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第四章:『学園風景』始まります。
とはいえ、学園以外もちらほらと見えてきます。
区切りのいいところまでは毎日更新します。
それと、謝罪が一つ。
「とある人物に二つ名無いの?」というコメントに「無いです!」と明言した癖に……。
付けちゃった♡
誰にどんな名をというのは読んでいっていただければお分かりになるかと。
少し時を戻しラーミルさんとの婚約届を提出した後。
左頬の傷も周囲が慣れ、学園が平穏に包まれていた。
そんな中、僕は学園の図書室で一人勉強していた。
ラーミルさんと婚約して浮かれていたが、少し時間が経ち頭が冷えると大事なことに気づいた。
現在、僕はジーピン家三男。
当然だが個人では爵位を持っていない。
陛下から賜る可能性はあるが、それも確実とは言えない。
いや、陛下が嘘つくとは思えないが、いつ何が起こって「やっぱなし!」と言われるかは分からない。
そして、今のままならフェーリオの側近の端くれとして動くことになる。
チアゼム侯爵に婿入りするフェーリオに。
つまり、騎士になってジャーヴィン家の寄り子として生きるより、文官知識を蓄えてフェーリオと一緒に王宮勤めが一番可能性が高いかなと思った。
いや、チアゼム家関係者で騎士の方もいないわけではないけれど……。
騎士や衛兵ってジャーヴィン家の力が強くて、かつ僕の立ち位置があまりにも微妙なんだよね。
今のジャーヴィン家とチアゼム家の仲の良さならそこまで影響しないかもしれないけど、下手に中立的立場にいると二家が不仲になったときに旗幟鮮明にできない。
そして、その場合両方から敵扱いされてしまう。
アゼル兄はジャーヴィン家に付くのが確実。
マーニ兄は微妙。
となると、僕がチアゼム家に付いて何かあった場合に互いにフォローできれば万々歳かな。
個人的にはマーニ兄がチアゼム家、アムルがジャーヴィン家に付いて兄弟どちらかが生き延びれたら。
妄想乙と言うなかれ。
ジーピン家が滅びないように、回避ルートは用意しておかないとね。
とはいえ、騎士科で学ぶ僕に文官科の授業は想像以上に違いが大きすぎる。
例えば算術。
騎士科なんて四則演算メインで、成績上位者でやっと一次方程式が理解できる位だぞ?
一応僕は成績上位者に入ってるけど。
文官科になると下位でもn次方程式に因数分解、成績上位の者だと代数幾何に微分積分、確率統計までやってるとか。
いや、これどうやって追いつこう?
一応ジル嬢の側近の方々に正直に理由を説明して助けを求めたところ、色々な書物を教えてくれた。
その書物を読み少しでも足掻こうとはするが、道のりは遠い。
そんな感じで算術とイチャイチャするのに疲れ学園内で休憩していると、久しぶりにカルディアに会った。
「やぁニフェール、どうしたのこんなところで。
食堂からも寮からも遠いところにいるなんて珍しい」
「最近、図書室に向かう回数が増えてね。
ちょうど休憩するのにちょうどいいのでここにいるようになったんだ」
正直に答えたのになぜか変なものを見るような目つきをされた。
「え、【狂犬】が図書室?
……別の言葉と間違えてない?
例えば闘技場とか」
失礼な。
「間違えては無いぞ。
ちゃんと図書室に行ったんだ。
というか、もう少し休憩したらまた図書室に戻る予定だが?」
この言葉を聞いてカルディアは空を見上げる。
一応言っとくが、今日は快晴だからな?
雨降る要素は無いからな?
「なんで図書室に?
騎士科なら闘技場で訓練の方が意味あるんじゃないの?」
「フェーリオがチアゼム家に婿入りするのは分かるよな?
んで、そのままフェーリオについて行くとしたら文官貴族のチアゼム家で働く、もしくは王宮で働くことになるかと思う。
そこで武官、この場合は騎士としてフェーリオのそばにいる可能性は?」
少し考えた上でカルディアは答えてくれた。
「……あまり高いとは思えないね。
むしろジャーヴィン家に世話になるような気が」
「ああ、僕もその認識。
なんで、フェーリオについて行くとしたらもう少し学力が必要かなと判断して勉強しているのさ。
まぁ、文官志望の人たちと比べてどこまで追いつけるかなんとも言えないけどね。
最低でも領主科と同程度、可能ならば文官下位レベルにはたどり着きたいなと思っているよ」
僕が少しは考えて行動してることに気づきとても驚くカルディア。
そこまで本能で動いているとでも思ってたのか?
