表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
352/360

31

 次の日。

 朝、教室に入るといきなりホルターとスロムが。



「「昨日は済まんかった!」」



 いや、それを今されても……。



「まぁ、今更時は戻らないからここで愚痴る気はない。

 とはいえ、ホルター。

 ペスメー殿とちゃんと話せてないんだよな?

 なら改めてちゃんと話せ。

 手紙送るとかで予定確認してペスメー殿の家に行ってみろ」


「あ、あぁ、そうだな」



 まだビビってやがんのか、こいつ。



「なぁ、ニフェール、今日お前の兄貴の手伝いするんだよな?

 手を貸そうか?」



 ……スロム、何でお前の手が必要だと思うんだ?



「いらん。

 というか、何でお前の手が必要だと思ったんだ?」


「ん? 昨日言ってたろ? 仕事手伝うって」


「そりゃ言ったけど、僕が手伝うのであって、お前に頼む気は一切ないぞ?

 というか、執務室から追い出される前に何て言われたか忘れたのか?」


「あ……」



 思い出したようだな。



「『ここに来るならもう少し常識養ってからにしろや』って言われてるんだぞ?

 今の時点でノコノコ手伝いに行っても呆れられて終わりだろ。

 反省も出来ないのかと頭抱えられるぞ?

 騎士科次席でこれかよって言われるのがオチだ」



 まぁ、今日の放課後にこれらの情報纏めて伝えるけどね。



「最低でもこの手の話でお前らを連れて行くことは近々ではできんよ。

 それだけ向こうから不愉快に思われているんだぞ?

 その感情を落ち着かせるために手を貸してくるのに……。

 何で不愉快にさせた根本原因を連れて行くなんて思う?」


「……」



 やっと理解したか。

 とはいえ、何で二人があそこまで暴走したのやら……。



「なぁ、二人とも、何でお前らはあそこまで暴走したんだ?

 普通に考えてあの対応は無いだろ?

 マーニ兄が常識知らずと判断するのも仕方ないと僕だって思うもの。

 理由、説明できるか?」



 二人とも考え出すが、答えが出てこないようだ。



「後々考えてあの時の対応が間違っている。

 これは?」


「そこは分かる。

 だが、何であんなに暴走したかと言われると……」



 自分たちの言葉で纏めるには厳しいか?

 なら各場面での感情を聞いてみるか。



「……スロム、元々ペスメー殿に会うと決めた時点でお前らどう考えた?」


「ん~、ニフェールが提案したってことは出来る騎士なんだろうなって。

 ならお前の対応について正しい判断してくれるだろうって思った」


「王宮に入って実際会ったときは?」


「……雲の上にいるみたいだった」



 はぁ?

 ……まさか?!



「スロム、もしかして王宮に入った経験ってほぼ無し?」


「あ、あぁ、実は私的に行ったのは昨日が初めてなんだ」


「ってことは、先ほどの『雲の上』発言は……緊張しまくってたってこと?」


「……どうだろう……そうかも」



 あぁ、緊張しまくった挙句パニクっちゃったのか。

 そりゃ難しい。

 というか、変なところでスロムの弱点を知っちまったな……。



「とりあえずスロムの方は分かった。

 でも今後、特に騎士となったら普通に王宮入るんだぞ?

 緊張するなというのは無理だし慣らしていくのも難しいが、覚悟は決めておけ。

 ちなみに、もしかして学園入学でも同じように緊張してたんじゃないのか?」


「あ、あぁ、その通りだ。

 とはいえ、入学式前に寮に入って数日落ち着く時間があったからな。

 そこはどうにかなった」



 そういうことか……。

 時間的に余裕があればなんとかなるけどいきなりは厳しいってことか。


 あれ、スロムの理由はまぁ納得いく。

 んじゃ、ホルターは?

 セリナ様関連で王宮何度か行ってるよな?

 会って即キスしようとするくらいだし、今更緊張してなんて単語は無いだろ?



「ホルター、お前はどうなんだ?

 ペスメー殿に会うとき何か思う所があったのか?」


「いや、そんなことは無い。

 久しぶりに兄貴に会うってだけだ」


「王宮では?」


「特に何も。

 何度か入ってるからな」


「執務室は?」


「……どうだった?」


「いや、僕に聞くなよ!!」



 まさかこいつ、スロムみたいに緊張した?


 え、でも、ペスメー殿は今更だし、マーニ兄にも会ってるよな?

 侯爵方の前でもいたことあるだろ?


 となるとなんだ?

 執務室が緊張の原因?



「ホルター、王宮に入ってから執務室までは覚えてるか?」


「……入ってすぐ位は覚えている。

 セリナ様と会うときに通っている所だからな。

 だが、そこから記憶が曖昧だ……もしかして、俺、緊張してたのか?」


「だからそれをなぜ僕に聞く?!

