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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
4:学園風景
42/362

5

 その後、試験結果が判明する。

 

 騎士科分はいつも通り。

 一位は確実だろう。


 領主&淑女科分は国語他、点を取れそうと予想していた科目は全て高得点。

 不安要素の強い算術、法律、礼儀作法、政治経済、外国語はギリギリ四割。


 そして文官科も同様だが、礼儀作法は四割。

 外国語が三割。

 法律と政治経済が二割。


 最後に算術が……五点。

 割じゃありません、点です。


 

 流石に五点はショックでした。

 いや、覚悟はしていたんですよ?

 でも他教科が予想以上にできてしまったので、「算術も大丈夫じゃね?」なんて甘い考えを持ってしまった。

 そんな調子に乗った僕に届いたのが五点の答案。

 

 ええ、ショックでした。

 事前にフェーリオに指摘されていたとはいえ、覚悟が足らなかったようです。

 

 ちなみにフェーリオたちは算術、法律とも三割取れたそうです。

 くっ、悔しくなんかないんだからねっ!

 

 

「大丈夫かい?」

「ん、あぁ、カルディアか」


「なんか死んだ目をしてたから」

「確かに死んでたからな、成績が」

「あぁ……」



 やったね!

 死んだ目が増えたよ!


 

「とりあえず試験は横に置いておいて……」


「現実見とけ。

 未来が無くなるぞ」

「置いておいて!

 明日から休みだけどニフェールはどうすんの?」


「明日から実家に帰る。

 というか、試験終わったら実家に顔出せと命令が届いている」

「命令って……」


「下の兄まで迎えに来ているんで無視なんてできん。

 そんなわけで一週間くらい実家に。

 それが終わったら王都に戻って勉強とフェーリオの側近としての生活に戻るよ」


 

 カルディアは「そっか……」と呟いて一言、「僕はトリスを探そうと思う」と宣言した。


 ダメとは言えない。

 とはいえ、無茶をされるのは流石に悲しい。


 

「以前の条件忘れるなよ?」

「そこは大丈夫、忘れると思ったか?」


「夏季試験のせいで忘れたとか無しな」

「……それは考えてなかったな」


「そんな夏季試験余裕だったのか?」

「……確かに記憶が飛ぶ程度には苦行だった」


 

 そんな馬鹿話しながら夏休みを迎える。

 

◇◇◇◇


 夏の長期休みが始まってすぐニフェールを含め寮住まいの面々は一斉に実家に帰る。


 僕――カルディアは元々王都住まいなので帰るもなにも無く、チラチラと王都を見回っている。

 僕のクラスメイトである――いや、あったトリスは何をしているのか知りたかった。

 

 別に見下したいとか恋愛感情とかはない。


 ただ、レストが壊してしまった当たり前の生活。


 学園で皆でワイワイ過ごす日々。

 試験前に皆で頭を抱える日々。

 剣術の実技試験でどうやってニフェールに一本入れるか皆で真面目に検討した日々。


 それを壊したままでいたくなかった。

 完全に治すことは出来なくても元の形に近い感じで治って欲しかった。


 でも、トリスは僕に声もかけず黙っていなくなり周囲はレストが消えたのをあっさり受け入れている。

 僕だけ数ヶ月前から時間が進んでいないようだ。

 

 

 以前三人でぶらついてた頃によく行った屋台にトリスがいないか立ち寄り、トリスがちょっかい掛けて白い目で見られていた花屋の前を通り、レストが告ってあっさり振られたケーキ屋を覗く。


 それぞれ屋台も花屋もケーキ屋も存在し、普通に営業している。

 店員は笑顔で、客も笑顔で、ただ僕だけが笑顔になれない。

 

 

 いつか、この気持ちにケリをつけることができるのかもしれない。

 でも、今の僕には難しいとしか言えない。

 

 

 

 そんな鬱屈した気持ちを隠しつつトリスを探し続けること数日。

 王都の繁華街を歩いていると、遠目越しにトリスらしい人物を見つけた。

 

 その時の自分が笑顔、それも他人がヒくような笑顔を見せていたのは気づいていた。

 でも止められない。


 やっと見つけた喜びに顔の筋肉は屈服し、感情に支配された奴隷となっていた。


 さて、見つけたはいいが、この後どうしよう。

 声を掛けようかと思ったが、本当にトリスかは分からない。


 まずは当人か調べてみようか。

 

 学園で学んだ偵察技術が役に立ったようで少しの間はバレずに追跡できた。

 下手な勉強より役に立ってるなぁ。

 もう少しちゃんと勉強してみるか。

 

 だが繁華街を抜けそうなところで見失ってしまった。

 急いで周りを見るが、小路が多すぎてどこに入ったのか全く分からない。

 

 見逃したのか?

