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3/5投稿分、二話目です。

明日も二話投稿予定。



 ド ッ カ ~ ン !



 ラーミル様と僕が顔を赤くしているとグリース嬢が勢い込んで戻って来た。

 どこか破壊したような音だよな?

 大丈夫か、この家?



 即ラーミル様から叱責を受ける。

 だが、そんなことどうでもいいとばかりにハンカチを見せてくる。



 なお、父親sは互いのおしゃべりに専念してこちらを見ようとしない。

 まぁ、顔を赤らめていたのがバレなくてよかったと思おう。



「これをあなたから頂いたのですわ(ペペッ)!

 これに見覚えがあるでしょう(ペペッ)!」



 見せられたハンカチには確かに見たことのある紋章が刺繍されていた。

 学園に来てから何度も見てるし、つい最近も見た。


 狼の横顔と二本の槍を交差させた形。


 ジャーヴィン家の紋章だった。



 え、ってことはこのバカ娘は五年前のフェーリオに惚れた?

 でも、もっと昔にジル嬢と婚約してなかったっけ?


 フェーリオが浮気?

 いや、無いな。


 あの二人のイチャつきっぷりは婚約当初――五歳位からだと聞いてるし。

 というか、これ伝えたらこの猪娘が学園で暴走しないか?

 そしてその報復としてセリン伯爵家は両侯爵家からボコられる?



 アッチャーと頭を抱えてしまう。

 この娘さん、バカ娘から危険物にクラスアップしやがった。



「兄さん、大丈夫?」

「ニフェール殿、大丈夫ですか?」



 アムルとラーミル様が心配して声を掛けてくる。

 ちょっとヤバい未来を推測してしまったからか、顔を青くしていたようだ。



「二人とも、大丈夫です。

 ちょっと危険な未来を予想してしまったので」


「危険な未来?」



「ええ、ニーロ殿と父上、そろそろ会話に入ってください。

 最悪、セリン家を潰さないように動かなきゃならないんですから」


「は?

 セリン家を潰さないように?

 なんじゃそりゃ?」



 潰すなんて危険な言葉が混じったからか全員がこちらを向く。

 父上、話聞いてればあなたでも推測くらいはできたでしょうに。




「まず、このハンカチの持ち主は僕ではありません。

 この紋章とグリース嬢や私と同年代となると、該当するのは一人。

 フェーリオ・ジャーヴィン侯爵子息です」



 僕以外の部屋にいた全員が「えっ!」と驚きの声を上げる。



「ニーロ殿、父上。

 この紋章はジャーヴィン家のだと思いますが念の為ご確認願います」


「う、うむ」

「承知した」



 二人は急ぎ確認し――



「ニフェールの言う通り、ジャーヴィン家の紋章だな」


「ええ、その通りですね」



 ――紋章に間違いない事を確認する。



 グリース嬢は「えっ、えっ?」と困惑しているようだ。

 理解が追い付いていないのかまともな言葉を発してこない。


 まぁ、唾撒き散らかされるよりかはいくらかマシだが。



「ここからは推測交じりの発言になりますが、よろしいですか?」



 皆が首肯したのを確認し予想を説明する。



「五年前のチアゼム侯爵家でのパーティ。

 そこでグリース嬢が会ったのはフェーリオ様だった。

 フェーリオ様はジャーヴィン家の末っ子だからそう伝えたのでしょう。

 だが、グリース嬢はジーピンとジャーヴィンを聞き間違えたのだと思われます。

 で、我らジーピン家の末っ子を婚約者に望み、アムルと婚約者になった」



 僕の推測を検討するが、特におかしなところは無いと皆納得してくれた。



「ただ、この推測が正しくてもちょっと変なところがあるんですよねぇ」

「変なところ、ですか?」



「えぇ、まず婚約時点でアムルは五歳、グリース嬢は十歳。

 それだけ年の差があれば手紙とかのやり取りでなんとなくわかりませんかねぇ。

 具体的に言うと、五歳児に十歳児が喜ぶような文章を書くのは難しいのでは?」



「あっ!」



 ラーミル様が感づいたようだ。

 もしかするとその続きも気づいたか?

 妙に怒りの気配がするのだが。



「さて、アムル質問だ」


「は、はい!」



 なんか怯えられているが兄としては悲しいぞ。

 怖がらなくていいから正直に教えておくれ。



「アムルが婚約者になってから、グリース嬢に何かしたかな?

 例えば手紙を送ったとか、贈り物をしたとか。

 それと、婚約後グリース嬢から手紙や贈り物等を頂いたかな?」


「ん~っと……」



 顎に人差し指を当て記憶を呼び出そうとするアムル。

 うん、可愛い!



