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ファーヴィス  作者: 芦屋 瞭銘
第二章 ファーヴィス
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第7話 人生を楽に生きる方法

「おはよう、タツキ」

「お……はようございます」

「さあ。早速仕事だ」


 サイリィの仕事は毎日違った時間に始まる。異世界から現れる迷い人がいない間は休暇のようなものだからだ。


「迷い人よ、行き先はお決まりかな?」


 この言葉はこの世界……というかこの道案内の施設のいらっしゃいませの代わりらしい。僕も初めてここにきた時にサイリィにそう言われたのをなんとなく覚えている。


「まずは見てなんとなくの雰囲気を掴んでおいて。そのうちここに立たせるからさ」

「えっ……ああ、そ、そうですよね」


 僕は度々、自分が後継者であることを失念していた。なんとなくまだ今は夢の中で、創造の異世界の生活を覗いているだけだという認識に僕は囚われている。しかし寝ても覚めてもファーヴィスのまま。

 そろそろ諦めて受け入れるしかなさそうだった。役に立てるかは怪しいけど、なんとかするしかないのかもしれない。


「はあ……」

「あらら、ため息?」


 ちょうど客が途切れたようで、サイリィは僕を見て首を傾げていた。透き通る水色がかった長髪がさらりと揺れている。レースカーテンのようで、それもまた美しかった。同性である僕から見ても些細な仕草でさえも目が離せない。彼はお気に入りのピッチャーを手に取り、日の光にかざして眺めた。


「では悩めるタツキ。君に人生を楽に生きる方法を教えて差し上げましょうか」

「え……?」


 彼は楽しそうに人差し指を掲げている。僕が人生に悩んでため息をついたとでも思われているようだ。まあ、聞いてみたいとは思うけれど。続きを話すように目で促すと、嬉しそうな目線が返ってきた。


「それはね、自分に好かれる自分でいることだよ」

「…………」


 自分に好かれる自分……まあ、自分の行動に納得していればそりゃ楽かもしれないが。


「君が思い当たった通り、自分に対して納得していればストレスがあまり発生しない。だから楽なんだ。……でも、それだけじゃない」

「そうなんですか? ……ってまた僕の心を読んだ風なこと言って」


 本当にエスパーなのではないかと疑うほど、この人が僕の今の考えを知っているような返答をしてくる。

 ファーヴィスはそのような読心の能力が発達でもしているのだろうか。


「自分に好かれる自分でいれば、自分のレベルに合った人間が自然と集まる。自分にとって居心地の良い環境がいつの間にか出来上がるんだ」

「……なるほどねぇ」


「仕事で多くの人と働いていくなら、必要となるだろうさ」

「この仕事では少なくとも必要なさそうですね。カウンター内には僕らだけ。来る客とは二度と合わない出会いばかりです」

「…………」


 サイリィはすごく哲学的な考えを持っているようだった。しかし彼の後を継ぐ僕には、それを役立てる自信はない。だってほら、今まさに沈黙が起こっているわけだし。きゅっとサイリィがピッチャーを磨く音がやけに響く。


「まあでも、肝に銘じておきます。人生何が起こるかわかりませんから」


「……そうだね。もう君、明日からここに立ちな」

「ええ!?」


 本当、人生何が起こるかはわからないものだ。今は目の前の人物に何かを起こされ続けているわけだけど。 




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