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その後話し合いは終了し、両親&アゼル兄&カールラ姉様&アムルは大公家へ。
マーニ兄と僕はジャーヴィン侯爵に連れられて騎士たちが待つ訓練場へ。
王宮に入り訓練場に案内されると、何か暑苦しい会話が聞こえてくる。
「さて、そろそろジャーヴィン侯爵が我らの仲間に暴力を振るった者を連れてくる!
我らの仲間に理由なく暴行する輩を許すわけにはいかん!
我らの誇りにかけて暴力には屈しない!」
暴力には屈しなくても侍女さんたちを死なせそうになるのは許されるんだ?
根本原因を理解していない人に説明するの面倒なんだよな……。
「すまん……」
ガチで泣きそうな顔をしてジャーヴィン侯爵が謝罪してくる。
「侯爵、謝罪は不要です。
この者たちが学業を学ばず自分の妄想で騎士としての仕事が完遂できると思っているのが諸悪の根源なのですから」
「そうそう、俺とニフェールでボコっておくから気にしないでくださいよ」
「あ、マーニ兄、ちょっとあのバカ共に教育しちゃっていい?」
「暴力による教育?」
「違う!
僕は現役学院生なんだから、最低でも一年と半年分の授業内容からツッコんでみようかなって」
ねぇ、その「うわぁ……」って表情何なの?
ジャーヴィン侯爵まで同じ顔して。
「一応これでも同学年で騎士科一位を維持しているからね。
誤りを指摘して正しいことを説明するのは慣れているから。
単位落としそうな学院生の面倒を見た経験もあるしさ」
「……正しい事を言ってあいつらが反省すると思うか?」
「いや、全く。
でも、学生でも分かる部分を騎士として理解していないというのを印象付けるのはできるよ?」
まぁ、ただの煽りになりそうとは思っているけど。
「ニフェール、結構怒っているだろ?」
「マーニ兄と同じくらいにはね?」
二人で一緒に笑顔を見せたんだけど、なぜか侯爵は頑なにこちらを見ようとしない。
兄弟の微笑ましい一幕でしかないのに、どうしたんでしょう?
さて、訓練場に入ると中心人物と想定される人物が一歩前に出た。
「貴様らが我らが騎士の仲間に暴力を振るった者か!!」
「発言の前にまずジャーヴィン侯爵様に対して騎士の礼を取れ馬鹿者!!」
いきなり声掛けしてきた輩に対して僕は叱りつける。
騎士なら常識的な礼儀ぐらい覚えろよ!
流石に僕の発言の方が正しいと認識したのか、慌ててその場にいた騎士たちが侯爵に騎士の礼を行う。
侯爵は呆れつつも返礼し、今回集まった理由について説明を始める。
「今回こちらの二人をわざわざ呼んだのは、貴様ら騎士があまりにもひどい勘違いをして暴走していると聞いたからだ。
正直、ここまで説明しても理解できないというのが儂としても驚きなのだが。
この二人が今回の件について貴様らの愚かしい部分を説明してくれる。
万に一つでも理解できるものがいたら、貴様らの恥ずかしい行動を反省してほしい」
ねぇ、ジャーヴィン侯爵?
それって「どうせお前ら理解できないだろ?」と言っているようにしか聞こえないんですけど?
「はっ、ジャーヴィン侯爵殿。
彼らが我々に説明ですか?
素人がどのような説明をしていただけるのですかな?」
「貴様らが学園の騎士科でちゃんと学ばなかったことを教えてくれるだろうさ」
鼻で嗤う騎士代表に鼻で嗤い返すジャーヴィン侯爵。
侯爵、相手のレベルに自分のレベルを下げるのはちょっと……。
侯爵が下がり腕組んでふんぞり返る。
なぜそこで後方彼氏面するのか分からないけど、とりあえず話を進めるためにマーニ兄と一歩前に出る。
「改めまして初めまして。
僕はニフェール・ジーピンと申します。
よろしくお願いします」
「ニフェールの兄の一人、マーニ・ジーピンだ。
よろしく頼む」
向こうは……何の反応も見せないな。
むしろ、ニヤニヤしてやがる。
「皆さんは自己紹介もできない程に頭が悪いのですか?
先程ジャーヴィン侯爵に騎士の礼もできていなかったので不安ではあったのですが、こんなこともできない程に礼儀知らずだったとは……」
ちょっと煽ってみると即刻ブチ切れ、侯爵を鼻で嗤った騎士代表が騒ぎ出す!
「ふざけるな!
