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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
5:長兄の結婚式
71/361

13

◇◇◇◇


 とりあえずマスターとやらと姐さんとやらをどうするのかは置いておいて、僕ニフェールが考えた作戦は全てやり直しになった。


 一応逃げられないように裏、屋根とも確保しておくけどアゼル兄に説得してもらおう。

 三ヶ所から同時に入ればまともに動けないだろうしね。




 全員配置について、突入!




 屋根裏から入った僕は、周囲を見渡すが誰もいない。

 待っていても仕方がないので屋根裏部屋から降りると、なんということでしょう!




 男一人に女二人、一つの部屋で目を血走らせて……って書類見ていたんですね。




「っ、お前何者だ!」




 男性が声を張り上げるが、ぱっと見カリムよりは強そうだが言う程差は無いかな。



「初めまして、あなた方に喧嘩を売られたジーピン家の三男、ニフェール・ジーピンと言います」



 ……男性、多分マスターとか言ってた人物なんでしょうけど、なぜそんなに驚くのです?

 うちに喧嘩売ったんだからすぐ逃げないと。


 そんなことしているうちに、表、裏から入ってきた家族がこの部屋に入って来た。



「おや、皆早いね」

「誰もいないし、見るほどのものも無いしね」



 アゼル兄と軽口を叩いていると、マスターが偉そうに抜かし始める。



「こんなところまでご苦労だったな、だがここは俺の店だ。

 不法侵入ということで衛兵を呼ぶぞ!」




「『暗殺者ギルドに不審者が来ました、助けて!』なんて言うの?

 恥ずかしすぎない?」




 僕の返しに黙るマスター。

 そんな不毛な会話に割り込んできたのはマギーのおっちゃんだった。



「ほぅ、余程の下手くそがマスターになったと思ったんだが、貴様だったとはなぁ。

 カル、貴様ごときでマスターができると本気で思っていたのか?

 それに『姐さん』って呼ばれてるんだって、ルーシー?

 若い奴らに言われて浮かれてたのか?」




 マスターと姐さんと呼ばれる女――カルとルーシーだそうだが――は驚愕の表情を浮かべる。




「あ、あんた!

 マギーさんか?!」

「嘘でしょ、死んだんじゃないの?!」


「勝手に殺すなよ、失礼だな。

 今ではジーピン家で働いているよ」

「……え?」



 ん?

 理解できない?

 そんな難しい単語おっちゃん使ってないよ?



「聞こえなかったのか?

 今わしはジーピン家で働いている。

 それと、前のギルドが壊滅したのは覚えているな?

 あれやったのは先代のジーピン家当主とその奥様だ」

「……はぁ?!!」




 うん、気持ちは分かる。




「そして、今回お前らは当代の当主様の結婚式に殴り込みに来た。

 当然、先代の当主夫妻もご出席されている。

 そんな中に貴様らは乱入したんだ」



 顔青いよ?

 大丈夫?(ニチャア)



「わしも驚いたよ。

 ギルド壊滅させたくて来たんだろ?

 先代のギルドをあっさり壊滅させた相手に喧嘩売るくらいだもの」

「そ、そんなわけねぇだろうが!」


「だが、事実だ。

 貴様らはジーピン家に喧嘩を売った。

 その結果ギルド員のほぼ全員が死亡。

 その責はお前にある!」




 先代ギルドマスターの発言は重いようで、カルとやらは黙ってしまった。




 空気が重くなったところで、マギーのおっちゃんがチラチラと僕に視線を送ってくる。

 微妙に汗かいてるけど……まさかこの状態からこいつらを説得しろと?

 それとも、勢いのまま話した結果引けなくなっちゃった?



 なんとなく後者っぽいな。

 僕への試練とか言い出すのなら汗なんぞかかないだろうし。




「え~っと、カルでいいのかな?

 君はどうしたい?

