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初投稿ですお手柔らかに。

何か問題があれば削除します。

 いつのまにか私は暗闇に立っていた。周囲を見渡すが何もなく、ただ空と思しき場所に月だけがポツンと輝いている。

 右手には消失しかかっている水晶のような水の玉のようなものがあり、少しずつ水滴となり真っ黒な空へ消えていく。

「……」

 それが何かを考える前に、徐々に意識が薄れていく。抗えない。そっと目を閉じて私は完全な暗闇へ——。


×××


「——おーい、大丈夫?」

「ぅ……」

 最初に感じたのは、背中全体に広がる鈍痛。まるで強く打ち付けたかのようだ。

「立てる…?」

 徐々に覚醒する視界に、鮮やかなピンク色の髪に猫耳の生えた少女が映る。アメジストのような紫色の目が私の目と合った。

 差し出された手を借りて起き上がる。周囲は見渡す限り木しかなく、私のいる辺りだけ少し開けていた。

「大丈夫?」

「…はい」

 急に起き上がったせいか少しふらつくが、まぁ平気だろう。

「タメでいいよ。私、花火(はなび) 桜香(おうか)。貴方は?」

「私は………あれ…?」

 答えようとして、私はようやく気付く。

「わからない…」

 なにもわからないのだ。覚えていない。ただおおよその常識だけは生きていて、彼女が異常なことだけはわかる。なんで人間に猫耳が…。

「わからないか……困ったなぁ。なにか衝撃でも受けて忘れちゃったのかしら」

「——桜香、その子誰?」

 思案していた桜香の後ろの木々から、少女が1人駆けてくる。

 パステルピンクの長い髪をツインテールにした、つり目でどこかクールな雰囲気の少女。今の気温なら不要であろう長いマフラーを風にはためかせ桜香の横に立つ。

「あ、ゼラ!この子ここに倒れてたの、名前を覚えてないみたいで…」

「ふーん」

 ゼラと呼ばれた彼女は私に近づき、じっくりと観察してくる。透き通った空色の瞳がとても綺麗だと思った。

「……とりあえず街に帰りましょう、お姉ちゃん達に見せるのが一番良いわ。あっちにメアが待ってるよ」

「おっけー!じゃあ歩きながら色々話そうか、何もわからないと心細いもんね」

 そして三人で森の中を歩いていく。

 ゼラが黙々と先頭を歩き、桜香が色々と説明をする形になった。

「そういやゼラのこと紹介してなかったよね。ゼラ・パルエメラ、私のことを引き取ってくれた師匠の妹なの」

「引き取った?」

「うん。私の出身はここウェーラの上にあるリラーノって国なんだけどね、家族みんな魔獣に喰われちゃって。色々あって引き取ってくれたのがラテヒ師匠、ゼラのお姉さん。世界級魔法使いっていう魔法使いで一番高いランクの人だから、きっと貴方のこともなんとかしてくれるわ」

