14
最終的に両手両足の先が無くなり、ベッドの端に座る禿。
心が折れるかと思ったが、まだ怒りが絶望を上回っているようだ。
……でも、あとどれだけだろう。
もうちょっと頑張って欲しいな。
「……おい!」
「何?」
「ふざけんな!
テメェ俺に何か恨みでもあるのか?!
なんでここまで下種な行動してくんだよ!」
え?
その言葉をお前が言うか?
「いや、お前のイカレっぷりには負けるよ」
「はぁ?
俺がどんなことしたってんだ!」
え?
こいつ自分がやったこと忘れてるの?
記憶喪失?
「人殺してるだろ?
それも依頼とは無関係な奴を」
「は?
そんなの弱い奴が悪いだろ?
まさか、そんな程度で俺が悪いなんて言ってるのか?」
当然だろうが!
本気かよ、こいつ。
「一応言っておくが、お前の言い分を受け入れた場合『お前が弱いのが悪い。だから僕がお前を殺す』ってことになるんだが?」
「はぁ?
俺が弱い?
どこがだよ!!」
「僕に撃たれて左肩を壊し、今僕に切られて手首から先と足首から先が消えている。
お前の暴走は僕に気づかれて、反逆者や暗殺者は壊滅。
ギルドも人がいなくなったから、もう何もできないだろう」
おやおや、歯噛みしてどうしたのかな、ボク~?
「個人として僕に負け、部隊として我が家に負け、組織は壊滅。
で、どこが強いの?
どの部分が僕やうちの家に勝ててるの?
ねぇ、教えてくれない?」
煽りに煽ったら黙ってしまった。
双剣を鞘に収め、禿の髪を掴も……うとするが掴むものがないため左手で禿の襟を掴もうとする。
そうすると禿は乾坤一擲、体のバネを使って、失った足の激痛をものともせず残った脛を足場にして僕の喉笛を掻っ切るために飛び込んできた!
だが、遅い。
一歩下がり、左拳で禿の顎にアッパーを喰わせる!
禿の前歯が折れ飛び身体は天井にぶつかる。
「バカだなぁ、禿よ」
右手を引き、右の拳を固める。
「【狂犬】が噛みつきでやられるわけないだろ」
禿が天井から落ちてくるのに合わせて右ストレートをぶち当てる!
ボグッ!
禿の顔に拳がめり込みそのまま壁に叩きつける!
ダンッ!!
禿の反応が無い。
心臓は動いているみたいだし、多分気絶したのだろう。
一応死なないように手足とも止血する。
多分、もう下は解決しているだろうとお気楽な気持ちで下に降りる。
まさか、母親が同じパターンで殴り倒しているなんて想像もせず……。
◇◇◇◇
ニフェールからの合図が来た。
俺、アゼルはマギーとアムルを連れてダッシュが経営する酒場に入る。
「いらっしゃ……テメェ!」
口が悪いなこいつ。
「ほぅ、この店は客に対してそういう発言をするのかね?」
マギーに反応したようだが、俺のことは無視かい?
「あ、いや、そうではなく……いらっしゃいませ」
そういう常識的な行動を突っ込まれなくてもできるようにならないとなぁ。
「なんになさいますか?」
チラチラとマギーの方を見つつバーテンとしての会話をしてくる。
「赤ワインの良いのは無いかい?」
「こちらは如何でしょうか?」
ほぅ、結構いい酒だな。
こんなところで出すレベルでは無いなぁ。
というか、うちの領地で飲めるレベルの酒じゃねえよ。
暗殺者ギルド儲けてんなぁ。
「それで頼む。
ボトルごとくれ。
それとこの子にはミルクを」
「かしこまりました、ワインの方のグラスは?」
「一つでいい」
アムルにはミルクを、俺にはグラスを用意しコルクの栓を抜き赤ワインを注いでくる。
芳醇な香りに酔いしれつつ一杯いただく。
……ヤッベ、マジでうめぇ。
こいつ殺したら母上にも一杯飲んでもらおうか。
無言で飲んでいると、ダッシュの方からマギーにつっかかっていった。
いや、客居るのにいいのか、その行動。
「まだ生きてたとはなぁ、マギー」
「なぜ皆俺が死んだと思うんだ?」
「はっ、連絡もなく行方も知らなければ死んだと思ってもおかしく無かろうよ」
「失礼な、俺が信用している奴にしか教えなかっただけだというのにな」
おぅおぅ、ダッシュのこめかみに血管が浮き出てんぞ。
そろそろキレるか?
「ほぅ、連絡よこさねぇのは信用できねぇからだと?」
「信用したくなるような行動ってなんかやったか?