 とはいえ、可能性は高そうだな。

 ……以前王宮に連れて行ったよな?

 あの時入ったところも緊張したのか?」


「……そこまでは緊張してなかったな。

 あの時暴走したのは部屋に入ってからだよな?」


「だな」



 え、となるとあの時の違いは……。

 自分が行ったことあるか?

 それと付き添いが行ったことある人かどうか?



「ホルター、もしかしてお前、僕がいるかどうか?

 行ったことある人が一緒にいるかどうかで変わってる?」


「……確かにそうかも。

 もしかして今回はスロムとだから無理だった?

 ニフェールと一緒ならまだマシだった?」


「可能性は高そうだな……一度行ったら問題はなさそうだが。

 侯爵の執務室でガッチガチだったのは侯爵への緊張?

 今回は既にあっているマーニ兄と生まれた時から知っているペスメー殿。

 となると……初めての場所ってのと安心できる付き添いがいなかったことか?」



 こいつら、本気で面倒だな……。

 後でペスメー殿に過去に似たようなこと無かったか聞いてみるか。



「取りあえず、もうお前らだけで王宮に行けとは言わんよ。

 最低でも一度は連れて行かんとダメなことは分かった」



 しょんぼりする二人。

 でも、その位やらかしてるんだぞ?




 その後教師がやってきたので授業開始。

 そして昼食時。



 レルカ・クレイ・ラシー嬢・ニミー嬢も含めて七名で昼食。

 話題はラーミルさんと一緒にお茶したことについて。

 一言で言えばキャッキャウフフな会話しまくっていたようだ。



 ……エロ要素無しだからね?

 婦女子の楽し気な会話だからね?

 腐女子じゃないからね?



 その間男性陣は呆れつつも文句も言わずに落ち着くのを待っていたようだ。

 大変だねぇ……でもあの時に執務室に行くよりマシか。


 僕も急に王宮に呼び出された件を説明すると、何とも言えない表情をされた。

 まぁ、気持ちは分かる。



「ニフェール、どうにか出来るのか?」


「キツいかな……とはいえ、本当に緊張からならどうしようもない。

 とはいえ、ニ・三回王宮に行ってみれば慣れると思うけどね」



 マーニ兄とペスメー殿がそれまでに怒りを爆発させないかが不安かな。

 とりあえず今日向こうの二人に話してみると伝える。




「ニフェール様、学園生のやる範囲じゃないですよね?

 仕事量と考えても多すぎな気がしますが」


「それでよく騎士科首席とか三科試験受けるとかできてますよね?

 どう考えても時間が足りないと思うんですけど」




 正直な反応だな、お嬢さん方。

 本当にその通りだよ!




 放課後、チアゼム家に向かいラーミルさんたちと合流。

 そのまま王宮のマーニ兄の執務室へ。


 二人だけじゃなくビーティ殿とメリッス殿まで待機していた。



「……で、何なんだ、この無茶苦茶なメンバーは?

 どう考えても騎士団のとある一部隊の書類処理をするような面々じゃねえよ!

 もしかして王宮の文官仕事乗っ取りに来たのか?

 騎士団の書類仕事なら確実に乗っ取れるだろうがな」


「文官の四分の一位なら乗っ取れるかもしれないけど、今はやるつもりは無いよ。

 とりあえずこの書類チェックすればいい?

 後、突っ返す場合の運び屋はビーティ殿達でいい?

 それと門限までならリトライ認めます」


「分かった、運び屋は二人の部下にやらせるから気にするな。

 書くのはこの二人がメインだ。

 ここで書いてもらって、ニフェール達に渡す。

 おかしければ指摘、できれば修正内容も書いてもらえると助かる。

 そして、それを元にこいつらが清書、再確認の流れだ」



 なんか、ビーティ殿たちが怯えているけどなんで?

 そんな怖がらなくても……。



「大体流れは分かった、マーニ兄達は打ち合わせだね?」


「あぁ、戻ってすぐだったからペスメーと認識合わせできて無くてな。

 この時間にやっておきたい」


「ついでに、その打ち合わせの後少し話したい。

 昨日のあの二人の暴走理由ちょっと分かったかも」


「……マジか。

 分かった、早めに終わらせる」



 そう言って、二人は打ち合わせに出て行った。

 僕たちは残された書類のチェックに勤しむ。




 ……ねぇ、これで何で書類提出できると思ったの?

 誤字脱字、計算ミス。

 一つ二つどころか、書類一枚につき最低十はミスが見つかる。



 これ、マーニ兄毎回泣いてたんじゃね?

 こんなチェックしたく無かろうに……。

 部下の書類の書き方指導必要だと思うけどなぁ。


 あ、だからペスメー殿が戻ってくるのに合わせて押し付ける?

 もしくは指導を頼むとか?



 そんなことを考えながらサクサクとチェックしていく。


 ビーティ殿作成分はまだマシ、と言っても半分は誤字脱字が見つかるが。

 こちらは文章としては言いたいことは分かるからそこ注意すればいいかな?



