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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
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38

◇◇◇◇



 ド カ ッ ! !



「あぁ! 気分(わり)ぃ!!」



 俺、北部暗殺者ギルド長ヘリンはイラつき、そこらの壁を蹴りつける。

 隣にいる強盗ギルドの長で俺の弟分のモリーも腹立ちを抑えきれない。



「なぁ、どうするつもりだ?

 王都向けの依頼を受けられなくなっちまったし、領主の依頼は受けられないぞ?

 北部で大した仕事無いし、このままだと領主から見捨てられる可能性も高い。

 ……多分、領主が消しに来る可能性もあるぞ?」



 だろうな、俺もそう思うよ。

 だが、それを回避する術を考えずに動いてもなぁ。

 対応間違ったらその場で死ぬのが確定しそうだし。



 今の領主――テュモラー侯爵――は北部地域の大元締めだ。

 ついでに貴族派とかいう派閥の重鎮でもある。

 そして、最近もう一人の重鎮である東のディーマス侯爵が崩壊しかけてるとか?

 どう考えても攻勢をかけて派閥を牛耳るチャンスとしか思えねぇ。


 北と東の争いだけなら大して気にもかけられなかったかもしれねぇ。

 だが、裏の人間と王都を関わらせた。

 その結果、裏としては王都、そして他地域と北部が争うことになる。



 ただ……よく分かんねえんだよなぁ。

 なんで王都を関わらせようとしたんだ?


 王都なんて他の派閥もいる魑魅魍魎の居場所だろ?

 そんなところを攻略できるほど浸食できているのか?

 その割には騎士たちは俺たちの行動を阻害してるしなぁ。


 あ、ラングとか言う家のオッサンが死んだとか言ってたな。

 確か領主の右腕のような存在じゃなかったか?

 そんな奴死んだのにどうやって王都を関わらせていいと思ったんだ?


 いかん、本気で分からねぇ。




 それから数日後、俺とモリーは……テュモラー侯爵の前にいた。


 侯爵は結構なジジイだが、まだ矍鑠(かくしゃく)としている。

 ……その無駄な生命力俺にくれよ。


 それと一緒に息子――三十代くらいか?――が同席した。

 こいつには会った事が無いんだよなぁ。

 ジジイと同じような性格なのは勘弁してほしいんだがなぁ。



「暗殺者と強盗の長よ。

 そなたらに依頼した件、失敗したようだな」


「申し訳ありません。

 騎士たちが対象を予想以上に固く守っていたので。

 なお、襲撃した者たちは毒を飲み全員死んでおります」


「当然じゃ、情報漏らされてはたまったものじゃないからのぅ。

 それと、依頼主であるトリアルク家は騎士たちに捕らえられた。

 それ故、この依頼は無かったことになりそうじゃの」


「捕らえられた?

 何が起こっているのでしょうか?」



 コカたちからはそこまでの情報貰ってねえんだよなぁ。



「知らん。

 普通に考えればあ奴らが国に睨まれることをしたのだろうよ。

 自分の娘を誘拐させろなんて依頼を出す位じゃ。

 どんな罪を犯しても驚かんよ」



 いや、気にした方がいいんじゃないのか?

 トリアルク家からテュモラー家の関与がバレたら面倒だぞ?

 侯爵という立場を使って誤魔化すのか?

 まぁ、どうにか出来るならやって見な。

 俺たちに迷惑かけなければ好きにやりゃあいい、止めやしねえよ。



「で、じゃ。

 そなたらに別の依頼をしよう。

 最近王都で何度かこちらの邪魔をする輩がいる様での。

 そいつを消して欲しいのじゃ。

 名はニフェール・ジーピン、学園の騎士科二年だそうだ」



 は? 俺たちに学園生を殺せと?

 いや、そんなの俺たちが殺さなくてもアンタらで十分できるだろ?!



「……現在、我々は王都での仕事を許されておりません。

 なので、すぐに対処は出来ません」


「何故じゃ? そなたらの仕事ができないとは?

 自分の存在を否定してどうする?」



 まぁ、暗殺者が殺しを否定したらそんな反応するのも分からなくもない。

 だが、色々あるんだよ。



「先のトリアルク家の依頼対応が問題になっておりまして……。

 本来王都での仕事を我々が勝手にやることは禁じられていたようなのです。

 それ故、現在我らは北部以外の仕事を受けることができません。

 ぶっちゃけて言うと犯罪者間の義理を欠いたための罰ですね」


「はぁ……そういうことがあるんじゃな?

