20
さて、次の日、週末、ベル兄様の婚約の日。
とはいえ、邪魔するつもりもないから今日は勉強一色かな。
ラーミルさんから連絡入るとしたら夜だろうし。
サクサク勉強を進めるが、やはり文官科は難しい……。
できれば六十から七十程度まで点取れればと思うが、これは難しいか?
前回の秋季試験で追いついていなかった指数関数と行列は何とかなった。
後は対数を理解できれば前回の試験までの知識は詰め込めるだろう。
次に冬季試験の算術範囲だと、微分と積分、それと確率だったか?
全部は多分無理だな……微分だけでも喰らいついておくか。
余裕があったら積分としておこう。
確率は後回しだな。
昼時になったので食堂に向かうとホルターとスロムに出会った。
なんか最近こいつら一緒にいるな……とある通りに行ってないだろうな?
「おう、ニフェール。
何してんだ?」
「図書館で勉強だよ?
秋季試験で分からなかったところの勉強。
できれば今日中に終わらせて次回は冬季試験への勉強にシフトしたいが……」
「あんまり頑張りすぎんなよ?」
「むしろお前らもう少し頑張れよ?」
ホルター撃沈。
こういうカウンター来るの想像つかないかねぇ?
「ちなみにどの教科だ?」
「文官科の算術。
またくっそ面倒くさいんだこれが。
訳の分からん記号が入ってきて頭痛いよ。
まぁ、僕だけじゃなくてフェーリオやジル嬢も頭抱えてるんだろうけどさ」
「そこまで面倒なのか?」
「騎士科の算術程度では理解できないレベルだな。
冗談抜きでキツイ……」
スロムから憐れみの視線を送られてしまう。
お前も三科試験うけたらこうなってたんだぞ?
「そう言えば、昨日言ってた音読。
実際やってみたけど確かに読み飛ばしてるな。
あそこまで目が滑ってるのは想像できなかった」
「あぁ、分かる。
僕も同じことやって最初は滑りまくってたからなぁ。
とはいえ、次の試験まで継続してやってればかなり滑る率が減ると思うぞ?」
……なんだよ、なんで驚くんだ?
「え、お前もこれやったの?」
「当然だろ?
やってない奴がこんなやり方思いつくと思うか?」
「やらずとも今の成績を取っていると思ってた……」
スロム、そりゃ無理だ。
僕だって苦労して今の成績取ってるんだよ?
「ちなみに二人はどうしたんだ?
遊びにでも行くのか?」
「あぁ、ちょっと気分転換にな。
お前は午後も勉強か?」
「うん、最近集中して学ぶ時間が無かったからね。
今のうちに遅れを取り戻さないと」
……なんだよ、そんなに呆れた目で見ないでくれよホルター。
「それってフェーリオ様たちに対しての遅れだろ?
あの二人に追いつけるのか?」
「出来るかというより、やるってだけだよ?
まぁ、三年最終試験で二人を越えられるかが目標なんだ。
なので今回の成績は参考程度?
今の実力差が少しでも縮まっていればいいなとは思うけど」
「あんま無茶するなよ?」
「騎士科クラス合併させるほどには無茶しないと思うよ?」
ブ フ ァ ッ !
汚ねえなぁ、そこまで噴き出すほどの話じゃないだろ。
「い、いや、あれと比較してどうすんだよ!」
「でも、教師の説得かなり大変だったんだよ?
実際普通に考えたら無茶苦茶だしね?」
二人は王都に遊びに行き、僕は図書館で文官科算術の続き。
夕方位までガッツリ学んでおくか。
……
…………
………………
う が あ あ あ あ ! ! !
訳分かんねぇ!
午前中の指数の方はまだ理解できたんだけど、対数の方わっかんねえよ!
指数の考え方の逆っていうけど……逆って何!!
なぜかここの説明だけ別の人が書いたかのように説明が足りてない!
分かるように書いてくれよ、全く……。
指数関数の方は分かりやすかったのに、面倒臭くなって説明放棄しやがったか?
ダメだ、一人で悩んでも答え出ないパターンだこれ。
明日の昼食時にジル嬢あたりに聞いてみるか……。
確かフェーリオは秋季試験中に関数系はまだ理解できてないと言ってたし。
そのまま、その日は勉強を諦め夕食を食べて寮に戻る。
頭が破裂しそうだ。
眠ろうとすると、季節外れの鳥の声が。
ピヨピヨピヨ
おや、呼び出しか。
今来るってことはどう考えても婚約関連の話だろうなぁ。
三階から飛び降り、音の鳴った方へ……って、カルにティッキィ?
お前らまで来たの?
「呼んだか?」
「ちょ、ちょっと脅かさないでよ!」
「別に脅かす気は無いんだがなぁ。
呼ばれたから来たんだし」
「いや、近づく時にワザと音出すとかあるでしょ!
怖いんだから!!」
ナット、そこまでビビられても……。
「分かったよ、それでどうした皆で?」
ラーミルさんからの手紙を渡され読んでみるとまぁ、何と言うか。
僕も参加してほしい?