「魔法……」

 馴染みのない概念。記憶を失う前も身近にはなかったんだろうか。

「ありゃ、魔法に馴染みがないのか……うーん、それならアルクスとかリディック辺りから来たのかなぁ…?」

 ぶつぶつと考えている桜香の声を横にずんずん進む。鳥の鳴き声も何も聞こえない静かな森だ。

 少し木々が閑散としだしたところで、ゼラが笛を吹く。すぐに何か巨大な生き物が飛んできた。

「なにこれ…」

「お姉ちゃんのドラゴンよ、借りたの。トロイメライ種のメア。帰りは3人だけどよろしくね」

 ゼラの髪と同じようなパステルピンクのドラゴン。額に金の模様が入っていて、翼は妖精の羽のよう。

 咆哮をひとつ、しゃがんで乗りやすいようにしてくれる。前からゼラ、私、桜香の順で乗って、メアは大空に飛び立った。


×××


「やーっと着いたー!ウェーラ1の都市ヴェルデにようこそ!あの建物が国立図書館と世界級魔法使い達の会議室なの」

 桜香が両手を広げ、バランスを崩して落っこちそうになる。ゼラが服を掴んで引き止めながらその大きな建物を見据える。

 とても仲がいいようで羨ましいと思った。

「…お姉ちゃん達…世界級魔法使い達は、今あそこに揃ってるはず。ま、通してもらえるか分からないけど。行きましょう」

 メアには図書館の入口で降ろしてもらう。

「ありがとうね」

 そう言ってゼラが撫でるとどこかへ飛んで行った。

「行っちゃったけどいいの?」

「あの子賢いから大丈夫。あ、明音(めいね)さんいた」

 入ってすぐ、ゼラが呼び止めたのはメイド服の女性。毛先の赤い茶髪をポニーテールにし、赤い瞳は不思議そうに私達を見ていた。

「ゼラさん、桜香さん、見慣れない方。どうかなさいましたか?」

「お姉ちゃん達に話したいことがあるの、まだ会議?」

「予定ではもう終わっている時刻です、ご案内いたしますね」

 エレベーターのような機械に乗りどんどん上昇していく。街が小さくなっていく様がなんとなく面白かった。

「こちらです」

 威圧感のある扉を明音がノックする。

「ゼラさんが皆様にお会いしたいそうで」

「…どうぞ」

 ゆっくりと開いた扉の先に、彼女達はいた。纏っている雰囲気が違うとすぐに分かる。明らかに私より小さい子もいるのに。

 中でも一際背の小さい少女がこちらに近づく。ぼさぼさの茶髪には大きな獣の耳が生えていた。

「見慣れない顔だ」

 困惑したようにゼラを見る少女。

「久しぶりだねコリリアさん、この子森で見つけたの。記憶障害みたいで、お姉ちゃん達なら何かわかるかなって思って来たんだけど…みんな帰った?」

「いや、ここにいないヤツらは資料を探しに行った。ってかそんなに大変なのか?ラルネ以外は私達治療術なんて……ん?」

 コリリアと呼ばれた少女が、背伸びして私に顔を近づける。

「……あれ?お前…その目って……っ!!」

 血相を変えたコリリアにいきなり飛びつかれ、勢いのまま押し倒され喉元に爪を立てられる。

「何を使った!ルヴィニジアは何をしてる!」

「ちょ、ちょっとコリリアさん!」

 桜香がコリリアを剥がそうと肩を使むがびくともしない。どこにそんな力があるのか、じりじりと爪が食い込んで痛い。

「吐け!!何を使ったか吐け!!」

「落ち着いてコリリアちゃん。ほら、私が診るから」

「だってラルネ!どう見たって——」

「——いいから、ほら」

 ラルネと呼ばれた女性が目の笑っていない笑顔でコリリアをなだめる。どこかふんわりとした雰囲気が漂っているというのに底知れぬ恐怖をも覚える。コリリアも怖かったのか、渋々といった様子ではあるが大人しく引いた。

 そんな彼女に手を貸してもらい起き上がる。心臓がドクドクとうるさい、本当に怖かった。爪がよほど食い込んだのか首が少し痛い。

「ごめんなさいね、ちょっと勢いで行動する子なの」

 ラルネの手が首に添えられ、ほんのり温かい空気を感じたと思ったら痛みが消えた。

 そして新芽のような明るい黄緑の瞳で私をじっと見つめる。

「そうねぇ……確かに『死者の目』ではあるけれど、禁術ではないと思うわよ。ね、ミライさん。静観してないで証言してあげてくださいな、冤罪はまずいでしょう」

「そうね、大丈夫だよコリリア。禁術は間違いなく使ってない、オリビン絡みっぽいから余計まずいけどね」

 ミライと呼ばれたのは、淡い水色の髪と目を覆う布が特徴的な少女。彼女もまた身長はさほど高くないため幼く見えるが、纏っている雰囲気はどうも不思議な感じだった。

 こちらに歩み寄り、手を差し出す。

「私はミライ・アーラード、よろしくね。貴方のことはなんて呼べばいい?」

「えーっと……」

 名前すら覚えていないため言葉に詰まる。

「ルナとかどう?」

 桜香が後ろから肩を組んできて提案する。

「ほら、目とか髪が月の色してるし!」

「ルナ……うん、いい」

 思わず顔が綻んだ時だった。

「いい名前ね、それで——」

———ドンッ!

 ミライの声をかき消す轟音と共に建物が揺れる。

———ガシャンッッ!

