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3/8分の投稿となります。


三話投稿予定、こちらは一話目です。

 アラーニ様は驚き、夫人とカールラ姉様は呆れ、シェルーニ様は頭を抱える。

 フェーリオは覚悟していたか特に表情は変わらないが少し体が硬くなってるな。


 男爵家は……二人の兄は驚きアムルは泣きそうになっている。

 キャル母さんは……あぁ、【魔王】【死神】【狂犬】を生んだ女傑だけある。

 ブチ切れ寸前で殺気をバラまいている。


 これ、【邪神】とか呼んでも良くね?



「な、なぁ、ニフェール。

 冗談だよな?」


「マーニ兄、真実なんだ。

 兄さんの婚約もアムルの婚約も教えてもらえなかったんだ。

 その結果、セリン家の娘が婚約について騒いだ時にまともな対応できなかった。

 なんせ、情報無いから自分が婚約していないことしか知らないしね」



「えっ?!」



「それに加え、先日チアゼム家でセリン家との会談について報告していたんだ。

 そこでマーニ兄の婚約者の方が対応してくださったみたいなんだ。

 だけど、知らなかったんでまともなご挨拶もできてない。

 ゴメン、マーニ兄。

 結果的に婚約者さんに失礼なことしたかも……」



 マーニ兄は天を仰ぎアゼル兄はフォローしようと口を開いては閉じを繰り返す。

 アムルは泣きそうな顔をしている。


 ごめんなぁ。



「ニフェール、お前の言う失礼と言うのはなんだい?

 メイドに対して変なことしたとかじゃないよね?」



 邪し……キャル母さんは殺意を隠さず聞いてくる。

 ちょっと色々と漏らしそうになるも正直に答える。



「メイドに対してと考えると普通の対応だったよ。

 ただ、兄の婚約者としての対応ではなかったと思う。

 だって、弟が兄の婚約者を知らない。

 婚約していることを知らないって普通に考えておかしいもの」


「なら良し。

 どうせこの後顔見せに行くんだ。

 その時に知らなかったことを謝罪しとけ」



【邪神】様の許可を受け、ちょっとホッとする。



「それで、あんた。

 言わなかった理由はなんだい?」



 僕は無罪放免となったようだが、父上はまだ保釈条件を満たしていないようだ。

 皆の冷たい視線を受けてボソッと一言。




「……忘れてた」




( ハ ァ ? )




 皆の心が一つになった。

 いや、なって欲しくは無かったが。



「マーニの婚約者については……。

 ニフェールが学園に入学するため王都に向かった後に家に来て歓待している。

 その後で王都に手紙を送るつもりで忘れていた。

 アムルの時は……アゼル、マーニに伝えて安心していたら……忘れていた」


「つまり、同じ家に住んでた時でも忘れてしまうほど僕に関心が無かったんだ。

 マーニ兄の方はともかく、アムルの時は僕も家にいたのに?」


「い、いやっ、そういうわけでは!」



 僕が愚痴ると誤魔化そうとするかのように言い訳をしようとする。

 正直不快なだけなんだが。


 そんなことを考えていると、アゼル兄が割り込んでくる。



「あ~、ニフェール。

 父上は最低でも婚約直後はお前のことを覚えていたぞ。

 何故なら『ニフェールには俺から伝える』とか言ってたから」



「は?」



 呆れた声を出すと、マーニ兄もそういえばとばかりに発言する。



「確かに、『俺から伝えるからお前らは伝えなくていい』とか言ってたな。

 アムルの時もだし、俺の婚約者の時もだな」



「……それってどっちの意味なんですかね?」


「「え?」」



 僕が疑問を口にすると皆困惑した表情をする。



「忘れて伝えなかったのか、自覚して伝えなかったのか判断付かないんですよ。

 なんせ、兄さんたちには『伝えなくていい』といったんでしょ?

 本気で自分で伝えるつもりだったのかな?

 それとも情報を展開することを止めるために言ったのかな?」



 ここまで説明すると皆ハッとして父上を見る。

 父上は大慌てで「ちがうちがう!」と大きく手を振り、僕の襟を掴む。



「そんなわけないだろう!

 ふざけるのもいい加減に――」




 バ ッ チ ~ ン !