 いくつか選択肢があるけど?」



 僕の顔を見るカル。

 不安そうなルーシー。



「一つ目、ここで二人とも死ぬ。

 二つ目、ここで捕まって国の判断に任せる。

 かなりの確率で死を賜ることになると思うけど。

 三つ目、僕たちを振り切って逃走する――できるなら、だけどね。

 そして、逃げたら一つ目と同じ未来になるけど。

 四つ目、ここで完全に降伏して僕たちジーピン家の判断に全て委ねる」



 二人は僕の発言を咀嚼しているようだ。

 ルーシーが質問をしてくる。



「四つ目の意味が分からないわ。

 説明を求めてもいいかしら?」


「単語自体はそのままだよ。

 国の判断を受けるか、僕たちの判断を受けるかの違い。

 国はほぼ死亡一択だけど、僕たちは生きて償うことを求める。

 とはいえ、何もできないろくでなしなら消した方が早そうだけどね。

 お前らにくれてやる飯代だってタダじゃない」



 ルーシーの質問に回答するとまた検討し始めた。

 そこにナットが割り込んできた。



「マスター、姐さん。

 お二人より経験ある者として一言だけ、ジーピン家に完全降伏してください!」

「っ、お前、まさか!」




 ……あ、そういや言ってなかったね。




「すまんすまん、説明が不足していた。

 カリムとナットは既に僕の部下になっている。

 ちなみに、最終目標は僕の侍従・侍女になってもらおうと考えているよ」


「一応言っておくが、俺たちはボコられて従ったわけではない。

 禿にこれ以上振り回されるのが嫌だった。

 なので、禿を潰せそうな人物についた。

 それだけだ」




 淡々と説明する僕とカリム。

 それを聞きブチ切れかけるカル。

 だが――




「テメェ、俺たちを売りやが――」

「――止めなさい、カル!

 ギルド内の不和を潰せなかったあたしたちのミスでしょうが!!」




 ――ルーシーの一言でカルも黙ってしまう。

 禿、お前そこまで……。




「なぁカリム、禿ってそこまで問題児だったの?」

「問題児というか、いつどこで起動するか分からないトラップというか……」


「よくそんなヤバい奴所属させてたな。

 サッサと処分しないと内部不和起こすの目に見えてんじゃん」


「厄介なことにトップクラスの実力があったんだよ。

 なんで処分できずに放置されていた」

「で、生かしておいた結果が今回のギルド壊滅と」



 あ、僕とカリムの話が聞こえたのかカルが凹んでる。

 でも事実だしなぁ。



「んで、後他に質問無い?

 無いなら先の四つから好きな未来を選んで」

「……四つ目で頼む」



 悩み悩んで、吐き出すようにカルは答えて来た。

 ルーシーもそんなカルを気遣うようにしている。



 ……お前らデキてんじゃね?


 チラッとカリムを見ると、どう答えたらいいか悩んでいる。

 保留ってとこか?


 チラッとナットを見ると、ヨダレ垂らして首をガックンガックン縦に振っている。

 デキてるどころかヤッてるってとこか?



「では、今のところ何していたのか教えてくれ」


「ギルドが壊滅したのはカリムたちからの連絡で分かったから、最後に一花咲かせようと今までの暗殺依頼の書類を見えるところにまとめておこうとしたんだ」

「……この後運悪くこの場所が知られたときに依頼者を巻き込もうとしたってとこか」



 マギーのおっちゃんを見ると、頭抱えている。


 おっちゃんの頃は最低限の義理を通すとかあったんだろうけど、こいつらそんな考え一切ないみたいだ。

 それとも、ディーマス家だけが嫌いとか?



「一応確認だが、全ての依頼主の情報をばらすのか?」

「いや、今回の襲撃指示をしたディーマス家とその関係の派閥についてのみ情報を残す。

 他は単発依頼だったからなぁ。

 どこぞの金持ちにうちの娘が襲われて自殺したから、その金持ちを殺してくれとか?」



 あぁ、そう言うのまで手を出すといつまでたっても終わらないしなぁ。

 確かにその部分なら残すのもありかな。



「そんなに量が多いのか?」

「九割がたはディーマス家とその派閥だ。

 その他一割を確実に抜いて処分する方に苦労している」



 あぁ、無関係な人物に被害を被らせるわけにはいかないからなぁ。



「その作業、どれくらいかかりそうだ?」

「後一時間は欲しい」


「……アゼル兄、禿とダッシュ処分するの誰が行こうか?