いや、僕はノヴェール家令嬢の婚約者だけど、ニータ家とは無関係なんだよ?
それに単純に僕と仲良くしたいって感じじゃないよね?
ん~、これ皆で相談かな?
ティアーニ先生も混ぜた方がよさそうだ。
皆にラーミルさんに今の考えを伝えてもらう。
明日チアゼム家に向かうことにした。
そして次の日。
合併したクラス最初の授業はティアーニ先生……。
絶対浮かれてるよなぁ。
浮かれないはずないもんなぁ。
戦々恐々としつつも先生を待つと、普通に教室に入ってきた。
浮かれもせず、それどころか必死な表情でこちらを見て来た。
「ニフェール君、助けて!」
「ベル兄様の話なら、今日時間下さい。
放課後チアゼム侯爵家で対策会議します」
「絶対参加するわ!!」
「なら、今は普通に授業をお願いします。
あ、それと今日始めてこのクラスで授業受ける面々。
たまにこういうことあるけど気にしないで。
大人たちが何故か僕に泣きついてくるけどよくあることだから」
「いや、普通気にすんだろ!」
スロム、気にしてもどうしようもないぞ?
午前中の授業を終え、昼食時。
いつものメンバーで食事しながら対数について教えてもらう。
「あぁ、ニフェール様もあのトラップに引っかかったんですね?」
「トラップって……」
「あれ、説明がざっくりし過ぎていて文官科の面々も困ってるそうですわ。
私はクレイから教えてもらって何とかしましたけど……。
フェーリオ様は?」
「つい最近レルカに教えてもらった。
あれはひどすぎる……俺も何度読んでも理解できなかったぞ?
レルカからも『あれ一発で理解できた奴はいません!』と太鼓判押されたしな
でもその後『俺でも三回はかかりました!』とか抜かしてたけど」
何その即死トラップ!
絶対わかんない奴じゃん!!
「……二人とも、基本を簡潔に教えてもらうことできる?」
「まぁ、いいけど」
「私たちなりでよければ……」
二人ともまだ自信ないかな?
とはいえダメダメな僕より教えられるでしょ?
そうして昼飯食いつつ話を聞いてみる。
ふむふむ、 指数の視点で見ると「2を3乗すると8」。
対数的には「2をx乗すると8。xはいくつか?」ということらしい。
あ、xが対数って呼ばれる奴ね。
で、答えはx=3。
初っからそう書けや!!!
真数だの底だの訳の分からない単語だけ羅列するの止めろよ!
全然伝わって来ねえから!!
僕が思ったことを感づいたのだろう。
フェーリオが宥めるように声をかけて来る。
「ニフェール、お前のブチギレそうな思いは俺もジルも良く分かる。
というか、文官科の奴らなら皆納得するだろう。
どう考えてもあの部分だけ作者が記述放棄したとしか思えん!」
「そうですわね。
作者があの文章書いたとき熱でもあったんじゃないかと思いましたもの」
あんたらも結構ブチ切れてるね。
「まぁ、お二人のお陰で少しは勉強進みそうだ。
ちなみに冬季試験の範囲って聞いた?」
「微分積分、あと確率だな。
どれも基本的なことをやるそうだ。
本格的なのは三年になってかららしい」
「まだ現役の面々には届かないか……」
やっと対数だからなぁ……。
「あれ、お前指数とか行列とかは?」
「昨日までに大体終わらせた。
で、そのままの勢いで対数の勉強しようとしたらトラップ発動」
「あぁ……」
そんな憐れみに満ちた目で見ないでおくれ。
「とはいえ、俺たちには接近してるんだな。
俺は微分始めたばかりだ。
ジルは?」
「私も同じですわね。
このペースなら冬季試験のタイミングでギリギリ文官科に追いつくかと」
二人でその位か。
「できれば冬季試験では微分積分位までは把握しておきたいな。
それなら二年の最終試験までに追いつけると思うし」
「だな、ニフェールなら十分追いつくだろ」
こっそり冬季試験の時点で追いつきたいとは思っているけどね。
まぁ、そこはこの後の勉強次第かな。
「ちなみに、昨日の婚約の件はどうなりましたの?」
ジル嬢の質問にざっと答えると呆れた視線を送られてしまった。
「僕が提案したわけじゃないので、その視線はちょっと……」
「あらゴメンナサイ?
でもねぇ、何も知らない方なのかしら?」
「親御さんは理解しているらしいですよ?
兄夫婦がダメダメみたいですけど。
あ、今日チアゼム家にティアーニ先生連れて行って三人で作戦会議します。
そこで情報共有して策を考えないと……」
「なら私たちも参加していいかしら?」
はぁ?
いや、何見物しようと企んでるんですか!
「あまりいいご趣味ではないのでは?」
「雇い主として部下の悩み相談位はしますわよ?」
「その『面白そう! もっと遊ばせて!!』といった表情を消してからですね。
バレバレですよ、性格の悪さが」
「失礼な、こんな優しい雇い主はそういませんよ?」
「初デート覗きに来るような困ったちゃんですけどね?」
僕とジル嬢の間でピリピリとした雰囲気となった時、フェーリオが一言。
「ニフェール、寄り親として命ずる。
俺たちも参加させろ」
こんなところで寄り親権限使ってくるなよ!!