「――ふざけてるのはどっちだい!

 自分の息子をここまで追いつめた癖に怒りをぶつけるなんて何考えてる!!」



 キャル母さんが父上を全力で引っ叩き、僕は父上と一緒に吹っ飛ばされた。

 ……吹っ飛ばされるときに襟を離してよ、父上。



「そ、その程度で泣き言をいう方がおかしい!」




「なら、あんたの存在を無視していいんだね?

 アゼルやマーニの結婚。

 そしてニフェールやアムルの婚約を進めて一切情報を渡さなくていいんだね?」




「ぐっ、それは親として……」


「もう、あんたは親として見てもらえてないのに気づかないのかい?

 それだけあんたは子供たちの信頼を裏切ったんだよ!

 今後あたしが親として対応するからあんたは領地から一切表に出るな!!」



 やべぇ、【邪神】様に改宗してしまいそう。



「そ、それだけは!

 ニフェールやアムルにいい女性を宛がってやりたい!」



「あ、不要です。

 また忘れたとか言って放置される可能性が高いので自分で探します」



 ふざけたことをぬかし始めたので全力で止める。

 なぜ、そんなショックを受けたような表情をするのですか、父上?



「第一、アムルにあの女を宛がったこと自体が不快です。

 伯爵家からの希望なので断れなかったのはまだ理解できます。

 ですが、手紙が届かなくなったってアムルから聞いてない?

 その時点で父上から伯爵家へ文句を言うこともできたはず。

 なのに一切手を出さなかったという時点で問題でしかありません」


「……ニフェール、それ本当かい?」



 キャル母さん、なぜ驚いておられるのです?



「手紙に書きましたよ?

 母上、見てないのですか?」


「あの人が手紙を見て簡単に説明しただけなのさ。

 なので、今日ここにいるのは侯爵家からアゼルに爵位を譲れと言われて来た。

 カールラ様との結婚についての話し合いと思ってたからアタシも驚いているよ」



 キャル母さんはこう言い出すが他の面々は――兄上たちも同じみたいだね。



「……一応確認ですが、セリン家でのやり取りはどうお聞きで?」


「アムルとの婚約は解消となった」



 ……

 …………

 ………………



「え?

 それだけ?」


「……それ以外の情報があるのかい?」


「かなり分厚い手紙を出したつもりなのですが。

 アムルからも聞いてませんか?」



 キャル母さんは首を横に振った。

 アムルは?



「父上から『わしの方から説明しておくから気にしないで良い』って……」



 全員で睨みつけると父上はやらかしたことを理解したのか縮こまっている。

 いや、これだけやらかして「わしは悪くない!」なんて言わないよね?

 言ったら喉元食いちぎるけど?




「ニフェール、説明しな!」

「いえす、まむ!!」




 滔々と手紙に書いた内容を説明する。

 なお僕の膝がガクブルしていた。

 だが全身ガクブルしている父上よりはマシと気にしないことにした。



 ……【邪神】様、スゲー。

 ……一睨みで父上がブレて見える。



 一通り婚約破棄騒動と当主交代騒動について説明し終わる。

 そうすると皆頭を抱えたり天を仰いだりしている。


 気持ちはよく分かる。

 対応していた者として本気でキツかったし。



「大体事態は理解したと思う。

 それを踏まえて」



 邪……キャル母さんが僕に近づき、抱きしめて――



「よくやった」



 ――褒めて――



「ニフェールがやったことは間違ってない」



 ――正しいと認めてくれて――



「むしろ本来旦那がやらなければならない部分までよくできたな」



 ――正しき評価をしてくれて――



「良い子だ(ガシガシッ)」



 ――頭を撫でつつまた褒めて――


 ――正直予想しなかったキャル母さんの行動に僕は――



 

