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そんな会話をしていると、ポル君が茶を出してきた。
「お待たせしました、お茶になります」
「お、ありがとう」
のんびりお茶を飲んでると、ポル君がモジモジし始めた。
……用足しなら行ってきな?
「あ、あの、お客様」
ん? 僕?
「何でしょう?」
「その、そちらの武器、お見せいただけませんでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
そう言って双剣を渡すと目をキラキラさせていろんな角度から見始める。
……純粋な瞳と言えばいいのか、ヤバい人と言えばいいのか微妙だが。
「ありがとうございました。
素晴らしい剣でした」
なぜか呼吸が荒くなっているのに気づかなかったフリをして双剣を受け取る。
チラッとティッキィを見ると「こっち見んな!」とばかりに視線を逸らす。
いや、ちょっと待て、ポル君狙ってないからね?!
流石に黙り続けているのも変だと思い、すこしポル君に話を向ける。
「君はもう鍛冶師として作り始めているのかい?」
「数種、武器を作ったことがありますが、まだまだだと……」
ほぅ?
どんな感じなんだろ?
「見せて頂くことは出来るかな?」
「は、はい! 持ってきます!!」
バタバタと駆け出していくポル。
武器とか好きなんだろう……多分。
「大丈夫なのか、あれ?」
「正直不安ではあるけど、ずっと黙っているのもなんだし……」
「そうだが……ビートの指導の賜物なのか?」
「そこは僕に聞かないで。
むしろティッキィの方が知ってるでしょ?」
「そんな奴じゃなかったはずだがなぁ……?」
そんなこと話していると武器を……って、おいおい。
なんだよ、その黒光りしたでっかくてぶっといものは!
ずりずり引きずってるけど、なんか変な紐? ついてるけど!
「お、お待たせしましたぁ……」
「おいおい、自分で持てない程の武器か?
剣が数本に……弓か、これ?
金属でできているのか?」
剣はまぁ、二級品って感じだな。
歪んで無いだけ学園の武器よりマシってところか?
だが……金属で弓ってのはちょっと想像の範囲外だな。
触れてみると……あぁ、これ単一金属じゃ無いな。
握りの部分は固めの金属。
弦に近い所は比較的柔らかめの金属。
しかも弦は細い金属を編み込んだもの。
一応弓っぽくなってるな……引ける奴がいないという点に目をつぶればな。
「これ、誰も使えなかったんじゃないのか?
誰も引けないだろ?」
「ええ、そうなんです。
伝説の竜でも倒せるくらいの武器をと考えて作ったのですが……。
金だけ掛かって誰も引けない弓になっちゃいました」
いや、そんなの作る暇あったら鍛冶師の技術磨けよ。
これ、素材どれだけ使ってるんだ?
ビートさん、本気で泣いてないか?
この弓一つ作るのに包丁とか幾つ作れるのやら……。
「鍛冶師だけじゃないけどさ。
商売って作って売った金を次に作る予算にするんじゃないの?
でもこれだけ金属使って売れなかったって……店潰れない?」
「……親方にも同じこと言われました。
ただ、これって親方から実力を確認する試験で作ったものなので……」
ん? 売ること度外視してもいいってこと?
……何となく微妙に違う気がするんだけどなぁ。
「ねぇ、その時の試験の条件って?」
「『店における武器を作れ』ですね」
「販売額は指定されてないの?」
「えっと……」
そう言って教えてくれた額は普通の片手剣一本程度の額だった。
……ダメじゃん!!!
「そりゃビートさんもダメだしするよ。
試験で目的から逸脱したもの作ったらダメでしょ。
個人の趣味で作りたかったのなら独り立ちしてからにしたら?
親方の金でやりたい放題って絶対違うと思うよ?」
「そうなんですよねぇ……親方も言ってました。
ですが、思いついたら作りたくなってしまって……」
やる気が出ると暴走するタイプか?
「……ちなみに、これ作った直後から給料引かれなかった?」
「……今も引かれてます。
後二年は元の給料に戻せないとか……」
だろうね、僕でもそうするよ!
