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(12)知り合いと逢いました

 ダンジョン近くにキャンプを張ってから、もう四日が過ぎた。

 すでにルーンハイト公国の精鋭軍がダンジョン近くに陣を張っている。何度かアタックを繰り返している様子だが、少数にならざるを得ないダンジョンの戦いでは、俺たちの様に攻略できないだろう。いくつかの冒険者パーティーも功名目当てか近くにキャンプを張っている。軍も焦りがあり、一部冒険者をオブザーバー参加させている。

 そんな夜明け前の静けさの中、かすかに光が差し始めた頃、リセルの低い声が、静かに俺たちの仮設の拠点を揺り動かした。

「陛下。すこし気になる人の気配です」

 彼女は、いつものクールな表情ながらも、ゆっくりと戦闘態勢を取り、赤紫の瞳を周囲に走らせている。カルラも、毛布から跳ね起き、戦斧を手にした。

「どこだ?」

 俺が低い声で尋ねると、リセルは森の奥の方を指差した。

「あちらから。距離は約1キロ。速度は速くありませんが、街とは違う方向から単騎。ダンジョンに近づいてます」

 俺たちは、互いに目を交わし、慎重に気配のする方へ向かった。

 やがて、木々の間に、かすかに人影が見えてくる。

 カルラが目くばせで「やるっすか?」と合図を送ってきたが、俺は首を振った。

 息を殺して、人影を確認する。

 木々の間、朝の光を受けた栗色の髪。見覚えのある、意志の強い横顔。

「ロイド……!」

 思わず、俺は呟いた。まさか、こんな場所で彼と再会するとは。

 俺は、姿を現し、ロイドに声をかけた。

 ロイドも、俺たちの姿を認めた瞬間、歩を止めた。彼の青い瞳が、驚きと安堵の色を湛えて光る。

「アイザワ殿! なぜ、あなたがここに……いや、来られても当然の事態か」

 ロイドは、短い驚きの後、柔らかな笑みを見せた。

「――ロイドこそ、なぜここに?」

 俺が問い返すと、ロイドは静かに説明した。ルミナス王国からの派遣であり、本来は別の者と同行するはずだったが、事態を重く見て、一人で先行してきたのだという。

 俺たちはキャンプに戻り、腰を下ろした。カルラとリセルは、予期せぬ来訪者にやや警戒の色を浮かべていたが、俺が落ち着くようになだめた。

「ルミナス王国が、この件に関わっているとは……一体、何が?」

 俺が切り出すと、ロイドは重たい表情で答えた。

「ルーンハイト公国での魔王出現の報は、我が国にも届いていて。……我々は、事態の調査と、可能であれば直接的な支援のために派遣されました」

「……セレアリスは、今回は来ていないのか?」

 俺の問いに、ロイドは首を横に振った。

「セレアリス様は、王都に残っておられます。今回、私と共に派遣されたのは……」

 そこで、ロイドは少し言葉をためらった。

「……新たな『勇者』、エルという少女」

「新たな勇者……?」

 その思いがけない言葉に、俺は思わず目を瞠った。

『あらたな勇者など――我がここに居るのに、選別されるはずがない』

 俺は、エクス=ルミナを軽く押さえ、ロイドの言葉を待った。

「ああ。教会の一派――大司教グラハム=エルザムが世界の平和のために創り上げた、新たな希望の光だと……」

 その言葉には、かすかな複雑さがにじんでいた。彼も、その「新たな勇者」について、完全に歓迎しているわけではないのかもしれない。

「そのエルは、今どこに?」

 俺が尋ねると、ロイドは静かに答えた。

「今、後からこちらに向かっているはずだ。まもなく到着するだろう」

 新たな勇者、エル。教会が創り出した、だと――。

「ロイド。――俺たちは、すでにダンジョンの深層まで潜ったんだ」

 昨日ダンジョンの最深部で見た光景、感じた違和感を彼に伝えた。封鎖された門、外部からの強力な封印、その奥で眠っているような魔力の気配。

「このダンジョンの奥にいるのは、自然発生的な魔王ではない。――今は、恐らく、何者かによって封印されている」

 俺の言葉に、ロイドは驚きの表情を浮かべた。

「封印……? では、魔王ゾルグは……?」

「俺は、ゾルグは駒に過ぎないと考えている。別の存在が裏にいる」

 俺は断言した。

 ロイドは、重く頷いた。

「もし、あなたの言う通りなら……我々は、完全に見当違いの方向を向いている可能性がある」

「ああ。俺が言うのもなんだが、新しい魔王、新しい勇者。タイミングが揃いすぎている」

 俺は低い声で付け加えた。

 焚き火の赤い光が、俺たち四人の顔を静かに照らし出す。

「その『勇者エル』について、教えてほしい」

 ロイドは、やや困ったような表情で答えた。

「私も、詳しいことはわからない。ただ、剣技は間違いがない。直剣と円環の剣、二振りの『聖剣』を用いていた。……しばらくは一緒に行動したが、ほぼ会話もなく――そう、人形を見ている様だった」

「二振りの聖剣?」

『やはり、我の知らぬ存在……』

「あとは――肖像画で見た、先代勇者。エリシア=フェルブレイズによく似ていると、そう感じます」

『エリシア、まさか、――彼女はゼルヴァと相討ち――我の力不足で!』

 ともかく、すべてが一つに繋がりそうだ。

「……警戒しよう」

 俺は低い声で呟いた。

 いつの間にか、日の光は森全体を包み込んでいる。

 いずれにしても「勇者エル」とも対峙することになるだろう。

 ベリシア、ナクティスとも連携する必要がある。メルを呼ぼう。

 俺は、静かに腰のエクス=ルミナに手を添えた。聖剣は、淡く金色の輝きを放っている。

 まあ、進むしかないのだ。隠された真実を求めて。後悔をしないために。

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