 こいつらの監視も必要だし」



 ちょっと悩んでアゼル兄に相談する。

 今回一番ブチ切れているのはアゼル兄だから外せないだろうし、僕も禿に復讐したい。



「配置として必要なのは表、裏、屋根、二階の監視だな?」

「うん、なので、切り詰めれば四人で行けるけど、できればマギーのおっちゃんには表について行ってほしい」




 間違って殺したら流石に笑えないし。




「なら、表を俺とマギー、裏を母上、屋根をニフェール、二階監視をマーニ、ここでこいつらの監視を父上とアムルではどうだ?」


「待て、ここの監視は儂がやるからアムルはアゼルにでもつけてやれ。

 教会内でも戦うチャンスはほぼ無かったし、見学だけでも経験させてやれ」


「……うん、それで行こうか。

 あと、ついでにマーニ兄。

 ラグナ殿が来たらあの人にだけ事実を教えて欲しい。

 僕がわがまま言ったとか言えば頭抱えて諦めると思うし」


「……あんまりラグナ殿イジメるなよ?

 正直胃にダメージでかそうだから」




 ……ウン、キヲツケルヨ。

 あらぬ方向に視線を合わせて答える。

 マーニ兄、ため息つかない!




「そんなわけでカルとルーシー。

 仕分けの仕事急ぎやってくれ。

 カリムとナットも手伝ってやって。

 父上、監視お願いします」

「任せろ」


「母上、裏からは表が入って中が騒がしくなったら一緒に中に入っちゃってください。

 ただし基本は裏から逃げられないようにする方向で。

 僕も同じように屋根から入り込みます」

「分かった」


「マーニ兄は先ほど言った通りでアゼル兄、やりたいようにダッシュとやらを殺していいです。

 アムルはアゼル兄とマギーのおっちゃんの言うこと聞いてね。

 後、最後に禿見つけたら殺すのは勘弁して」



 皆が一斉にこちらを向く。

 何、その「嘘だろ?」みたいな反応は?



「一応言っておくけど、禿は個人的には殺したい。

 でも、僕よりも恨んでいる人たちがいるから、大々的に処刑の形でその人たちの溜飲を下げる機会をあげたい」

「……あの時の子かい?」




 母上は感づいたか。

 号泣の場面見られているからなぁ。




「うん、あの時に亡くなったうちの一人、カルディア・バッロって言うんだけど、親御さんは恨みを晴らすことできないだろうから……」

「……なら、死なない程度に叩き潰して国にくれてやればいいんだな?」

「そのつもりで考えてる」



 流石母上、分かってるぅ♪



「ちなみにダッシュはどうする?」

「そっちは殺していい、というかむしろ殺さないとダメ。

 二人目の禿を作られる前に製造元を殺さないと、被害者が増えるから」



 Gな虫並にしつこそうなんだよなぁ。



「ふん、大体方向は決まったね。

 じゃあ、さっさとすますよ!」



 オゥ!!!



 なぜかカルとルーシーがビクついているが、お前ら暗殺者ギルドの上位者だったんだろ?

 この程度でビビるなよ。




 各自襲撃予定位置に移動し合図を待つ。

 僕はアゼル兄に屋根から手を振り襲撃を開始する。




 屋根から侵入してダッシュの店の屋根裏部屋に到着。

 気配を消して入ったからか気づかれていないようだ。



「ガッ!!

 グゥ……」



 ざっと周りを見ても隠れている人もいないので、そのままこっそり下の階に降りようとすると喘ぎ声が聞こえてくる。

 ……エッチな意味でのよがり声ではなく、苦痛に耐える喘ぎ声だ。



 一番可能性のある人物は、禿くらいしか思いつかない。

 左肩をクロスボウでぶち抜いたときのダメージが大きすぎたのだろうか?



