21
「なぜ、ここまでするんだよ!」
は?
殺されかけていたカルディアがそんなこと言うの?
「とりあえず戦えなくしないと危険だろうに。
カルディア、つい先ほどまで殺されかけていたの忘れたの?」
「いや、それは忘れてないけど、手首斬るとか足首切るとかまでしなくていいじゃないか!」
はぁ?
「手首を切ったのは大剣を使わせなくするため。
足首あたりを切ったのは逃げるのを防止するため。
どちらも必要なことだよ?」
「だって、トリスだよ?」
「じゃあ殺されたかったの?」
「それは……」
カルディアにとって友達ではあるが、凶悪な犯罪者でもあるんだからな?
「カルディア、僕が斬る前のトリスを野放しにしたらどうなるか想像つくかい?」
「え?」
「真夜中に大剣もった狂った人物が街中で暴れ出す。
どう考えても筋力が増強されていることを考えると、家の扉を切りつけて壊すくらい簡単そうだよね?
その力をもって家の奥に入り、騒ぎ出す住民に切り付け殺す。
このくらいは想像できるよね?」
「それは……」
これ以上カルディアの我儘には付き合っていられない。
急ぎ人を派遣してもらおう。
「案内してくれた方、ラクナ殿の所に戻って人を数名派遣してもらってください。
一人は暴れることは無いでしょうが、もう一人は暴れるかもしれません。
捕縛できる人をお願いします。
僕は、この二人が逃げ出さないようここにいますので。
それと、うちの母上に『二人見つけた』と伝えていただけますか?」
「分かりました、伝えてまいります」
連絡を頼むと急いでラクナ殿の所に向かっていった。
騎士に指示する僕を、カルディアは呆れて見る。
「いつから騎士に指示できるようになったの?」
「この作戦の提案をした時からかな?
状況によっては侯爵様にも指示しているし」
「え゛?」
「一応言っておくけど、冗談じゃないよ?
この件、それだけ大事なんだから」
「冗談であって欲しかった……」
そんなこと言ったらカルディアの頼みを聞くこと自体出来なかっただろうに……。
カルディアに近づくために一歩踏み出そうとしたところ、背中側から空気を切り裂く音が複数!
カカカッ!
カカッ!
ドッ!
ドッ!
「グハッ!」
振り向きざまに双剣を振り回すと、投げナイフが落ちていく。
その数五本。
その間に二発クロスボウを発射した音が後ろで聞こえた。
チラッと見ると、トリスの頭とカルディアの胸に一本ずつクォレルが刺さっていた。
カルディアたちの上、空き家の屋根を見ると禿げた頭の男が両手にクロスボウを持ちニヤニヤしながらこちらを見ている。
「きっさまぁ!」
「あいつらの投げナイフを全部落とすとはな。
いや、素晴らしい腕前だ。
俺にはできんよ」
「なぜ殺した!」
「別に、大きな理由はないね。
まぁ個人的なオタノシミってところだ」
弱者を殺して楽しむってか?
イイ趣味じゃねぇか。
睨みつけると、怯えるような演技をしつつ逃げだす。
「おぉ、怖い怖い。
またどこかで逢おうぜぇ、坊ちゃんよ」
屋根の上を走る姿を追いかけるには先ほど投げナイフを投げてきた奴らの牽制もあり追いかけることができなかった。
とはいえ、投げナイフ側も禿と一緒に逃走したようだ。
カルディアに駆け寄るとまだわずかに息があるのか、口から血を流しつつもかすれた声で話し出す。
「凄いね……あんなにナイフを……切り落としちゃった」
「しゃべるな。
傷に響くぞ」
「無理だ……よ、心臓は無事……だけど、大きな血管を……傷つけたみたい。
どんどん力が抜け……てるんだ」
「……」
情けない事だが、今の僕の顔は泣きそうだったのだろう。
カルディアに慰められてしまった。
「そんな顔す……るなよ、ここに来た……のは僕の……決断な……んだから、ニフェー……ルが背負う必……要は無……い。
