第5話 若者の寿命
「タツキ、君……ボクの後継者になってよ!」
「後継者……? 後継者って一体なんの……」
言いながら頭の中の情報が追いついてくる。サイリィはここのカウンターにいるのだから、当然異世界への道案内が仕事だろう。その仕事の跡取りになれとでも言うのか。
「ぼ、僕には重荷かと」
「全然大丈夫。素質はありそうだし、道案内は慣れっこなんでしょう?」
「…………」
それを言われると弱い。
道案内に慣れっこなのは僕が十分自覚している事実だ。
それに、これまでなぜか道をよく聞かれていたことになんだか納得がいってしまった。
今ここで、サイリィの後を継ぐための予兆だったのかもしれない。
異世界に来てまで僕は道案内する運命にあるってことだろうかという疑問は残るけれど。
「し、しかし……後継者ってサイリィはまだ若いんじゃ……」
「言っておくがボクはもうすぐ三万歳だ。こんな形をしているけれどもう若くない。あと数年で寿命を迎えるんだ」
「さ、三万歳!? 嘘!!!!」
「嘘ではないよ。まあ、タツキが元いた世界とは時間の流れが違うかもしれないがな」
狼狽える僕に彼は淡々とそう答えた。初対面で感じた美しさはまだ健在で、キラキラと輝いて見える。中性的な若者である、という印象は誰が見ても変わらないだろう。それに馬鹿にしているのかと思うほどのふっかけられたような寿命年数。でも目は本気だ。彼の言う通りここは異世界。一日が一年という可能性もまだ残っている。
ここで動揺しているばかりでは話も進まないか。
「か、仮に、本当にサイリィが三万歳近くだとしましょう。それでも病気もなくお元気そうに見えますし、そもそも寿命って予めわかるものなのですか?」
「世界によって異なるが……ボクの場合は心臓が脈打つ回数で残りの寿命が大体計算できる。誤差はあるだろうがあと五年前後といったところだろう。ボク自体は健康そのものだがな」
「ご、五年前後……」
嘘みたいだ。こんな若く見える人間が病気でもないのにもう後五年ほどの命だなんて。
「だから後継者が必要なんだ。ここの仕事は数ヶ月で会得できるほどの簡単なものでもない。素質も鍛錬も必要なんだよ」
「……それで僕に……ってあれ?」
ここで思い当たる。人生あれば色々な人と出会うだろう。三万年近くもあれば尚更だ。家庭を持っていてもおかしくない。それも複数持っていても別に許せるほど途方もない年月に感じる。
「つかぬことをお聞きしますが……お子さんとか、後継者になりうる人は他にいないのですか?」
「……っう」
あ。今の一言でダメージを与えてしまったようだ。サイリィは先ほどから僕に向けていた真剣な表情を一気に崩した。
「……子供はいる。いいや、いたんだが、異世界に行ってしまったんだ」