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6.騒動の始まり

よろしくお願いします。

 数日後、バーバラの姉、ニコラは城中でバーバラの婚約者であるイーデンを見かけた。都合の良いことに一人だった。ニコラは同僚達に先に言ってもらうように声をかけて、イーデンのほうへ向かった。


「やぁ、フォスター卿」

「……これはオルティース嬢。お久しぶりです」

「お一人かな?少し話をしたいのだが……」

「……人を待たせてますので、「では、来るまでの間。何、そこまで時間はかからない」


 ニコラは怒っていた。


 先日のバーバラを囮にしてイーデンを捕縛するという話。可愛くて優しいバーバラを囮にするなんて信じられないし、あのくそみたいなイーデンが可愛いバーバラの婚約者になったというのも許せない、そもそも可愛いバーバラがこんなにも悩んで苦しんでいるのに、力になれない自分が許せない。


 ニコラは自分には相手を良いように動かすような頭がないことはわかっていた。自分には、幼い頃から馴染みのあるこの剣と鍛えた力が全てだった。まどろっこしいものも嫌いだった。だから優秀な兄ジョセフや才媛である姉オーガスタ、弟ながら堅実なヨハンは自慢であり、少しもどかしくもあった。


 だからニコラは自分ができることをしようとした。ちょっとシめるだけ。そう、イーデンには少し痛い目にあってもらうことにした。少し脅すだけ。


 顔には傷なんてつけない。ばれてしまうから。


 イーデンを力づくで同行させ人目のつかないところまでやってきた。その時点でニコラが握っていたイーデンの手首は赤く腫れていた。


「二度とオルティース家(私達)に近づかないように。私だからこれで済んだと思いなさい。次はない」


 ニコラはこうやって時々バーバラに近づくきな臭い男達をシめていた。可愛いバーバラが傷つくのは許せない。幸せになってほしかった。それ故だった。


「ああ、それから貴方のお仲間達にも忠告を。これ以上我々に何かするのであれば、家ごと潰す、と」


 実際、脅しではなくオルティース家(五大侯爵家)にはそれだけの力があった。


 その後ニコラはイーデンを少し痛めつけた後、元の場所に連れ戻し、そのまま業務へと戻っていった。そのため、ニコラが去った後のイーデンの表情を、彼女が知ることはなかった。



***



 バーバラは疲れていた。


 連日、イーデンからの誘いがあるからだった。


 建前上は婚約者であるが、オルティース家のほうが家格が上のためイーデンからの誘いをオルティース家当主代理の名で、断る事ができた。そのことにバーバラは安心した。可能であれば婚約もなかったことにしたい、そのためなら自分が傷つくことも厭わないとジョセフには伝えていた。ただジョセフとしては、バーバラにはこれ以上社会的に居辛い思いをさせたくない、という思いがある聞き、それならば一旦保留に、というところで話が落ち着いた。


 通常であれば、婚約破棄を3回もしたとなると、修道院に入るか家格が下の訳ありや後妻などくらいしか貰い手はなかった。バーバラは家のために結婚くらいしかできることはないと思っているので、結婚で家の利益になれないことは残念ではあった。


 バーバラは見た目が派手なので、よく傲慢だったり、我儘、高飛車、きつい性格に見られていた。自分を守るためにそういう振る舞いをあえてしていたが、本当は人見知りで臆病で人とどう話して良いのかわからない、社会生活を送る上でとても難しい性格だった。だから自分を守る為の鎧を身につける必要があった。


 そんな自分のことをよくわかっているから、貴族社会には馴染めないだろうし、疲れ切ることは容易に想像がついた。だからバーバラは、生涯独り身で領地の隅や修道院で細々と暮らしていってもよかったのだった。


 他国へ行ってもこの性格が仇となるし(そもそも全く知らない国になんて行けるわけがない)、平民になったとしても、貴族の令嬢としてこれまで生活していた以上、働いて身を立てることなんてできるわけもなかった。