ガハッ!」
血を吐くカルディア。
その血を浴びてしまうが、気にせずカルディアとの最期の会話を続ける。
「うちの……親には……申し訳な……いがね」
「お前の家は帰ってこないことに気づき行方不明だと侯爵に連絡している」
泣かないように、声を震わせないように耐えつつカルディアと話す。
「な……ぜ?」
「お前がこの場に来ないように侯爵がお前の親父さんに伝えてある。
本当は今日家に帰ったら外出できないようになるはずだった。
ちなみに、僕の提案だ」
苦しんでいたカルディアがキョトンとした顔をし、その後会心の笑みを浮かべた。
「ふ……はは……騎士科一位の……ニフェールを……超えた……んだ」
「そうだな、お前の行動を読み切れなかったよ」
「そ……う……か……」
もう話すのも難しそうだ。
僕もこれ以上泣かず、声を震わせずに話すのもきついのだが。
「ニ……フェー……ル、我……儘……聞いて……くれ……て……あ…………り…………が………………」
そこでカルディアの言葉は聞こえなくなった。
遠くから二人を運ぶ人たちの声が聞こえてきた。
でも、そんなのどうでもよかった。
ただ、ただ、僕は――
「――――――――――――!!!」
――叫びたかった。
言葉はいらない。
理解されなくてもいい。
ただ、ただ、泣いて、心のままに、感情のままにぶちまけたかった。
それからどのくらい経っただろう。
そばで母上が頭を撫ぜていてくれた。
チラッと見ると、聖女のような笑顔を向けてくれた。
あぁ、こりゃラーミルさんが【女神】呼ばわりするわ。
「落ち着いたか?」
「うん……何とか」
一つ深呼吸をしていくつか質問する。
「僕はどれくらい泣いていた?」
「そんな長くは無いぞ。
アタシらが到着して数分程度だ」
「兄さんたちの方からは何か?」
「何もない」
遠くからはまだ戦いの音が聞こえる。
あちらは多分大丈夫だろう。
あのメンバーを倒せるような強者がいたら、既に戦いは終わっているはずだ。
一緒に来た騎士たちに遺体の運搬を頼む。
同時に、先行部隊に連絡を頼む。
トリスとカルディアが死んだこと。
死因は暗殺者によるクロスボウでの射殺。
その暗殺者は裁判で薬を仕込んだ禿であること。
もしかすると新しい薬として極端な筋力強化の薬があるかもしれないこと。
一通り伝えておいた。
その後、順調に制圧は完了。
逮捕者も続出。
王都の牢屋は一時的に大量の犯罪者で溢れかえっていた。
そして、夜が明けた。
昼勤務の騎士たちが犯罪者たちを取り調べ、夜に戦った者たちは仮眠をとるためにいったん自宅に戻る。
なお、トリス、カルディアの遺体は調査の為と称し現在王宮に運ばれている。
カルディアのご両親には亡くなったことを伝え、詳細は後日説明するとしてある。
トリスの方は……どうせあいつら調べてもいないんだろうから後回しでいいだろう。
今日……というか昨日の時点で外泊届を出しているので安心してジャーヴィン侯爵家で休ませてもらう。
割り当てられた部屋に入ると、そこには侍女姿のラーミルさんが♡
って、疲れているんだな、僕。
いくら何でも「本当におりますよ」……って本当に?
夢や妄想じゃなく?
ジャーヴィン侯爵、GJ!
とか、軽いことを考えていたところ僕をハグしてくれた。
香しい甘い香りと僕の心を溶かす優しい声、そして柔らかく頭を撫でて僕を癒してくれる。
ダメだよ、ラーミルさん。
そんな優しくされたら――
「ああああぁぁぁぁっっっ!!!」
――堪えていた涙が出てしまうじゃないか。
その後、延々と泣いていたはずなのだが、気づいたらベッドで寝ていて、ラーミルさんが添い寝をしていてくれていた。
凄い柔らかかったです(何が?)。
延長いいですか(だから何が?)?
