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【連載版】狂犬の……  作者: いずみあおば
10:東奔西走
340/361

19

 凹み膝をついているメリッス殿を立たせ、王宮を出て寮に戻る。



 いつもの通り夕食を食べ、自室に戻り考え事。

 実技の指導の流れどうやろうかねぇ。


 今までやってきた剣をしっかり持たせるための訓練は続けよう。


 次は剣を振る訓練。

 八方向からの振るい方の確認と突き方を教える。

 あ、学園の剣が皆歪んでいるからなぁ……木剣でいいか。


 次は……剣と盾を使った基本訓練かな?

 各方向からの攻撃とそれに盾をかざせるようにすること。


 何となく、残り数ヶ月ではこのくらいまでかなぁ……。

 スロム位は越えてくるかもしれないが、他はここまで終わらんだろ。



 格闘も今日の感じから皆アレを見捨てそうだしな。

 基本中の基本である中段突きと下段蹴り位は教えるか。


 後は槍か?

 こちらも同じく中段突きと槍の振るい方を教えよう。


 後は全体的な体力向上のために身体の鍛え方のコツを教える位か?

 走り方とかもここかな?

 残りは三年次の話になりそうだ。



 筆記側は何はともあれ国語系をキッチリ仕込むことからだな。

 読み飛ばしや書いていないことを妄想しないことに注力してもらおう。

 それができたら算術を一年からやり直させるか。


 多分筆記系は実技系よりも進みが遅かろう。

 急いでもここまでだろうな。

 スロムが何処までできるのかが分からんけど。



 後は心構えかなぁ。

 筆記がどれだけ重要なのか理解しないまま学ばせられている感じだ。

 騎士になるのに必須であること理解させてしまえば少しはやる気出るかな?


 ……現在の騎士でまともそうな方にこの辺り説明してもらうのがよさそうだ。

 とはいえ、当人たちが実力無いのに説明なんて無理だろ。


 今日のビーティ殿やメリッス殿の出来では頼むの無理だよなぁ……。

 都合のよさそうな人物か……マーニ兄やラクナ殿はちょっと地位が高すぎる。

 もうちょっと下で期待できそうな人物か……いや、二人程思いつくけどね。


 あの人たち呼んで皆の前で筆記の重要性を語ってもらうか?

 騎士が説明してくれるなら学園生たちも信じるだろうし。


 馬の面倒とか野外対応とかはまた後で考えるか。



 そんなことを考えながら眠りにつく。




 そんなこんなで二日後。

 明日は週末、ベル兄様の婚約顔合わせ。

 加えて、騎士科二クラス体制最後の日。


 来週から普通に授業できるようにするため、隣からの受け入れ準備を始める。



「ハイハイ、さっさと荷物運びなさい!

 元クラスの人たちは隣のクラスの面々が入れるように机の配置を急ぎ変更!」



 なぜか、オーミュ先生とパァン先生が面倒見てくださっている。

 ……なんで?

 パァン先生はこの後に話し合いがあるということだったんで納得なんだけど。



「ニフェール君、ぼんやりしないの!」


「すいません。

 でも、どうしたんです?

 オーミュ先生が対応するのは予想外だったので驚いてます」


「……ティアーニに任せようかと思ったのよ。

 でも、あの子今浮かれまくってて仕事振るのが怖いのよねぇ」



 確かに、明日本番だからねぇ。



「あぁ、明日が顔合わせですね。

 でも、浮かれるより緊張しないんですかね?

 ベル兄様は受け入れてもらえるでしょうけど。

『うちの子でいいんですか?!』とか言われそうな気がするんですけど?」


「それは私も考えたわ。

 でも、あの子がそのあたり考えられる状況にないからねぇ……」



 あぁ、もう諦められたのか。



「ほら、あの子のことは置いておいて、机の配置直しなさい!」


「イエッサー!」



 大急ぎで机を並び替え、隣から机を入れる。

 少々人数的にキツキツだが、何とか皆一クラスに纏まった。



「これで終わりよね?

 なら来週からこのクラスで授業を行います。

 時間割はそこの黒板見ておいて。

 今日までに互いのクラスの進捗は合わせておいたから困ることは無いはずよ。

 来週から新しいクラスで学びなさい!

 では、解散!」


「あ~、すまない。

 僕に教えて欲しいと思っている面々。

 ちょっとこのまま残って欲しい。

 指導の方向性について説明したい」



 オーミュ先生はそのまま職員室に戻られた。

 パァン先生は見てみたいとのことだったので、そのまま待ってくださっている。


 クラスの面々はキョトンとしている面々が多いな。

 とはいえ、スロムは即刻確認してきた。



「ニフェール、どんな話になるんだ?」


「まず実技系の指導について説明。

 次に筆記系の説明ってところかな?」


「……実技は元々の予定だったからまぁ分かる。

 筆記ってのは?」


「勉強の仕方だな。

 現時点で皆一年の頃の学んだことが歯抜け状態になってないか?

