60
そのまま金を受け取り僕は寮に戻る。
懐が暖かくなるのはいつぶりだろう。
使い過ぎないように自制しないとな。
そして次の日、昼休み。
「ちゃんと食事しなさい!」
「うわぁ、この女本気で言いやがった!」
ルーシーがバラしたのかジル嬢が昼食に口出ししてきやがった。
それもめっちゃ楽し気な表情で!
あ、ちなみに今日は大好きなボルチーニのソースをかけたパスタ。
当然大盛!
「ルーシーが怒ってましたわよ」
「まぁそうでしょうね。
昨日僕も叱られました。
自分が仕事してるときに何イチャイチャしてやがると……」
「あらあら、そう言うことでしたのね♪」
「カルに期待しても無駄でしょうし、イラついた気持ちをぶつけたのでしょう。
理解は出来ますので、叱る気はありませんが」
楽しそうに笑うなよ……そりゃこういう話が好きなのは分かるけどさ。
その後も軽く話し合いをしたが……。
ラーミルさんへの報酬の下りで二人とも表情を変えた。
一言で言えば「あ、やべっ!」と言った感じだろうか?
「え~っと、うちの親たちにも伝えておくけど、まずはゴメン……」
「あぁ、謝罪は受け取るが、今更褒美というのも無理だぞ?
なんで、やるとしたら修道院対応の時に追加報酬上げて欲しいな」
「確約は出来ないけど、親には伝えとく」
うん、気にしてもらえるのならアリかな。
「一応、王宮ではこの話は出さないから。
もし話すのならチアゼム家でとかにして欲しいな。
下手に噂流れるのも、その噂が捻じ曲げられるのも嫌だしね」
「あぁ、ラーミルが強欲だとかの噂が流れるのを懸念してるんだな?」
「そうそう」
面倒事は避けたいからね。
「ちなみに今日の昼飯が豪華なのはその報酬か?」
「あぁ、やっと夏前の頃に戻れたよ……」
「そうだったか?
……確かにそうかもなぁ。
結構長い間塩パスタだったから昔のことを思いだせないな」
まぁ、それはおっしゃる通りで……。
◇◇◇◇
「おかしい……」
俺、メラム・マリガントは騎士団の訓練所で首を捻りつつ呟く。
キンスンからオブスの所が襲撃される可能性を伝えられ情報の収集を指示した。
そこまではいいんだ。
その後、一切情報が入ってこない。
キンスンも困惑しているようだ。
犯罪者共の情報源を掴むことは出来ん。
キンスンが北部に通じていることをばらすわけにはいかんからな。
とは言え、一切情報が入らないと言うのもおかしい。
実働部隊である暗殺者共の居場所も分かっておらぬようだ。
犯罪者共が集まるであろう娼館街でも情報が集まらん。
キンスンが締め出されているのかとも考えたが他の詐欺師共も知らないそうだ。
となると、娼館街と暗殺者、乞食の三者だけで動いているということか?
オブスに襲撃の可能性を教えるか?
とは言え、アイツに教えて何ができる?
むしろ教えたことでこちらの動きがバレる可能性が高いな。
……オブスは捨てるか。
その次に強盗の長の座に就く者を堕とす方がまだ楽そうだ。
なんとも面倒なことだ、戦場で剣を振るう方が簡単でいい。
俺は一応騎士なんだがなぁ、何でこんな面倒事振ってくるんだよ……。
普通こう言うのって策を練れる奴にやらせるだろう?
学園でも別に成績良くなかったんだぞ?
赤点は無かったが、中の下位の成績でしかなかったんだからな?!
はぁ、もっと体を動かす感じの仕事をくれよ……。
◇◇◇◇
その後、僕が王宮に行く以外は目立った行動を取らずにいた。
まぁ、パン爺さんが定期的にチアゼム家の方に情報を届けてくれていたが。
至れり尽くせりだな、ホント。
キンスンの方は色々調べているようだが、経験の差かな?
