22
食後の紅茶を飲み終えたくらいに騎士がジャーヴィン侯爵家にやって来た。
王宮で取り調べを行うそうだ。
それと、王宮での爵位授与式は予定通り明後日行うとのこと
爵位授与式は置いておいて、まずは急ぎ取り調べ。
とはいえ、調べる面々はラクナ殿の手下だろうから、こちらとしてはあまり悩む必要は無い。
むしろ、王宮で面倒な輩と会わなければいいんだがなぁ。
具体的に言うとディーマス家。
ちなみに会ったら難癖付けて来るとかじゃない。
会ったら殺しきれなかったということが分かるから。
「念の為確認なのですが、ディーマス家はどうなってます?」
騎士に問うと、現在騎士たちの大半がディーマス家に侵入して確保、暗殺者を使った形跡等を調べているそうだ。
なので、今のうちに僕たちを王宮に呼び取り調べを行うらしい。
その程度は気にしてくれたんだ。
ちょっと良い方に予想外だった。
「なら、さっさと行きましょうか」
「そうだな、これに時間を掛けたくない」
そうして王宮に皆で向かい、各自取り調べを受ける。
正直、以前衛兵……というかアンジーナ家当主の面倒くさいやり取りに比べればお遊びのような取り調べだった。
たまに僕を見て恐怖を感じたかのような表情を見せる騎士もいる。
そんな怯えてどうする?
もっと自信もって取り調べしなよ。
そんな感じで皆さっさと取り調べを終わらせた。
アゼル兄、マーニ兄、僕が少し時間かかったみたいだけど、それでも三時間程度だった。
……これが普通だよなぁ?
……アンジーナ家当主のはどう考えても時間かかり過ぎだよなぁ?
取り調べ後王宮から退出する際に遠くで大声で騒いでいるのが聞こえた。
全員見られない程度に近づいてみると、貴族が大量に集められている。
「貴様ら、儂を誰だと思っとるんだ!
コロクタ・ディーマス、貴族派の領主ぞ!
そなたらのような者たちが儂を取り調べるとは後で覚えておれ!」
「然り然り、我らが何をしたと言うのかね?」
「そなたらはまともな調査も行っていないようだのぅ。
その職務怠慢がそなたの家を潰すことになっても良いのかのぅ?」
うっわぁ、下種しかいねぇじゃねぇか。
これは王城の牢屋はすぐ満室になるのでは?
貴族牢だって、そんな無いだろ?
まさか、一つの牢屋に複数人詰め込むのか?
貴族派ってだけでもとてつもなく多いんじゃないのか?
それに加えて反逆騎士の実家も入るんだろ?
まさか牢の中でくんずほぐれつ?
「ねぇ、牢屋ってそんな簡単に空きが生じるの?」
「常識的に言えば、そんなことは無いぞ?
裁判だってあるんだし、それなりに時間はかかるはずだが……」
僕の疑問にアゼル兄が答えてくれる。
そうだよね。
となると、これ確実に空きを生じさせる予定?
王城の牢屋があの時の教会並みに血塗れになりそうだ。
その後、ジャーヴィン侯爵家に戻り、全員夕食を取ったらさっさと睡眠に入る。
……流石に今日はカールラ姉様もあまり頑張らなかったようだ。
二回戦位で大人しくなっていた。
意味わからない人は親御さんに聞いてみて欲しい。
責任は取らないが。
そして、次の日。
僕はカリムたちの訓練を両親に頼んで学園に急ぐ。
明日の授与式とその後の領地に戻る為の休暇申請を学園に届けなければならない。
また、マーニ兄の疑問について調べるのもあるな。
授業も含めて一日で終わらせるには少々やることが多い。
まず休暇申請の為に庶務課に赴いてさっさと処理を依頼する。
授与式の話が出て妙に浮かれたお姉さま方がいらっしゃった。
まぁ「兄たちは全員売約済みですよ?」と言うと即刻黙ってしまった。
夢見るのは勝手だけど、あまりうちの兄は狙わない方がいいよ?
敵対する相手がヤバすぎるから。
それと、念の為この学園の卒業生一覧って調べられるか聞いてみたところ、図書室で調べられるとのこと。
授業後に調べてみるか。
その後教室に急ぎ向かい授業を受ける。
最初の二時間くらいは何も問題なく(寝ている生徒がいたくらい)進んだが、三時間目で危険人物が現れた!
「皆さん、おっはよ~♡」
……
…………
………………
((誰っ?!))
