15
さて、ジーピン家領地から大急ぎで王都に戻ってまいりました。
いや、行きと同じようにマーニ兄たちのサカリフィールドは毎夜発動してます。
王都到着後、ロッティ姉様とラーミルさんを届ける。
ついでに侯爵、もしくは侯爵夫人との会談を求めるとすぐに会えるとのこと。
応接室に伺うとお二人がスタンバっていた。
「お久しぶりです侯爵、侯爵夫人」
「おやおやマーニ殿まで、どうしたんだ?」
「実は……」
ジーピン領で発生した誘拐未遂事件について一通り話す。
そうすると、チアゼム侯爵は苦虫を嚙み潰したような表情を見せてきた。
「一応儂も王宮で働いているからジーピン家の訴えも聞いておる。
ただ、流石に三派閥にまとめて喧嘩売るような輩が見つかるるとは……。
それも誘拐未遂と言うのは正直想定していなかった。
よく見つかったな」
ここは正直に話すか。
「ジーピン領でも未成年の頃の悪戯を辞められない者がおりまして……。
そういう奴らがこの犯罪に乗ってしまったようです。
運悪く、私どもの父もそいつらがまだ未成年と勘違いしてまして。
結果、気づくのがギリギリになってしまってます。
正直、色々偶然が重なった結果であります。
一つでも取りこぼしたら見つけられなかったかと」
「なるほど、で、今回の会談の目的は?」
「まずスティット家の事についてお聞きしたく。
三派閥にまとめて喧嘩売るようなイカれた家なら有名かと思ったのですが……。
学園でも聞いたこと無い家なもので」
あぁ、と侯爵は納得し簡単に説明して頂いた。
「貴族派は基本的に自分の家が儲かるのなら他が奪爵されても構わない。
こういう考え方の家が多い。
ただ、流石にそれが大々的に広言してしまうような事態は避けている」
普通はそうでしょうね。
バレたら「殺られる前に殺れ!」となるでしょうし。
「スティット家はできるだけこっそり儲けようとしていたがなぁ……。
どうも脇が甘いのか内部統制がちゃんとできていないのか情報が漏れやすい」
うわぁ、絶対情報渡したくない家だ。
積極的に広めたがる家も不味いが、こちらはもっと不味いな。
前者は噂を流すのに使える家だけど、こっちは味方にいてほしくない家だ。
「なので国王派や中立派からすれば貴族派情報の入手源になることがある。
だが、今回の件で貴族派との縁も切れるだろうから潰して構わんよ」
潰滅許可入りました~。
とはいえ、簡単に潰せるかはアゼル兄の頑張り次第だけどね。
「ありがとうございます。
あと、裁判当日にロッティ姉様とラーミルさんをお借りしたいのですが……」
「あら、それくらいなら構わないわよ。 でも、何するのかしら?」
アニス侯爵夫人がちょっと不安そうな表情で聞いてくる。
まぁ、気持ちは分かります。
自分たちの侍女を裁判に連れて行くなんて言われたら不安でしょうし。
「今回の捕り物の際にお二人に手伝っていただいたのです。
相手側が何か言い出した時に発言できるようお越しいただきたいなと……」
「ふぅん?」
あ、あの、アニス様。
めっちゃその笑顔怖いんですけど!
「あの二人はどんな協力をしたのかしらぁ?」
ちょ、ちょっと誰か助けて!
マーニ兄……って、目を逸らすなや!
侯爵様……って、「無理無理」って何?
「ねぇ、どんな協力ぅ?」
……あ、こりゃ逃げられないや。
「えぇと、その……犯罪者を捕まえるのに囮が必要で……。
その囮要員として僕とアムルが……女の子に扮して……」
キ ュ ピ ー ン ! !
え?
ちょっと待って、そこまで暴走するの?
ジャーヴィン家の母子は確かにそんな感じだったよね?
チアゼム家でも同じなの?
「ほぅ、ならちょっと見せてもらってもいいかしら?」
え、これ、まさか?
