傍観者の日々
男は歩いていた。
柄の入ったスーツをきっちりと通していた。
首周りも剃って清潔感のある格好だ。
一見どこにでもいる会社員のようだ。
私が男の後ろを歩いていなければ、会社員の群のひとりとなって認識することもなかった。
しかし、私は見てしまった。
歩く音さえ心地よく、完璧な後ろ姿の中でシャツの一端が恥ずかしげに揺れていた。
それはほんの少しだけこちらを見ていた。
もう数メートルの間があれば気づかなかったかもしれない。
しかし、私は気づいてしまった。
いつものように俯きに影を追っていればよかった。
今日は少し天気が晴れやかで気が抜けたのか顔を上げると、三日月のように綺麗な横顔が見えた。
そして白いペラペラの尻尾も出ていた。
どうにも気になって仕方ないが、気恥ずかしくて声をかけられない。
かといって見なかったことにするにしても、第一発見者の重圧が肩にかかって首が動かない。
ここで何も言わずに見過ごして、後で男が不利益を被った時まるで私が悪いみたいだ。
それに今この場を誰かに見られている気がしていた。
そうしてその人は私が善意ある行動をすることを望んでいるのだと思う。
その一方で情けない意気地なしの女が、弱々しい声と慣れない手つきで男にアクションを起こし、その結末を楽しもうとする魂胆も見え透いていた。
特に私が失態を招くのを誰かは望み、待っている——。
「あの、すみません」
「え?」
「背中、シャツが出てますよ」
男は首筋を掻きながら逃げるように俯いた。
それを見た女おかしそうにはにかんで、二人は並んで歩いた。
私はその様子を眺めながら、今日の夕食を考えた。