 音を出さぬようこっそり覗き込むと予想通り禿が苦しんでいた。

 じっと見続けると、左腕をベッドに接触させられないようで僕がいる側に背中を見せ続けている。

 禿がうめき声を出すタイミングで入り込むとするか。



「グアッ!」



 カチャッ!

 ササッ!



 禿のいる部屋に入り込めたが……これからどうしよう。

 殺すのは簡単だけど、それじゃあちょっとなぁ。


 できればバッロ家の皆さんにカルディアの恨みをぶつけてもらえればと思うんだが、そう言うの嫌がるかなぁ。



 ……うん、あまり考えず陛下にでもくれてやればいいか。

 どうせ殺す以外の選択肢は無いし、


 あ、念の為手首と足首切り落としておくか。

 それなら王家が禿を諜報員として使うとか言い出せなくだろうから安全だね。



 縛る縄も念の為持ってきておいたし、サッサと片付けますか!




 チャキン……




 双剣を抜くと、流石に気づいたのか苦痛を押し殺しながら起き上がろうとする禿。




「誰だ、貴様は!」




 ……え?

 今日会ったよね?




「え~っと、忘れちゃった?」

「忘れるも何も誰だよ!」


「今日、お前の左肩を撃ったんだけど覚えてない?」

「……テメェか!

 面までは覚えてなかったが……」




 おやおや、目が血走ってますね(笑)。

 寝不足?




「わざわざとどめを刺しに来たか!」

「ん?

 とどめを刺すのは僕じゃないかな……」

「はぁ?」


「既に暗殺者ギルドは崩壊しているし、下にいるお前の師匠もそろそろ死ぬし。

 後はお前を捕らえて国に引き渡して、犯罪者として処分するだけだよ?

 大したことじゃないでしょ(笑)?」



「テメェ!

 殺してやる!!」



 試しに煽ってみると簡単にブチ切れてくれた。

 というか「殺してやる!!」なんて暗殺者がわざわざいうもんかね?

 グダグダ言ってないでさっさと殺せばいいのに。



 寝ていたベッドに武器を隠しておかなかったのか素手で殴りかかって来た。

 左手は動かせないようで右手だったが、正直……遅い。

 もっと早く動けよ。



 禿の右手拳を左手の剣で裂く。



 サクッ!



 ついでに右手の剣で手首落とそうか。



 スパッ!



「ぐわぁ!!」



 左肩動かせないから左手はないも同然だし、右手は手首から先が無い。

 足技とかあるのかなぁ?



「ねぇ、もうちょっと早く攻撃できない?

 正直つまらないんだけど?」

「ざっけんな!」



 汚い言葉で罵りながら立ち上がり、右足で前蹴りしてきた。

 とはいえ、こちらも遅すぎる。

 今度は右手の剣で禿の足首を切り落とす。



「ぎゃあ!!」



 右足首を切られたことでバランスを崩しベッドに座り込む禿。



 本当にこんな簡単でいいんだろうか?

 アゼル兄が担当している禿の師匠の方が大変なのかな?

 遊ばないで手を貸してこようかな。



「そんな手加減しなくていいんだよ?

 どうせ、お前の実力では僕に勝てないんだし」



 お?

 怒った?

 怒っちゃった?



「……!」



 黙ったまま左足で僕の股間を左つま先で蹴ろうとする禿。

 とはいえ、何も考えずに蹴られる気は無い。

 ……そっち方面の趣味も無いし。

 自分の股間辺りに双剣を置く。



 ザクッ!



 想像通り、刃の部分を蹴りつけ、血だらけになる左足。



「ギッ……」



 おぅおぅ、我慢するねぇ。

 こっちも足首切り落としますか。

 ついでに左手首も処理しておこう。


【暗殺者】


 カル:カルシウムから

 ルーシー:カルシウムから

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― 新着の感想 ―
[良い点] 情報収集と段取りがしっかりしているうえに戦力差が圧倒的だとこうなっちゃうんだなぁ、と呆れるやら感心するやらな今話でした♪ [一言] 更新感謝です^^ アクション的山場がなかった分サクサク…
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