32
寮で夕食を食べ、急ぎ侯爵家に向かい、カル達と娼館街へ。
「お、来たね」
婆さんが飄々とした表情で迎えてくれた。
「パン爺さん、もう来てたんだね。
遅くなって申し訳ない」
「いや、わしも来たばかりじゃ。
……今はニフェールの方じゃな?」
「ええ、このメンバーだけなら演技する必要ないので。
化粧もしてませんしね」
面倒だからねぇ。
隠す必要なければこのままの方が楽だし。
「んじゃ、説明するとしようかの。
あの修道院、リヴァとか言ってたのぅ。
あそこはほぼ北部、昔はラング家が裏で色々やっとった。
今はテュモラー侯爵が同じことやっとる」
「やっぱり……」
そりゃ北部の奴らが関わるわな。
悪だくみの中心の一つって感じかな?
「あそこでは毒草を育てておる。
暗殺や心を壊したりする類の毒じゃな。
とはいえ、修道院に入った女性陣には何もさせておらんよ。
実際対応しているのは北部からやってきた奴らのようだ。
なお、知ってるかもしれんが騎士団にも仲間がいる。
第一部隊と第七部隊。
この二部隊はかなり北部の奴らが集まっている。
最近追加で第四部隊にも少しづつ集まっているそうじゃ」
第一、第七は何となくわかる。
第四は……あ!
隊長&副隊長共がやらかした後、当時の第一の副隊長が第四の隊長になったな。
ということは、現在の第四の隊長は北部関係者?
違ったとしても、第一の副隊長の頃からやらかしてそうな気がする。
「パン爺さん、他はいても影響なしってこと?」
「そうだと思うぞ?
というか、喋ってるのを聞いただけだからのぅ。
話の内容を総合すると今言った推測になると言うだけじゃ」
「まぁ、そりゃそうか。
ちなみに、修道院で女性を売るとかは聞いたこと無いよね?」
「それは無いな。
とはいえ、王都で売ることは無いだけで北部で売るとなれば分からんぞ?
薬飲ませて眠らせて、荷物として王都を出たら後は何とでもなるからのぅ」
「だよねぇ……とはいえ、メインは毒草栽培。
……もしかして夏辺りにジーピン家で叩き潰した違法薬物。
あれもこれに絡む?」
「ばっちり絡むぞ?
北部の奴らが作り、東部に卸す形だったからなぁ。
あの製造場所は北部・東部合同で使用していたはずじゃ。
とはいえ、北部はあそこではあまり目立たなかったからな。
処罰されたメインは東部の奴らのはずじゃ」
ん~?
「カル、ルーシー。
あそこでカリムとナット、それと禿を派遣することを求めたのは誰?」
「ディーマス家だな。
多分、北部の貴族からの依頼は無いか知りたいんだろ?
俺たち暗殺者に北部の貴族は依頼してきたことは無いな」
「多分王都の犯罪者ギルドへの依頼はディーマス家が担当なんでしょうね。
そこらの役割分担はちゃんとしていたようよ?」
変だな、説明におかしい所がある。
もしくは、あまり気にされてないのか?
「カル達、そしてパン爺さん。
ボシース家が修道院から運び、インファ家が薬師に指示する。
その薬をクレオシス家が卸す、これが僕の認識だった。
でも、クレオシス家と東部側の担当が重なってない?」
カル達は「アッ!」という反応を見せる。
だよね、なんかおかしいよね?
でもパン爺さんが反応無いのが気になるな。
「多分違法薬物製造拠点へ運ぶのがボシース家。
拠点に薬師を集めて指示するのがインファ家。
ここまでは分かるんだ。
けど、東部とクレオシス家が卸担当とするのって変じゃない?」
「それは単純に卸の範囲が異なるのじゃよ。
基本東部の輩は東部、王都、西部、南部の一部を担当しておった。
クレオシス家は南部の残りと北部じゃな。
この分け方が変と思うじゃろうが、そこらはあの家の都合によるものじゃ」
都合?
なんのこっちゃ?
「あの三家は北部の貴族の娘をよく宛がわれているようでの?
半分北部、半分南部と言った感じなのじゃ。
とはいえ、北部の身体的特徴は出てきてないようじゃがの」
「それって毛深さ?」
「何じゃ、知っておったのか。
その通りじゃよ」
というか、よくそんなことまで知ってんな。
そっちの方が驚きなんだけど?
「ねぇ、その手の情報が王都の乞食やってて入ってくるの?
何となく他の情報源も持ってそうな気がするんだけど?」
「ん? あぁ、坊は多分勘違いしとるの?
名称は乞食だが、実際は商人やってる仲間もいるぞ?
当然王都から色々な所に行って情報を集めておる」
あぁ、外部にも目があるんだ。
なら納得だわ……ってもしかして王宮にも伝手ありそうだよね?
