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3/6投稿分、二話目です。

明日も二話投稿予定。

◇◇◇◇



 ニフェール様が帰られた後、私ジルは母と相談をしていた。



「お母様、先ほどのメイドに一つお願いをしたいのだけれど」


「おやジル、珍しいおねだりね。

 何かしら?」



 お母様、分かっているくせにその表情は性格の悪さがにじみ出てますわよ?



「先ほどニフェール様の反応なのですけど……。

 もしかしてセリン家のラーミル様に懸想しているかと思ったのですが?」


「う~ん、懸想はしているけど諦めているといった感じかと思ったのだけど?」


「諦める?」


「懸想はしているけど、それを云う訳にはいかない。

 なんせ、他の人の妻だから。

 そんなところでしょうね」



 あぁ、そりゃそうですね。

 寝取ったなんて言われるのは家の恥になりかねません。



「セリン家はほぼ潰れるのですよね?

 なら、ラーミル様を家で確保してニフェール様をうちの味方に。

 できれば信用出来る寄り子になってくれればと思ったのですが?」


「なるほどね。

 なら、あのメイド経由でラーミル様に【狂犬】の事実。

 それととチアゼム家が全面的にニフェール様の味方であること。

 この二点を情報として渡しましょう。

 それと……」



 こっそりお母様は策を開陳してくださいました。

 やはりゲスいです、お母様。



◇◇◇◇


 あのくだらない婚約破棄――あぁ婚約解消だったかしら――も終わった。

 そして、またつまらない学園生活に戻る。

 あたし、グリースがあくびをしていると――



「グリース!

 ちゃんと謝罪するのですよ!

 やらなかった場合、平民落ち確定ですからね!

 旦那様からも言われているでしょ?」



 ――ラーミルお義母様がピリピリしながら学園に送りだす。

 うるっさいなぁ。



「大丈夫よ、あいつにそんな権限無いんだし」


「寄り親の両侯爵家があなたの行動を許すわけがないじゃないですか!

 そして、ニフェール様にはその二つの家が後ろについているのですよ!」



 そんなわけないじゃない。

 あんな奴の口車に転がされて、ラーミルお義母様大丈夫?



「大丈夫だって!

 チアゼム家はあたしたちセリン家の寄り親でしょ?

 ならこっちに味方してくれるわよ」


「ありません。

 チアゼム家がセリン家とジーピン家を比べたら確実に向こうの味方をします」




 は?




「ジーピン家にはそこまで味方をする価値がないかもしれません。

 ですが、ニフェール様はジル様とフェーリオ様の命の恩人であるそうですよ。

 はっきり言えば、セリン家はニフェール様に信用という一点で完敗しています」



 セリン家は【狂犬】より信用できない?

 馬鹿言わないでよ!



「そんな戯言どこから聞いたのよ」


「チアゼム家でメイドをしている後輩からですが?

 既にセリン家潰しは動いています」


「ありえないわ!

 第一、【狂犬】が何したってのよ」



 男爵子息如きが大した事できないでしょ。



「お二人が不審者から暴行されそうになったのを助けたのだそうですよ。

 その際の不審者への対応があまりにも危険というか……。

 非人道的だったので【狂犬】というあだ名が付けられたようです」



 へ?

 お二人を助けた?



「ですが寄り親の子弟を全力で守った。

 その一点において双方の侯爵家から最高の評価をされたそうですよ。

 正直犬繋がりで【護衛犬】【忠犬】でもいいのではと思う位です。

 まぁ貴族の面倒な嫌がらせの結果、【狂犬】なんてあだ名になったのでしょう」



 ラーミルお義母様が淡々と説明するが、流石に信じられない。


 それが真実なら既に男爵位でも貰っていそうじゃない?

 それがジーピン家の三男坊の地位から変わってない時点でないと思うわよ?



「ジル様とフェーリオ様の命の恩人に対しての恩義。

 そしてお二人がニフェール様を味方にしておくため。

 これらの理由によりセリン家を見捨てるでしょう。

 むしろ、無駄な家系を潰すいい機会と思われてます」



 はぁ、なんでお義母様はそこまで悲観的なのかしら。



「そんなことありえないわよ。

 お義母様の言い分通りなら、うちはいつ潰されてもおかしくなかったって――」


「――実際そうですよ?