「あぁ、あの二人を呼ばないとね。
ちょっと待ってて!」
大急ぎで姉様とラーミルさんを呼びに行くアニス様。
残された僕たちは……。
「ニフェール君、諦めてくれ」
「兄として弟の自己犠牲の精神を尊敬するよ」
おいマーニ兄、ふざけんな!
犠牲になりたくてなっているわけじゃねぇんだよ!
もっと文句を言ってやろうと思ったが、アニス様が二人を連れて戻ってくる。
予想通りではあるが、ロッティ姉様はヤル気まんまん。
ラーミルさんは哀れな子羊を見るような目で僕を見ている。
「さぁ、ロッティ、ラーミル。
囮としてニフェール君を女装させた手口を見せて」
とても危険な笑顔のアニス様に従い大喜びのロッティ姉様。
そして諦めの表情のラーミルさんが僕を化粧し始めた。
正直、その後はあまり覚えていない。
アニス様とロッティ姉様が暴走した。
僕に似合いそうな化粧だけでなく服装・宝飾まで検討し始めて……。
終わったのが夕方。
その間マーニ兄は一切助けてくれなかった。
「あ゛~、皆様ご満足いただけましたでしょうか?」
「えぇ、とっても!」
アニス様、サカリフィールド起動時のロッティ姉様のようです。
暴走するのもそのせい?
「で、お二人を当日お借りしてよろしいでしょうか?」
「えぇ、問題ありませんわ。ただし……」
何でしょ? もう疲れたので大抵の話なら通しますよ?
「ちょっと仲間たちとお手伝いしようかと思って」
仲間たち?
どう考えても危険なお仲間に感じられるんですけど。
具体的に言うとカールラ姉様やサプル侯爵夫人辺りのジャーヴィン家最終兵器。
「ダメと言っても無駄なんでしょ?」
「あら、分かってるじゃない♡」
カールラ姉様でよ~く理解しましたから。
「あ、それとあなた!」
「は、はいっ!」
あ、力関係がもろバレですね。
侯爵、ご苦労様です。
「この件でどうせ相手側はジーピン家の事を嘘つき呼ばわりすると思うの。
男が女装して騙されるほど愚かではないとか言うんじゃないかしら?」
あぁ、確かに言いそう。
「なので、ニフェール君とアムルちゃんをとてつもなく美しく見せましょう!
そして、その誤った考えを打ちのめそうと思うのだけど?」
相手だけじゃなく僕にもダメージが来るのはご検討いただけないんでしょうね。
「それに、王妃様も見たいだろうし!」
ちょっと待って!
王妃様もそっち側?
嘘でしょ?
「あ、大公夫人にも声かけとかなきゃ!」
この国大丈夫か?
本当に大丈夫か?
「そんなわけで、当日私たちも見に行きますので」
「……はい」
侯爵、頑張ってください。
それと、面倒な火種持ってきて申し訳ない。
話――ほぼ着せ替えだったが――も終わり、チアゼム家を出ようとする。
そこでロッティ姉様とラーミルさんがやって来た。
ロッティ姉様は……あ、いいです。
遠慮なくマーニ兄とイチャイチャしてください。
「その……今度いつ会いましょうか?」
ラーミルさんからのデートのお誘いが♡
「裁判始まる前に一度一緒にいたいなと思ってます。
他は学園でちょっと勉強しようかなと……」
「あれ、そんな成績危うかったでしたっけ?」
「いえいえ、そんなことは無いです。
ですが、うまく言ったら男爵位を賜れるんですよね?
なら今のうちに最低でも領主科程度の勉強は独学でもやっとこうと思いまして」
ラーミルさんをちゃんと食べさせないとね。
こちらの想いはともかく、爵位に見合った学びが必要なのは理解されたようだ。
「確かに、今後の為にも勉強は必要ですね♡」
「ええ、本当に♡」
ええ、二人の結婚の為にも頑張りますよ。
そんなことを話しながら次回のデート予定だけ立ててお別れした。
なお、マーニ兄はこちらの会話中もずっとイチャイチャしてた。
いや兄さん、あなたは宿に帰りなさい!