パン爺さんに翻弄されまくっているようだ。
あ、強盗ギルドの残り二人はシロだった。
良かったよ、ホント殺す相手が増えなくて。
王宮でも事前に取り決めた話以上には踏み込まず、大人しくしていた。
まぁ、マーニ兄から手と頭を貸せと書類と一緒に縋られたけど。
そして、本日はノヴェール家でダンスの訓練。
と言っても先程終わってパァン先生を送る最中。
「ニフェール君、何かありましたか?」
「えっと、何かとは?」
「いや、それは知りません。
ですが、何と言うか気合が入っているように見受けられました。
ここ数日のうちに何かあるのかと思ったのですが?」
何で?
……あ、うちの両親が似たような反応したのかな?
よく覚えてますねぇ……。
「……年の功?」
「ニフェール君!
礼儀作法の冬季試験十点減点です!」
うおっ! ちょっとそれは勘弁を!!
「……それはともかく、まぁ、やることはありますよ。
とは言え事前準備は既に終わってますんで、後は実行のみなのですが」
「……あまり無茶しないでくださいね?
怪我でもしたらラーミル嬢が悲しみますよ?」
「……指ちょっと切れたとか言って甘えようとしたのですが?」
ねぇ、そこで呆れないでいいのよ?
「そこら辺は教師として何か言うつもりはありません。
あえて言うのなら子供ができないように気を付けなさいとしか……」
「そんなことしたら母親の全力攻撃を喰らうので絶対にしませんよ。
あれ、兄達でも死にかけるのに……」
そこで視線逸らすの止めていただけません?
理解度高いのは分かるのですが、流石に心にクルので。
「まぁ、怪我しないように」
「ええ、怪我で済ませるようなヌルい行動はとりませんので」
「そう言う意味ではありません!
ったく、変な所でご両親に似すぎですよ!」
え、両親もこのネタやったの?
「ちょっとお聞きしたいのですが、うちの両親って当時何やらかしました?」
「……大体想像つくのでは?
母親は愚かしい男どもを殴り倒し、父親は身体の一部を斬り落とす。
まぁ、そのおかげというべきかどうかは判断難しいのですが……。
学園の歴史の中でもかなりロクデナシが減った年になりましたね」
「……母親はともかく、父親が斬る?
縛るという単語が出てこないんですね?」
そう言うと、パァン先生は「あ、ヤベッ!」という表情を見せた。
……やはり、情報が足りない部分をご存じでしたか。
「……そこんとこ、言えます?」
「……他人が勝手に言う内容じゃないと思います。
ご両親に聞いてみてくださいな」
「やはりそう言う回答になりますか……仕方ない。
今日知るのは諦めます」
「そう言ってもらえると助かります。
というか、ジャーヴィン家やチアゼム家あたりから聞けるのでは?」
「同じ理由で断られました」
「あぁ……」
ポロっと喋ってたから少し期待したんだけど、やっぱ無理か~。
ま、無茶言っても仕方ない。
諦めて建国祭待ちにするか。
パァン先生をお送りして僕は寮に戻る。
夕食(普通の定食にしたらおば……お姉さんが驚いていた)を食べて出発。
チアゼム家に到着すると、皆準備完了して出発待ちになっていた。
「そんなに血に飢えているのか?」
「ニフェール様じゃあるまいし、そんなはずねえだろ」
カル、軽いノリでそう言うカウンター返せるようになったんだなぁ……。
「その位の軽口叩けるのならルーシーをさっさと堕とせよ。
拗ねた結果、ジル嬢に告げ口してるし、その結果僕叱られたし……」
「すべての会話をそっちに繋げるなよ!」
「繋げやすくてねぇ……むしろ、他の方に繋げるのが面倒になってくるんだ」
「面倒臭がるなよ!
もっと話を別方向に広げろよ!!」
部下との心温まる会話を経て強盗ギルドの傍へ。
チラッと周りを見ると、襤褸きれの様な塊が……もしかして?
こっそり近づいて問いかけてみる。
「……もしかしてパン爺さん?」
「うおっ!
