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少し各自で立て直しの時間を取った後、母上が問うてくる。
「……ニフェール、お前の認識を話せ」
大人しく、現在の暗殺者ギルドで与太話として話されている内容を説明する。
父上も母上も耳真っ赤にしてこちらを見ている。
何と言うか、目が潤んでますね。
他の面々は両親を哀れむのが両親と同年代の方。
ワクワクしつつもっと情報を欲しがっているのが僕を含めた子供たち。
「その与太話は大体合っている。
昔、学生の頃にちょっとアダラーと酒を飲んでな。
その勢いで暴れちまったんだが、ちょうどそこが偶然にも暗殺者ギルドの場所でな。
ちょっと暴れたら壊れちまったんだよ」
偶然で、それも酒の勢いで壊すなよ。
若い衆の想いは一つになった。
「その後アダラーはアラーニ(ジャーヴィン侯爵)やヘルベス(チアゼム侯爵)から、アタシはサプル(ジャーヴィン夫人)やアニス(チアゼム夫人)から目が血走るくらいに叱られてな」
当たり前でしょ?
「まぁ若かりし頃の武勇伝ってところだ」
そして伝説になりそうですけど。
「で、マギーはその頃の暗殺者ギルドの長だったらしい。
何でもアタシに殴られてアダラーに小難しい縛りをされたら、何故か雇ってくれと……」
それ、新しい性癖が追加されたからじゃないです?
最近も殴って欲しいとか縛って欲しいとか言われてません?
カリムとナットは頭抱えているようだ。
そりゃそうだよなぁ。
酔った勢いで壊滅させられるギルド。
壊滅した当人たちがいる家を狙う。
そこには過去のギルド長までいる。
その家の息子たちは壊滅させた力を継いでいる。
僕でも頭痛くなるよ。
そこ、おまいうって言わない!
そんな話をしていると、マギーのおっちゃんが戻って来た。
かなり疲れた表情をしている所を見ると、情報得るのに走り回ったのか?
「アダラー様、戻りました。
おや、ニフェールぼっちゃん、夏以来ですね」
「確かに夏以来だね。
調査、終わったの?」
「えぇ、えぇ、あれを調査と呼んでいいのかは不明ですが、一応終わりました。
結論からすると、ニフェールぼっちゃんの手紙の内容は全て正しいです。
それと、騎士側も陛下と王妃様に何があっても知らんぷりの予定だそうで」
両侯爵のこめかみに血管浮き出てるんですけど?
とりあえずぽっくり逝かないように落ち着いて!
「ニフェールというか、その部下の情報は正しかった。
そして騎士共も裏切る予定。
さて、どうするね?」
「どうもこうも、邪魔する奴は消えてもらうだけでしょ?
ちなみにマギーのおっちゃん、僕の情報に加えて何か新しい情報入った?」
「無いですね。
わしも事前に教会制圧するとか言い出すと思ってたんですが」
え、本当に無いの?
「ねぇ、暗殺者ギルドってこんな感じなの?」
「いや、それを聞かれても……」
「マギー、お前の前の仕事を教えた。
だから、元ギルド長として発言してくれ」
「……言っちゃったんですか?」
「アタシたちの若気の至りの被害者と認識されてるよ(苦笑)」
母上の許可を受け、マギーのおっちゃんは話し始める。
「正直、ここまでぬるい行動を取るとは思ってませんでした。
手抜きの極み、盲目としか言いようがない自信過剰。
良くあれで恥ずかしげもなく暗殺者ギルドを名乗れるもんです!」
お、おぅ……。
「それに加え、坊ちゃんたちの暴れた結果も過小評価しているんですよ!
それもちょっと軽く見たレベルじゃない!
あの薬品製造の襲撃を『運が悪かった』?
そんな一言で終わらせている時点でこいつらに未来はないとしか言えませんよ!
わしと一緒に暗殺者やっていた連中は皆呆れ、諦めてます。
あのギルドは消していい!!」
あぁ、両親の酒飲んだ勢いで潰されたショックよりも、今のギルドの状況への怒りの方が強いのかな?
となると……ふむ。
ふむふむ。
「マギーのおっちゃん、あのギルド消していいんだね?」
「……まぁ、わしを含めた昔の面々としてはですよ?」
ほぅほぅ、それなら。
「アゼル兄、結婚式邪魔されたら怒るよね?」
「当然だな」
「なら、邪魔された後、報復することはアゼル兄としてはアリ?」
「……」
僕の言いたいことに感づいたのか、とてもイイ笑顔で返事をしてくれる。
「アリよりのアリだな」
「なら結婚式は今更止められないし、相手側を抑えることもできないんだから来たら潰す方針。
そして、襲ってきたら今の暗殺者ギルトをジーピン家の家族総出で潰すってのはどうかな?」
周りを見渡すと皆ステキな笑顔を見せてくれた。
……カリムとナットはめっちゃ怯えているけど。
お前らは参加させないから安心しろ。
「では、基本方針はこんな感じで。
結婚式に呼ぶ人ってどのあたりの人?
