20
戻るとアムルたちも含めて全員居た。
大急ぎで説明を始める。
「ここ数日でいなくなるか……ギリギリだったな。
明日襲撃で間に合うか?」
「何とも……正直言うと、今からでも襲撃かけた方がいいとは思ってます。
ただ、準備が足りないのでは?」
侯爵は痛いところを突かれたかのようにガクッと項垂れる。
「そうなんだよなぁ。
正直最速で明日の深夜だ」
「ではそれで行きましょう。
それと、トリスを見つけました」
「なにっ!」
侯爵、落ち着いて。
「裁判の時のあいつらよりかは壊れていませんでした。
ただ、逃走時にたっぷり薬をくれてやって壊すようなことを言ってました」
「そしてトカゲの尻尾とすると?」
無言でうなずく僕に頭を抱える侯爵。
「後、本日利用した小路を管理している奴らは薬の関係者でもありました。
調査中にそのような話が聞こえてきてます」
「……もし何なら最初の小路と今日の小路二つ使って一気に攻め落とせるか?」
「不可能ではありませんが、今日の小路を使う場合少々狭苦しいので攻撃のタイミングは合わせずらいかと」
どう考えても最初の小路の方が早く中心部に到着するからなぁ。
「なら今日の小路の出入り口は当日騎士団で封鎖しよう。
出てきたものは捕えればよろしい」
まぁそれなら大丈夫かな?
「ではそれで。
ちなみにバッロ家の方は?」
「父親には直接伝えた。
こちらの作戦も理解してくれた。
明日か明後日とは伝えてあるので、明日改めてカルディアを留め置くように伝えておく」
これでカルディアが危険な目に会うことは避けられる。
「最後に、ジーピン家からの参加は誰?」
アゼル兄を見ると、ちょっと悩んで――
「父上、母上、すいませんが参加願います。
アムル、お前は留守番だ」
「むぅ……」
やっぱりむくれたか。
でも無理だぞ、母上が絶対止めるから。
「アムル、領地では手伝ってもらったが、今回はダメだ。
あの時よりも危険すぎる。
もう少し……あと二年は待たないと連れて行けない」
「はぁい……」
「お前の兄たちもその位で参加させている。
それまでにもっと色々教えるから、学び覚えよ」
「はいっ!」
流石母上。
これで大体の問題は片付くかな?
「あ、アムルは明日もフィブリラ嬢の所かな?」
「その予定ですけど?」
「カールラ姉様、すいませんがアムルの面倒見ていただけますか?
ジーピン家全員明日深夜の為に仮眠取ると思うんで」
「いいわよ、アムルちゃん、一緒にフィブリラちゃんの所でお勉強しましょうね?」
「はいっ♡」
……ハートマーク?
いや、気にしない方がいいか。
下手に触れる方が怖い。
「ふむ、ではニフェールは明日の今くらいの時間にこの家に来てくれ。
では解散」
僕はそのまま寮に戻り休む。
次の日の朝になり、庶務課に外泊届を提出。
その後また仮眠をとり、夕刻にジャーヴィン侯爵家に向かう。
自分の得意武器である双剣を持って。
◇◇◇◇
僕、カルディアはいつもの監視を終わらせ自宅に戻る。
昨日の朝にニフェールに会ってから連絡が取れていない。
まぁこちらは変化なし以上の報告は無いが、ニフェール側の情報が欲しい。
トリスを捕まえるためにも。
トリスと話すためにも。
そんなことを考えながら繁華街を通り自宅に帰ろうとすると、ニフェールを見かける。
「ニ……」
声を掛けようとしたが、途中でやめた。
今日のニフェールの姿はおかしい。
双剣を腰に佩いているが、ニフェールは双剣なんて使えるのか?
学園では見たこと無い……まぁ、授業は基本片手剣か槍だから見る機会は少ないだろうけど。
もしかしてニフェールは双剣使い?
となるとこんな時間に武器持って移動って……まさか?
今日、これから言えない類の戦闘が始まるってこと?
そしてトリスはその渦中にいると?
それに加えて、いつも学園で見ているような感じがしない。
何と言うか、実技については手加減しているような感じを受けるときがあった。
でも今は手加減するような雰囲気ではない。
むしろやる気がみなぎっているような、そんな感じを受ける。
つまり、今のニフェールは本気、もしくはそれに近い?
待て待て待て!
そんな状況だと、トリスは生きていられないだろう?
ただでさえ僕より弱いのに、本気になったニフェールの前に出たらサックリ切られるだろう?
加減忘れて肉屋の解体並みに切り分けられるんじゃないのか?
そんなのダメだよ!
僕は会話をしたいのであって、上腕三頭筋とか大殿筋とか解体して部分的に見せられても困る!