パフパフ追加で(馬鹿やめとけ)。
もっとお願いしたかったが話し合いもあり、やむなく会議室に移動する。
ラーミルさんと手をつないで一緒に入るとジャーヴィン侯爵家の皆さんとうちの家族(婚約者含む)が心配そうな顔でこちらを見て来た。
泣きまくった声が聞こえていたのだろう。
一部(具体的に言うとフェーリオとジル嬢)がいやらしい表情でこちらを見るがとりあえず今は放置しておこう。
後でボコるけど。
それぞれの観点から報告会を行う。
父上と兄たちの方は順調に戦闘を行い薬の製造、流通の情報として輸送計画、売買相手の情報がたっぷり入ったとのこと。
また、こちらから伝えた筋力強化系の薬が使われていた可能性について、兄上たちはピンとこなかったのこと。
まぁ、二人とも強すぎるからねぇ。
ちなみに父上も延々と縛り続けていただけなので、相手の筋力なんて分からなかったらしい。
まぁ、そこは戦い方の違いか。
次に僕の方の説明を行う。
会話も成立しないトリスとカルディアが戦っていたこと。
カルディアを助け、トリスの右手首と右足の腱を切ったこと。
カルディアに感情的になじられたこと。
突然後ろから投げナイフを投げられ、そちらを落としていたところカルディアとトリスをクロスボウで撃たれたこと。
トリスは頭に矢が刺さり即死、カルディアは心臓を少し外れた様だが血管を傷つけたようで少しして死んだこと。
殺したのは禿の暗殺者。
補佐が二名、多分ジャグリングしていた男女。
一通り話し終えた後皆が黙ってしまう。
さっきまで茶化していたフェーリオとジル嬢も大人しくなってしまった。
「ニフェール、かなり辛かったな」
珍しく父上が声を掛けてくる。
「ん、まあその後母上やラーミルさんにしがみついて泣いたりしたけど、今は落ち着いたから大丈夫だよ」
父上はちょっと悩んだ後、ボソボソと話し始めた。
「他の人も聞いてほしいが、参戦する場合に敵を殺して初めて認められるというのがある。
人によっては童貞喪失ともいうがな。
ちなみに、ここまでは子供たちには話したはずだ」
聞いたことがある。
殺せない兵は戦場では観客でしかないと。
母上は父上を視線でたしなめようと……あれ?
違うな、案じているのか。
となると、余程父上にとって辛い話か。
「だが、実際にはもう少し先の話がある。
一つ目は敵を殺すこと。
二つ目は知人が敵であった場合にそいつを殺すこと。
三つめは味方、特に自分の知人を殺されること」
部屋がシンと静まり返る。
「殺す覚悟を持ち、敵に回ったら知人でも殺し、知人を殺されても折れずに立ち上がる。
そこで初めてこいつは戦えるものとして認められる。
とても昔の……何代か前の王の時代の話だがな」
まぁ今の時代には合わないだろう。
知人を殺す、もしくは殺されるのを想定しろなんて……。
「当然だが、知り合いが殺されるような状態をワザと作るわけではないからな?
でも、二つ目、三つ目の覚悟は一つ目の覚悟より難しいのは分かるな?」
知らない人物を殺すのと知っている人物を殺す。
そりゃあ後者の方が心へのダメージ大きすぎるでしょ。
三つめも同様だ。
「わざわざこの話をしたのは、今回ニフェールが三つ目にぶち当たったからだ。
そして二つ目、三つ目を体験した者はどうしても精神に深いダメージを追う。
ニフェール、とてもきつかったのではないか?」
コクンと頷く。
あの場面で母上が慰めてくれなければ、その後ラーミルさんが慰めてくれなければどうなっていたのか分からない。
「なお、下手に言葉だけ先行して教えるのは本来やらないんだ。
当人に怯えを覚えさせるだけだからな」
そうだろうなぁ、これ事前に聞いて簡単に受け入れられるのは心が強いか壊れているかの二択だ。
「ただ、今回はニフェールが苦しみ叫ぶのまで皆が聞いているからまとめて教えることにした。
正直言うと、教えずに済めばそれでよかったんだがな……」
今の言い分からすると、アゼル兄もマーニ兄も初めて聞いたのか。
まぁ、聞かずに済む生活の方がいいしねぇ。
というか、父上は二つ目か三つ目を知っているんだな。
そうじゃないとまずこの話を聞くこともないだろうし。
「ニフェール」
「はい」
「この後も今回の件はお前の精神を苛んでいくだろう。
そんな時は頼りなさい。
家族や恋人、友人を。
精神を守り、苦しみを克服するにはそれくらいしかできないから」
珍しく、本当に珍しくまともで真面目な発言をする父上を見た。
正直言うと本物かどうか調べたいくらいだが……。
「はい!」
真面目な発言に対して敬意を表し返事をする。
だが……。
「ちなみに辛いフリをしてラーミル嬢にワザと甘えるのは一度だけにしておけ。
二度目はバレ――」
バ チ ィ ! !
ぐ ぅ う う う ぉ ぉ ぉ ぉ ! !
母上の怒りの平手打ちを背中に喰らい悶絶する父上を見ると、少々敬意を表するのは早かったかと反省してしまう。
ちなみに母上、顔赤いですよ。
声には出しませんけどね。
一度は甘えさせてあげたんですね。
まさか、甘えた結果がアゼル兄?