「……どうしてこう、毎日来るのかしら?」

「レディ・バーバラ、どうしますか?体調が悪いと言ってお断りしましょうか?」

「ありがとう、オリアナ。貴女は気にしなくていいのよ」


 レディースメイド(オリアナ)からやはり引き換えそうと言われる前に、従者から馬車がそろそろ止まる旨の伝言が入ってきた。


 今日はフォスター卿との交流を兼ねたお付き合いではあるが、先日世話になったクリフとフレッドにお礼品を購入できればと考えていた。バーバラは、街へ降りると言うことで町娘が身につけるには少し上品で、質が良い大柄の花がポイントの黄色味がかった白のワンピースに薄手のレースの羽織物を身につけている。目立つオレンジの髪は町娘のように二つのおさげにして帽子を身につけている。オリアナもいつものメイド服ではなく、ネイビーのワンピースに帽子を身につけた目立たない服装にしていた。


 イーデンがバーバラを誘った店は、城下町でも人気のチョコと飴細工のお店『叔母さんのお菓子(アンツ スイーツ)』。チョコは一口サイズのものが数多く並べられ、飴細工は子どもに人気で、お小遣いで買える小さな物からまるで本物の工芸品のような作品まで取り揃えられていた。


 イーデンはまだ到着していなかったのと、時間に余裕があるため先に店に入った。バーバラは、クリフとフレッドにお礼の品を買おうと思ったのだった。


「オリアナ、ここはチョコと飴が有名なのよね?」

「左様でございます。チョコは男性も好む方が多いといいますから」

「ではチョコを二人分買えばいいのね。……お兄様達にも買おうかしら……」

「ふふ、私も皆に頼まれておりますので時間が来るまで色々見てみましょう」

 

 しばらく並ぶと店内へ案内された。店内も所狭しと商品が並べられ、素晴らしい飴細工が中央に並んでいた。


「オ、アリアナ、すごいわね?これ……」

「水晶で出来たリンゴの木のようですね?」

「これ、差し上げたらご迷惑よね……」

「小さな飴の方が持ち運びもできて、食べやすいかと存じます」


 店内の中央には、飴細工でできた林檎の木が生えていた。その周りには動物達もおり、それも飴細工で作られているという傑作だった。


 細工の飴を目で堪能した後は、チョコレートと飴を購入した。男性は甘いものが苦手と聞くから、ナッツにビターチョコがかけられているものを。果物に飴がかけられている可愛らしく美味しそうなものは兄姉達へ、様々なチョコや飴が入った大入りのものは使用人達へとバーバラは購入した。オリアナも頼まれ物や仲間達への土産物も購入し、馬車のところへ戻ろうと店を出た。


「やあ、バーバラ」


 そこには約束をしていたイーデンがいた。何故か少し離れたところに取り巻き達もいた。バーバラは、店内で買い物を楽しんでいたら、すっかり忘れていたが、今日はイーデンに誘われていたのだった。


「ご機嫌よう。フォスター卿」

「他人行儀だね。結婚するんだから、名前で呼んでも構わないんだよ?」

「……まだしておりませんので」


 バーバラは、前回の出来事からイーデンとは親しくするつもりはなかった。自分の気持ちは置いておき、やむを得ず結婚することになっても距離をおくつもりでいた。


「バーバラ、実は先ほど僕の友人達とも会ってね、どうだろうか、一緒に……」

「……無粋ですわ。おやめになって」


 イーデンはバーバラの手首を掴み、力任せに引き寄せる。その際バーバラはオリアナに視線だけで逃げるように促した。オリアナは足をもつれさせながらもその場を後にした。


 イーデンがバーバラの手を掴んだ瞬間、護衛達も動き出してはいた。


「私はバーバラの婚約者なんだ。聞いてないのか?」


 その問いかけに一瞬動きが止まった護衛達の隙を突き、取り巻きの一人が呪文を唱えた。


「仕込みなしだから発動時間は数秒だ」

「それでも目はくらませるだろう。いくぞ!」


 一人が『迷いの森』の呪文を唱え、辺りが霧に覆われ、足元は複雑に絡まる木の根で覆われてしまった。護衛の一人がバーバラに『印』をつけているので、姿を見失うことはないが目視できなくなってしまうことは問題だった。そして『迷いの森』は迷宮魔法で短時間しか発動しないものであっても、この霧を晴らし木の根が絡み合っているような足元を正すことは難しかった。魔法が切れた頃にはすでにバーバラの姿はなく、護衛達は『印』を元にバーバラを追いかけ始めた。



読んでいただきありがとうございます。

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