訳の分からないテンションで入って来たのは法律担当の我らがティアーニ先生。
いや、普段は「おはようございます~、では出席を……」ってな感じで授業中はテンション上げずに教えてくださるのだが……。
いまの感じだと普段のプライベートのティアーニ先生よりも浮かれておられる。
一応授業は進めるつもりのようだが、言葉の端々に”♪”や”♡”が飛び交う授業は流石に違うと思う。
……これ、まさかベル兄様の件か?
……よもや、(性的に)食べてはおるまいな?
クラスの面々が皆キョロキョロし始め、ヒソヒソと相談しだす。
そりゃそうだよなぁ、この暴走どうすりゃいいか皆困惑しているのだろうし。
僕も、これどうにかしろって言われたら困るよね。
そんなことを考えていると、皆のキョロキョロしていた視線が一点に集中し始めた……僕に。
いや、止めて、お願い。
これどうにかしろってこと?
お前ら無茶言うなや!
首降って(無理無理!)と反応すると、クラス全員(僕除く)が一斉に指を指してきた。
最初に僕に。
次にティアーニ先生に。
お前ら、面倒だからってこっちに回すなや!
とはいえ、この暴走の理由も想像つくしなぁ。
仕方ない、動くか。
手を上げ、立ち上がり、ティアーニ先生にもの申す。
「ティアーニ先生、浮かれるのは理解しますが落ち着いてください。
正直、クラスの面々が困惑してます」
動きが止まる先生。
「あらあらニフェール君、そんなに私浮かれていたかしら♡?」
「あれを浮かれていないと言い出したら即刻病室に閉じ込めるでしょうね」
ヒクッ!
「……もう一度聞くわね~?
そんなに浮かれていたかしら~♪?」
「クラスの面々が一斉に『あれどうにかしてくれ!』と視線とジェスチャーで僕に泣き付いてくる位には。
推測ですが、一・二時間目の授業で同じような反応ありませんでした?」
「……」
「「あったんかい!」」
いや、あったなら止めてよ!
「いや浮かれているとは言われたから、これでも落ち着こうとしてはいるのよ?」
「でも、一切落ち着けなかったんですね?」
これ、どうしろと?
「これ、数日続きそう?」
「……正直、想像つかないわ」
「一・二時間目は誰が指摘しました?」
「一時間目が領主科でフェーリオ君。
二時間目が淑女科でジルさん」
「で、三時間目が騎士科で僕が指摘した……と」
「ほ、ほら、各科に指摘してくれる人がいるし!
多分文官科も誰か止めてくれるでしょ?
大丈夫よ!」
はぁ……と溜息を付く僕。
それに気づき引きつった表情をするティアーニ先生。
「僕、明日から学園お休みしますが、騎士科で僕以外に止められそうな人います?」
「「えっ?」」
クラスの面々から驚きの声が上がるが、そこまで驚く話か?
「休み?
あぁ、お兄さんたちの件かぁ。
……どのくらい?」
「一週間以上。
明日は兄たちの件で王宮に、明後日以降は領地に一旦戻るので。
片道三・四日かかる以上、どうしても一週間以上かかるんですよ」
表情が青くなるティアーニ先生。
言いたいことが理解できたようで何よりです。
「となると騎士科のストッパーが消える?
え、皆、私が浮かれたら止めてくれない?!」
クラスの皆が一斉に視線を逸らす。
いや、お前ら指摘位してやれよ。
大したことじゃないだろ?
「いや、流石に教師に指摘するのはちょっと……」
「僕に指摘しろと命ずるのはいいの?」
半分拗ねた声で聞くと、ホルターがあっさり切り捨ててくる。
「だって、お前なら何とかするじゃん」
いや、どうにかするって言うけど、かなり苦労してるんですけど?!
そんな簡単に言わないでくれるかな?!
「じゃあ、何とかしてやるよ。
ホルター、お前は僕がいない間にティアーニ先生が暴走したなら止めろ」
「は?
無茶言――」
ブワッ!
「聞こえなかったか?
暴走したなら止めろ。
これは依頼ではない、命令だ。
命令に背くなら……」
ブワッッ!!
殺気三割増しでぶつけてやる。
おぅおぅ、顔真っ青だぞ?
「どうなるか、お前の頭でも分かるだろう?」
コクコクコクコク!
「互いに合意できてほっとしているよ。
では明日からよろしくね?
先生、授業の再開をお願いします」
「え、えぇ、では……」
授業も再開したことで僕は安堵のため息を吐く。
なんでここまでしないといけないんだか。
僕はこのクラスの面倒を見る立場にないんだから。
そんなことを考えていると授業が終わる。
ティアーニ先生がこっそり礼をしてくるので、会釈をして次の授業の準備をしようとすると、ホルターを始めとした僕の殺気に怯えた奴らが文句を言いに来た。
「なんで授業中に殺気ばらまくんだよ!