 バレて逃げられたのか?

 それ以前に追いかけた人物は本当にトリスだったのか?

 

 答えの見つからない問題を延々と悩み続ける。

 そんなことをしていると夕方になっていた。

 

 やむなく家に戻り今後どうするか検討を行う。

 試験前よりも頭を使っていると自負できるくらい考えた。


 少し熱が出た気がするが気にせずに悩んだ結果、見失った辺りで監視すること。

 ただし、ニフェールが戻ってきたら学園に戻り相談する。

 

 ニフェールに頼り切りな自分に腹が立つが、一番可能性が高いのがこの作戦だろう、多分。

 少しだけトリスと会う可能性が出てきたことに喜ぶ僕だった。

 

 

◇◇◇◇


 さて、ジーピン家領地から大急ぎで王都に戻ってまいりました。


 即刻チアゼム侯爵家に向かいロッティ姉様とラーミルさんを送り届ける。

 それと同時に領内で発生した犯罪の説明と中間報告(女装&着せ替え地獄含む)を済ませて学園に戻る。


 色々あったが、やっと戻ってこれた。

 裁判まではもう少し時間あるし、メインは勉強でどこか一日はラーミルさんとデートとしようか。


 それと、カルディアと会ったら状況教えてもらおう。

 多分見つかってないと思うけど。

 

 むしろそんな簡単に見つかっていたら、トリスの意図がつかめなくなる。


 単純に姿を隠そうとするのなら自分の周囲に気を掛けるだろうし、王都からさっさといなくなるだろう。

 アングラな世界に入るにしてもスラム辺りを根城にするんだろうからカルディアに見つかる可能性はかなり低い。


 学園で偵察任務のための知識を奴も学んでいるはずだからこのくらい考えるだろう。


 ……トリス、『偵察』の単位取れてるよな?

 ……流石に一年次の単位だからそう簡単には落とすことは無いと思うが。

 

 まさか遊び人に転職したわけではあるまい?

 ……違うよな?

 

 

 そう考えて学園の図書室に向かうと、何故か尻尾振って待っているカルディアがいた。


 いや、尻尾は無い……はずなんだが、なぜかもふもふの尻尾が見える。

 最近女装に戦闘にと大忙しだったから疲れているのかもしれないな。


 

「ニフェール、お帰り!!

 早速なんだけど……」



 騒ぎ出すカルディアを睨みつけ、小さな声で答える。



「いいから黙れ。

 ここは図書室、騒ぐ所じゃない。

 外に行くぞ」


 

 図書室の司書さんに謝罪をしてカルディアを連れて行く。


 司書さんの反応が「やれやれ、やっと行ったか」という感じだったので、かなりの時間迷惑をかけた様だ。

 いや、真面目に申し訳ない。

 

 誰もいなそうな空き地に移動し一通り話を聞くと、トリスを見つけたと報告を受けた。

 え、そんな簡単に見つかるものなの?



「繁華街で一度見かけて途中までは追跡したんだけど、そこで見失っちゃって。

 今はその近辺に張り付いて調査中」


「見つけた場所と見失った場所は?」

「見つけた場所は繁華街中心部、見失った場所は繁華街のはずれの方。

 でも、外れって言っても人通りはそれなりにあるんだけど小路が多くて……」



 あぁ、あの辺りか。

 確かに小路が多いわ、その小路も入り組んでいるわ、面倒なところに出没するなぁ。

 これは反社会的集団に関わったかな?


 

「まず、実家で厄介なことが発生したので重点的に手を貸すことが出来ない」

「えっ?」


「詳細は言えないが、他の貴族の家の者がうちの領地で誘拐しようとした」

「ええっ?」


「捕まえたが、貴族だから領主では裁けないので陛下の御前で裁判を開くことになった」

「えええっ?!」



 気持ちは分かる。


 

「んで、ジーピン家は全員裁判参加、当然僕も。

 それに加え、ジャーヴィン家、チアゼム家等侯爵家辺りまでは当主参加する予定。

 そんな騒ぎになっているので、すまんが元の想定程には対応できない」



 これは家の問題だからなぁ。

 ここで泣き付かれたら文句言ってたぞ。

 おとなしくしてくれて助かる。



「とはいえ、これから裁判までの期間の大半は学園の図書室には行くつもり。

 急に家族に呼ばれるかもしれないから絶対ではないけど」



 あぁ、そんなに凹むな。

 手は貸すから。



「なので、その間に継続して情報収集をお願いしたい。

 ちなみに繁華街のはずれで張り込み中という報告は良かったと思っている。

 なので張り込みは無理しない程度に継続してほしい」



 あぁ、そんなキラキラした目で見ないでくれ!