それから学園で勉強したり。
ラーミルさんとデートしたり。
ジャーヴィン家からも同じ話&女装要望が来たり。
カールラ姉様の伝手で色々な女性陣が化粧協力することが本決まりになったり。
とまぁ、色々なことがあって。
さて、裁判当日。
ジーピン家一家、王宮で待機してます。
「アゼル兄、あのおっちゃんは?」
「王都の牢屋で待機だ。
ちなみに、プロスは貴族牢に移っている」
「おっちゃん以外の犯罪者は?」
「私がジャーヴィン領から戻ってすぐ引き渡した。
アイツら、私に滅茶苦茶礼を言ってきたよ」
「やっぱりプロスが悪者になったからアゼル兄を恨むことが無くなったか」
本当にチョロいな。
「ニフェール、お前の方は大丈夫か?」
「女装の方ならもうあきらめた。
覚悟も何も、後は好きにしてって感じだよ」
そこの兄ども、納得するな!
何なら一緒に女装するか?
「兄様、頑張りましょうね!」
アムルが拳を顎の近く持ってきてギュッと握りしめて言い出す。
かわいすぎて別の意味に聞こえるぞ。
ナニを頑張るつもりだ?
まぁアムルの事だから真面目に裁判で勝つことを言っているだろうけど。
まさか女装頑張るってわけじゃ……ハハハ、ナイナイ……無いよね?
さて、法廷に向かい現在陛下がお越しになるのを待っている。
チラッと周囲を見回すと、大公、公爵、そして五人の侯爵。
って、侯爵以上全員参加じゃねぇか!
僕の時と違って全員参加ってかなり大事になってるな。
となると、事前に三派閥に被害を与えていること情報を漏らした?
チアゼム侯爵の方を見ると、僕の視線に気づいたのか僕にウィンクしてくる。
隣のアニス様が僕と侯爵を見て息を荒げているんですが?
怒って……いや、ロッティ姉様化してるのか。
こちら側はジーピン家一同が座り、対面側はスティット家一同が座る。
が、スティット家側が一人しかいない?
それもやる気ないみたい?
いや、こんなところで鼻ほじるな!
汚ぇなぁ!
そんなことを考えていると陛下が法廷に入られた。
王妃様も連れて来ていらっしゃる。
なぜか上気した表情なんだが?
……確か、アニス様が声かけるとかおっしゃっていたよな?
……もしかして王妃様もロッティ姉様化?
「さて、時間となりましたので裁判を始めましょうか」
「うむ、進行はセレバス宰相に任せる」
中立派のセレバス宰相とノリズム陛下の会話により裁判が始まった。
まず今回の訴えをアゼル兄から陳述を行う。
陛下以下事前に情報は渡っているはずだが、内容が内容なのでやはりざわつく。
スティット家はというと特に感情を表に出すようなことは無かった。
「ふむ、ではスティット家三男プロスの申し出を」
「はい! ジーピン家の陳述は全て誤りである!
私は名誉を傷つけられたことに対し賠償を要求する!」
は ぁ ?
「第一、いつ私が犯罪を犯したというのだ!
貴様らの街に入っていないだろうが!」
お前らが馬車を止めていたあたり、あそこは街の範囲だぞ?
まさかとはおもうが、畑や果樹園も範囲内だからな?
「そして、私が誘拐?
どこでそんなことをしたって言うんだ?
誰を誘拐したというのだ?」
僕とアムルを誘拐したよな?
「さあ、答えよ!」
意気揚々と戯言をほざくプロスの目の前で溜息を付き呆れるアゼル兄。
まぁ気持ちは分かる。
以前アンジーナ子爵エフォットやレストと対峙した時に感じたあの感情。
同じ言葉をしゃべっているのに会話が通じない。
同じ国にいるのに同じルールが守れない。
こいつもその類なんだろう。
メンドクサッ!!
「まず、私どもの街に入っていないという発言だな。
プロス殿が馬車を置き野営した場所は我らが街の果樹園と畑の境目。
あそこも街の範囲です」
「へっ?」
アンタ、周りを見てないね?
「二つ目、プロス殿が誘拐したというのはおかしいですね。
プロス殿は誘拐の教唆をされたのです。
実際に誘拐していないからといって犯罪では無いというのはおかしなことです。
貴族なんだから学園で習ったでしょ?」
「え、あ、その……」
アンタ、勉強苦手だね?