いっぱい呼ぶの?」
「いや、家の人間のみにする予定。
ただ、チアゼム侯爵家の一部と陛下、王妃様が入るくらいだ。
後日夕食会という形で知り合いを呼ぶ予定だった。
お前が裁判の時に手伝ってくださった方々やそれぞれの婚約者の実家あたりだな。
あぁ、ノヴェール家はこっちで出しといたぞ」
いや、本当にありがとうございますお兄様。
そっちの方は全く動いてなかったからなぁ。
「ん~、後日ということは、結婚式当日は十分時間あるんだね?
なら式後に暴れましょ?」
「賛成。
ちなみに、お前の連れて来た新人さんはどうする?」
「式の時には襲撃側に回ってもらう。
じゃないと、裏切り者として処分されるから。
それと、ギルド襲撃の前に一旦ギルドに戻ってもらおうかと」
ギョッとしたカリムとナット。
カリムが命の危機とばかりに騒ぎ出す。
「ちょっと待って!
そんなことしたら一緒に消されちまう!」
「そんなことしないよ。
襲撃失敗したところで皆ギルドに戻るんじゃないの?
それを確認したら外に出て僕に報告。
それを元に僕たちはギルドを包囲殲滅。
二人には情報収集以上のことは求めないよ」
ホッとする二人。
そこまで信じてもらえなかったのかなぁ、少し寂しい。
「カールラ姉様、せっかくの結婚式が血なまぐさくなってごめん。
とはいえ、ここで潰しとかないと後々面倒なことになるんで協力願います」
「式は仕方がないのは分かるけど、『後々面倒』って何のこと?」
想定されることを説明してみるか。
「今回逃がしちゃうと、以降の結婚式やその後の生活にも影響するんじゃない?
例えばマーニ兄の結婚式に暗殺者が総出で来られても邪魔だし。
当然僕の結婚式も同じだね。
そして、アムルが学園に入るときも暗殺者が待ってるかもしれない。
それだけじゃなく、婚約者側にも何かちょっかい出すかもしれない。
なら今回で壊滅させないと安心できないんだよね」
「あぁ……確かにそうね」
お分かりいただけただろうか?
正直カールラ姉様には負担掛けちゃうけど、今回で一通り終わらせたいんだよね。
「ニフェールちゃん、理解はできたわ。
私たちの式は領地で改めてやればいいし、祝ってもらうのは夕食会で十分よ」
ありがとうございます。
「そういやカリム、今のギルド場所ってどこ?」
「……王都でディーマス家の保有している土地がいくつかある。
以前薬物の件でニフェールに会った、あんな感じの場所があと二つある。
そのうちの一つ、ローズストリートと呼ばれる通りのそばにある」
「ローズストリート?」
なんだそりゃ?
「薬物の時に偵察で男女が楽しむ場所から侵入したって言ってなかったか?」
「あぁ、軽いおしゃべりの時に言ったな」
「あそこ、スカイストリートって言うんだが聞いてないか?」
「通りの名前までは聞いてないな」
「あの通りの名の由来は空。
外で男女で楽しむ場所ということで名が付いた」
つまり、青姦ストリート?
「同様にローズストリートは男性同士が、その……致すところとしてその名が付いた。
ちなみに、女性同士が致すところとしてリリーストリートという所もあるが、今は割愛するぞ」
薔薇の道に百合の道って、いやまぁ適切な名前かもしれないけど!
「で、ローズストリート出口のすぐそば、というか向かいにギルドはある。
入口は表と裏の二つ。
窓は表のみ。
両側面は壁だから出入りは表裏のみだな」
「……ふ~ん」
少し疑問を感じた僕は微妙な回答をする。
感づいたのは……両親とマギーのおっちゃん、そして少々意外だったがアムルだった。
「ぼっちゃん、調べましょうか?」
「僕も行きたいな。
まだ顔割れてないし」
「その、兄様、僕は……」
チラッと両親を見ると、軽く頷く。
ほぅ、アムルを本格的に経験させるつもりですね。
「そうだな、アムル。
一緒に行こうか」
「いいんですか(ふにゃあ)!」
あぁ、顔が蕩けてるぞ。
カールラ姉様やロッティ姉様が危険な表情になっている邪ないか。
……「じゃないか」だな。
間違って……間違ってない気がしてきた。
「ニフェール、なぜ行くんだ?」
カリムが聞いてくるが、気づいていないのかな?