 もしくは、勉強したのに点数が上がらないとか?

 そのあたりについて簡単に説明しようかと思ってる」



 クラスの面々が少しは興味関心を持ってくれたようで、全員残ってくれた。

 とはいえ、お手並み拝見といった雰囲気の奴らも結構いるな。



「さて、まず実技系の話だな。

 元クラスメートは知ってるが、隣の面々は知らないからここで説明する。

 まず剣については僕は武器落としを狙うから落とさないようにして欲しい」


「おいおい、武器落とし位簡単に避けれるだろ?」



 こいつ、隣のクラスの奴だな。

 名前は知らんが。



「同じクラスの奴らは誰もこれをクリアしてないが?」



 ざわつくクラス。

 もしかしてすぐにどうにかなると思ってた?



「……冗談だろ?」


「事実だ。

 カッコつけず落とさないようギュッと握っとけってだけなんだけどねぇ」



 小さな声で「ホントかよ」「ホントだよ」と囁き合う声が聞こえる。

 ったく、何で嘘だと思うんだろうなぁ?



「んで、それがクリア出来たら初めて剣の振るい方を指導するつもり。

 なので、現時点で両クラスとも同じスタートラインに立っていると思って。

 まぁ、元のクラスの面々が一歩も進んで無いってだけなんだけど」



 何恥ずかしがってんだ?

 恥じる位ならさっさとクリアしてくれ。



「そんな難しいのか?」


「どうなんだろ?

 僕的には先ほど言った通りギュッと握って離すなってだけなんだけどね。

 皆カッコつけたがってるから」


「カッコつける?」


「普通の剣の持ち方で耐えきってやるとか?

 むしろ僕の剣を落としてやるとか?

 そんなことしてる暇があったらさっさとクリアしてほしいんだけどね」



 スロムの質問に答えると、元クラスメートたちは顔を赤らめそっぽを向く。

 そんなの見せられても誰も反応しないからな?



「で、次は槍だが――」



 そんな感じで実技系の指導法を一通り説明した。



「――こんなところかな。

 質問等ある?」



 やっぱりというべきか、スロムが挙手してきた。



「他にも色々あると思うが、そいつらは指導しないのか?

 例えば斧とか?」


「そこまでお前ら覚えきれるのか?

 剣だけでも一歩も進んで無いのに?」


「あ……。

 なら、お前は今年度はどこまで進むと考える?」


「分からん。

 カッコつけるの止めたら結構進むかと思う。

 でも、今の一歩目で躓く奴らの多い事を考えるとなぁ……。

 最悪は一歩も進まない。

 良くて剣の振り方、槍の操り方辺りかなぁ。」


「そんなもんか……」



 まぁあまり期待し過ぎないでおくれ。



「皆のやる気次第だから正直僕としては何とも言い難いんだ。

 とはいえ、カッコつけるの止めたら一部は剣の振り方に入れると思ってるよ?

 そこまでの一歩を踏み出せるかは皆次第だから」



 他に質問は無いようだね。



「次に筆記系だけど、なにはともあれ本を音読してほしい。

 自分がちゃんと読めてるか、そして途中読み飛ばして無いかを確認してほしい」



「なんだよ、そんな簡単なこと」って言いたそうだね?



「なぜと思うだろうけど、試験の時に読み飛ばした挙句に点を落としてない?

 勉強して分かっているはずの設問落としてない?」



 お前ら、一斉に視線背けんなや。

 ちゃんと現実を見ろ!



「そういう読み違い、読み飛ばしを無くすために音読しろって言っている。

 これなら僕がいない時でも自力で勉強できるよね?

 それがちゃんとできるようになれば、他の教科も勝手に点数上がるから」


「おいおい、そんな冗談だろ?」


「先ほど言った読み飛ばしによる減点が消えるだけで一・二問正解増えない?

 それも、教科問わず点数上がるんだよ?

 一科目一問三点としても、十科目あったら三十点アップだよ?

 やる価値あると思わない?」


「……確かにあるな」



 説明に納得してもらえたようでホッとする。

 これでもダメなら話にならんしなぁ。



「ちなみに、音読以外は今まで通り授業を受けて次回の冬季試験の結果見てみな?

 クラスの何名が僕の説明を信じて音読して、点数上がったか確認しよう。

 その結果を見て今後も僕の指導を受けるか判断したらいいんじゃない?」



 そこかしこから「確かに」とか「そんなうまくいくか?」とか聞こえてくる。



「音読だけなら別にそんな時間かからないし、放課後少し読めばいい。

 本一冊読めという気は無いしね。

 毎日一ページから二ページを読んで読み違いや読み飛ばしが無ければOK。

 簡単でしょ?」



「まぁ、確かに簡単だな」とか「そんなんでいいの?」とか言ってるな。

 そりゃ、難しい事お前らに言ってもやってくれないだろ?