 人格はまともだけど仕事はイマイチ。

 旦那様の評価はそんな感じですよ」




 ちょっと、お父様そこまで仕事できないの?




「だからって伯爵家潰すなんてありえないでしょ」


「潰しても国政に影響ないとみなされていますよ。

 既にいつ潰されてもおかしくないと旦那様も仰ってますし」



 全く、お父様も心配性なんだから。

 伯爵家がそんな簡単に潰れるわけないじゃない。



「大丈夫よ、どうにかなるわ。

 んじゃ、行ってきます」



 眠い目をこすりつつ馬車で学園に向かう。

 まだ騒いでいるようだが無視しよう。



 学園前で馬車を降り校門に近づくとクラスメイトの子が挨拶してくる。

 あれ、誰だっけ?

 同じ寄り親で子爵家だったはずなんだけど?



「おはようグリース、今日も眠そうね」



 普段通りの話し方にしたいんだけどなぁ。

 けど唾が飛ぶのが失礼だとかお義母様言い出すのでそれっぽく振舞う。



「おはよう。

 昨日婚約破棄してきたのでちょっと疲れちゃったの」


「あ、昨日だったんだ。

 あの【狂犬】はなんか言ってた?」


「正直、覚えてない。

 あいつの言葉聞く気にならなかったし。

 親に任せっきりにしちゃった」



 まぁ、実際面倒な話し合いには関わりたくないしね。



「ははっ!

 まぁ、あなたらしいわね。

 あ、今日のお昼一緒に食べない?

 あの【狂犬】の馬鹿話聞きたいわ」


「えぇ、いいわよ」



 あれ?

 確か昼に何かしろってお義母様が言ってた気がするんだけど。


 まぁ、思い出せないんだから大した話じゃないでしょ。



 その子と別れ、眠らないように授業を受けてやっと昼休み。


 合流して何を食べるか選ぶ。

 今日チキンの香草焼きか。

 うん、これにしよっ!



 二人で席に着くと、少し遠くにジル様とフェーリオ様が見える。


 運命が少し変わればフェーリオ様の隣はあたしだったかも知れない。

 でも、ジル様に喧嘩売るのは自殺行為だから、諦めるしかないわね。


 あ~あ、新しい男見つけなきゃなぁ。



 そんなことを思っていると、【狂犬】がジル様達の所に移動してくる。


 皆が一斉に黙り、【狂犬】に視線を集中させる。

 あたしたちも会話を止め盗み聞きの体勢に入る。



「すまん、待たせたか?」


「いや、俺たちも来たばかりだ。

 座って報告を頼むよ。

 とても面白い話だと聞いているが?」



「面白いとは言ってないぞ。

 面倒臭いとは言ったがな」


「ハハッ、人の不幸は蜜の味。

 第三者として見る分には喜劇でしかないさ。

 さ、話してくれたまえ」



 フェーリオ様の表情がとてもにこやかな感じだけど、なんか嘘くさい。

 ジル様も見る者を蕩かせるような笑顔だが、なぜか悪魔の笑いにしか見えない。


 周りのクラスメイトの子は特に感づいていないようだけど。

 アタシだけ?



「まず、僕は婚約をしていなかった。

 婚約していたのはグリース・セリン嬢とうちの四男のアムル・ジーピン。

 ちなみに、うちのアムルは今年で十歳。婚約を打診された時点で五歳だった」




 ザ ワ ッ ! !




 周りから「嘘だろ」「え、人違い?」なんて声が小さいながらも聞こえてくる。



「元々、この婚約はセリン家からの依頼だったそうだよ。

『ジーピン家の末っ子と婚約させてほしい』だってさ。

 うちとしてはダメと言う理由は無かった。

 だが、特に接点の無い家だったので困惑していたそうだよ」



 なんか「ショタ趣味?」なんて聞こえてくる。

 勘違いだって!



「で、約五年間婚約していたが、昨日婚約解消となった。

 セリン家の都合でありウチのアムルに一切責任ないことは整理付いている」


「ニフェール、どうしてセリン家から婚約の話を受けたか確認はしたか?」



 なぜかフェーリオ様の表情が硬いように見えたわ。

 そうね、言いづらいことを聞く時にあんな表情をよくするわね。


 そして【狂犬】はその顔を見て妙にいやらしい表情をしていたけど。



「あぁ、聞いたよ。

 その前にフェーリオに質問だ。

 お前、五年程前にジル嬢の家でパーティに参加してないか?