我々を礼儀知らずと罵るか!」
「言われたくないのなら自己紹介位してくださいよ」
「貴様ら如きに名乗るほどの安い名ではない!!」
安い名って……。
価値の無い名ではあるけど。
「分かりました。
仕方がないので、あなたをこの説明の間は『クズ』と呼びます。
では『クズ』、説明を始めますよ?
ちゃんと聞いてくださいね?」
「誰が『クズ』だ!」
何ブチギレてんだよ。
「仕方がないじゃありませんか?
名も名乗れない、私のようなものに怯える無能なんでしょ?
怖くて名を知られたくないから駄々をこねてるんでしょ?
ならあなたの行動から適当な名を考えてあげたんですよ?
この事態を作ったのはあなたですからね?」
「お前が悪い」と明言すると、顔を真っ赤にしつつ名を名乗ってくる。
「わ・し・は、ラクナ・ファクトだ!!
騎士隊長を務めておる!!」
叫ばなくても聞こえるよ。
全くここまで追いつめないと名も名乗れないとは……。
「はい、ラクナ殿。
では改めて説明を始めますね。
こちらにいらっしゃる方々は学園で騎士科に所属されていたと思いますが、当然『護衛』『偵察』の授業を受けていらっしゃいますよね?」
「当然だ!」
本当か?
「では、問題です。
護衛対象は二人。
危険なことが起こりうる場所に向かわなくてはならない。
ただし、目立つことは禁止。
目立った場合、護衛対象の命が奪われる恐れあり。
さて、この場合に護衛は護衛対象を守るためにどのような対応が必要でしょうか?」
……あれ?
ラクナ殿、なぜ黙るのでしょう?
「……あの、ラクナ殿?」
「やかましい、ちょっと待て、考える!」
「いえ、そうじゃなく、今の僕の出した問題が理解できてますか?」
「聞こえておる!
だからこそ答えるために考えているのではないか!」
は?
何言ってんの?
「じゃあ、質問の仕方を変えて○×形式にします。
先程の条件は同じです。
この時に護衛は完全武装――鎧兜を身に着け片手剣と盾を装備――するのが正しい。
○か×か?」
「×に決まっておろう!」
ほぅ、その位は分かるか。
「では次の質問。
条件は同じだが、向かう場所はかなり人通りが多い。
護衛は鎧兜は付けないが片手剣を持ち護衛するのが正しい。
○か×か?」
「×に決まっておろう!
馬鹿にするのもいい加減にしろ!
人通りが多ければナイフならともかく片手剣なぞ振り回せないだろうが!
そんなことも理解できんのか、貴様は!!」
そこまで言うのになぜボコられた騎士を守ろうとするのか理解できないが?
「一応確認ですが、ラクナ殿の後ろにおられる皆さん。
ラクナ殿と同じ回答でよろしいですか?」
互いに顔を見合わせた騎士たちも諾を返す。
いや、これでちゃんと回答できるのならなぜ僕らに文句を言うの?
「さて、今のところ皆さんは正しい回答をされております」
なんか、後ろの騎士で一部ホッとしているのがいるぞ?
大丈夫か?
「わざわざ質問した理由ですが、僕たちが殴って止めた騎士たちは最後の問題で〇にしてます」
「はぁ?」
ラクナ殿、何驚いているんだ?
「何を驚いているのかわかりませんが、あの騎士たちは侍女たちが見た暗殺者と僕が見た人物が同じ人か確認するために護衛をしようとしたところ、割り込みで護衛をすると言い張り、帯剣して護衛しようとしてました」
「……」
ふらついているようだが、大丈夫か?
「僕らは暗器や小型のナイフを用意して目だたないようにしていたのですが、わざわざ帯剣されては目立つ事この上ない。
それに加えラクナ殿がおっしゃった通り人通りの多い広場で剣なんて邪魔でしかない」
「…………」
口をポカンと開けているが、頭働いてるか?
「そして相手は暗殺者の可能性がある。
下手な行動を取って相手に気づかれたら、侍女たちはいつ暗殺者に処分されるか怯えながら暮らすことになるでしょう。
ただでさえ、王宮に暗殺者が入れているのですから」
「………………」
顔真っ青だが、倒れるんじゃねぇぞ?
「僕たちはこんなふざけた護衛を連れて行くなんて自殺行為をする気はありませんでした。
でもあの騎士たちは無理にでも付いて来ようとする。
ジャーヴィン侯爵の制止も聞かない。
なら殴ってでも止めるしかありませんよ」
「……………………」
おい、ラクナのオッサン、息してるか?
「さて、ラクナ殿?
今までの内容で、僕たちの取った行動のどの部分がおかしいのでしょうか?
現在学園騎士科の第二学年に所属する僕に納得できるような説明をお願いします」
おうおう、ビビってるビビってる。
自分の発言が学園にまで広まる可能性に気づいたか?