ナットもか?
「う~ん、マギーのおっちゃん。
この二人一緒に連れてっていい?」
「構いませんよ、ついでにちょっと指導しましょうか?」
「お願いできる?」
「お任せください。
カリムとナットだったな?
少し変装してから行くぞ、準備しな」
「え?」
「えっ?」
なんか反応が遅いけど、大丈夫か?
「ニフェール、お前は変装しないのか?」
母上、その発言でカールラ姉様たちがヨダレを垂らし始めましたが?
「特に着替えをするつもりは無いです。
ですが、ちょっと顔合わせたくない存在がいるので以前女装した時のウィッグだけでもつけて行こうかと」
「……禿、だったか?」
コクンと頷く僕。
アイツに見られて今までの努力が水の泡になるのは避けたい。
「……ラーミル、ニフェールがウィッグ付けた後に少し飾ってやって欲しい。
イメージとしては中性的な感じにしたい」
「ポニーテールにして縛る紐はシンプルな奴で、とか?」
「……いいね、それでいこう」
ラーミルさんの提案で僕はポニテウィッグを付けることになった。
服は変えていないので男性とみられるだろうが、ポニテウィッグのおかげで少し中性的に。
「……カリム、何目を逸らす?」
「……気にしないでくれ」
「……この程度で顔赤らめる様では、最終形態では堕ちるぞ?」
「最終形態って何!」
当然、女装ですが何か?
実績(堕とした人数)もそれなりですけど?
ナットの方はそこまで反応は無いようだ。
カールラ姉様たちの方には進んで無いようでホッとする。
……入ったら一気に底なし沼化するからなぁ。
計五人でギルドそばをうろつく。
カリムもナットも普段よりキチっとした服装をしているからなのか、同僚っぽい人物がいても声を掛けてこない。
「まずは左右両側の店に入ってみようか」
「そうですね」
マギーのおっちゃんと話し合い、まずは左の店に入る。
武器・防具の専門店だったようで色々と置いてある武器を見ると、店主が声を掛けてくる。
なんか、愛想悪そうだな。
「見るだけなら帰ってくれ。
買うなら何が欲しいか教えてくれ。
良さげな物を探してやるよ」
「双剣が欲しい。
バランス重視で探しているんだが見つからなくてな」
「……今佩いているのはダメなのかい?」
「いや、こいつ自体はいい武器なんだが、次代の武器を確保しておきたい」
店長は得心した顔を見せてくる。
「あぁ、なるほど。
壊れたときの為か」
「そう言うことだ。
いいのあるかい?」
「ちょっと待て、探してくる」
裏に店長が消えたところでマギーのおっちゃんが色々と動き出す。
こっそり裏も見に行ったようだが、首を振るばかり。
何もなかったようだ。
「一応、こいつがうちで一番バランスの良い双剣だが……」
見せてくる武器を手に取るが……ダメだな。
右手で持った方が重いし長めだ。
気づかない人物もいるかもしれないが、このバランスでは……。
「ダメか?」
「右手側が重い。
この差では戦うときに致命的だ」
今佩いている武器を見せて相談する。
「このくらい差が無いのは無いか?」
「……失礼するよ」
僕の双剣を鞘から抜いて手に取り、溜息を付く店主。
「無理だ。
ここまでバランスがいい双剣はうちには置いてない。
すまんが他で探してくれ」
「分かった、手間かけてすまなかったな」
双剣を鞘に入れ店を出る。
マギーのおっちゃんに確認するが、店の裏手にも通り道は無かったようだ。
その後右の店にも入るが、通り道は全く見つからない。
「カリム、ナット。
二階で隣の店につながっているとかは無いんだな?」
「それは無いな。
全ての部屋に入ったことがあるわけではないが、一番両端の部屋に入ったことはある。
どちらも隣の家に入り込む余地はなかった」
ん~、外れたか?
窓もカリムの言ったとおりだったし。
とりあえず裏に行こうか。
カリムたちの案内で裏に回ると、狭い小路が店の後ろを通っていた。
これは、アゼル兄(大剣)やマーニ兄(鎌)は入れないな。
「ここが裏口。
これ以外は出入りする場所は無いはずだ」
ざっと周囲を見渡すが、カリムの言い分通り出口はここだけだった。
でもなぁ、何か嫌な予感がしたんだよなぁ。
なんだろう。




