17
◇◇◇◇
法廷に向かうと陛下以下皆集合していた。
一旦牢に運ばれた者も再度法廷に連れてこられたようだ。
隣にいる妻アニスや王妃様がホクホク顔をしている。
となるとニフェール君は苦労したのだろうと心の中で謝罪せざるを得ない。
儂、ヘルベス・チアゼムはニフェール君を探そうとするが……。
なぜかジーピン家の者がアゼル殿と女性陣しか見えない。
何を企んでおる?
プロスを揶揄うだけなら構わんが遅刻は流石に心証悪いぞ?
「アゼル・ジーピン男爵、ニフェール達は如何した?」
「はい、準備は終わりまして扉の前で待機させております。
プロス殿とスティット家側の準備が終わられましたら始められますが?」
チラッと陛下が視線を送るとプロスとスティット家は頷く。
それを見てアゼル殿は衛兵に合図を送ると、扉を開き二組の男女が入ってくる。
アダラー・ジーピン前男爵に手を取られているのがニフェール君か。
薄紫を基調としたドレスは落ち着きのある雰囲気を醸し出す。
最近の胸元開くような衣装ではなく首元までレースで隠され貞淑さを見せる。
あれ「この女ども貞操意識ないのか? 娼婦なのか?」と思うんだよなぁ……。
もう少し清楚なドレスにして欲しいと何度思ったことか。
でも胸元開きまくりのドレスも希望する女性も多いんだよなぁ……。
それはさておき、これで娘じゃないんだよなぁ。
ジルに見せたらどうなることやら……喜びそうで怖いのだが。
背筋をピンと伸ばし、誇り高く前を向く。
周囲の男ども――最低でも侯爵位を賜っている者たち――も見惚れている。
というか、貴族派のディーマス侯爵。
欲望駄々洩れな表情はやめぃ!
奥方捨ててニフェール君娶るつもりか?
もう一組、次兄マーニ殿に手を取られているのがアムル君か。
こちらは薄桃色を基調としている。
まだデビュタント前の娘であるかのように清楚な雰囲気を見せる。
これで男なんだよなぁ。
こちらも初々しくも背筋を伸ばし姉のようになりたがる妹のように見える。
周囲の衛兵たちが猛禽類の目で見ているのが恐ろしい。
特に扉空けた衛兵、お前四十越えで奥方もいるだろうに。
まさか乗り換えるつもりではあるまいな?
チラッとプロスやスティット家を見てみると……。
流石兄弟というべきか似たような顔をしている。
「この娘たちが欲しい!」と言わんばかりの目で二人を見ている。
忘れてないよな?
男だぞ?
それとも元々そっちもアリだったのか?
前男爵と次兄は後ろで控え、女装した二人は一歩前に出てカーテシーを披露。
……デビュタント直後位の娘たちよりうまくないか?
ニフェール君が……多分裏声でなんだろうが陛下に報告をする。
「陛下。
プロス殿達を捕縛する際の被害者役の化粧を施してまいりました」
陛下、なにときめいているんです?
あなたには王妃様がいるでしょ?
「あ、あぁ、ニフェールと呼んでよいのか?」
「この姿ですから……ニフィとお呼びください。
こちらは妹のアミィです」
「アミィと申します」
陛下、笑顔がいやらしいです。
新しい世界をこんなところで開かないで頂きたい!
というか、アムル君……アミィだったか?
裏声使わずとも女声に近くなれるのか……。
というかセレバス宰相!
陛下が役立たずになる前にお前が動け!
キッツい視線を送ると流石に理解したのか慌てて話の主導権を握ろうとする。
「あ~、ニフィ殿。
そなたたちはこちらのプロスが教唆した者たちから誘拐されたフリをした。
そしてプロスの前に出たので相違ないか?」
「はい……」
ん? その視線を伏せて悲し気な表情をする?
それって、アニスが儂を追い詰めるときにやってくる奴じゃないのか?
最近だと新しいドレスをねだるときにやってたな!
なぜそれを知っている?!