 なら仕方ないのぅ。

 ちなみに、王都の暗殺者共に依頼することは可能なのか?」


「我々経由での依頼は今すぐは無理ですね。

 ただでさえ王都側に不信感を抱かせてしまいました。

 それに加えて今回の依頼を受けた場合、我々は他地域と戦争になります」


「戦争とな?」



 唖然とした表情をするジジイ。

 とはいえ、「戦争」の単語には反応したな。



「ええ、犯罪者たちの間で他地域での仕事は禁じられているそうです。

 今回は平身低頭して罰を受け入れて許しを得ましたが、最悪は……」


「ふむ……わざわざ領地を戦場にしたくないのぅ。

 であれば、仕方ない。

 何時頃そなたらは罰から解放されるのじゃ?」


「分かりませぬ、王都側も北部側もかなり怒ってましたので……。

 今年中に何かできれば早い方では無いかと」



 ……呆れられてしまった。

 とはいえ、色々あるんだよ。



「わざわざ犯罪者共の規則を破って北部一帯を殺戮の場に変えたくはない。

 とはいえ、こちらにも都合がある。

 今年の建国祭前には罰を解除できないか?」


「……保証は出来ませんね。

 最低でも我々が長となってからは初めてのことなので正直予想が付きません」


「ふむ……では少々こちらで娼館ギルドに圧力をかけておくかのぅ。

 とりあえず暫し様子を見ておけ。

 一月以内に罰の解除がなされなければ連絡しに来い」


「かしこまりました、では失礼いたします」



 そのまま領主館を出てモリーと別れる。

 出来ることなら何もなしには……無理だな。

 多分無理に建国祭前に動けるようにするのだろう。

 だが、それをやると確実に犯罪者共の争いとなる。


 全く面倒だぜ!



◇◇◇◇


 全く……役に立たん奴らだ!



 わし、オステオ・テュモラーはあやつらが帰ってから執務室で頭を抱える。

 いくら何でも王都での行動禁止なんて話が出てくるとは予想してなかった。


 というか、あやつら知らなかったのか?

 普通、できないなら事前に言うだろうに!



 あやつらが役立たずならば王都の暗殺者を雇うか?

 とはいえ、先日のトリアルク家の件はわしが指示出したこと掴んでおるだろう。

 となると王都のギルドはわしのことも敵認定しているかもしれん。


 なら……王都にいるわしの派閥の奴ら経由で依頼する形にするか?

 確か、中立派の貴族で王都在住の奴がいたな?

 ここで使って……いや待て、あやつらはまだ使えるから捨てるのはマズいな。


 国王派かディーマス派の奴を使うか。

 噂では大々的な粛清が行われているようだが、誰が生き延びているのだ?

 ラングからの情報が止まっているので王都の情報が入ってこん。


 こうなると、ラングの奴が処刑されたのは痛いな。

 あやつが生きていれば王都の情報がわしの元に届くのだが……。

 他にもいないわけでは無いが、あ奴ほど気が回るものはおらんからなぁ。

 この辺りは王都住まいをしてないわしの派閥の弱点じゃな。



 これは、わし自身が一時とはいえ王都で動かねばマズいな。

 最低でも王都の情報収集が確実にできるような環境を再構築しなければ。




 それと、今回消そうとした奴、ニフェール・ジーピン。




 ラングからの情報ではかなり無茶苦茶な輩と見える。

 ダイナ家が纏め上げていたスホルム領の件。

 あのカラクリを見切り、制圧し、あの領がまともな領主に引き渡された。


 別にあの領から搾り取れる金は大したものではない。

 だが、王家派の者がわしの部下となっていることがバレている可能性がある。


 それ以外にも頭がおかしくなったかと思わざるを得ないような報告も受けた。

 王都で暴動が発生し、それを鎮静化したのはクソガキとその兄だとか。


 書くにしてももっとまともなストーリーにしろと何度言いかけたことか。

 どう読んでも冒険活劇真っ青な話になっている。

 王都の話なのだから、伝説のドラゴンが出てくるわけでもないのに。


 それにラング家を壊滅させた。

 その詳細は分からぬ。


 一応他の部下たちからの情報から推測すると……。

 どう考えてもラングを壊滅させる痕跡を見つけたのはあのクソガキだ。

 最悪、あれはその繋がりでわしを敵と判断しているかもしれん。


 あるいは、既に暗殺者でも雇ったか?

 いや、北部の暗殺者はわしの指示に従うからそのルートは無いか。


 とはいえ、依頼が来るかもしれんな。

 あぁ、長共には先ほど伝えておけばよかったか。



 さて……本気でこの件はどうしようかのぅ?