思いついた後、チラッとパン爺さんを見ると悪戯成功したような表情を見せた。
「……んで、王宮とのやり取りは誰?」
「ナイショじゃ♪」
「……念の為、それは北部の奴らと関係ないと言う保証ある?」
「保証というか、あちらからも坊と同じような依頼が来ているからのぉ。
これで北部側だったらわしも驚きじゃよ」
両侯爵か宰相か、もしくは王家。
むしろ陛下直属の者が窓口とかか?
「ちなみに、情報のやり取りは頻繁?
それともここ一年位でいきなり増えた?」
「後者じゃな。
元々僅かな伝手じゃったはずだったが、晩春辺りから急に増えたのぉ。
その後、学園の夏休み位にまた一気に増えたな」
それって僕の行動が関わってるよね?
時期的にピッタリだし。
僕が動き出したから慌てて調査し出した?
ちゃんと仕事すれば色々事前に止めれたんじゃないの?
何やってんだか。
「ちょっとその王宮の伝手って奴に伝えておいてくれるかな?
僕の名を出していいから」
「ん、なんじゃ?」
にっこりと微笑んだ後、全力でぶちまける!
「これだけでっけぇ情報源あって動かねえのはなんでだ?
学園生一人がフル稼働して国守るってありえないだろう?
どれだけ情報無駄にしてやがる!
どうせ国中で誘拐していた奴とか事前に情報あったんじゃねえのか?!
アゼル兄の結婚式の襲撃とかもそうだ!
王宮で仕事する位なんだから、国への影響考えて行動取れや!!
これ以上無能晒すなら文官になるのもやめてジーピン領に引き籠もんぞ!!!」
パン爺さんがヒクついている。
あぁ、爺さん自体が悪いわけじゃないから。
言伝ちゃんとしてくれればいいだけだから。
「ふぅっ……一言一句漏らすことなく王宮の伝手に伝えてくださいね?
あ、できれば明日の午前中には伝えて頂けると助かります」
「……分かった、坊が本気でブチ切れてたとも伝えておく。
午前中ということは、放課後まで反省してろということじゃな?」
「その通りです、よろしくお願いします」
ちょっとすっきりした。
カル達も呆れと納得の表情をしていたし、まぁいいでしょ。
「ちなみに、先ほど卸の範囲で微妙に過去形な言い方してたけど?
もしかして最新では変わってる?」
「変わってるのぅ、現在西は空白状態じゃ。
王都もまともに動けておらんし、北部の奴らが王都の確保に動いておるわ。
それが終わったら南の制圧か西に手を出すか……。
東が壊滅するのが分かっているからかやりたい放題じゃの」
まぁ、ディーマス家壊滅確定してますからねぇ。
「とはいえ、北部のラング家が消えたために動きが鈍くなっておるな。
アレを処分したの坊なんじゃろ?
あのおかげで王都はまだ現状維持できているぞい。
とはいえ、そう長くはもたんと思うがの」
「二月上旬に修道院の奴ら潰すつもり。
それ終われば違法薬物騒ぎはほぼ終わるかな?」
「ふむ……個人的にはそうなって欲しい。
他の地域の者が王都に首突っ込んでくるのはやはり気分が悪いからのぅ」
だろうねぇ。
さて、後は……。
「修道院でまともなのって誰かいる?
入った女性陣はまともなんだろうけどさ」
「修道院長だけはまともみたいだぞ?
だが、他は北部の犬じゃな」
あぁ、やっぱりそうか。
なら、フルボッコにしてやろう。
「後、騎士の中で北部側の奴が誰かなんて知らないよね?」
「全員は知らんな。
多分修道院に常時居座っている騎士は北部側なんだろうがな」
「隊長・副隊長格では?」
「知ってる限りでは第四の隊長・副隊長、第七の副隊長あたりじゃの。
第一は上二人、第七は隊長がまともなのに他が終わっているからなぁ……」
第四が終わってるのか……。
もしかしてとは思ってたけど、面倒だなぁ。
どうしようかねぇ……。
「念押しなんだけど、第三と第六はどう?」
「第六は隊長はまぁ、まともだな。
副隊長はまだ分からん。
何となくちゃんとしてそうだが、副隊長やってる時間が短すぎて判断し辛い。
第三は副隊長が第六と同じで判断付かん。
隊長は……まともではあるが少々問題ありってところかのぅ」
「問題?」
「結構な上昇志向でな、多分あれは第一部隊隊長の座を狙っておるぞ?
まぁ犯罪犯して奪うとかはせんタイプじゃ。
今の第一部隊隊長がやらかさない限りは大丈夫じゃろ。
とはいえ、北部の話で詰められて降格とかなったら立候補するじゃろうな」
ふむ、それはありそうな気がする。
ラクナ殿が消えた場合、次はマーニ兄だろうけど経験不足を理由にしそう。
となると第三から第一に鞍替えしてって感じかな?