「手紙は毎月出しました。

 婚約時点でまだ五歳だったので難しい言葉とかは書けませんでしたが」



 まぁ、そりゃそうだな。



「グリース様からは婚約後半年くらいまでは届いておりますが、その後は全く」




 ……え?




「贈り物は誕生日だけですがお贈りしてます。

 ですが、頂いたことはありません。

 だからと言って贈らないのは失礼なので毎年贈り続けておりました」




 ……おい。




 アムルの答えにニーロ殿、ラーミル様お二人は顔を真っ青にしている。


 普通の貴族ならそうなるよなぁ。

 当人は全く気にしていないようだが。



「うん、それだけやってれば婚約者としては十分だ。

 流石に五歳児に完璧なエスコートなんぞ求めないだろうしな」



 そんなことを言いつつアムルの頭を撫でる。


 ……ぼかぁ、幸せだなぁ(ホワァ)。



 もう少し幸福に浸りたかった……。

 だが自制心を総動員してバカ娘のやらかしの説明を続ける。



「今の言葉からジーピン家からの手紙、贈り物は届いているはずですね?

 グリース嬢、あなたはアムルになぜ手紙を送らなかったのでしょう?」


「だ、だって!

 同年代の子があんな手紙を送るなんてありえないじゃない(ペペッ)!」




 カ ッ !




「あんなって言うなよ!

 お前のわがままで婚約者にさせられたアムルが頑張って書いたものだぞ!!

 どこまでこっちを侮辱するつもりだよ!!!」



 流石にこの物言いは許せず、立ち上がり睨みつけて怒る。

 グリース嬢は顔を青くしてガタガタ震える。



「兄さん、僕は大丈夫です!

 だから落ち着いてください!

 いつもの優しい兄さんでいてください!!」



 ブチ切れた僕をアムルが必死で止めてくる。


 流石にアムルを振り切る訳にもいかん。

 とはいえ、ちゃんと言うこと言っとかないとな。


 グリース嬢を睨みつけ――



「グリース嬢。

 次にふざけたことを言ったら……。

【狂犬】の名が付いた時と同じことをやってやるよ」



「へ?」



「お前の喉笛嚙み切って殺してやるって言ってんだよ!!」



「ヒ、ヒィ!!」



 ――死刑宣告を告げる。

 まぁ、前回殺してはいないんだけどね。



 グリース嬢はガクガク震えてラーミル様にしがみついている。

 ったく、発言に気を付けろよ。



 深呼吸し心を落ち着かせて先程の続きを確認する。



「話を戻しますが……ニーロ様。

 婚約者に何かを贈るのってグリース嬢の小遣い範囲で想定されてましたか?

 それとも贈り物は予算別でした?」


「あ、あぁ。

 手紙は小遣いからだな。

 贈り物はグリースが選んで家として払う形にしていたが?」


「あれ?

 でもあなた、ちゃんと贈り物用の予算は使われてますわよ?

 なので、私も安心していたのですが?」



 ニーロ様のお言葉にラーミル様が疑問を呈す。


 え?

 それってまさか?



「まさか、グリース嬢が予算ちょろまかした?

 贈り物を求めるふりしてご自分の欲しいもの買ったとか?」



 一斉に皆の視線がグリース嬢に集まる。

 流石にまずいと思ったのか視線を逸らしだす。


 ニーロ殿は神速と言ってもいいくらいの速度で土下座した。

 ……僕の目では追いきれなかった。


 ラーミル様も謝られた。

 ……よく揺れる胸元しか見れなくなった僕はイケない子です。



「グリース嬢がどれだけちょろまかしたのかですが……。

 そのあたりはそちらの家で調査、叱責してください。

 話を続けてもよろしいでしょうか?」



 頷き席に戻るニーロ殿を見て説明を続ける。



「グリース嬢は婚約相手を勘違いしていた。

 だが、同年代の人物と考えていたからアムルの対応に不満を感じていた」



 グリース嬢を見ると頷いている。

 いや、頷く前に反省しろよ。



「その不満が積もり積もって学園で勘違いをしたまま僕、ニフェールにぶつけた。

 それも学園生が多くいた食堂で」



 ラーミル様が顔を青くする。


 そりゃそうだよな。

 無関係な人物に冤罪被せたようなもんだし。



「で、僕はアムルが婚約していたことも知らなかった。

 なので、婚約破棄に応じると答えた。

 これが今回の原因と推測してます」



 大人たちは僕の発言を頭の中で精査しているのだろう。


 みな黙っている。


 アムルは不安そうだが、頭を撫でてやったら落ち着きを取り戻しつつあるようだ。



「そして、グリース嬢からしてみれば一目ぼれしたフェーリオ様じゃない。

 である以上、アムルとの婚約は意味がないのでしょう。

 なら、破棄ではなく解消ということにしませんか?