 メリッス殿は……こりゃダメダメだな。

 ちゃんと書けているものが一枚もないってダメすぎるだろ。


 ん? でも算術が絡む部分はミスは減ってる気がする。

 先日の指摘をちゃんと聞いてくれてるんだな。

 ついでに文章自体は伝わるから問題は誤字脱字がメインかな?


 となると、二人とも間違って覚えている部分を教えるのが一つ。

 それと、文章のパターン化かなぁ?

 同じパターンの文章を書類に使うようにすれば間違いの可能性も減るだろう。

 原本を用意して、それそのまま真似すればいいんじゃね?

 下手に使い慣れない文章を扱うよりかはミスも減るだろうしな。



 後、算術はなぁ……。

 事細かく計算の流れを見せてもらってミスのパターンを調べる位か?

 とはいえ、時間的にそこまでの余裕はないから今日は無理だな。



 他の面々のチェック結果も見せてもらったが、大体パターンは同じようだ。

 なら……ちょっと文章作ってあげるか。



 うちの面々に話すと、納得してくれたようで書類の原本作りに協力してくれた。


 数パターンの原本を作り、この書き方に合わせて書類書いてみるよう説明する。

 実際数枚やらせてみると……書き写しミスが十数枚に一回発生する位。

 一枚に十数ヵ所ミスがあった最初に比べて雲泥の差。




 ……なんか二人に拝まれてしまった。




 その後、ビーティ殿達はサクサクと書類を作る。

 マーニ兄達が戻ってくる頃には残り数枚までたどり着いていた。



「ニフェール、何やったんだ?

 ここまで進むのは想像してなかったんだが?」



 原本作ってパクらせたと説明すると、名状しがたい表情をされてしまった。

 何と言うか「よくやった!」と「マジでやったの?!」を足して二で割ってる?



「……そこまでやらないとダメだったか」


「チェックしてみると、似たようなパターンで誤字脱字が発生しているんだよね。

 なんで、その部分の記載を固定化した。

 そうすれば悩まずに原本に書いてあることをそのまま複製すればいいだけ。

 ミス無く仕事できるよ?」


「マジで助かる!

 ……ん?

 文章の誤字脱字はこれで対処可能。

 んじゃ、計算部分は?」


「今日は時間的に無理!

 忘れた? 僕は門限前に帰るんだからね?」


「いや、そりゃ分かるけど……あ、原因究明に時間がかかるか?」


「そう!!」



 どこで間違うのか、どこを教えればいいのか僕も分からないからなぁ。

 もしかすると繰り返し簡単な計算をさせてミスの確率減らすとか?

 そんな手を取らなきゃいけないかもしれない。

 となると今日中は絶対無理。


 と、そんなことを説明すると、マーニ兄の表情が暗くなった。



「そこまで手間かかりそうか……」


「原因調査と指導の時間がどうしても必要だからねぇ。

 正直今日だけの手伝いでそこまで対応できないよ。

 原本の件だけで勘弁してほしいな」


「まぁ、そうだな。

 これ以上無理することは無いし、原本だけでもありがたいよ」



 その後、昨日の二人の件を話すと、ペスメー殿が少し納得したようだ。



「確かにホルターについては実家にいた頃も不慣れな所はアワアワしてたな……。

 例えば隣の領地に家族で遊びに行った時とかな?

 となると、昨日は滅茶苦茶緊張してた?

 でも会うのが俺なんだけどなぁ……」


「そこらが何とも言えないんだよね。

 会う人で緊張するなら、昨日は二人とも会ったことある人物だからありえない。

 となると、やっぱり初めての場所ってのが原因なんじゃないかなぁ」



 騎士団の辺りに入ったことは無いはずだし。



「二人とも妙な弱点持ってやがんな」


「弱点あってもスロムは次席だからなぁ……」


「え、あれで次席なの?

 ……まぁ、緊張しやすさと学力は無関係か」


「普段の学園でのアイツなら次席と言って納得されるんだけどね。

 むしろ首席の僕より信用されてるかもしれない……。

 昨日どれだけ暴走したのか知らないけど、よっぽどだったんだね」


「まぁ、なぁ……」



 いや、詳細は聞かないでおくよ。



「んじゃ、そろそろ僕たち帰るね。

 後、もしかすると明日も別件で来るかも。

 修道院ネタで新しい情報入るかもしれない」


「あ、今日だったな。

 分かった、明日放課後に期待しておく」



 そうして僕たちはチアゼム家に戻り、僕は急いで寮に帰る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
俺さあ、ホルターとスロムが暴走したの、文中とは別にも理由あると思う。 つまりはニフェール。 同い年で国の中枢にも関わるほどの能力と(実質)権力、自分らに指導できるほどの学力と武力。 アイツトオレラノナ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