少しは頭も使うんだぞ?
少しだけど。
「僕はそんな感じだけど、カルディアはどうなの?
レストが捕まってから最近会って無かったし、トリスも見てないし」
カルディアからしたら触れてもらいたくない話題かもしれないけど、レストの暴走もある。
フェーリオを巻き込むようなら――
「ん~、レストの件はなにも関わってないから何を聞かれても答えようがなかったんだよね。
正直に分かること答えたらさっさと解放してくれたし」
さっさと解放?
「……食事とか飲み物とか出た?」
「食事が必要なほど時間かかんなかったよ。
飲み物は水くらいは出たけど?」
カルディアから出た悪気の無い言葉に僕は愕然とする。
「嘘だろ?!
僕なんか一日近く捕らえられて飯抜き水抜きだったのに!」
「うっそでしょ?
そんなふざけたことされたの?」
僕はがっくりと膝をつき、カルディアから憐れみに満ちた視線を送られる。
「僕、よっぽどレストに恨まれてたみたいだね」
「恨むというか妬むの方が近いんじゃないのかな」
ハァとため息をつき、そういえばと思い出す。
「トリスはどうしたの?」
「……実は会ってないんだ」
心配そうな表情でボソッと言い出す。
「エスト家に行ってみたんだけど、『トリスはもうこの家の者ではありません!』って言われて。
どこ行ったのか教えて欲しいと伝えても何も教えてくれなくて……。
その、これってトリスは家から追い出されたのかな?」
まさかとは言いたいが、レストの件にどこまで関わっているかによっては可能性はあるなぁ。
「可能性を否定できないが、まず確認できることが二つある」
カルディア、そんな潤んだ眼で見ないでくれ。
教えてないけど、僕にはラーミルさんという婚約者がいるんだ。
「まず学園から消えているのか、ここは庶務課に聞いてみれば教えてくれると思う」
カルディア、そんな期待に満ちた眼で見ないでくれ。
ぼ、僕にはラーミルさんという(以下略)
「それと、普段トリスがよく行っていた店とか無いか?
そこに情報が無いか聞いてみたらどうだろう?」
カルディア、そんな喜びに満ちた眼で見ないでくれ。
ぼ、ぼ、ぼくにはラー(以下略)
「うん!
ニフェールの案で調べてみるよ!
情報が入ったら相談していいかな?」
首をコテッと傾げて聞くの禁止!
カルディア、この手口慣れ過ぎてないか?
アムルほどではないが危険な存在に見えるのだが。
「ああ、構わない。
ちなみに、情報収集だけにしとけよ?」
「えっ?
なんで、トリスと話すのダメなの?」
カルディアはすぐにでもトリスを見つけて、なぜいなくなったのか聞きたいようだ。
ただ、それはトリスの感情を考えると危険極まりないとしか言いようがない。
「トリスと話すのがダメなわけでは無くて、現状のトリスを把握したうえで動かないと不味いだろって話」
何ともうまく説明できないなぁ。
「トリスがエスト家から追い出され、平民になっていたとしてにこやかな会話が成立すると思うか?」
カルディアも気づいたようだ。
「絶対不快に思うだろう?
だから、まずは情報収集に留めておけと言ったんだ」
「うん……調べて問題なさそうなら話してもいいんだよね?」
潤んだ眼で僕に相談するカルディア。
なぜそんなテクニックを使うんだ?
まさか僕は本当に狙われてるの?
「まぁ、問題なさそうならな。
でも、カルディアの判断だけで会おうとするなよ?
僕とか、フェーリオ辺りにも相談した方がいいかもしれない」
少し悩んで、それでもこちらが心配してるのを理解してくれたのか頷いてくれる。
後は念の為、一つ注意しておくか。
「それと、トリスの調査よりカルディア自身が学園を卒業できるよう動けよ?
調査を優先した結果、学園留年とか退学なんて流石に嫌だろ?」
……なぁ、なぜそこで視線を逸らす?
試験勉強は自分でやれよ?
