表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/118

(32)希望へ続く帰り道

 夜明け前の聖王都は、まだ静けさに包まれていた。俺たちは、人目を避けるように街の裏通りを進み、東門へと向かった。

 いつものように城を抜け出したセレアリスとロイド、エルシアが、見送りのために来てくれていた。

 門をくぐり、開けた場所に立つと、ひんやりとした朝の風が頬を撫でた。

 馬を率いたリセルとカルラの荷物が多い。どうやら、この数日の間にお土産をたくさん買い込んだらしい。

「カルラぁ、これ全部、持って帰るの大変じゃない?」

 リセルが、わざとらしくため息をついて見せた。隣でカルラが、

「何言ってんだよ、リセル! これがあたしたちの、お役目ってやつだろ!」

 と胸を張る。賑やかな二人のやり取りに、少しだけ心が和む。

 俺は、ロイドとセレアリスに視線を向けた。彼らもまた、穏やかな表情をしていた。

「色々と、世話になったな、ロイド。セレアリス殿下も、ありがとう」

 そう言うと、ロイドは力強く俺の手を握った。

「感謝しているのは俺の方だ、アイザワ。君がいなければ、聖王都は、いや、この世界はどうなっていたか……」

 彼の言葉には、偽りのない感謝が込められていた。硬く握られた手のひらから、彼の真っ直ぐな心が伝わってくる。

「また会えるよな、アイザワ」

 ロイドの問いに、迷わず頷いた。

「ああ、もちろんだ。今度は、もっと平和な形でな」

「そうだな! その時は、美味い酒でも酌み交わそう!」

 ロイドは、いつもの豪快な笑顔を見せた。その笑顔は、どんな困難も乗り越えていけるような、頼もしさに満ちている。

 セレアリスも、優しく微笑んでくれた。

「アイザワ様――いえ、ゼルヴァ陛下、本当にありがとうございました。私たちもこれから、この国をより良い方向へ導いていけるよう、尽力いたします」

 彼女の瞳には、強い決意が宿っていた。彼女なら、きっと、この聖王都を、人間たちの世界を、正しい方向へ導いてくれるだろう。

「期待している。何かあれば、いつでも連絡をくれて構わない。魔王国は、常に門戸を開いている」

 俺は、そう告げた。異なる種族間の理解と共存。おぼろげだけど、それが俺の目指す世界だろう。今回の戦いは、その第一歩か。

 ややあって、エルシアが一歩前に出た。彼女は、少し緊張した面持ちで、俺を見上げていた。

「あの、――アイザワさん」

 彼女のはっきりとした声に優しく頷いた。

「助けていただいて、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げるエルシアに、俺は慌てて首を横に振った。

「顔を上げてくれ。君が無事で、本当によかった」

 彼女は顔を上げると、真っ直ぐに目を見つめてきた。その瞳には、強い光があった。

「私、これからは、自分の意志に従って、強く生きていきます」

 その言葉を聞いた瞬間、腰に差してあったエクス=ルミナが、微かに震えた。

 それは――まるで人が涙で肩を震わすかのように。

「エクス?」

 心の中で問いかけると、聖剣からは微かな温かい感情が伝わってきた。

 目の前のエルシアは、その先代勇者エリシアと瓜二つの姿をしているのだろう。

 勇者であった少女エリシアの遺志は、いまここに居る少女エルシアに受け継がれてた。

 そして、彼女は自分の意志で生きることを決意した。

 俺は静かにエクス=ルミナの柄に触れた。言葉は交わさなかったが、聖剣の想いが伝わってくるようだった。

「ああ。応援しているよ」

 俺は心からの言葉をエルシアに贈った。

 彼女は、はにかむように微笑んだ。その笑顔は、まだ幼さを残していたが、確かな希望に満ちていた。

 東の空が、少しずつ白み始める。清々しい朝の光が、聖王都の街並みを照らし始めた。

「さあ、帰るか」

 俺は、リセルとカルラに声をかけた。

「はいっ!」

「おう!」

 二人の元気な返事が、心地よく響く。

 ロイド、セレアリス、エルシアに見送られながら、俺たちは聖王都を後にした。振り返ると、三人はいつまでも手を振っていた。

 魔王国への道は、まだ長い。それでも、その道のりも、これまでとは違って、どこか希望に満ちているように感じられた。

「帰ったら、また仕事が山積みだ……」

 ため息混じりに呟くと、リセルがすぐに反応した。

「えー、残業はいやですーっ!」

 カルラは、胸を叩いて意気込んだ。

「あたしは、いっちょ頑張らせてもらいます!」

 騒がしいけれど、頼りになる二人だ。

 魔王ゼルヴァ=レグナス=ノクスとしての義務。そして、勇者アイザワ・ナオートとしての使命。

 まだまだやるべきことは山積している。だけど、今の俺には、確かな仲間たちがいる。未来への希望がある。

 滾る思いを胸に、穏やかな朝の光の中を進み始めた。


                    (つづく)

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

この章は、ここで終わりです。

少し幕間と数日のお休みをいただいて、次章、世界樹編へ続きます。

しばしお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