 時期的に今の季節あたりだが」


「あぁ、している。

 というか、ジルをエスコートして毎年参加しているからね」



「そのパーティでグリース嬢はお前に会ったんだとよ。

 道に迷ったところでお前に助けてもらってハンカチ貰ったって言ってたな。

 そこで、お前は『ジャーヴィン家の末っ子です』って答えたそうだな」



「まぁ、そんなことを言ったかもしれないな。

 私、もしくはジルの邪魔をする奴はいるから名をぼかすことはたまにやるが」


「そこでジーピン家と勘違いしたらしい。

 そして、我が家の末っ子に婚約を申し込んだ」


「マジかよ……」



 額を手で覆い上を向くフェーリオ様。


 ジル様もフェーリオ様をおかわいそうな目で……って、あれ?

 なんか悪戯っぽい目で見ているようにしか見えないんだけど?

 なんで?



 困惑しているとクラスメイト達から指で色々と突っつかれる。



「ねぇ、あの話ホントなの?」

「先日の【狂犬】の責任って何も無かったってこと?」



 なんか真顔で聞いてくるが、男爵如きが伯爵家に何か言えるはずないじゃない。

 落ち着かせようと声を出そうとするが、先に【狂犬】が続きを話し出す。



 あたしにとってまずい部分の話を。



「んで、それだけならばグリース嬢の勘違いの積み重ねで済んだ。

 ただ、それ以外に大きな問題が二つあった。

 一つはグリース嬢が婚約者としてすべきことを放棄していたこと」




 ザ ワ ザ ワ ッ ! !




 周りからいろんな声が聞こえてくる。



「それって契約違反?」

「ヤベッ、あの家終わってね?」



 そこまでの話じゃないはずなんだけどね?

 なぜ皆騒ぐのかしら?

 たかが男爵子息如き、伯爵令嬢が気に掛ける必要なんてないじゃない。



「うちのアムルは毎月手紙を送り、誕生日にはプレゼントを贈っていた。

 流石に五歳だから文章は年相応のことしか書けていないだろうがね。

 そしてグリース嬢は……」


「グリース嬢は、どうなさいましたの?」



 ジル嬢が鈴の鳴るような声で聴いてくる。

 でもなぜか地獄の底から聞こえるような声に感じたのだけれど?



「婚約開始から半年くらいは手紙を送って来たらしい。

 ただ、それ以降――四年半ほど一切届いていないそうだ。

 それとアムル曰く、贈り物は一切届いたこと無いそうだ」




 ザ ワ ザ ワ ザ ワ ッ ! !




 周りが途轍もなくざわついてきた。



「え、婚約者にその仕打ちって最悪じゃね?」

「え、セリン家ってそこまで常識無し?」



 え、そこまでひどくないでしょ?



「あらあら、セリン家はそこまで愚かだったのですねぇ。

『善人の家』が聞いてあきれますわ」



 ジル様が笑顔で発言すると周りが一斉に静かになる。

 なぜかフェーリオ様までビクついてるが、そこは何故か分からないけど。



「ちなみに、ジーピン家としてセリン家への賠償は?」

「五年婚約していた場合の一般的な婚約破棄で支払われる額で手打ちにしてます」



「ん?

 それ安すぎないか?

 セリン家だけが悪いのならもっと分捕れるはずだろ?」



「確かに、今回のセリン家側のやらかしを考えると今回の額は安すぎます。

 ですが、下手に騒ぐと第三者が事実を捻じ曲げそうで……。

 うちの家を強欲だの守銭奴だの言い出しかねないと言うのがあります。

 なので、程々にするしかありませんでした」



「あぁ、それはあり得るか」



「それに、これ以上アムルに奇異の視線に晒されるような状態を作りたくない。

 婚約自体あちらの我儘だってのにこれ以上負担がかかるのは嫌だ。

 弟にそんな目に合わせたくない!」



「確かに今年十歳の子に嫌な思いさせるのは無いなぁ」


「えぇ、本当に」



「それに、賠償を求めてもちゃんと払う気あるの?

 分割とか言って一回目から金送ってこないとかありそうで不安。

 伯爵自体はちゃんと払ってくれそうなんだけどさ。

 だけど、あの娘は男爵如きとか言ってたから信用が地の底なんだよね」




「「うわぁ……」」




(((((うわぁ……)))))




 え、ちょっと待って。

 皆、なぜ私に冷たい視線を送ってくるの?