 再びの衝撃と共に、窓ガラスを突き破って黒い何かが転がり込んで来た。ソレは一直線に私に向かって来て——

「——あら」

 ツタのような謎の植物が自身の前から飛び出して、ソレの一撃を防ぐ。

「随分と大胆なご挨拶ね!」

 唯一まだ名前を聞いていない藤色の髪の少女が、ソレに切りかかる。

 とんでもなく速いソレと余裕で戦っているということは、相当に洗練されているのであろう。その見事な剣捌きは的確に相手を狙う。

 互いにぶつかり動きが止まったタイミングでようやく姿が見えた。その相手は、金髪と八重歯が特徴的な少女だった。その瞳は私を見ている。

「こっち見ろってんだ!」

 コリリアが瓶を投げつける。紫の煙を上げ爆発したが、藤色の少女はなんともないようだった。

 が、煙を裂いて相手も飛び出してくる。

「うっそだ!なんで!」

 それを一瞥した藤色の少女の一瞬にして姿が消えた直後、彼女の剣がソレの腹を真上から穿つ。真っ二つになったソレは黒い煙となって消えた。

「ティナのシャドウ……」

「コリリアの薬品が効かなかった」

 藤色の少女とコリリアが話し込んでいる。

 ラルネが腰が抜けてしゃがみこんだ私に手を差し出してくれたので、ありがたく借りて起き上がる。

「大丈夫?怪我はない?」

「は、はい……」

 大した時間の出来事ではないというのに、呼吸が荒く足が震える。飛びついてきたコリリアにはなかった、明確な殺意がソレにはあった。

「変だったわ、ずっと貴方を狙ってた。…ミライ、この子についてまだ何かあるんじゃない?さっきオリビンの名も出してたし」

「んー?うふふ、バレるかぁ」

 端で一連の騒動を眺めていたミライが、つかつかと私に歩み寄る。

 布を両手でずらし、目を露わにした。白目が真っ赤に染まった黒の目。じっと見ていると、その暗い瞳孔に吸い込まれるような感覚に陥る。

「私ちょーっと変わった目でね、過去が視えるの。さっき勝手に視させてもらったんだけど、ルナちゃんの過去はなんかぐちゃぐちゃになってて上手く視れないんだよね」

「視える……?それにぐちゃぐちゃって……」

「そう、まぁ言葉で説明するのは難しいんだけどね」

「ちょっと待て、上手く視れないんなら禁術の可能性だってあるんじゃないか?」

 藤色の少女と話していたコリリアがこちらを振り向いて問いかける。いつの間にかミライは目の布を元に戻していた。

「それは大丈夫、禁術は絶対に分かる。ルヴィニジアが動いてないのも証拠でしょ。それよりオリビン、もう時間ないよ」

「あの……禁術とか、ルヴィニジアとか、オリビンって……?」

 わからない言葉が沢山並べられて話についていけない。

「あぁそうね、そういうのもわからないね。禁術は使っちゃいけない魔法、ルヴィニジアはそういう犯罪を犯した者が入る水上の監獄。オリビンはー……あぁほら、そこのじーちゃんが教えてくれるよ」

 ミライが指さした入口に、白髪の老人を先頭に数人が集まっていた。

「敵襲ですか」

「そう。もう片付けたけどね。でさぁ、この子ルナちゃんって言うんだけどね、記憶喪失なのよ。オリビン討伐に組み込むから、始まりの神話教えてあげて」

「……それは、ミライの独断ですかな」

「現状はそうだね。ってことでゼラちゃん、桜香ちゃん、ルナちゃん。いいかな?」

 老人に向けていた顔を私達に向ける。

「……ミライさんがそう言うなら」

「ルナがいいなら!」

 ゼラ、桜香ときて私もミライに期待の眼差しらしき表情で見つめられる。目は布で見えないが。

 とはいえ急に討伐だなんだと言われても飲み込めない、決断はオリビンというその生き物だかなんだかの話を聞いてからではないのか。

「えっと……急過ぎて何がなんだか……」

「だよねー。まぁ平たく言っちゃえば、ルナちゃんの記憶に関係するであろうことなんだよね。んで、普通に街及び国がピンチってのもあって人手が欲しい」

「私に戦うとかそんなの、できないと思うんですけど……」

「問題ないよ、パルフェが稽古付けるから」

「えっ」

 奥から声が上がるがミライは気にしていない。ただじっと、私の方を向いている。

「……分かりました協力します」

 記憶など無いというのに、これは非日常であるとわかる。非日常だからこそやってみようという気持ちになれた、気もする。

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