 なんか自分が汚れた人間に感じちゃうから!



「それと、小路の中までは入らないでね?

 どこの小路か分かったらその時点でジャーヴィン侯爵やチアゼム侯爵のお力を借りた方がいいし」


「え、なんで?」

「表に出てこない輩がいるでしょ?

 暗殺者とか、今のカルディアで倒せる?」

「……」



 無理ですよね。

 僕?

 人数次第では何とかなると思いますけど?



「そこで『倒せる!』と言わないだけ良くなったと思うよ?

 最初にトリス探したいと言われた時だったらもっと焦っていたんじゃないかなぁ」

「確かにそうだね」



 トリスの姿を見たことがプラスになっているんだろうな。

 いるかどうか分からない者を探すのと、いることが分かっている者を探すのとはやはり気持ち的に違うのだろう。



「方向性はこんな感じかな?

 何か質問は?」

「ん~、特に無いかな」


「じゃぁ、最後に質問だ」

「……なに?」


「学業をおろそかにしない。

 約束したな?

 さて、夏季試験の成績は程々と聞いているが、夏休みだからって手を抜くのは――」

「あ、もう行くね、またね~!」



 うわ、早!

 あいつ、あんなに足早かったのか?


 まぁ、いいか。

 ……秋季試験で地獄見るのはあいつだし。



 そんなこと考えながら勉強をするために図書室に向かう。


 まずは、夏の長期休暇中に領主&淑女科分で底上げ必要な四教科――算術、法律、礼儀作法、政治経済、外国語――の勉強からか。

 目標として秋季試験でこの科目で七割いきたいな。


 それと、ラーミルさんとのデートの予定を考えないとな。

 いつも食事だけじゃ飽きられちゃいそうだし、買い物……金がねぇ!


 どこか大道芸人っていなかったか?

 格安で楽しめるようなもの探さないとなぁ。



 そんな勉強とデートプラン検討を並行して考えていると、時は過ぎデート当日となった。

 流石にチアゼム家の門番たちも飽きたのかツッコミは無くなったようだが、むしろ別方向に楽しみを見つけた?

 妙に視線がいやらしいんだけど?



「ねぇ、もしかして僕たちでまた何か賭けてるの?」

「えっ?」



 ラーミルさんは驚くが、婚約受け入れの件で賭けになってたでしょうに。



「おっ!

 いい勘してんな!

 大当たりだ、お前らがいつ童貞&処女を捨てるか賭けてるぞ!」


「ちなみに俺は秋頃、こいつは冬に賭けているからその辺りでヤッて欲しいもんだ(ニヨニヨ)」



 ……可哀そうすぎるから指摘だけしておくか。



「母上から学生の間は我慢しろと言われてるから無理ですね。

 卒業後じゃないと賭けが成立しませんよ?」


「え゛?

 そうなの?」

「いや、そこは母親なんて無視して一発!」



 そんな自殺まがいのことはできませんよ!



「うちの兄たちより強い人間に反抗するって自殺にしか思えませんが?」

「……お前の兄って【死神】だよな?」


「【魔王】もいますけど、実力で母上に勝てないんじゃないかな?」

「う゛そ゛っ!!」



 そんなくだらん嘘を誰がつくかい!

 冗談抜きで勝てないんだよ!!

 二人掛かりでも!



「そんな訳なんでその賭け事中止にした方がいいですよ?

 どうせ皆さん今年中が大半なんでしょ?

 成立しないんじゃない?」


「ん~、確かに」

「これは別条件に変更だなぁ」



 あれ、そういえば?



「ねぇ、ロッティ姉様ってこの賭け参加してるの?」

「いや、前回ラーミルに情報ばらしたからニフェールとラーミルに関する賭けには参加させないことに決まった」



 ぶはっ!

 まぁ、賭けの胴元からしてみれば義姉権限で好き勝手されたらたまらないだろうしなぁ。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] カルディアはひと夏の経験で一皮剥けかけたご様子♪ その頃ニフェールはアムルくん共々新たな世界を垣間見ていたんですねぇ(;^_^A [気になる点] >二人掛かりでも! 三人掛かりでも勝てな…
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