その後は大量の犯罪者の裁判、そして処罰が待っている。
裁判結果が一通り出た後に褒章の話をするだろうとのことだ。
とはいえ、貴族がかなり関わっているようなので、処罰決定には時間がかかるだろう。
ただ、裁判には関わらないので、ジーピン家は皆領地に戻る。
多分褒章話は秋口くらいだろうから、アゼル兄とカールラ姉様の結婚式辺りに話が決まればいいなぁ。
予想通りアムルとフィブリラ嬢がわんわん泣いて離れたくないと騒いでいたが「冬あたりに双方行き来してみたら? それまでは手紙のやり取りすればいい」と提案し我慢してもらう。
冬に会ったらまた見つめ合うとかは勘弁してくれよ?
それと、ジャーヴィン侯爵家での会議の後にトリスとカルディアの家に遺体を運ぶのに付き合った。
あの二人の死を見た者として必要とあれば死に様を伝えようと思った。
だが、こちらも予想通りではあるがトリスの家は遺体も不要と言い出した。
ただし、事前に調べたところトリスはまだエスト家から抜けていない。
結果、エスト家は騎士団の取り調べを受けている。
多分ではあるが、エスト家は無くなるだろう。
薬に関係なくてもトリスが犯罪者に手を貸していた。
本格的に探しもせず家からも正式に除籍していない以上エスト家が犯罪に関わったと見られても仕方ない。
国としてこんな貴族のさばらせるわけにはいかないだろう。
トリスも愚かしかったが、親御さんもダメダメだったな。
カルディアの家は遺体を受け入れてくれた。
死に様を報告すると悲しみに耐えつつも気丈に振舞っていた。
葬儀に参加し墓にも参らせてもらった。
ただ、他の学園生には黙っていて欲しいと言われた。
学園へは自主退学とするとのこと。
周囲からの遠慮のない視線が辛いらしい。
これは親御さんの気持ちの問題なので、時間が解決するのを祈るのみだ。
いつか――卒業式の後かな――ラーミルさん連れて墓参りにでも行こうか。
教えてやれなかった婚約者を見せびらかして、学園卒業したことでも話してやろうかな。
……そういえば、父上が言ってたな。
「辛いことあったフリしてワザと甘える」云々と。
卒業後なら「あ~んなこと」や「こ~んなこと」も大丈夫だよね?
むふ~♡
――――
青き空の元、王都の混乱は終わりを告げた。
国としては危険薬物の製造拠点を潰し、王都民は安堵の声を上げた。
その騒動制圧の中心にとある家族が関わっていることを民は知らない。
その騒動で……友を失い慟哭した学園生がいることも民は知らない。
四章「学園風景」、これにて完了となります。
なぜかまた女装するは、【才媛】や【緊縛】のあだ名がニフェールにバレるは、色々とあった四章でした。
なお、色々話の内容が想定外の動きをしております。
一部ですが以下に。
・裁判前の女装:想定通り(三章の記載通り)
・裁判後の女装:想定外(女装して潜伏は予定に無かった)
・カルディア&トリスの死&死因:想定外
(元は暴走トリスがカルディアを殺す。トリスはニフェールに捕らえられ鉱山へ)
まぁよく終わりまで持って行けたとホッとしております。
次の五章の章名は「長兄の結婚式」。
アゼルが人生の墓場への突撃とカールラの勝利宣言(?)を予定しております。
とはいえ、それだけで済ませることはできずに色々暴走するのだろうと思います。
正直作者もコントロールできるか不安になってきた本作ですが、何とか頑張ってみます。
で、五章開始スケジュールですが、5/20(月)から開始できればと考えております。
念の為5/19(日)に活動報告で再開可能か報告させていただきます。
最後に、現時点で五章では女装の想定はしておりません。
まぁ、メインがアゼル&カールラの結婚式である以上、女装の必要性が無いので。
# カールラを喜ばせるためだけに女装させる気はありません。
六章(想定では五章の時期の学園の話)の方で書こうかなと思っています。
なので、
・頭に本を乗せてドレス姿で歩くニフェール
・化粧の仕方を学ぶニフェール
・女装したうえでフェーリオとダンスの練習をするニフェール
等を読みたい方は六章までお待ちください。
# 上記は予定です。変更の可能性がございます。
では、5/19(日)の活動報告で。