……うん、今夜は帰らない!
こっそりニフェールの行動を監視しよう!
そうして僕は侵入作戦を練る。
ニフェールを信じず、自分の都合を優先して。
◇◇◇◇
さて、「流石侯爵家!」と言わんばかりの夕食をご馳走になって、今は真夜中。
一旦王宮の手前、入口の所に騎士たちと一緒に集合している。
詳細は既に各部隊長に話は済んでおり、後は進むだけ。
アゼル兄、マーニ兄、父上は製造場所に突撃する先行部隊に参加。
僕と母上は補佐部隊として先行部隊の後ろについて行くことになる。
そんなことを考えていると、ジャーヴィン侯爵が苦々しい表情をしながらこちらに顔を出してきた。
「ニフェール、カルディアが行方不明だ」
その時の僕の表情はどうだったのだろう。
皆が揃って心配する姿を呆然と見ているような、自分が自分でなくなるような感じだった。
嘘だろ、あれだけ勝手に動くなと、危険だと説明したのに。
ラーミルさんの義娘のグリースもそうだ。
なぜそこまで自殺まがいの事をする?
お前らの安全を考えて動いているのに!
「ニフェール」
母上が僕の意識を現実に向ける。
「今グダグダ考えても仕方ない。
ここまで来ている以上予定の変更もできん。
なら、カルディアの運の良さに期待するしかない」
運の良さ、か。
正直このタイミングで行方不明になる時点で不運とイチャラブしてると思う。
とはいえ、それに期待するしかないか。
「侯爵、各部隊に僕ぐらいの貴族男性が二人いること、片方は薬を既に飲まされていること、基本殺さず、でも犯行が激しければ四肢を切り落とすまでは許可するとお伝えください」
「……いいのか?」
気を使ってくれる侯爵。
ありがたいけど、そこで感情的になったら駄目ですよ。
「僕の感情を入れることは悪手です。
金かけて、時間かけて使えるようにした騎士たちをこんなくだらないことで引退させるわけにはいきません」
「分かった、伝えておく」
侯爵に伝える僕に憐れむ目を向ける家族。
いや、自分でも分かっちゃいる。
いるんだがそこまで憐れまないでくれ。
「ニフェール、全て終わったらラーミルの胸で泣いて良し!
アタシが許可するから、今は全力でこの仕事を成功させろ!」
母上、その発言滅茶苦茶危険です!
別のヤル気があふれ出てきます!!
出動前にそんなドタバタがあったが、ともかく全部隊出撃。
父上や兄たちのいる先行部隊は即最初の小路から突撃開始。
僕と母上は少し時間置いてから参戦。
それとは別に二部隊が昨日行った小路を封鎖。
これである程度の封じ込めはできるはず。
最初の小路に近づくとデートに言った店のそばにいた監視役がいない。
夜は監視していないのかな?
それとも逃げる予定だから監視不要と判断された?
マーニ兄、アゼル兄、父上の順で小路から突撃していく。
早くも叫び声やうめき声が聞こえてきていることから、何人もの者達が叩きのめされているようだ。
先行部隊が皆進んだところで僕と母上が参加する補佐部隊も小路に入る。
各小隊単位で途中の分かれ道を確認、もしくは家を捜査する。
この辺りは僕は何も関わることは無いので完全にお任せ。
「ニフェール」
ん?
この声は……ラクナ殿?
「おや、ラクナ殿。
ここでお会いするとは」
「あぁ、先行部隊を希望したのだが……」
「……もしかして、僕と接点ができたことから監視役に選ばれた?」
「……」
いや、こっちは構いませんけどね。
監視が必要と考える位には何やらかすか分からないと思われているのか。
そんなやらかす要素、今回はそんなにないと思うんだがなぁ。
ラクナ殿は溜息を付き少し訂正し始めた。
「監視役の認識はあっているが、それと同時にお主が問題あると判断した時にすぐ動けそうなのが儂だっただけだ」
「それも、僕との接点のせいですね」
「……」
「貧乏くじ引かせてすいませんが、この件が終わるまではご協力願います」
「ふん、お主が騎士団に来たら苦労するのだろうなぁ」
「あ、大丈夫ですよ、行きませんから」
「はぁ?」
あれ?
そういえば、前回会った時にはその辺り話してなかったな。
「ジャーヴィン侯爵家三男の側近やってまして、チアゼム家に婿入りされる予定なのですよ。
なので、騎士になるより文官になった方が役に立ちそうだったので所属は騎士科ですが、実際は文官科の勉強もしてます」
「うぇっ?
そんなことできるのか?」
あれ?
「ご存じないです?