「あぁ、ちなみに贈り物についてはセリン家の中でケリをつけるらしい」


「ん?

 ケリをつけるって何で……って、まさか!」



「金をちょろまかしていたらしいよ。

 流石にセリン伯も謝罪していた。

 贈り物はちゃんと送っていると思っていたらしい。

 親の方はちゃんと理解しているようだが、グリース嬢は……」



「おい、まさか悪いことしてないとか言い出した?」


「フェーリオ、正解だ。

 問題の二つ目が、男爵如きに謝罪も何もする必要は無いとか言い出した。

 ちなみにご両親はちゃんと謝罪していたよ?

 でも、グリース嬢は悪くないの一点張りでな」



 当然じゃない!

 皆も、ってねぇ、なぜ離れていくの?


 ちょっと、名前思い出せないけどそこの子爵家の子。

 なに顔色青くしてんのよ!



「一応、この件について婚約解消の処理で行ったついでに王宮に報告してある。

 セリン家の夫婦自体は問題ないが娘の行動が不安視されるとも伝えた。

 後は王宮側がどう判断するかだな」



 周りから怯えた声が聞こえて来た。



「ヒッ!」

「わ、わたしはセリン家とは関わりはないわ!」



 いや、あんたらちょっと前まで一緒になって【狂犬】バカにしてたでしょ!

 逃げられないわよ!



「……そこまで行くとかなり不味くないか?」


「不味いというか、貴族として認められないという判断もあり得るのでは?

 国としてもこのようなことが横行するのは避けたいでしょうし」



 そこまで?


 うち、伯爵家よ?


 気にするほどの事じゃないじゃない!



「ただ、ご両親がまともという情報を渡したのですよね?

 なら、グリース嬢を修道院にでも送り込めば済むと思いますわ。

 国として残しておきたい貴族であればという条件が付きますけど。

 不要と判断されたら、伯爵といえども貴族として残れないでしょうね」



「で、チアゼム家としては?」


「潰す一択ですね」



 ヒ ィ ッ ! !



 じょ、冗談でしょ?

 ジル様、強い言葉使いすぎ!



「ご当主の人格だけで残っている家だってのに……。

 それを継ぐ人物が貴族として不適格となれば残す理由がありませんもの。

 親族に頼むという選択もありますがねぇ。

 他の親族はお話にならない、現当主が一番マシと噂で聞いておりますわ。

 なら混乱を起こさないように潰すのが最適かと」



 ちょ、ちょっと待ってよ!

 ジル様、いきなりそこまで言っちゃうの?



「第一、このような人物が我らチアゼム家の寄り子のままでいる。

 それ自体が我が家の恥でしかありません。

 このような自分を律することもできない人物が貴族?

 それも伯爵位を持つ可能性があるのでしょうか?

 冗談じゃありませんわ」




 ……そこまで言っちゃうの?


 ……え、もしかしてお父様やラーミルお義母様の発言って真実だった?


 ……まさか、うちって崖っぷち?




「ニフェール、お前この件どうするんだ?」


「セリン家に婚約解消の話をしたときに既に伝えてある。

 期限までに伝えた通りの行動を取れば良し、取らなければ……」




 そこまで言って肩を竦めた。


 いや、そこちゃんと言ってよ!

 何すればいいの?!


 頭を抱えていると一緒に昼食に来た面々がさっさと逃げ出した。

 他の食堂にいる面々もあたしを見て嘲笑うか目を逸らす奴しかいない。




「ふ~ん、んじゃ、時間が来たら教えてよ。

 その後は寄り親として動いてもらうように伝えるからさ」


「お、サンキュ。

 んじゃ、さっさと飯食っちまおうぜ。

 ペペロンチーノ冷えちまうよ」


「お前、パスタ好きだよな」



 え、なんか普通に食事に戻ったの?


 もしかしてまだ時間ある?

 ならあたしも急いで家に帰って何すればいいのかお義母様に確認しないと!



 あたしは食事もそこそこに急ぎ家に帰った。


 そこで期限と条件を半狂乱になったお父様とお義母様に聞かされる。

 大慌てで学園にとんぼ帰りしたが既に遅かった。


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