 まず、建国祭の時に王家を(しい)する。

 全員出来ればよいが、最低でも王妃(●●)

 アレ(●●)が危険人物として有名になったのはわしが学園卒業して十数年してからか。


 アレ(●●)は存在するだけで危険極まりない。

 アレ(●●)を暴走させない、それが今の陛下の存在価値だ。

 今まで目立たぬようにしてたのも喰らいつかれないように身を隠しただけだ。


 とはいえ、ディーマスが壊滅し貴族派はわしのもの。

 文官側はラング家が潰れてしまったが、まだ人はいる。

 そして騎士側は順調に味方を増やしておる。




 これを契機に北部と東部でこの国からの独立準備を進めなければ。




 いつまでもアレ(●●)の下で怯えて暮らすのはまっぴらだ。

 さっさとあれの下から抜け出してわしの国を作る!

 無駄に怯えることのない、わしが王となる国を作るのだ!!



「失礼します、父上。

 ……どうされました? 廊下にまで聞こえる声で騒がれていたようですが?」



 突然入ってきたのはわしの息子で次期テュモラー侯爵のメシロマ。

 ……少し興奮し過ぎてしまったか。


 多分ノックしてもわしが反応しなかったから入ってきたのだろう。

 これは文句は言えんな。



「そんな騒がしかったか、済まんな。

 暗殺者共に依頼していた仕事が失敗したようだ。

 ついでに王都での仕事を禁じられたと聞いて怒りが収まらなくてな」


「仕事を禁じられた?

 どうやってです?」



 一通り事態を説明すると、頭を抱えるメシロマ。



「……その規則を暗殺者共は知らなかった?

 そんな馬鹿要らなくないです?」


「正確には無視して今までやらかしていたようだが、今回バレたんだろうな。

 そして王都から叱責に加え、宣戦布告一歩前であること明言されたのだろうよ。

 愚かしいとは思うが、汚れ仕事をさせるには都合がいいのだよ。

 新たに探す位なら使い続けた方が面倒が少ないのもある」



 一束幾らかで売っているわけでは無いからなぁ。

 それなりに殺しの知識が無い奴では意味がない。



「まぁ、そうですけどねぇ。

 ちなみに、建国祭の件はいまの話だとできなくなったってことですよね?」


「多分な。

 なんで、別の策を考えなくてはならない。

 まぁ、最悪今年は大人しくしておくと言う選択肢もあるがな。

 なんせ、ラング家が壊滅してしまった。

 王都文官側が弱くなっているのと、情報収集の点で難しくなっている」


「……一つ提案なのですが、我が娘が来年学園に入ります。

 そこで、娘を王都の屋敷に住まわせて、情報収集に強い部下を付けるのは?

 三年程度ではありますが、情報不足は無くなるかと」



 孫……オヴェリアか。

 そう言えば、そんな歳だったな。

 確かに王都の情報を集めるのにラング家の次を用意しなくてはならない。



「それと、暗殺者共の仕事はいつ頃から再開できるかご存じですか?」


「分からん、なので一月以内に状況が変わらなければ連絡するよう指示しといた。

 わしらはそれまでに策を練るのみ」


「そうですか……次回の話し合いの際に私も参加してもよろしいですか?」


「構わん、むしろ何かいい案が浮かんだら教えろ」



 お互い話すことを終え、わしの執務室から出ていくメシロマ。



 さて、どうするかのぅ。


 ……とりあえず王都の情報屋から現状を得るように動かすか。

 ついでに強盗ギルド辺りに誰かを潜入させてみるか。

 情報源は多い方がいいからな。


 王都の犯罪者ギルドの状況とニフェール・ジーピンの噂。

 そして王宮の状況だな。

 特に王家側の脇が甘くなっていればこちらも襲撃しやすいのだが……。



 あぁ、考えるにも情報が足らん。

 やはりラング家壊滅は痛かった……。


【テュモラー侯爵家:貴族派】

 オステオ・テュモラー:テュモラー侯爵家当主

  → 姓は腫瘍から

    名は骨肉腫から


 メシロマ・テュモラー:テュモラー侯爵家嫡男

  → 名は中皮腫から

 

 オヴェリア・テュモラー:メシロマの長女、オステオの孫、来年学園入学

  → 卵巣腫瘍から

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― 新着の感想 ―
いやぁ、暗殺者ギルド経由で二フィール暗殺依頼が王都にもたらされたら話は早かったのにねぇ、意外とまじめなギルドの頭たちだね。ただの脳筋なら直接手を出したらまずいだろうけど、斡旋して手数料を貰うぐらいなら…
ニフェールを殺る…? 棺桶に片足突っ込んでるのに、死期を早めたいのかな?   
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