暴走が大好きなダッシュちゃん♡
お前の弟子も似たような感じらしいじゃねぇか」
「師匠の指導の賜物だろ?
今のギルドでトップクラスの実力者だしな」
「実力者いうほどの力はないだろ?
自分で言ってんじゃねぇか、今のギルドって。
前のギルドでは無能扱いされるだろ?
お前みたいに」
うっわぁ、すっげえギスギスした会話。
関わりたくねぇけど、殺るしかねぇんだろうなぁ。
アムルも聞くのが嫌そうだ。
まぁ、俺もだが。
「そして、今回絶対やってはいけないことやらかしてるんじゃねぇか。
ホント、師匠としても役立たずだなオメェは!」
「ほぅ、『絶対やらかしちゃいけない』?
そんな大事になっているとは知らなかったなぁ。
どんなふうになっているのか、この情報をしらない哀れな男に教えていただけませんかねぇ」
おぅおぅ、煽りよるなぁ。
このイラつかせる顔が真っ青になるまでもう少しかな?
「まず、あの禿が提案した教会を襲う件」
「おや、あの情報知ってるんですね」
「結婚式挙げている所に殺しに行くんだろ?
それも陛下がいらっしゃる所に」
「陛下を殺すのに怯えるとは、あんたもヘタレたねぇ」
「それと同時に暗殺者ギルドを壊滅させた者たちの息子の結婚式を邪魔するってのは、かなりイカレてると俺は思うぜ」
「……は?」
「ん?
聞こえなかったか?
俺がマスターやってたあのギルドを叩き潰した一族の結婚式に殴りこむとは勇敢というより脳筋とか蛮勇とか自殺行為とかいう単語が出て来るんだがなぁ」
「な、何だその情報は!」
「信じるかどうかはお前次第だ」
「……」
顔真っ青になって挙動不審としかいいようのない行動を取っているダッシュ。
「先ほど言った通りあのギルド壊滅させた男女の息子の結婚式だ。
それも陛下まで参列するくらいの式だ。
そんな結婚式に何も考えずに突撃した奴らがどうなるか想像つくか?」
「え……あ……」
「教会に入った輩は全て肉塊になったよ。
そして教会を取り囲んでいた輩も同様にな。
分かるか?」
ダッシュの顔を覗くようにニヤニヤしながら見るマギー。
……めっちゃ楽しそうだな。
「暗殺者ギルドは二度目の壊滅をしたんだよ。
それも同じ一族にボコられてな」
とてつもないショックを受けるダッシュ。
って、あれ?
禿から情報聞いてないの?
「一度目はともかく二度目は確実にこちらから攻撃した。
それはギルドはあの一族に宣戦布告したに等しい。
つまり、お前らは狙われる立場になったんだよ」
恐怖の表情のまま固まってしまったダッシュ。
「なぁ、どんな気持ちだ?
お前の知り合い、お前の弟子、お前の部下。
全てが狙われてるぞ?
お前があの弟子をまともに教育しなかったおかげでな」
いや、そこまで面倒なことはしないけど。
とはいえこの状態で言うのは空気読めなさすぎなので言わんけど。
「というか、弟子から何も聞かされていないのか?
となると、お前の弟子は逃げたのか」
「い、いや、あいつは……」
「可哀想になぁ、ダッシュよ。
弟子から情報ももらえず、気づいたらあの一族の粛清にあうんだなぁ、お前」
「いや、そんなことは無い!」
「なぜだ?
その自信の理由は?」
「はっ、俺如きをわざわざ粛清しに来ると思うか?
第一あの一族は俺の事知らんだろうが!」
おお、まともに頭を使っているな。
ただ、お前は大事なことを忘れている。
「ほぅ、お前は粛清されない。
だから大丈夫だと?
なら聞いてみたらどうだ?」
「誰にだよ!」
「……アゼル様、お願いします」
マギーが何処の家に仕えているのか一言も確認しなかったな。
「アムル、マギーと一緒に端の方にいなさい」
「はい」
マギーと端っこに移動してもらった。
これで、憂いなく剣を振るえる。
「さて、ダッシュだったな?」
「あ、あぁ」
おいおい、そんな怯えるなよ。
「わたしの名はアゼル・ジーピン。
ジーピン男爵家の長男で現当主だ」
この辺りでは驚かんだろうな。
「君の弟子が狙った結婚式の新郎であり……」
お、気づいたか?
気づいちゃったか?
顔が引きつっているけど気づいちゃった?
「暗殺者ギルトを最初に壊滅させた男女二人の息子の一人でもある」
おっしゃきた~!
その愕然とした表情!
期待通りだよ、ダッシュ!
