞ!」

 ロイドが、残りの盗賊に向かって叫ぶ。戦闘は終盤を迎えていた。

 やがて、盗賊団は全て撃退された。商隊の人々は無事で、安堵の表情を浮かべている。

「あ、ありがとうございました! あなた方のおかげで助かりました!」

 商隊の代表が、深々と頭を下げて礼を言う。俺たち三人と、二人組が、並んで立っている。

「もう怪我はありませんか?」

 癒しの魔法を使っていた方が、優しげな声で尋ねる。見た目の通り、慈愛に満ちた雰囲気だ。

「ええ、おかげさまで! あなた方は一体……?」

「私たちは旅の冒険者です。見過ごせずご助力させていただきました」

 俺たちのグループを代表して、ベリシアが答えた。彼女の口調は、冒険者として自然なものになっている。

 もう一つのグループの方も、ひとりが前に出た。剣を使う方だ。爽やかで誠実そうな青年だ。

「私たちも、旅の冒険者です。私はロイド、こちらはセレアです」

 ロイドと名乗った青年は、俺たちに自己紹介をした。セレアと呼ばれた聖職者は、優しげに微笑む。

「俺はアイザワと申します。こちらはベリーと、フィーユです」

 決めた偽名で応じた。魔王と四天王の名前は人間界でも記憶に残っている。ベリシアとフィーユも、それぞれ挨拶した。

「アイザワ殿たちも、この先へ向かわれるのですか?」

「ああ、そうだな。……あなたたちは、どこへ行くんだ?」

 俺が問い返すと、ロイドとセレアは顔を見合わせた後、答えた。

「私たちは、聖域エルムへ向かっているのです」

 聖域エルム。勇者が聖剣に選ばれる場所。――勇者になることに挑戦する者が集まる場所。

「……奇遇だな。俺たちも、聖域エルムへ行くところだ」

 俺の言葉に、ロイドとセレアも納得したような顔をした。

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