ヘンミー殿も副隊長になったばかりだから隊長にするのは無理だろうし。
となると、ほぼ第三隊長で決まりか?
現第五のペティック殿という線もあるけど、あちらはそこまで狙わなそうだし。
「んじゃ、どっち先にしようかねぇ。
騎士から犯罪者を取り除くか、修道院制圧してから騎士をどうにかするか。
同時……第一の修道院組はともかく第七は対応してないはずだからなぁ。
野放しになっちゃいそう」
「そうじゃのぅ、第一は修道院制圧で大体消せるのではないか?
なら第七は後回しかのぅ。
まぁ、修道院制圧時に並行して第七の捕縛が可能ならともかくな。
よく言うじゃろ、『二兎を追う者は一兎をも得ず』とな」
まぁ、そうなんだけどね。
何となく、ここで残した側がこの件の後嫌がらせして来そう。
まぁ、やり返すけど。
「パン爺さん、可能ならば第一の北部側の奴らを調べて欲しいな。
明日王宮行ってこの情報渡して、金払えって文句言ってくるから。
それなりに吹っかけてイイよ?」
パン爺さんが少し考えてカルに話しかけた。
「……なるほどのぅ、カルよ。
前回いきなり金貨一枚出してきたから頭イカれたかと思ったが……。
坊のやり方を真似たってところか?
以前のお前なら銀貨、状況によっては銅貨で済ませただろうに」
「真似というか……これやられて文句言う奴っていないんだよなぁ。
自分の仕事をちゃんと評価されるとやっぱ嬉しいしよ。
実際ニフェール様ってよく褒めるから、嫌いになる要素が無えんだ。
まぁ、金も無えんだがよ……」
金は……金は言わんでおくれ!
王宮から爵位攻めにあってるんだ。
金貨に換えて欲しい位なんだがなぁ。
「ふむ、坊よ。
騎士団の調査、こちらで出来る限り進めておこう。
全員は無理かもしれないが、出来る限り調べておこう。
二月上旬に移動だから、十二月終わりか一月初め頃までに情報引き渡そう」
「ん……それなら一月や二月の第一部隊のスケジュールに割り込めそうだね。
それでお願い。
後、余裕あったら第七の情報もお願い。
優先は第一だけどね」
「分かっとる。
そこもついでに動いておく。
多分金貨百枚レベルの仕事になりそうじゃの……」
おや、そんなに?
まぁ、いいか、どうせ払うの国だし。
「そう言えば、強盗ギルドの状況どうなったの?」
「あぁ、あっちも進めておるよ。
オブスから離れたい者たちは予想以上におった。
安全のために従っているが、望んで無いと言ったところかの」
あぁ、正面から文句言っても危険だから適当に従ってるって感じか。
なら、反乱という形で取り除けばいい。
「本来やらせたかった人物ってやる気出した?」
「説得中だ。
今のままだと暗殺者ギルドが出張ってくるから覚悟決めろとは言ってる。
当人もやる方に傾いているようだが、勝算を見いだせないのだろう。
ニフェールの実力を僅かなりとも理解すれば諸手を上げて賛成するだろうがね。
だが、今それを説明しても受け入れられないだろうよ」
「まぁ、暴動時の対応を説明したら怖がるだろうしねぇ。
僕の実績はニフィ側ではあまり目立ってないからなぁ」
一応一部ニフィとしても動いているんだけどねぇ。
生産ギルドの長を助けるとか?
でもそれは大々的にには言えないしなぁ。
「まぁ、最悪わしから暗殺者ギルドに依頼したことにして話を進めるやもしれん。
その時は頼む」
「了解。
多分騎士も動かすと思うけど、そこは気にしないでいてくれると助かる」
「普通、そんなことされて驚かない奴がどれだけいると?
無理だろうに」
「逃走させないようにするには居場所を取り囲む必要があるからなぁ。
人数で押すには騎士に頼んだ方が楽なんだよね。
個々の能力だけならうちの面々で十分なんだけど、数には勝てないからさ」
なんかカル達が照れ始めているけど、結構お前ら実力ある方なんだぞ?
カルであっても騎士の下っ端なら十分対応できるだろ?
カリムはラクナ殿に副隊長になって欲しがられるくらいだし。
多分ナットも近いことできるだろ。
それより上のティッキィは言わずもがな。
それでも数で来られると確殺されちゃうからねぇ。
余程都合のいい位置取りしないと無理だ。
その後、解散となり僕たちはチアゼム家に戻る。
王宮側の窓口誰だろうねぇ……何となく侯爵方ではない気がするんだけど。
宰相? いや、違うな。
ん~、ま、いいや。
後日ゆっくり考えようかな。