「さてダッシュよ。
そなたの弟子、通称禿の愚かしい行動のおかげで我らジーピン家は多大な迷惑を被っている。
いや、国としても迷惑千万」
おぅおぅ、震えてるねぇ。
「これ全てそなたの弟子への指導が問題であると我らは判断した」
キィ……。
小さな音がしたが、多分母上だろう。
俺の殺気に反応したのかな?
裏から侵入してきたようだ。
「それゆえ、我らはそなたを処分する!」
このタイミングで殺気をバラまくと大急ぎで裏口へ走って逃げて行った。
流石足は早いな。
だが、逃げられないがね。
想定通りすぐに母上にぶつかりそうになる。
「てっめえ、このババア!
どこから入ってきやがった」
ピクッ……
バ、バカ!
なんてことを言うんだ!
謝れ!
床に頭擦り付けて全力で謝れ!!
あぁ、アムルもマギーも固まってやがる!
そりゃそうだ、俺だって逃げたい!
足が震えて逃げられそうにないが!
「裏口からだよ」
言葉だけなら普通なのに、一言一言に凍り付きそうな気配がくっついてくる。
静かに怒ってらっしゃいますね、母上。
「ふっざけんな!
そこをどけ!!」
母上に向かって突撃するダッシュ。
殴ればどうにかなるとでも思ったのだろうか?
あぁ……死んだわアイツ。
母上は右手を出し――
ガシッ!
――ダッシュの頭を鷲掴みにして持ち上げる。
「ぐぁっ!
痛ぇ、痛ぇ!!
ババア何しやがる!」
「……アタシみたいな妙齢のご婦人にババアなんて言うんじゃないよ」
「うるせぇ!
ババアと言って何が悪い!!」
ミキッ!
あの、母上?
左拳を握りしめて何されるんで?
ダッシュ、お前のその蛮勇には驚くよ。
真似したいとは一切思わんがね。
「……こういう時は――」
右手を離し、ダッシュは自然落下する。
そこで握りしめた左拳で――
バキッ!
ドガン!!
――天井に左アッパーで吹っ飛ばされるダッシュ。
あぁ母上、この後もあるんですね。
「――レディとか――」
天井から落ちてくるダッシュ。
何もしゃべれないようだが意識あるのか?
あるなら早めに意識失った方がいいぞ?
母上は次の右ストレートの準備をしているぞ??
俺も準備しないとなぁ……。
大剣を構え、ダッシュが飛ばされるのを待つ。
「――奥様って言うんだよぉ!!」
ボコン!!
……パンチで出る音ではありませんよ、母上?
腹に母上の右ストレートが入ったダッシュは空をすっ飛んで俺の方に飛んでくる。
こっちで面倒見ろってか?
母上なら顔に一発で頭破裂させられるだろうに。
背を向けて飛んでくるダッシュに向かって右から左へ剣を振り抜く!
ザクッ!
ゴキッ!!
ドガガッ!!!
上から剣でダッシュを切った音。
切る途中にある背骨をたたっ切る音。
そしてたたっ切ったダッシュの身体二つ(上半身と下半身)が分割して壁にぶつかる音。
……ダッシュの分かれ目あたりから出た血で顔が血塗れになってしまったがやむなしだろう。
……顔射?
「アゼル兄様、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ。
ちょっと顔を拭きたいが、そこらに布は無いか?」
「アゼル様、これをお使いください」
手渡され顔を拭いていると、マギーはダッシュだったものに近づいていく。
「……なん……だ、その……ババアは」
「俺たちが暗殺者ギルドに所属してた頃に酒の勢いで叩き潰した方の片割れだよ」
「え゛……」
「お前はギルドを壊滅させた人物たちから嫌われているんだよ。
だから死ね。
これ以上迷惑かけるな」
絶望の視線を送ってくるが、ふと何か気づいたのか笑顔っぽい表情を作り出した。
「はっ……俺の弟子……見つけられ……ないくせして……えらそ――」
「こっち終わった~?」
おやおや、元気な声だ。
うまくいったのだろう。
「おぅ、ニフェールか。
こっちは終わったぞ。
そっちの出来はどうだ?」
「ちゃ~んと禿を確保したよ!
手首と足首切り落としておいたから逃げられないし、この後国に渡そうか」
「――……え?」
おやおや、改めて絶望の表情になったな。
「さてダッシュよ、お前の自慢の弟子がなんだって?
ニフェール坊ちゃんのオモチャにしかなってないが?」
「う……そ……だ……ろ……」
そのあと表情は絶望から変わらず亡くなった様だ。
さて、処分は終わったし次は夕食会か。
剣を振るうより面倒なんだがなぁ……。
◇◇◇◇