あぁ、ジル嬢もめっちゃ笑顔だし!
ラーミルさん、ゴメン……。
フェーリオ&ジル連合に敗北し落ち込んでいた所に人がやってきた。
レルカとクレイ、そしてその妹兼婚約者のラシ―とニミー。
どうしたんだ?
「おぅニフェール、ちょっといいか?
ラシーとミニーがお前の婚約者と話したいと言ってるんだが」
あぁ、レルカの言ってるのって、もしかしてスケジュール調整かな?
でも今はちょっと無理だよなぁ……。
「それってニコライ先生ボコった日におっしゃられた話ですよね?
ん~、ちょっと婚約の顔合わせが順調じゃなかったので……」
「え、何があったんだ?」
ラーミルさんの手紙に書かれていたことについてざっくり説明する。
「その兄夫婦って大丈夫なのか?」
「むしろ僕が知りたいくらいだよ。
で、今日その対策会議をするんだが、本番は今週末。
今週は情報収集やラーミルさんのお兄さんとの調整がたっぷりになると思う。
なので、その結果次第だね」
「……変なところで苦労してんなぁ、お前」
「今さら言うなよ。
あ、今日ラーミルさんには伝えておく。
他にも厄介事が無いか確認しなきゃいけないからね。
そこである程度スケジュール決めればいいと思ってる
お二人もラーミルさんとじっくり話したいんでしょ?
ワタワタしているタイミングでは難しいんじゃない?」
ラシー&ニミーの二人もこちらの方針を受け入れてくれた。
よかった、これで嫌がられたら対応面倒だったからなぁ……。
その後午後の授業を経てティアーニ先生を連れてチアゼム家へ。
当然フェーリオとジル嬢もついてくる。
……あぁ、ラーミルさんムッとされてますね。
「あらあら、ラーミル?
そんなキツい視線はいけませんわよ?」
「ジル様、侍女の実家の問題に首を突っ込むのは如何なものかと?」
「あら、雇い主として雇われ人の悩みを聞いてあげようとしているのに……」
ねぇ、ジル嬢?
なぜ煽ろうとするの?
なぜか僕がラーミルさんからギロッと睨まれてしまい、平身低頭謝罪しました。
簡単に食堂での会話を説明すると、納得と呆れの表情をされてしまった。
いくら僕でも寄り親の権力には勝てないんですよ……。
「はぁ、もういいです。
ティアーニ、そっちの家ではどうなってますの?」
「学園生だそうだから、実力見てもらおうかなんて言ってるわ。
知り合いに戦える人がいるらしくて、頼んで当日来てもらうとか……」
しょんぼりしながらも答えてくれたが、知り合い?
お兄さんって騎士に繋がりがあるの?
「先生、その人って現在何してる人?
騎士になってるのかな?」
「騎士ではないそうだけど、細かいことは分からないわ」
騎士でない時点で実力見切るなんてことできないんじゃない?
いや、そりゃ護衛系の仕事している人で強い人もいるだろうけど……。
話を聞いても情報が足りてない。
いや、ティアーニ先生のせいというわけでは無いけどね。
この調子だとニータ家で剣術の試合でも求められるかな?
一応先生のお父上の方はちゃんと理解できていて、僕のことも噂で知ってた。
仮に騎士がこれに乗ったら不味いってこと周知しておいてもらうか。
「とりあえず、フェーリオ。
ちょっと頼まれてはくれないか?」
声かけるだけでビビられてしまったのは納得いかないが、話を続ける。
ジャーヴィン侯爵に僕が何処まで壊すか悩んでいると伝えてもらう。
ついでに、知らなかった場合キッツイだろうから事前周知をお願いする。
詳細はベル兄様に聞いてみることも伝えておくか。
まぁ、後はジャーヴィン侯爵がどう判断するかだな。
「どう判断したかは明日の昼飯時に教えるよ」
「あぁ、それでいい」
今後も情報共有することを整理して作戦会議を終える。
皆解散し、僕はラーミルさんと二人だけでお話。
ラーミルさんが男装する?
僕の女装と組んで年度末の踊りに参加?
で、その訓練が明日から?
もしかして先週末の公開処刑を見ずに出て行ったのはこれのせい?
どうも先週末この話をして、婚約顔合わせの前日に一度訓練した?
そして身体がなまっているから僕と一緒に訓練しなおし?
個人的にはラーミルさんとダンスの訓練ってかなり嬉しいんですけど♡
「では、明日パァン先生とノヴェール家に向かえばいいんですね?」
「ええ、お待ちしてます♡」
それと、ラシ―とニミーの事を伝え許可を貰う。
多分【才媛】らしく対応しようと考えたのだろう。
「普段から【才媛】らしいですよ」と耳元で伝えると顔真っ赤にされた。
成程、こういう感じのことを言うとラーミルさんが恥じらうのか。