そんな話をしているとビートさんが戻ってきた。
「待たせてすまなかったな……ポル、その弓持ってきて何してんだ?」
「あ、こちらのお客様に過去に作った物を見せてくれと……」
ビートさんがチラッとこちらを見て来たので、軽く頷く。
まぁ、裏話がぶっ飛び過ぎて想定外だったけどね。
「……一般的な完成度としてはそれなりになんだ。
実際に使える人物がいるかはともかくな。
だが、試験の目的を無視して作り込んじまったからなぁ。
おかげで試験不合格。
こいつに使った素材の代金を返し終わるまで独立や別の鍛冶屋への移動禁止」
「まぁ、そうでしょうね。
商売する者として金使い放題やりたい放題なんてありえませんし」
「貴族なのによくご存じで。
その感覚をこいつが持っていれば、こんなの作らなかったんでしょうけどねぇ」
ポル君凹んでますね。
とはいえ、自業自得なんですが。
「もう少し使えるものであればまだしも、これ引ける人いないですしねぇ。
売るにも売れない、厳しいもんです」
「……ニフェール様?
もしかして引けないか?」
ティッキィ、買う気はないからね?
「引けるか引けないかなら、引ける可能性はある。
でも、僕の戦闘スタイルには合わないから使う理由が無い」
「あ……双剣使いが弓は無いってことか?」
「副武器として使うのなら、こんなデカいの邪魔なだけ。
だからこそ、組み立て式のクロスボウにしているんだ。
主武器使うのに邪魔になる副武器って……」
「確かに、そりゃいらんなぁ」
……おや、ポル君の様子が?
「あ、あの!
引けるんですか?!」
「試して無いけど、多分できると思うよ」
「引いてみて頂けます?!」
どっちだろう?
単純に使える存在がいることが見たいのなら構わないけど。
引けるなら買ってよとか言ったら……見捨てるか。
「どこか矢を放てる場所ある?
それと、かなりの威力になると思うからよほど頑丈な環境が無いと……」
「的なら壊れても仕方ないですね」
「的じゃなくて壁だけど?」
「へっ?」
あ、やっぱり理解してなかった。
「普通の弓矢ならまだ壁にひびが入る程度だろうね。
でも、この弓がちゃんと機能するのなら、壁ぶち壊してそのまま突き進む。
どこまで被害が出るか分からないから、ちゃんとしたところじゃないと」
「あ……そんなところは無いですね」
「というか、それでもやろうとしたら俺が止めただろうよ。
仮にやるのなら王都の外だな」
ビートさんの言葉が全てだよ。
というか、ポル君はなんでガックリしてるかなぁ?
自分の作った物が使われたらどうなるか想定してなかったのか?
「取りあえず、矢をつがえずに弓を引くだけなら構わないよ?
それなら周囲に危険はあまり無いしね」
「……あまり?」
あれ、ティッキィ、気づかなかった?
「この弓がちゃんと作られてたら大丈夫だけど、弦が壊れかけてたとか?
そんな場合は、弦が切れて僕の身体がズタズタになる」
「「え゛?」」
……あれ?
なんでポル君も変な声出すの?
「もしかして僕が言ったこと想定してなかった?
弦にかかる力が物凄く強いから切れたら『バーン!』って……あれ?」
何で作った人が分かってないの?
……もしかして?
「ねぇ、ビートさん。
ポル君って、もしかしてこの弓試し打ちとか……」
「無理だろ」
「つまり、弓としてちゃんと機能するかも確認してないってこと?」
ポル君、タイミング良くビクッて反応しちゃったね。
まぁ、想定通りだけど。
「……はい、まだ使われたことありませんし、自分で確認することもできません」
ビートさん、顔引き攣ってるよ?
気持ちは分かるけど。
「ん~、とりあえず弦張れるか試してみる?」
「是非ッ!」
妙にギラギラした目で僕を見るポル君。
頭抱えるビートさん。
ティッキィ、もしかして楽しんでない?
とりあえず僕が力づくで弓を曲げ、ポル君が弦を掛ける。
グッ……中々固いが、何とか曲げられるか?
グッ……ググッ……
「ポル君、そろそろ弦をお願い」
「は、はいっ!」
ワタワタしながら慌てて弦を掛けるポル君。
大丈夫そうかな?
掛け終わったようなので、徐々に弓から力を抜いていく。
ギシギシと不安な音が聞こえるが大丈夫なのか、これ?
「ほれ、取りあえずポル君の視点で問題無いか確認してくれ。
その後、引くだけはやってみるから」
「はいっ!」
何と言うか、やる気があるのは分かるんだけどねぇ。
ちゃんとチェックもしているようだし。
後は彼が暴走しないよう見張る人がいないとダメか?