……なんだ、坊か、脅かさんで欲しいのぅ。
いつ心臓が止まるかとヒヤヒヤしたぞい」
「何を仰る、婆さん同様殺しても死ななそうな人が。
んで、監視かい?」
「ああ、一通り皆入ったようだ。
当然、他の面々は来ていない。
それと、キンスンの手の者もいない」
いない?
なんで?
僕の心の中の疑問に答えるかのように説明してくれた。
「こちらの邪魔ばかりしていたからのぅ。
処分しといたわ。
とは言え、殺してはおらんぞ?
気絶させて寝かせておる」
「そいつ、大事?」
「いや、只の末端じゃよ。
……消すかの?」
「ん~、どうせこの後強盗ギルド壊滅するんでしょ?
そこに死体が一つ増えても分からないんじゃない?」
パン爺さん、なんで呆れるの?
「……坊、本当に貴族かの?」
「ヘタレな暗殺者を傍に置いているからねぇ。
危険な思考を真似するようになっちゃったかも?」
「嘘つけ!
俺のせいじゃねえよ!
俺より危険な癖して何抜かしてやがる!!」
なぜかカルが騒いでいるけどどうしたんだろう?
「どうしたんだい、カル?
何か心当たりでも?」
「あ~、何でこんな性格の悪い上司になっちまったんだ!」
「部下の真似をしただけだよ」
「嘘だ!!」
仲の良い友人の様な会話をする僕たちを見つめるパン爺さん。
呆れの要素が八割ほど混ざっているのは気にしないでおこう。
「んじゃ、ちょっと消してこようか。
皆、先日伝えた通りの配置で。
あ、パン爺さん、こちらが終わったらそこの気絶させた奴連れて行くから」
「あぁ、遠慮なく持って行け」
これで十分だろ。
各自事前に指定した場所に移動し、僕とティッキィが扉を開けギルドに入る。
「なんだぁ、テメェ?」
「あぁ、失礼。
こちらは強盗ギルドですね?」
なぜかキョトンとしている。
何か変なこと言ったかな?
「あ、あぁそうだ。
というか、一般人が来るようなところじゃねえよ。
サッサと失せな」
え? なんか優しいんだけど?
むしろ悪い気がしてきた……。
「ん~、そう言う訳にはいかないのです。
皆様にも用がございますので」
「は? 一般人に用はねえよ!」
「なら、暗殺者なら?」
「は? 暗さ――」
シ ュ パ ッ !
ゴ ト ン !
あっさり首を落とし、血を噴き出して倒れる死体。
そのまま動き回り周囲を斬り捨てる。
数分動くと音が無くなる。
「何とまぁ、あっさりし過ぎだな」
「ニフェール様、我らとこいつらの実力を見誤り過ぎでは?」
「……強盗ギルド全体を高く見積もり過ぎた?」
「多分……」
あ~、それはあるか。
まぁ仕事は終えられたから良しとするか。
「やっちまったのはしょうがない。
二階以降の処分に向かうか」
そうして上階も廻り殺して行ったが……こんな少ないんだっけ?
ティッキィを見ると、同じように首を捻っていた。
「もしかして、スケッツオ……だったっけ?
新しい長に靡く奴が予想より増えた?」
「流石に分からんよ。
一通り消した後にパン爺を連れてくるしかあるまい」
「……そうだね、それしかないか」
そのままオブスのいる部屋に移動し……って、お前ぇ!
「オブス……いい年して漏らすのはどうかと思うぞ?
というか結構臭うぞ、これ?」
ガクガク震えて返事もしてくれない……寂しぃ。
「メラム……だったか?
あいつに暗殺者を送ってやるとか言ってた。
だが、僕たちがお前に従うはずないだろ?
ハッタリにしてももう少し考えて言えばいいものを」
「お、お前、あの話聞いていたのか!」
「あぁ、というか、盗み聞きされているのに気づかないって……。
そんなんで強盗ギルドの長でいられるはずないだろうに。
もう少し実力つけないと話にならんだろ」
軽く揶揄ってやったら拗ねやがった……。
どんだけ上に立つ気構えが無いんだよ!