「で、皆に確認だが、試しにやってもいいって人どれ位いる?

 挙手してみて?」



 ざっと七割の面々が手を上げてくれた。

 これならまぁ、実績として十分だろう。



「よし、なら今手を上げた面々。

 必ず冬季試験までの間、一ページでもいいから音読してくれ。

 そして読み飛ばし等無い事ちゃんと確認してくれ。

 その結果、冬季試験で皆がどれだけ点数アップしたか確認しよう」



 頷く面々。

 これなら大丈夫かな?



「そして、手を上げなかった三割の面々。

 あなたたちは普段通り試験勉強すればいい。

 ただ、今の面々の冬季試験の結果を聞いた上でやる気が起きたら声かけて。

 不信感だらけの状態でやっても大して成果出ないだろうからね」



 残り三割も同様に頷く。

 もしかして、面倒なこと先発組にやらせてしまえとか思ってるのかな?

 まぁ、周回遅れになっても知らんけど、そのあたりは自業自得だし。



「さて、取り合えずここまでだけど質問ある?」


「音読以外しなくていいのか?」



 やっぱりスロムか……。



「やることはいっぱいあるよ?

 でも今は信用を得ることの方が大事。

 音読程度もやれない奴が僕の指導をまともに聞くと思えないしね」


「まぁ、確かにな」


「それに、皆が何処までやる気あるのかこちらも知りたいのがある。

 ちなみに、音読の後は算術を一年からやり直しの予定。

 皆が算術ダメなのは入学前の時点で苦手意識あるとか?

 一年次に苦手意識がこびりついたとか?

 どっちにしても一番最初がダメな気がする」



 一斉に頷くなよ!

 そこまで自分で分かってるのなら対策自分で考えやがれ!



「でも、僕の指導を信じられなければいくら言っても意味無いでしょ?

 だから、冬季試験までは音読一本でやるつもり」


「信用か……順位的な信用ならこれ以上ないほどにあると思うんだがなぁ」


「まぁ、そっちはね。

 でも指導となると今回が初めてだから、そりゃ不安にもなるさ。

 とはいえ、七割の面々が音読やってみると言ってもらえたのは嬉しいよ?」


「その程度で済むからだな。

 これが面倒な指示ならもっと減ってただろうよ」



 そこは想像していたからねぇ。

 だからこそ簡単な手段を選んだんだし。



「そんな訳なんで、まずは今言った感じで進めるつもり。

 当然、いきなり数日学園休むとか遠征帯同を求められるとかあると思う。

 でも可能な限り教えるからついてきてくださいね?」


「うぃ~っす」



 取り合えず一通り説明終えて解散。

 皆クラスから出ていき、パァン先生と僕だけになる。



「ニフェール君、教師やりません?」


「相手によっては言葉より先に手が出そうだからやめときます。

 正直自分をそこまで信用できないんで」


「結構あの子たちをコントロールできてたと思うんですけどねぇ」



 あいつら、喧嘩売っては来ないからねぇ。

 レストやトリス、プロブのような奴がいたら手が出そうで怖いんですよ。



「まぁ、そこはいいでしょう。

 で、今後の訓練なのですが……ラーミル嬢から聞きました?」



 へ?



「いえ、昨日は会ってないので」


「なら、週末か来週初め辺りに連絡行くと思いますので、対応お願いしますね」


「……どんな対応です?」



「秘密です♡」



 御年が僕の最低五倍程度の方がそんなことしてどうするんです?

 冷たい視線を送ってあげると流石に恥じらいの心を取り戻したようだ。

 一つ咳払いをして――



「そんなわけで、今日の訓練は無しとしましょう。

 ラーミル嬢のお兄さんの婚約話とかあると聞いてますし、忙しそうですしね」


「……まぁ、丸め込まれてあげましょう。

 急遽僕の力が必要ならすぐにでも連絡来るでしょうし」


「おや、そんな伝手が?」


「そりゃ、どれだけ昼夜問わず動き回っていると思っているんですか?

 緊急対応できるようにはしてありますよ」



 なんか呆れられてしまったが、仕方ないじゃない!



「まぁ今の話は聞かなかったことにしときます。

 では、次回お願いしますね」



 そう言ってパァン先生も職員室に戻られた。

 何するつもりなんだろ?


 不安を感じつつもこれ以上悩んでも仕方ない。

 そのまま僕も時間空いたので勉強するために図書館に向かう。


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― 新着の感想 ―
二フィールのやり方がマニュアル化されて、全先生の手元に行くことになるのですね(^^; そして来年からそのマニュアルに沿って下級生や上級生への指導が始まり、二フィールの二つ名が「狂犬先生」と全生徒に認識…
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