「私たちが寝たふりをして抱っこされて連れて行かれました。
プロスの前に出されますと……。
『これならかなりの額で売れるな。
素晴らしい!!』
と感嘆の声をあげられました」
ああ、まあ高額で売れるだろうな、この二人なら。
誘拐予定だった娘より容姿も知識も価値ありそうだもんなぁ。
「そして私たちが引き渡された時点で私が起きたふりをしてます。
『う……ん、え、あれ、ここどこぉ?』
と声を出すと……」
いや、この声だけで前かがみになっている衛兵のなんと多い事。
お前ら、何割かは奥方もいるだろうに。
「プロスが
『おやおやお嬢さん、起きちゃったんですね(ここだけ地声)』
といやらしい顔をして私を見てくるのです。
そう、まるで今のプロスの表情のように!」
法廷にいる全員がプロスの顔を見ると……あ、言い訳出来ないな。
この表情は問題あり過ぎる。
この顔して王都を歩いたら即衛兵を呼ばれるだろう。
そして女性は一斉に逃げだすだろう。
「その表情を見て、
『いやぁ!
なぜ私はここにいるの?!
家に帰してよ!!』
と私が叫ぶと、プロスは恐ろしいことを言い始めました」
体を震わせ、目に涙を溜め、恐ろしさに耐えるように思いを吐き出す。
ニフェール君、君役者できそうだよ。
看板女優としてやっていけると思うぞ。
「『お前はそこのアルクに攫われてここにいるんだ。
もう家に戻ることはできないぞ~。
大丈夫だ、お前はこれからいいご主人様に売ってやろう。
優しくお前を使ってくれるだろうさ(下種な声)』と……」
このタイミングで計ったかのように涙が一滴頬を伝う。
童貞共も童貞捨てたものも同時に騙されているのが男として悲しい。
流石にジャーヴィンのやつは引っかかってないが、他の爵位持ちが皆……。
お前らイイ女妻にしているんだから、いい年してこの程度に引っかかるなよ!!
リアルで美人局とかに引っかかってんじゃねぇだろうな?!
それに衛兵共、こんなので騙されてたら治安維持なんてできねぇだろうが!
ジャーヴィン、この裁判終わったら衛兵叩き直せ!!
儂の怒りの視線にジャーヴィンも理解したようだ。
というか、ジャーヴィンもブチ切れ寸前のようだが。
宰相が話を進めようとする……と思っていた。
「ニフィ嬢、涙をお拭き。
それとプロスよ、今までのニフィ嬢の発言を覚えているか?」
宰相! 嬢じゃなくて殿だろ!
それと、ニフェール君にコナかけようとすんじゃねぇ!
婚約者のラーミル嬢が悲しむだろうが!
というか、【岩砕】がブチ切れるぞ!
ジャーヴィン、お前も……。
って呆れて頭抱えている暇があったら宰相を引っ叩いてでも元に戻せ!
気持ちは分かるがオッサン共の暴走を止めろ!
「はっ、覚えているとも!
あの時の我が心に突き刺さるほどの衝撃!!」
は?
「今まで恋だの愛だの戯言でしかなかった!
そんな俺がこの娘たちを見ただけでその考えを改めた!!」
え、いや、ちょっと待て!!
プロス、貴様何言い出す!
「この娘たちを育て、愛で、奪う!
それが我が愛だ!」
おま、何言ってやがる!
ニフェール君もアムル君も唖然としている。
そりゃそうだよなぁ。
突然犯罪者からぶっ飛んだこと言われたら反応に困るよなぁ。
というか宰相、さっさと止めろ!
「どうせここにいる奴らはこの娘たちを我が物にする気概もないのだろう!
何もできないヘタレ共は寂しく右手と戯れているがいい!!」
何なんだ、何なんだよこいつは!
突然、イカれたのか?
「プロスよ、黙れ!」
お ?
お お ?
スティット家――多分当主か?――がプロスを一喝したぞ?
いや、行動的には正しいが、正直予想外だった。
できればそいつを大人しくさせてくれ!
「この娘たちを独り占めするつもりか!
二人いるのだから我らで一緒に調教すればよかろうものを!」
……は?
「やかましいぞ兄上!
俺が見つけた娘たちだ!
貴様になんぞ一切やらん!」
……何言ってんだ、こいつら?
