(14)魔王と戦います!
昨日、焼け落ちた村で見た魔王。
瞳には一切の感情が感じられない。ただ、純粋に破壊だけを目的とする、冷たい意志だけが黒いオーラとなって、微かに周囲に漂っている。
「――貴様が、新たな魔王!」
ロイドが、アーク=ルミナを淡く輝かせながら前に出た。
俺も、エクス=ルミナを固く握りしめ、目の前のゾルグを見据えた。
話が通じる相手ではない――そう直感した。あの空虚な赤い瞳が、それを物語っている。
「ゾルグ! お前は、何のために現れた!?」
あえて、そう問いかけてみた。もしかしたら、わずかでも対話の道が残されているかもしれないと。
――ゾルグは何も答えなかった。ただ、その赤い瞳が静かに俺を捉え、次の瞬間、信じられないほどの速度で動き出したのだ。
「速い!」
リセルの鋭い叫びと同時に、ゾルグの黒い爪が俺の目前数センチに迫っていた。触れずとも首筋を切り裂かれそうな一撃。間一髪、俺は体を捻り、それを回避する。
ゾルグの攻撃は、ただ破壊することだけを目的とした、洗練された動きだった。
「あたしが、いくっす!」
カルラが力強く一歩を踏み出した。巨大な戦斧が空気を切り裂き、ゾルグへと向かっていく。しかし、ゾルグはそれを容易く受け止め、黒いオーラを纏ったもう一方の腕で、カルラの巨体を吹き飛ばした。
「ぐあっ!」
カルラ身体が、激しく地面に叩きつけられる。その衝撃で、周囲の地面が小さく陥没した。
「カルラ!」
リセルが叫び、レイピアを構えながら駆け寄ろうとする。だがゾルグは、彼女を完全に無視し、再び俺へと狙いを定めた。
「くっ……!」
俺は、エクス=ルミナを輝かせながら、迫り来るゾルグの攻撃を辛うじて受け流す。硬質の物同士が激しくぶつかり合う重い音が響き渡る。ゾルグの力は想像以上だった。
『油断するな、ゼルヴァ! この力、たしかに魔王に相違ない!』
エクス=ルミナの警告が、テレパシーで脳裏に響いた。その言葉は、俺の直感を裏付けていた。感情の読めない敵――それは予測が困難で、極めて危険だ。
周りにはルーンハイトの兵や冒険者がいる。俺の真の姿は見せられない。
ただ剣士として、攻撃を受け止める。
ゾルグの攻撃は、容赦なく続く。黒い爪は鋭利な刃のように空気を裂き、黒いオーラを纏った手刀は、一撃ごとに命を奪うかのような殺意を帯びている。俺は聖剣でそれを必死に受け止め、わずかな隙を突いて反撃を試みるが、ゾルグの動きは機械的ながらも異常なまでに素早く、簡単にかわされてしまう。
ロイドもアーク=ルミナを振るい、攻撃を仕掛けるが、黒いオーラに阻まれ、深くまで届かない。
「くそっ……!」
俺はゾルグの絶え間ない攻撃に押されながら、低く唸った。このままでは押し切られてしまう。何か、突破口を見つけなければ。
『アイザワよ、油断するな。こやつ今のお主より強いぞ』
「うるせえよ!」
毒づき、背後に気にかけた。
「リセル! カルラ! 大丈夫か!」
俺が叫ぶと、ゆっくりと立ち上がったカルラが、荒い息を吐きながら応えた。
「大丈夫っす! まだまだやれます!」
リセルもレイピアを構え直し、「あたしも、戦闘に参加します」と力強く言った。
兵たちはスタンピードを抑えるに必死だ。だが、俺の戦う姿を見たのか、「あれは、聖剣!」「行方不明の勇者が来てくれた!」そんな声が聞こえる。
四人で、魔王ゾルグに立ち向かう。極めて困難な戦いになる。ここで退くわけにはいかない。このスタンピードを止めなければ、さらに多くの犠牲を出すことになる。
ゾルグは、俺たちの様子を冷たい赤い瞳で見つめ、再び攻撃の構えを取った。黒いオーラが、その体をさらに濃く包み込む。
「来るぞ!」
俺は低い声で二人に警告し、エクス=ルミナを再び握り直した。思考を極限まで研ぎ澄まし、わずかな隙も見逃さないようにしなければならない。
ゾルグが再び動き出した。
その動きには、迷いが一切ない。純粋に、最も効率的な攻撃を狙い澄まして行う、戦闘機械そのものだった。
迫り来る黒い爪を受け止める。ぶつかり合い、再び激しい音を立てる。ゾルグの一撃一撃は重く、腕が痺れるほどだ。
横から、リセルの素早い攻撃が放たれる。レイピアがゾルグの脇腹を狙うが、黒いオーラがそれを弾き返す。ゾルグは目もくれず、再び俺への攻撃を継続する。
カルラは、力強い戦闘スタイルで、正面からゾルグに迫る。巨大な戦斧を振り上げ、必殺の一撃を狙う。しかし、ゾルグはそれを軽々と見切り、素早い動きでカルラの懐に潜り込むと、黒い拳を彼女の腹部に叩き込んだ。
「ぐえっ……!」
ロイドが続けての攻撃をさばき、カルラを後退させる。
ゾルグの攻撃は、物理的な衝撃だけでなく、黒いオーラによる内的なダメージも与えているようだ。
「カルラ!」
俺は叫び、ゾルグとの距離を取った。このまま単純な力比べを続けていては、不利になるのは明らかだ。感情のない相手には、標準的な戦術は通じにくい。
「魔法を使う!」
俺は低く声を発し、掌に魔力を集中させた。深紅の魔力が徐々に輝きを増し、周囲の空気が緊張感を帯びていく。
「炎よ、我が力となれ――!」
俺の言葉と同時に、目前に1メートルほどの炎の球が発生した。魔力で捏ね上げ、拳大に圧縮する。青白く眩く光る。それをゾルグに向け放出する。
「インフェルノ・ファイアボール!」
熱球が一直線に飛ぶ。
ゾルグは黒いオーラを高め、火球を受け止め辛うじて踏みとどまった。
――爆発。暴風と高熱が駆け抜る。
あまりの衝撃にあたりの戦闘が一時止まった。
ただ、俺の感覚は、高い魔力をそのまま捉えていた。
やがて砂塵にまぎれた陽炎の中、――ゾルグは無傷で立っていた。
「これでも効かない……!」
予想以上の実力に、俺は冷や汗を感じた。