 互いに悪影響を及ぼさないようにすべきかと」



 大人たちは僕の言葉に首肯する。



「下手に破棄にしてしまうと、この後別の意味でセリン家が悲惨な目に合うかと」

「ひ、悲惨な目?」



 ラーミル様が恐る恐る聞いてくる。

 もしかしてグリース嬢が学園で何したのか知らないのかな?



「まず、僕は婚約破棄をされた時点でグリース嬢の名前も知りませんでした。

 なので、調査するにあたってフェーリオ様とジル嬢に協力を願ってます。

 また、二人の婚約について手紙が届いた時点で同様に相談に乗って貰ってます」



 グリース嬢はあまり反応しなかった。


 分かっていないのかな?

 ご自分の暴走が好きだった相手と寄り親関係者に駄々洩れなの。


 ニーロ殿とラーミル様は分かったようだ。

 顔を真っ青にしているけど、もう遅い。


 だって今日この後会う予定だし。

 アナタたちには教えないけど



明日(・・)学園で会う予定です。

 そこであちらの二人と情報共有することになります。

 当然、婚約の経緯やそれに対してのセリン家の対応等全て話します」



「ちょ!」



 ニーロ殿が割り込もうとするが、最後まで言い切る。



「さて、両侯爵家にこの話が聞かれた場合、どういう反応をするでしょうか?

 それに加え、説明を聞いたうえで二つの侯爵家がセリン家をどうしますか?」


「ちょっと待ってくれ!」



 ニーロ殿が騒ぎ出すが、今更なんだよなぁ。



「なんでしょう?」

「こ、この件黙っておくことは――」



「できませんね」



 気持ちは分かるけど、ねぇ。



「訳の分からない婚約破棄を、それも学園の食堂でされてしまいました。

 学園で学ぶ者たちほぼ全てが知っております」



 まあ昼時にあんな騒いだら皆知ってしまうよなぁ。



「それに加え、この話を面白可笑しく広めているようですね。

 学園の生徒の大半はグリース嬢の戯言が真実であるかのように認識してます。

 故に、今の僕は婚約破棄されるほどのクズと学内では見做されてますね」


「あっ……」



 ラーミル様は気づいたようだ。


 これで黙ったら僕の人生終わりなんだけど?

 僕の未来を潰せと?



「そして、フェーリオ様とジル嬢のお二人に相談して既に動いてもらってます。

 具体的に言うとお二人のお父上にお伝え頂くようお願いしております。

 ぶっちゃけると、ジャーヴィン・チアゼム両侯爵ですね」



 ニーロ殿、辛くなりましたか?

 ヒューヒューと呼吸困難のような音が聞こえてきますけど。



「さて私ども両家の寄り親である両侯爵家。

 どちらも今回のセリン家のやらかしを既にご存じです」



 ニーロ殿を睨み、宣言する。



「この状態で隠せると本気でお思いですか?

 むしろ隠したらセリン家に対する不信から何されるか分かりませんよ?」



 ニーロ殿が膝をつき、それをラーミル様が支える。



「それに、グリース嬢がこの後学園で暴走したら?

 例えばジル嬢に喧嘩売るとか?

 フェーリオ様に『ジル嬢と別れて!』なんて言い出すとか?

 ニーロ殿、セリン家潰されても仕方ない行動をしないと言い切れます?」



 追い打ちをかけると黙って首を横に振るニーロ殿。

 何も言えなくなるラーミル様。



 グリース嬢、ご両親から一切信頼されてませんね。



「最後に、これは完全に僕個人の都合なんですが……」


「な、何かしら?」



 ラーミル様が怯えの表情を作りつつも聞いてくる。



「先ほども申し上げましたが……。

 学園の食堂なんて目立つところで婚約破棄をぶちまけられましたね。

 その結果、僕は今学園内でとても立場が無くなってます」


「……」


「なんせ、婚約者が食堂なんてところでぶちまける位にろくでもない男。

 知らない人たちから見れば、こう見られてます。

 そして、それを面白そうに吹聴する輩もおります」


「……」



 ラーミル様も理解しているのか、黙っている。




「僕は、僕自身の誇りの為、この件でついた汚名を返上する必要がある!

 そのために声を上げなければならないんです!!」



 セリン家一同を睨み宣言する。

 流石にニーロ殿もこれ以上黙ってくれとは言わなくなった。



 アムルも「お兄様、大変だったのですね」なんて可愛いことを言ってくれる。


 まぁ、声を上げた後にくだらないこと言う輩は暴力で黙らせるんだけどね。

 剣術の授業で事故に見せかけて、とか。


 まぁ、そこはまだナイショと言うことで。



「そういう訳でこの件は黙っておくことはできません。

 ただし……」


「何かしら?」





「セリン家の不味い立場を解決することはできません。

 ですが、潰さないように動くことはできるかと思います」


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