法廷で女……じゃないな男を奪い合ってどうすんだ?
法廷は混乱の坩堝となっていた。
そこに【魔王】が現れた!!
ゴ ゥ ッ ! !
ガ ク ッ
法廷で覇気をぶちまける。
この場にいる者たちのほとんどを跪かせた【魔王】。
アゼル・ジーピン男爵が一言。
「皆、落ち着きなさい」
大きな声ではない。
でもなぜか声は隅々まで届き、陛下から衛兵まで皆自分を取り戻す。
戻れなかったのは二名。
プロスとスティット家の代表。
ただし先程の恋愛脳化からは脱出しているようだ。
【魔王】の覇気に当てられガクガク震えている。
「き、貴様、何者だ!」
プロスが大声で問うが、何を言っている?
ジーピン領の法廷でも今いる王都の法廷でも名を名乗っているだろう?
アゼル殿も困惑しているようだ。
「法廷の最初に挨拶したはずだが、忘れたか?」
だよなぁ。
儂もその認識なのだが。
「アゼル兄、ちょっといい?」
おや、ニフェール君。
地声ということは演技は終わりかい?
アゼル殿が頷くとニフェール君は誰かを呼んだ?
あれはジャーヴィン家のカールラ嬢?
二人を集めて小声で説明している。
アルム君が一緒になって話を聞こうと近づくのを見てると本当に姉妹のようだ。
話は終わった様だが、何を言ったのかね?
アゼル殿とカールラ嬢が危険な表情をしているようだが?
プロスの方に二人で向かい、優雅に礼をする。
「プロス殿、改めて自己紹介させてもらう」
「は?」
「アゼル・ジーピン。
爵位は男爵を賜っている」
「そ、それがどうした」
「学園生時代につけられた呼び名は……【魔王】」
「ひっ!」
え? なぜ怯えるのだ?
「私はカールラ・ジャーヴィン。
侯爵令嬢、数ヶ月後にはジーピン家に嫁ぐ身よ」
「は、【魔王】に嫁ぐ?」
「ええ、学園生時代につけられた呼び名は……【女帝】」
「は、はぁぁ?」
あれ、確かプロスは同い年じゃなかったか?
噂では――
「お前が学園で【魔王】を覚醒させたのを忘れたのかしら?」
「学園の騎士科総出で戦って俺一人に叩きのめされたのも忘れたのだろう?」
――だよな?
その話は儂も聞いておる。
「それとも都合の悪いことは簡単に忘れられる脳でも持っているのか?
答えよ!!」
ゴ ゥ ッ ! !
また覇気を浴びせられ今度こそ気絶したようだ。
って、この法廷どうするつもりだ?
「……ジーピン男爵アゼル、それとニフェールよ。
この状態をどうするつもりだ?」
陛下から問われるが、本当にこれどうしよう。
儂手に負えないよ?
「陛下、プロスとスティット家代表について薬物確認をお願いしたく」
え゛?
「先ほど私が説明した後の二人の反応がおかしいと思いませんか?」
「う、うむ、確かに」
いや、陛下、あなたもあの会話に入りたそうにしてませんでした?
「あそこまで暴走するのは普通の状態では無いと考えます。
となると何らかの薬が関わっているのかと思ったのですが……」
言っていることは正しい、正しいのだが……。
正直ニフェール君とアムル君が【傾国】とか呼ばれそうな行動。
それが原因な気がしてたまらないのだが?
そう考えているとジャーヴィン侯爵が割り込んできた。
「確かにニフェールの言う通りだな。
チアゼム侯爵、薬物反応が出るかどうかはさておき確認は必要と思うが?
いくらニフェールたちがあいつらの性癖に直撃したからとしてもだ。
陛下の御前であんなイカれた行動はとらんだろう?」
「……確かにそうだな。
分かった、すぐに手を回そう。
宰相、一時審議を止める」
「かしこまりました。
では衛兵、プロスとスティット家代表を医務室へ」
ふぅ、面倒くさいことになりそうだ。
明日の更新で三章完となります。
なんとか毎日更新したうえで章の終わりまでたどり着きそうです。




