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2.本性①

よろしくお願いします。

 結論から言うと、バーバラとイーデンの婚約前のお付き合いは順調と言えた。付き合い始めたことは、近くにいない母親には手紙だけで報告したが返事はなかった。兄姉にはきちんと決まってから報告しようとバーバラは考えていた。


 そしてすでに一ヶ月は過ぎ、バーバラも少しずつイーデンに慣れてきた。ただ時々全身を舐め回すように見る、ちょっと下品な視線には物言いたい気持ちになった。


 二ヶ月を過ぎた頃には、週に一度はバーバラとイーデンが互いに家を行き来して過ごすようなってきた。


 バーバラも婚約には前向きになっており正式に書類を作成して王城に提出することとなった。



***



 婚約をとりまとめてから、バーバラは夕食の席で兄や姉達に報告をした。


 皆一様になんとも言えない表情をしたのが気になり、父親であるジョンと目配せをしたりもしたが、一番上のジョセフから幸せかどうか問われ、少し照れながらも幸せである事を伝えた。


 それに対してジョセフと上の姉であるオーガスタは表情を完璧にコントロールした笑顔で、二番目の姉であるニコラは、そんな二人を見て頷き、二番目の兄のヨハンは戸惑っていたが、最終的には兄姉達から祝福を受けた。


「バーバラ、何かあったりおかしかなことがあれば、すぐに私に言うんだよ」

「?はい、わかりました。ジョセフお兄様」


 父親であるジョンが面白くない顔をしていたが、ジョセフは何食わぬ顔で頷いた。


「私達はバーバラの幸せが一番だからね」


 そう言うジョセフの笑顔にバーバラは安心した。家族、家のためになる結婚をしたいと願うバーバラだったので、家族の笑顔はバーバラの糧となる。


「そうそう、バーバラ。明日は見学に来るのか?」

「はい、いつも通り行きますわ。ニコラお姉様」

「明日はオーガスタお姉様が同伴できないけど……」

「明日見学した後、イーデン様と王城でお会いする約束なんです」


 ニコラは女性騎士として城に勤めており、王家に連なる女性達の警護にあたっていた。そしてバーバラは、時々その鍛錬を見学しに王城へあがっていたのだった。


「ロード・フォスターがいいならいいけど、騎士にもバーバラのこと好ましく思っている奴らだっていたんだけど?」

「そ、そそそんなことありませんでしてよ!……私のような瑕疵のある女性を好ましく思うなんて………」

「バーバラはとても可愛いよ。私のお姫様。……だからあいつに何かされたらすぐに言いなさい。ヤるから」


 後半は耳元で囁くように言われたが、意味がわからなかった。


「や、やる?」

「まあ、ニコラ。駄目よ、そんな口を聞いては」

「「オーガスタお姉様」」

「ニコラは駄目ね。口が悪くて」

「オーガスタお姉様、だって、可愛いバーバラの婚約者があの「ニコラ?」


 オーガスタとニコラのやりとりは小声で行われていたので、バーバラにはあまり聞き取れなかった。


「私達はバーバラの幸せを祈ってますわ」

「ありがとうございます。オーガスタお姉様」

「何かあったら誰に言えなくても私には言いなさいね。ニコラは物理的だけど、私は見えないようにやりますからね。安心なさい」

「は、はい?わかりました……?」


 バーバラは、姉達の真意が分からなかったが、とりあえず何かあれば話せば良いのかな、と思うことにした。


「……バーバラ。僕は逆に心配だ」

「ヨハンお兄様?何が心配ですか?」


 向かいの席に座るヨハンがバーバラに話しかける。ヨハンはバーバラにもわかる言葉を使ってくれるので、会話がとてもわかりやすくバーバラは話しやすさと気安さを感じていた。勿論他の兄姉達が優しく愛してくれるのは感じているが、自分とは住む世界が違うのだな、と思い少し距離を感じることがあった。


「バーバラは優しすぎるから、悪い奴にすぐ騙される。あの幼なじみ(クソ野郎)だって王太子だって僕は許していないんだよ!」

「……ありがとう、ヨハンお兄様」


 幼なじみは最初の婚約者で、王太子は二番目の婚約者だった。最初の婚約者には手酷い婚約破棄をされたが、王太子には予め破棄を含めた契約婚約の申し込みだったのと、破棄に対してしっかりと広報活動と褒賞を貰えたので、そこまで悪い感情はなかった。