「まぁ、お前がまともに長の立場を理解できるとは思ってないよ。
だからこそお前を消してまともな奴を据える。
これで王都の犯罪者ギルドはある程度強固な組織となるだろう」
「ハッ!
メラムの奴が俺以外からも情報を得ているらしいぜ!
お前じゃ見つけられないだろうがな!!」
「……キンスンならこの後捕まえて消すよ?」
顎外れてるぞ?
「そんなわけでお前の発言は何の価値もない。
自分の小便に塗れて死ぬがいい」
双剣を振りかぶると、オブスが一言呟いたのが聞こえた。
「何でこんな下っ端に……」
……あれ?
そういや名乗ってなかった?
「なぁ、ティッキィ。
僕、名乗ってなかったっけ?」
「確か……あれ?
そうだな、名乗ってなかったな」
「あちゃ~、そりゃ下っ端扱いされるわ。
すまんな、オブス。
貴様を消す者として名乗らせてもらおう」
居住まいを正して名乗る。
まぁ、脅しにしかならないけどね。
「王家派武官貴族、ジーピン家三男、ニフェール・ジーピン。
学園では【狂犬】と呼ばれているよ。
あぁ、以前の強盗ギルドを叩き潰したり、中央通りを赤く染めたのは僕だ。
まぁ、兄も一緒だがね」
いや、だから、顎外れているぞ?
「さて、名も名乗ったし文句は無いな?
では改めて……死ぬがいい」
サ ク ッ
反論する暇も無く首を落とす。
「ティッキィ、外の皆に声かけてきて。
僕もさっきの下っ端消しとくから。
外で話すよりこっちの方が暖かいでしょ……血生臭いけど」
「臭いより寒い方がきついからなぁ。
分かった、声かけて来る」
そう言って出ていくティッキィ。
僕はパン爺さんから監視人を引き取り、ギルド内に連れて行き殺す。
「ほぅ、中々凄惨じゃのう」
なんか言ってることと行動がかみ合って無いよ?
ほのぼのしながら死体を見るのって普通なの?
「【妖魔】とパン爺さんの争いよりは平和じゃない?」
「坊、何を抜かすか!」
おっと、心の琴線に触れたか?
揶揄い過ぎたか。
「あいつと争ったら……こんなのじゃ済まんぞ?」
……そっち?
ガクブルしながら言い出すところがまた……。
「ベッドで制圧したら?」
「向こうの方が数段上じゃよ」
あ……そりゃそうだ。
流石百戦錬磨の【妖魔】。
「ベッドの上の持久力……」
「それも負けてる……なぜかは未だに理解できておらんがな」
……勝ち目無しなんですね。
「あいつに無関係に殴りかかる気はない。
こちらが確実に正しい時であれば口で勝てる可能性があるがの」
「あぁ、強盗ギルドの新しい長決めるときに話か。
もしかして、あの時ってパン爺さんが一番輝けたとき?」
「酷い言い草じゃのぅ。
とは言え、実際そんな感じじゃの。
あれはその前に強盗ギルドに統一させることを飲んでやっていたからじゃよ。
それがなければあの場で文句言っても聞いてもらえたかどうか……」
なんか本気で嘆いているが、何となく違うんじゃないかなぁ。
あの時の婆さんの視線、そして甘えの交じった声。
口悪いけど気を使ってそうな気がするんだよなぁ。
多分、この辺り僕よりルーシーあたりの方が分かる気がする。
そんなことを考えていると外の面々が中に入ってきた。
「あ~あったまるぅ……あ、ニフェール様、外に逃げ出す奴いなかったよ!」
ナットが元気に報告するが、誰も?
窓から逃げるとかしなかったの?
「え、誰も逃げだそうとして無いってこと?
カリム、裏口は?」
「最初の頃は少し来たくらいで、その後はサッパリ……。
正直前回の時の方が仕事になりましたね」
「ちなみに俺の方もナットと同じだ。
寒空の中ただ突っ立っているだけって、こんなキツかったんだなぁ……」
カル、オッサンぽい発言すんなよ。
あ、オッサンだったな。