視線を逸らしつつ礼を言ってそのままカルディアは庶務課へ、僕は勉強の続きをしに図書室へ向かった。
その数日後、昼食時にカルディアがコソコソしながらやって来た。
フェーリオとジル嬢、そして他側近たちがいるところに入って来たので正直驚いたが、カルディアはそんなことはどうでもいいとばかりに近寄って来た。
「おぅ、カルディア、どうしたの?」
「この前に話したトリスの件で相談があるんだ」
真顔で言ってくるとは、余程面倒なことか。
「フェーリオも混ぜる必要がある?」
「できれば……ジル嬢も含めて相談に乗って欲しいんだけど?」
チラッと二人を見ると軽く頷いてくれる。
カルディアに合図すると、急ぎ話したかったのか一気に話し始めた。
「先日、ニフェールにトリスが何しているのか調べたくて相談したんだ」
あぁ、僕の提案をちゃんと実行したんだね。
いい子だ。
「まずは庶務課でトリスがまだ学園に在籍しているのか確認することを提案された。
結果は、まだ在籍していた。
ただし、休学届を出していた。
レストが捕まった後あたりからだね」
休学か……そのまま流れで退学しそうだな。
「それとレストがいた頃に一緒にぶらついた辺りで話を聞いてみたけど、トリスは来てないみたい。
またエスト家にも全く戻ってきていないらしい。
学園で休学届が出ていることを伝え、『休学しているのは家の判断ですか?』と聞いたら驚いていたので匿っているとかじゃないみたい」
王都のどこかの宿か王都を出たか。
正直調べようがないな。
範囲が広すぎる。
ま、学園にいないことが分かっただけでも収穫かな。
「まず、エスト家はそれ以外に何か言ってた?」
「いや『うちの家の者じゃないので』の一点張り」
「……本当かな?」
「え?」
疑問を口にするとカルディアが反応する。
ああ、カルディアが嘘ついているとかいう訳ではないんだ。
「本当にエスト家から放逐されたのなら、学園を自発的に休学していると伝えても驚かないのでは?
家の者じゃないんだから気にする必要もないし、どうでもいいはずなんだ。
むしろまだ家の者だから驚いたのでは?」
「あっ!」
カルディアが思わず声を上げる。
「それと、学園に籍が残っている時点でおかしい。
学園だってタダじゃない。
休学なら家から学園に金払わなければならない。
放逐するのならエスト家として学園に退学届け位出すだろう」
「それはそうですね。
貴族籍の無いものを学園に高い金出して入れておく理由はないでしょうし」
ジル嬢が的確な判断を下す。
とはいえ、侯爵家令嬢がこの判断ができると思わなかった。
フェーリオが話について行けてないようで話の整理を求めてきた。
「えっと、簡単にまとめてトリスはどうなった?」
「行方不明。
学園休学中。
自宅にも戻った形跡なし」
「ちょ、それヤバくね?」
「本来エスト家からしたら不味いはずなんだけど、なぜ放置しているのかが分からない。
直接聞いて答えを貰えないのなら正直お手上げだな」
正直無理!と宣言すると、カルディアが駄々こねてくる。
「フェーリオ様がエスト家に聞くことってできない?
休学したと聞いて心配して聞きに来たことにすれば……」
「却下。
案としてはいいんだけど、現時点でエスト家はジャーヴィン家に恥をかかせた状態なんだ。
そんな状態で心配してなんて言うのはちょっと……」
「恥かかせたって?」
「レストの件」
「あぁ……」
衛兵の管理ができていないと陛下の御前で晒されてるしね。
アンジーナ元子爵がジャーヴィン侯爵に掴みかかるなんてこともあったし。
「トリスを見つけたい気持ちは分かるけど、正直これ以上調べようがないんじゃないかな。
調べる術が無いというのが正しいかもしれないけど」
「そっか……」
僕のギブアップ宣言にカルディアも仕方がなさそうに呟く。
ごめんなぁ……。
「いや、相談に乗ってくれてありがとう。
食事の邪魔してごめんね」
礼を言って席を立とうとする姿が寂しそうだったので、つい聞いてしまった。
「……なぁ、なぜそこまでトリスを見つけようとするんだ?」
作者は悩む。
これ、ダブルヒロインと言っていいのかな?