「バーバラは父上に似て、ちょっとうっかりしてるから……騙されてないか心配なんだ。もう少しというか、兄姉(ぼく)達に相談してくれても良かったのに……」

「ごめんなさい、ヨハンお兄様……………」

「バーバラ、僕はバーバラじゃなくてバーバラを捨てた奴らとバーバラを大切にしない奴らに怒ってるんだ」

「ヨハンお兄様……、でも私今は幸せですわ」

「みんなはああ言ってるけど、僕は反対だよ。ちょっと嫌な雰囲気だし、良い噂聞かないし……」


 最後はバーバラに聞こえないようにあえて小さな声で言ったので、バーバラの耳には届かなかった。


「ヨハンお兄様の意見はわかりましたわ。私もできる限り気をつけますわ」

「やっぱりバーバラは可愛い!明日仕事が休みだから一緒にニコラ姉上の見学に行くよ!」

「ヨハンお兄様!嬉しい!明日が楽しみですわ」


 バーバラはニコラの鍛錬の様子を見るのが好きなのだが、色んな意味で悪い評判が付き纏い、なかなか人前に出ることができなかった。


 それがイーデンとの婚約が決まり、バーバラも少しずつ色んなことを前向きに考えられるようにはなってきていた。何より表情が前より良くなっていることは、家族全員の認めるところではあった。


 バーバラの兄姉達はイーデンには、良くない噂があることを知っており警戒していた。だが、バーバラが幸せそうにしている姿を見て杞憂だったのか、と思い始めた。


 そしてそれが間違いだと知るのはもう少し先の話だった。



***



「ニコラお姉様、頑張って下さいませ!」


 すると遠くでも聞こえたのか、バーバラの二番目の姉であるニコラが手を振って応えてくれた。


「ヨハンお兄様!ニコラお姉様が手を振ってくれましたわ」

「相変わらずすごい剣さばきだよね」


 バーバラが女性騎士達と鍛錬を積む姿を目に焼き付けようとしている中、ヨハンの視線は姉のニコラではなく、男性騎士達の方へ向いていた。


「ほら、バーバラ見て。あの二人すごいよ」

「……まあ」


 男性騎士達は模擬試合を行なっているようで、一対一の形式で何組か同時に執り行われていた。その中でも一番人(だか)りの多い一組がいた。ヨハンはそれを見ており、バーバラにも見るよう促したのだった。


 遠目ではっきりとはわからないが、ブロンズ色の髪の男性と黒髪の男性が戦っていた。二人とも何かを言い合っているようではあったが、バーバラの耳には何一つ聞こえてこなかった。


 戦い自体は黒髪の方が押しているように見えたが、最終的には何がどうなったのかバーバラにはわからなかったが、ブロンズの髪の男性が勝ったようだった。


「クリフが勝ったのか」

「ニコラお姉様!」


 いつの間にかバーバラとヨハンの後ろにニコラがおり、一緒に男性騎士の方を見ていたようだった。


「全く。二人とも私を見に来たんじゃないのか?薄情だな」

「い、いえ、ニコラお姉様。あの見ていたんですが……」

「ふふ、冗談だよ。バーバラが応援してくれたの知ってるよ」


 革のグローブをはめたままバーバラの頭をがしがしと撫でてくれる。無遠慮な感じの撫で方であり折角整えた髪型も崩れるな、と思いながらもその撫で方が好きなバーバラではあった。


「あの、少し席を外します……」


 恥ずかしそうに俯いていうバーバラの顔は、少し羞恥で赤くなっていた。恐らくお手洗いだろうと目算をつけたニコラとヨハンは、優しくバーバラに声をかけた。


「ふふ、わかったよ。戻ったら昼食にしよう」

「オリアナ、頼むよ」

「承知いたしました。レディ・ニコラ、ロード・ヨハン」


 側に控えていたバーバラのレディメイド(オリアナ)に声をかけて、ニコラとヨハン並んで待つことにした。



読んでいただきありがとうございます。

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