「―――――――――――――っ!!!」




 ――声にならない叫びと恥も外聞もない号泣でしか返すことができなかった。



 婚約破棄騒動の結果、学園内でクズ男を見るような視線に耐える苦痛。

 何とか軟着陸させるために考えた作戦を一瞬で潰された悲しみ。


 父上のやらかしからくる不安。

 そして、父上からもフェーリオからももらえなかった評価。


 これらを全て打ち消すほどに、心に響く称揚。

 僕の今までの苦痛や悲しみを耐えるために拵えた心の壁。

 それをキャル母さんに一撃で壊された。



 ……さすが【邪神】様。



◇◇◇◇


 俺は何を見ているのだろう。


 俺を守る側近として力を尽くしてきてくれた【狂犬】。

 いつも俺のそばにいて、暴漢にも立ち向かい俺とジルを守ってくれた友。


 それが、あそこまで感情を爆発させて前男爵夫人に泣きついている。


 あの【狂犬】が。

 暴漢の喉笛に噛み付き血塗れになって守った勇敢なる者が。


 赤子のように。

 弱者のように。


 見たことも無い姿をさらけ出している。

 あんなニフェール初めて見た。



「フェーリオ、もしかして驚いているのか?」



 ジャーヴィン侯爵である俺の父上が少し驚きつつ聞いてくる。



「ええ、ニフェールがあそこまで泣き叫ぶのは想像もできませんでした」



 父上は少し考え質問してきた。



「フェーリオ、お前はニフェール君を褒めたり評価したりしたか?」


「いや、当然してますよ?」


「では今回の件では?」



 はたと考える。

 確かに普段褒めるし評価もする。

【狂犬】の異名が付いたあの時もちゃんと評価し褒めた。


 だが、今回は?

 俺を守ったわけでもないから評価は特にしていないが?



「お前は確かにジャーヴィン家の者だ。

 だが、ジル嬢と結婚すればチアゼム家の者として動くこととなる。

 さて、今回の件、ジャーヴィン家とチアゼム家の視点では?」



 ジャーヴィン家として?

 グリース嬢の暴走の結果僕がグリース嬢を誑かしたと言われる可能性があった。

 まぁ、グリース嬢がまともな判断をしてたのでダメージは無かったが。


 チアゼム家として?

 寄り子の暴走によるジャーヴィン家との関係悪化。

 それと、俺とジルの婚約への影響か。



「気づいたようだが、両家の関係悪化は避けねばならなかった。

 国としても国内が割れるような諍いは望んでおらん。

 お前たちの婚約の影響はお前の想像以上に大きいのだよ」



 ジルとの婚約者としての付き合いが当たり前だった。

 だからこそ、今回の件が暴走したら……両家だけでなく国まで影響でる?



「それを男爵三男がお前たちの力を借りてではある。

 だが、かなり穏便な方向でケリをつけた。

 それも学園生の年齢でだ。

 国としてはこの騒ぎを鎮静化させたことをとても評価しておる。

 流石に表立っては言えんがな」



 国まで評価している?

 そこまでだったのか?


 俺の想定以上の評価に驚きを禁じ得なかった。



「しかもセリン家の影響を最小化する努力までしたと言うではないか。

 助けようとしたセリン家の自滅により失敗したとはいえな。

 あの子の年でそこまで気が回せたら上出来だ。

 さてフェーリオ、あの子の評価は?」


「……文句つけようのない、最高評価でしょう」



「なら次回からはちゃんと当人にそれを伝えよ。

 寄り子の尽力を評価し褒めてやらねば寄り親の意味は無い」



 寄り子の行動がどれだけ自分に影響するのか、それを気づけるのか。


 ニフェールはセリン家へ気を回し過ぎだと思っていた。

 元伯爵夫人に惚れたから頑張っているんだろうとも思っていた。


 ただ、それが僕ら両侯爵家の被害を軽減するためだとしたら?

 俺は両家を助けた友人を……揶揄ってた?



「確かにそうですね」



 自己嫌悪になりつつも言われっぱなしは悔しいのでちょっとだけ反撃する。



「であれば父上もさっさと姉上とアゼル殿との結婚を認めたらいかがです?

 子供の尽力を評価せず嫌がらせし続けていたら……。

 冗談抜きで母上と姉上がいなくなりますよ?」




 グ フ ッ !




 かなりのダメージを与えた様だが後でもう一押ししておくか。

 まぁ、そんなことよりニフェールに……。

 いや、今褒めても前男爵夫人の二番煎じと受け取られかねないな。


 ジルとも相談してニフェールに別の形で礼をするか。

 ……都合よくジルがご褒美(元伯爵夫人)を確保しているしね。


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