「それと、プロス殿の発言が正しいか否か。
証人を用意しております。
その方に後ほどお越しいただきましてどのような罪を犯したのか。
これらを答えていただきましょう」
「しょ、証人だってぇ!」
アンタ、人徳皆無だね?
「最後にプロス殿が捕まった際に連れ去られかけた者を連れてきております。
あなたがヨダレを垂らして喜んだ相手からの断罪の言葉を聞きなさい!」
「くっ……(あの娘達が来るのか……♡)」
アンタ、あの娘に惚れ……いや、勘弁してくれ!
いや、真面目に思い出して笑顔になるな、気色悪い!!
アゼル兄、哀れまないで!
スティット家は……あれ、この状態でも反応なし?
もしかして、プロスが勝手にやったとか言って家としてはバックレるつもり?
「さて、先ほどの証人をお呼びいたします。
この者はプロス殿が今まで商人のふりをして国内で誘拐をしたことを知る者」
アゼル兄の説明の後、おっちゃんが入ってくる。
捕まえたときと違って、すこしこざっぱりとしてないか?
あの時は髪の毛がフケと脂でギトギトだったのに。
スティット家は何か変な反応をしているな?
プロスは全く反応してないけど。
もしかしてこのおっちゃんのこと忘れた?
「そなたはプロスが誘拐していたのを知っているということで合っているか?
どのようにして知ったのか?」
「知ったというより、一緒に誘拐のきょうさ……でしたっけ? をしやした。
その土地で悪そうな、そして頭の軽そうな奴を選び出しまして……。
誘拐しやすそうな嬢ちゃんを選びやす。
そこで人がいるところで嬢ちゃんに愛の言葉を言い続けるよう指示しやす。
そして街の人間が勘違いしたのを見計らって夜に誘拐しやす」
宰相の問いに淡々とおっちゃんは回答する。
周りが誘拐の手口に唖然としているところに追い打ちをかける。
「一緒に声かけた奴も街から脱出させれば駆け落ちしたように見えやす。
駆け落ちでは犯罪じゃありませんから追いかけるのも難しい。
俺たちゃ安心して逃げられるってもんです」
プロスがわなわなと震えて怒りをぶちまけようとしている。
だがそばにいる衛兵たちが邪魔でおっちゃんを抑えられず悶々としている。
宰相はニヤリとし、おっちゃんからより情報を得ようと動き出す。
「今まで誘拐実行した街を教えて欲しい」
「へい、確か……」
ジーピン領で説明した街の名を挙げる。
三派閥それぞれが治める街での犯行。
それに各公爵、侯爵たちからどよめきの声が起こる。
特に、貴族派の二侯爵から殺意のこもった視線がぶっ刺さる。
別派閥の者であっても(あ、終わったわ)と思ってしまう。
「そこで誘拐した人物はどこに運んだのかね?」
「スティット家の領地にある集積所にいったん集めてますね。
そこからいろんなところに飛ばしているみたいですぜ。
以前ちょっと話を聞いた限りでは他国にも流しているとか。
まぁ、詳細は集積所の場所教えますからそちらで聞いてくださいや。
誘拐実行犯の俺より詳しいでしょうからな」
「お前ぇ!!」
プロスが騒ぎ出したが今更遅い。
スティット家も今更慌ててもねぇ。
衛兵に押さえつけられプロスは何もできない。
スティット家もこっそり後ろに衛兵が待機している。
逃げられませんねぇ。
「先の場所を誘拐の場所と決めたのは?」
「プロスから聞きましたが、プロスがだれから指示を受けたのかは知りやせん」
「ほぅ、プロスよ、誰から指示を受けた?
それとも貴様が決定したのか?」
宰相の睨みにプロスはしばし黙った上で「……兄上だ」と吐いた。
スティット家からは「嘘だ、俺は指示なんてしていない!」と騒ぎ出す。
あれ、兄貴なのか?
だが、誰も信じない。
まぁ三派閥まとめて喧嘩売ったんだから消えるのは目に見えているんだがね。