そこらはビートさんに頑張ってもらおうか。
「お待たせしました。
特に亀裂等もありませんでしたので、引いて頂けますか?」
「ああ、構わないよ。ここでいいかい?」
「ええ、お願いします」
弓を持ちあげ、左右均等に引いていく。
うっわぁ、めっちゃ固い!
とはいえ、キツいけど引けないほどでは無いな。
ギシッ……ギシッ……
「うっわぁ、あれ引けるもんなのか?」
「普通は無理だろ。
ニフェール様だから引けるんだからな?
他の奴らに引かせても微動だにしないんじゃないのか?
あぁ、王都ならニフェール様の兄君もできるか」
「二人いる時点で無茶苦茶な気がするんだが?!」
そこ、五月蠅い!
オッサン二人の呟きを背に矢を放てる状態にまで持っていった。
「さて、ポル君。
こんな感じでいいかな?
後は放つイメージでやってみるけど?」
「はい、お願いします!」
弦を放ち――
ブンッ!
――右耳の傍を金属の弦が通るのを感じる。
これ、弓の扱い少しでも間違ったら右耳吹っ飛んでたんじゃねえの?
怖ぇ……。
「さて、こんな感じかな。
十分かな?」
「はいっ!
ありがとうございます!!」
おぉ、元気だねぇ。
目がキラキラしているよ。
ビートさんも苦笑している。
今回の件、少しは自信になるんじゃない?
ジーピン家しか引けない弓だけど全く使えないわけでは無いことが分かったし。
「今後これを量産できるよう頑張ります!」
「ナニ言っちゃてるの!
ダメでしょ!!」
僕のツッコミに理解が追い付いてないポル君。
頭を抱えているビートさん。
肩振るわせて笑うのを我慢しているティッキィ。
なんでこんな……。
「ポル君、量産って誰が使うの?」
「え、ニフェール様が使えるんだから、他の人も使えるでしょ?」
「「「無茶言うな!!!」」」
他の三名が期せずに同じ言葉を発する。
「どうあがいても無理です。
王都で使えそうなのは現時点で二人、僕と僕の兄だけ。
領地に戻れば他にも数人いるけどね」
「ならその人たちに……」
「うちの面々でこんなデカい弓使う人いないよ?
主武器は既に皆大剣とか大鎌とか双剣とか使ってるし」
「でも、副武器になら……」
「こんなバカでかい副武器?
むしろ主武器使うのに邪魔にしかならないよ」
その後、先ほどティッキィ話した内容を伝える。
ムッとしているけど、そこで文句言われても困るんだよなぁ。
「こちらからすれば、命にかかわるからねぇ。
主武器での戦闘能力低下、僕の場合だとフットワークにも影響するね。
これで使うなんて自殺行為だよ」
というか凹んでるけど、この答え想定してなかったの?
「この弓を仮に使う場合、防衛戦とかかなぁ。
王都に敵が来て、こちらが遠距離からの攻撃する場合。
その時は少し使う可能性があるかもね。
でも、近接には邪魔」
「そ、そんな……」
「そして、普段使いとなるともっと邪魔。
例えば狩りに行く場合。
こんな大きくて重い弓もって獲物探すの?
それに、こいつが想定通りの威力を持ってたら、獲物爆散しない?」
「あっ!」
なんでそんな驚くのか分からないんだけど?
「というか、この弓を作ろうとした目的ってなんなの?」
「最強の弓を作ってみたかったんです。
どんな獣でも一発で倒せるような奴を」
「持ち運びとか考えず?
射た獣から毛皮も肉も取れない弓を何に使うの?
もしかして殺して終わり?」
顔ポカーンとしてるけど、全く考えてなかったろ?
「ついでにこれ持って移動は難しいから山駆けまわるのは厳しいね。
となると、使い道がかなり限定されるよね?
そんなの購入する理由って?」
「……無いですね。
散財&弱体化なんて望む人はいないですね」
理解できたようで何より。
「そんなわけで、この弓は量産しちゃダメ。
まぁ、ビートさん破産させたいと言うのなら話は別だけど?」
「いえいえいえ、そんなつもりはありません!」
ムッとしてるけど、この弓作った時点でかなりダメージ与えてるからね?
ビートさん既に半泣きだからね?
給料下げられている時点でヤバいって気づきなよ!