本気で漏らしそうだったじゃねぇか!」
なぜか一部のクラスメイトが生唾を飲み込む反応をしているが、深く追求しないでおいてやろう。
というか、関わりたくないしな。
「むしろ、お前らの行動の方がおかしいと思わないのか?
お前ら騎士科の生徒だろ?」
「当たり前だろ!
まさか知らなかったのか?!」
んなわけないだろ!
「なら、なぜ騎士らしい行動を取らない?」
「はぁ?」
……まさか、理解してないの?
「困っている人を見捨てるのが騎士なの?」
「え、いや、そんなことはしないが……」
「なら、なぜ困っているティアーニ先生を暴走させたままにするの?
さっきの言い分と食い違ってるよね?」
「……」
お前ら、今頃になって「あっ……」って表情出してどうするんだよ。
それでよく騎士なるなんて言えたな。
「僕が殺気ばらまいてまで怒ったのは、お前ら皆騎士であることを放棄しようとしていたからだ。
あまり騎士の本質から外れた行動を取っていたら、数年後に騎士の立場を取り上げられても知らんぞ?」
「はっ!
そんな馬鹿なことするかよ!」
……プロブか?
お前の場合は卒業できるかの方を気にした方がいいと思うがね。
「プロブ、お前の言う馬鹿なことは普通に起きているぞ?
そして、その未来は犯罪者になるが?」
夏季試験前の衛兵の暴走やまだこいつらに知られてないけど教会襲撃した騎士たちだね。
まぁ教会襲撃犯は肉塊化したけどさ。
「そんなことある訳ねぇだろ!」
「なぜ?
お前が知らないからと言って、処罰される騎士がいないわけでは無いぞ?
もしくは騎士科の者でもそうだがね」
「はっ、なら分かりやすい例を挙げてくれよ!
学年一位のお前なら簡単だろ?」
うっわぁ、いやらしい表情だこと。
僕が中身の無い発言しているとでも思っているのか?
「そうだね、最近の例だけど実技の教師が急に、かなりのメンバーが入れ替えになったのは知っているか?
具体的な名前を出すと、ウィリアム先生とか?」
ざわつく教室。
プロブは微妙に引きつった表情を見せつつ答える。
「あぁ、先生の事は覚えているが、実家の都合で退職したって聞いてるぞ?」
「あれ、実家の都合では無いぞ?
国から『こいつ、指導させられない』と判断されて首になっただけだし」
「はぁ?!」
プロブだけでなくクラスの皆が驚いていた。
まぁ、言わなかったから知らないのは仕方ないとは思う。
「その理由だが、過去に有名な生徒がいたこと知ってるか?
領主科だと【魔王】、騎士科だと【死神】」
プロブは……知らない?
ホルターは知ってるようだな。
「聞いたことある、【魔王】が降臨して当時の騎士科が壊滅したとか、【死神】が顕現して恐怖を撒き散らかしたとか」
「は?
なんだそのおとぎ話は?」
プロブ、おとぎ話ならわざわざこのタイミングで話さないぞ。
「【魔王】も【死神】も実際に存在した生徒だよ。
ただ、当時の騎士科如きでは止められないくらい強かったというだけ。
で、ウィリアム先生は【死神】の世代の生徒だった」
ふんふんと中々イイ反応するクラスメイト達。
お前ら、こういう話好きなのか?
「で、当時の騎士科の生徒――当時学生だったウィリアム先生も含む――と教師が淑女科の生徒に暴行しようとした。
それを偶然見つけた【死神】は大暴れして騎士科を叩きのめした。
この情報は他の教師にも情報が流れ、国王陛下にまで話が届いた」
ヒクッ!
「その結果、騎士科教師は懲戒免職、やらかした生徒は停学と卒業しても騎士にはしないことになっている」
「……」
皆、黙っちゃったな。
そこまで怯えるほどの話じゃないだろうに……。
「そして、当然学園騎士科の教師なんてやってはいけない立場だ。
なんせ、騎士になるための指導をする人物が淑女科生徒に暴行しようとする人物だなんて大問題だし。
だが、なぜか、うまく書類審査ではじくことができなかったのかは知らないけどウィリアム先生は教師となってしまった」
「なってしまったって……」
「ホルター、本来なっちゃいけない人物なんだから……」
教師が全てまともな人物だったらこんなことにならなかったのにね。