だが……ま だ だ ぞ ?
「ちなみに、入学してから実技、筆記とも騎士科学年一位を譲ったことの無い者として、おかしいと思った部分には全力で指摘させていただきます。
いや、皆様学園卒業した方なのですからまさか誤った説明なんぞしないとは思いますが、一応ね?」
騎士側から情けない発言が聞こえてくる。
「実技筆記とも一位? 嘘だろ?」
「お前アレに口で勝てる?」
「筆記がブービーの俺に何を期待する?」
小さな声で話しているつもりのようだが全部聞こえているからな?
というか、ジャーヴィン侯爵とラクナ殿も呆れているぞ?
少し後にラクナ殿はジャーヴィン侯爵に謝罪を始めた。
頭の中を整理するのにちょっと時間が必要だったようだ。
「我々の勘違いでご迷惑をお掛けし誠に申し訳ありません!!!」
「誤解が解けたのならそれでよい。
それよりもなぜあの者たちが暴走したのか、そちらを確実に調査してくれ。
正直言ってなぜ護衛についての知識無く、人通りの多いところで帯剣するなんて行動を取ろうとしたのか儂らにも理解できず困惑していたのだ」
「確かに、こちらでも常識が通用しないのは想定しておりませんでした。
聞いた話ではいきなり問答無用で攻撃を受けたと……」
「一部は事実だ。
ただ、その攻撃を受ける前に何を話したのかは聞いたか?」
「何も……」
つまり、都合の悪いところを伏せて報告したんだね。
その結果が侯爵とラクナ殿の角突き合いになっちゃったと。
アイツら最悪じゃん。
その後はラクナ殿が水飲み鳥のようにペコペコ頭を下げるシーンが続いた。
正直蚊帳の外な状態でマーニ兄と飽きが来ていた頃、チャレンジャーな者たちがやって来た。
「やぁ、ニフェール君だっけ?
本当に騎士科一位なの?」
「ええ、信じられないのなら学園に問い合わせを。
騎士団の仕事として情報を求めれば答えていただけるかと思いますよ?」
ギョッとする騎士たち。
いや、人様の成績勝手に見れると本気で思っているのか?
マーニ兄、戦闘に期待しているのは分かるが、表情!
ロッティ姉様が僕やアムルの女装化を見たときのように蕩けてるよ!
「んじゃさ~、ちょっと実力見せてもらってもいいかな?」
「そちら何人いらっしゃいます?」
「へ?
二十人かな?」
ふ~ん、そのぐらいか。
「では、十人一組でまとまってください。
片方は僕がお相手しましょう。
もう片方はマーニ兄、お願いできるかな?」
「いいぞ、どっち先にやる?」
「そこは後ほど決めましょう。
それより確認ですが、真剣勝負でよろしいですね?
それと、この場で殺しても構わないですよね?
こちらとしても十人ほど殺せば僕も兄も満足できると思うので」
とてもにこやかな表情でお話しすると、何故か騎士たちは怯え始めた。
なぜだろう。
相手の希望を叶えてあげようとしたのに。
「それと、この場所の利用許可と殺し合いの許可をラクナ殿に取ってください。
こちらは既にジャーヴィン侯爵に許可は頂いておりますから」
「え゛?」
「なぜ驚くのでしょう?
元々騎士側の暴走にジャーヴィン侯爵も不快を感じておられます。
そして僕たちも。
ならばと僕が知識で煽り、乗ってきたところで二人で殲滅。
僕らからしてみればただの予定通りな行動ですよ?」
何そんな驚いているのでしょう?
「単純に先ほどラクナ殿が謝罪されたので殺すのを一時的に止めているだけです。
積極的に実力を見たがるのなら、命をベットにお見せしますよ?
こちらも学園でいつも手加減しててつまらなかったんで……」
一歩踏み出して笑顔を見せてあげる。
なぜか「ヒッ!」とか声が聞こえるが喜びの声だろう、多分。
「ね、一緒にやりましょう?」
この言葉と同時に一斉に叫び声を上げて逃げ出してしまった。
……ねぇ、冗談でしょ?
……あんたら騎士でしょ?
……この程度で逃げ出してどうすんの?
……こんなんで王家の方々守れるの?
頭をボリボリと掻いているとジャーヴィン侯爵とラクナ殿が呆れた様子でこちらを見ている。
いや、流石にあんな程度で逃げ出すなんで騎士としてダメすぎじゃね?
【ファクト家当主・騎士隊長:特定派閥無し:騎士爵家】
・ラクナ・ファクト
→ 脳梗塞の一つ、ラクナ梗塞から。




