表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/118

(27)魔王で勇者

 ――打開策は見つからないまま、ヤツの容赦ない攻撃の前に、俺はただ苦戦を強いられ続けるのだった。

 聖王都の夜空は、依然として黒煙と炎に覆われている。

 俺は宙を舞い、奴の放つ破壊的なブレスと魔弾の嵐が、容赦なく俺を襲い続ける。

「……!」

 回避と防御に徹する。奴は俺の魔力枯渇を狙っているのか、単純に力量の差か。いずれにせよ、このままではジリ貧だ。

 ゾルグの猛攻は苛烈さを増し、俺の漆黒の翼を掠めるたび、熱い痛みが走る。羽ばたきが鈍り、空中での機動力が落ちていく。

「エクス=ルミナ……俺は……!」

 俺は心の中で叫ぶ。エクス=ルミナは、これまでも俺に毒を吐きながらも、幾度となく窮地を救ってくれた。今回も、きっと……。

『まったく……この愚か者めが』

 沈黙を破り、エクス=ルミナの声がした。

『聖地エルムにて、貴様が我を引き抜いた時、さぞかし小細工を弄して我を手にしたとでも思っているのだろう』

 その声は、苛立ちと、わずかながらも呆れたような響きを含んでいた。

『この我を、そのようなまやかしだけで手に入れられるとでも?』

 その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。確かに、俺は以前、聖魔反転を使って聖剣を引き抜いた。魔という相容れない属性を持つ俺が、聖剣を手にできたのは、その裏技を使った結果だと。

『馬鹿め。聖と魔、相容れぬなど、所詮は理のみ。――ただしく勇者たる資格なくして、この我を手にすることなど不可能だ』

 エクス=ルミナの言葉が、俺の脳裏に稲妻のように走った。勇者の資格……? 俺に、そんなものが? 魔王である俺に?

『悔しいがな……貴様は、間違いなく勇者だ。その内にある真の願いは、邪悪を滅ぼし、人々を救うこと。この我も、その魂の輝きに呼応したに過ぎぬ』

 エクス=ルミナの声には、どこか不本意気味であったが、それでもその言葉は俺の心に深く突き刺さった。俺は勇者……。その言葉が、凍てついた俺の心の奥底に、熱い火を灯した。

『さあ、お主こそ、その力を示せ! 貴様は魔王であり、そのうえで勇者なのだ!』

 エクス=ルミナの叱咤が、俺の全身に活力をみなぎらせる。枯渇しかけていた魔力が、再び湧き上がるのを感じた。

 追いかけるように、その時。

 突然、新たな声が脳内に直接響いてきた。

『陛下!』

 間違いない、ベリシアだ!

「ベリシア、来てくれたのか!」

 俺は思わず叫んだ。希望の光が、俺の心を照らす。

『状況は把握しております。間もなく聖王都全体に結界魔法が展開されます。同時に我々も魔法を放ちますので、これにタイミングを合わせてください』

 ベリシアの声は、いつものように冷静沈着だったが、その奥に確かな決意を感じた。俺は彼女に全幅の信頼を置いていた。彼女が「間もなく」と言うのなら、本当に間もなく何かが起きる。

 目前にブレスを溜め始める黒い顎。――強力な魔力! 避けても街が犠牲になる! 

 はたして。聖王都の上空に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。それは、まるで星空を閉じ込めたかのような、透き通った光を放っていた。その魔法陣の中心、王城の尖塔に、二つの影がいた。プラチナブロンドの髪、炎のような赤い髪。

「セレアリス! ナクティス!」

 二人の共同魔法結界が、光のドームとなって聖王都全体を包み込んでいく。ゾルグの放とうとしていたブレスが、その結界に触れた途端、まるで霧散するかのように威力を失っていくのが見えた。

 結界が展開されると同時に、その巨体がわずかに揺らぐ。奴から放たれる禍々しい魔力の波動が、目に見えて弱まっている。ヤツにデバフ効果……聖と夢魔の魔力が、奴の行動を阻害しているのか。

 さらに驚くべきことに、結界の内側では奇跡が起きていた。ヤツの猛攻によって負傷し、倒れ伏していた人々の傷が、まるで時が巻き戻るかのように癒されていく。人々の顔から恐怖の表情が消え、混乱が静まっていくのがわかる。秩序が回復し、ロイドや兵の誘導のもと、魔物の討伐や避難が着実に進行していく。

 ナクティスの「夢魔法」が人々の精神に働きかけ、聖女セレアリスの「神聖魔法」が物理的な癒しをもたらしているのだろう。聖と魔、異なる二つの力が、今、一つの目標のために共鳴している。

 その光景に、俺は感動すら覚えた。いや、感傷に浸っている暇はない。いびつな黒竜の動きが鈍った、今が好機だ。

 ゾルグと俺を取り囲むように、聖王都のいくつかの高い建築物の上に、五芒星状に五つの影が降り立った。

 ルディア、ミネット、ティセ、ゼルダ、そしてベリシア――。

 皆、俺の忠実なる部下たちだ。

『陛下!』

 ベリシアの声――。彼女は冷静に状況を判断し、すでに次の手を打っていたのだ。

 五つの影は、それぞれの場所で魔法を行使し始める。

 ベリシアが配下の4人の魔力を調整しながら、巨大な魔力を練り上げていく。

「リセル! カルラ!」

「戻ってきてよ、二人とも!」

 ミネットが、ティセが叫ぶ。ゼルダもまた、祈るようにゾルグに手を向けている。

 五人の魔力が、俺へと収束していく。それは、まるで嵐のような激しい魔力の渦だ。

 魔力の奔流を、エクス=ルミナへと流しこむ。

 俺は、聖剣を通して仲間たちの魔力を受け取った。魔王と聖剣、魔王軍の幹部たちの魔力が、今、一つになる。

『我が導いてやる! 貴様の全てを、この一撃に込めよ!』

 エクス=ルミナが、かつてないほどの輝きを放つ。聖なる光と、俺の漆黒の魔力が融合し、刀身から溢れ出す。

「うおおおおおおおおおおっ!」

 俺は雄叫びを上げ、ゾルグへと突進する。聖剣を両手で構え、渾身の力を込めて振り下ろした。

 ズォォォンッ!

 甲高い音が空を切り裂き、ヤツの巨体が激しく揺れる。エクス=ルミナの刃が、固い鱗で堅牢な体を、たやすく切り裂いていく。漆黒の鱗が飛び散り、黒い血が夜空に舞った。

 ゾルグの右半身が、翼と共に大きく削り取られた。バランスを崩したヤツは、制御を失い、巨大な体躯が瓦礫と化した街へと墜落していく。

 凄まじい轟音と共に、巨体は街の中心部に激突した。巻き上がる土煙が、夜空をさらに暗くする。

 一気に力を使った俺は、衝撃波に巻き込まれ、瓦礫の中へと叩きつけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