他の科の授業は出てませんが、筆記試験は全部の科の試験受けさせていただいてます。
と言っても他の科の試験受け始めたのはつい最近からですけどね」
「はぁ~、そんなこともできるのか。
知らんかったぞ」
もしかしてラクナ殿の時代はやってなかったのかな?
「さいき――」
「報告します!
脇道で青年二人が争っております!」
青年?
二人?
おい、おいおい、まさかあの二人か?
「母上、ラクナ殿、ここお願いします!
そこの人、案内して!」
「は、はい!」
「分かった、行ってこい」
「ちょ、ちょっと!」
母上からの許可とラクナ殿の慌てっぷりを聞き、報告者に案内してもらい現場に到着すると、予想が当たってしまった。
トリスとカルディアが戦っている……いや、トリスがカルディアを圧倒しており、正直戦いになっていない。
瀕死の鼠を弄る猫とでも言うのか、トリスが大剣を振るうたびにカルディアが右へ左へフラフラと振り回されている。
トリスは片手剣と盾の戦い方しかしてなかったはず。
大剣なんて使ったところ見たこと無いはずなのに。
筋力増強の薬でも飲んだのか?
報告者を追い抜き、トリスに一気に迫る!
「カルディア、どけ!」
ガ キ ン !
カルディアは僕の声に反応しきれず後ろによろけ、トリスは僕が大剣を左手の剣で止めたことに驚きと怒りを覚えた様だ。
「カルディア、生きてるか!」
「なんとかね!」
返答できるのなら大丈夫だろう。
トリスは大剣を振り回してくるが、アゼル兄の大剣を受けることに比べたら子供の遊びにしか感じない。
「さっさと下がれ!
お前じゃ無理なの分かったろう?!」
「だって、トリスと……」
「トリスはお前のことを覚えていたのか?
ここにきて会話でもしたのか?」
答えを待つが、返事がない。
カルディアも覚えてもらえなかったのだろう。
むしろ会話が成立したのか疑問だが。
「薬を飲んだ結果だろうけど、もう僕たちの事も覚えてないんじゃないのか?
ならこれ以上足掻いてもこいつは正気に戻らない!」
「なんでそんなこと分かるんだよ!」
「裁判の相手がその状態だからだが?」
「えっ?」
ここまで来たらある程度は教えるか。
その方が納得してくれるかもしれない。
「裁判の相手は休憩時間に薬を飲まされてイカれた発言を多発していた。
その後もおかしくなったままだそうだ。
その薬を作っているのがこの奥にある施設。
僕たちは作っている奴らを叩き潰すのにジャーヴィン侯爵に協力している」
驚きで声も出ないか?
トリスの攻撃の合間にチラッと後ろを見るとカルディアが唖然としているのが見えた。
「そして、トリスがおかしくなっている可能性があるのは前に言ったな?
多分、ここから犯罪者組織が離脱するためにトリスに薬をくれてやって暴れるよう指示したのだろうよ。
トカゲの尻尾切りって奴だ」
「なぜ、そこまで教えてくれなかったのさ!」
「国として、騎士団として調査している内容を簡単に言えるわけないだろう?
授業で習っただろうに」
「いや、それはそうだけど……」
「まさかクラスメートには国の情報も駄々洩れにすべきとか言わないよな?」
「……」
カルディア、騎士科一年生からやり直すか?
流石に今の反応不味すぎるぞ。
「さて、僕からカルディアへの叱責はこんなところだが、トリス!
何か言い分はあるか!」
僕の言葉に返してきたのは「グァアアアァァッ!!」という雄たけびのみ。
え、会話以前に言葉も話せなくなったの?
「カルディア、まさかトリスとは意思疎通自体が成立していない?」
「そ、そうだよ!
ギャーギャー騒ぐだけだったんだもの!」
そこまで壊れているのか、トリス。
なら、さっさと戦闘不能にするか。
左剣を右腰辺りに構え、一歩左足を前に踏み出す。
トリスはそれに合わせて頭に大剣を叩き込もうとする。
「ちょっ――」
カルディアの声が聞こえたが、気にせず左真横に体さばきを行う。
トリスが振るった大剣が先ほどまで僕がいた所を通り過ぎて行く。
その状態で少し屈み、伸び上がるようにしてトリスの右手首を左剣で切り落とす!
ザ ク ッ !
グ ギ ャ ア ア ァ ァ ! !
左手だけでは大剣を持てず手放すトリス。
僕はそのまましゃがみつつ右回りで一回転して右剣でトリスの右足首を狙って切る!
ザ ク ッ !
最近双剣使ってなかったので不安だったが、うまく腱の辺りを切れたようだ。
倒れるトリスにカルディアが走って近づく。
って、危ないぞ?
まだ動けるんだからな?
次回で四章終了となります。




