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その後かなり時間がかかったが、何とか皆が落ち着きを取り戻す。
死体二つは婆さんの部下たちが持って行ってくれた。
ありがとうございます。
僕の行動で元強盗ギルドの面々も現状の自分たちの立場を理解したようだ。
自分たちが長になれるとは限らず、むしろ処刑対象の可能性があることを。
まぁ、気づくのが遅すぎるけどね。
「さて、少しは静かになったことだし話を進めようかね。
まず、元詐欺師ギルドの面々から確認したい。
今回三組来ているが、それぞれ言い分を聞こうか」
互いに視線を交わし、アルツが代表して説明を始める。
「我ら元詐欺師ギルドは一時的にではありますが、別れて行動を取ります。
理由ですが、カジノ・貸金業・詐欺師を纏めて面倒見れる人物がおりません」
え、いや、お前らいるじゃん。
「ダメンシャ様並とまでは言いません。
ですが、三つを平等に見れる人物でなければ仕える気にはなりません。
そして自分らは互いの領分で手一杯です。
今後、統一管理できそうな人物を見つけましたら改めてご相談させてください」
あ、そういうことね。
って、どう考えてもダメンシャを神格化してない?
「それ故、元詐欺師ギルドをお呼びの際には三ギルドまとめてお呼びください。
また、都合上来れない者がいたときの周知はこちらで行います」
言ってるは理解できるし下手なことするよりこいつらに任せた方がいいな。
ただ、何となくこいつら別の理由ありそうな気がする。
ぶっちゃけ、ダメンシャという推しが亡くなってしまった。
なので次を見つけるまで待ってるだけじゃね?
何と言うか……偶像崇拝?
婆さんたちは特に気にせず、三組での統治を認めた。
まぁ、下手に弄るより任せた方がよさそうだしね。
「では次、元強盗ギルドの者達。
今回来たのは四組、乞食・スリ・ストリート管理を元々やっていた面々。
そして強盗部門担当でかつ暴動時に消されなかった者だね。
今日までの時点で、そなたたちの中ではどういう話になっているか聞きたい」
婆さんの質問に先ほど側近を僕に殺されたオブスが我先にと言い出した。
「はっ!
俺たち強盗部門が全てを掌握するのさ!」
「いや、無いですね」
「んなわけないだろ」
「寝言抜かすなボケ」
お前ら仲いいだろ?
なお、ポストス・アゴラ・パンの順で指摘していた。
ツッコミへの連携に熟練の技を感じたんだが?
婆さんたちは呆れつつも話を続けさせるために何とか話を繋げていく。
「あ~、まず各々はどうするつもりか説明してくれ。
まずパンから」
言われてパンは朗々と発言し始めた。
最初に見た時唯一覚悟決まっていただけあって婆さんに負けない気合を感じる。
声の感じからすると、婆さんに負けない位の歳なのかな?
「わしらはオブスたちと袂を分かち、別ギルドとしてやっていきたい。
今回の暴動もわしらに一言の断りもなくやりたい放題。
巻き込まれて怪我した者もいる。
同じギルドの者と思われたく無いし、正直迷惑しとるんじゃよ」
オブスに唾でも吐きかけるかのように睨みつける。
まぁ、言い分が正しいのなら気持ちは分かる。
「元々わしらは以前六ギルドに整理されるまで勝手にやってきたんじゃ。
それを連絡の都合上強盗ギルドに纏められただけ。
ここにこだわる必要は一切無いのぅ。
なので、以前の六ギルドに戻したいのなら別のギルドの下につかせてほしい。
オブスと違って、わしら自身で維持できる程度には稼いでいるからなぁ」
「テメェ!!」
オブスが騒ぐが、即刻婆さんに一喝される。
「やかましい!
邪魔するんじゃないよ!!
次、アゴラ、説明しておくれ」
あぁあぁ、婆さん落ち着け?
血圧上がると大変だぞ?
何となくなんだが、同じ回答が繰り返されそうだな。
「俺たちもパンの爺さんと同じく別ギルドとしてやっていくつもりだ。
理由も同じ。
ただ、個人的に言えばパン爺さんやポストスに隔意は無い。
関わりたくないのはオブスだけだな」
「おれらストリート側も先のお二人と同じ意見だ。
オブス共を食わせるために仕事しているんじゃねえんだ。
稼げねえ奴らは自滅してくれ、おれらを巻き込むな」
ん?
なんか変な感じがするんだけど?
この疑問を解消するべく、婆さんに発言を求めた。
「確認なんだが、先の三組は元々ザイディから資金貰って無いの?
先ほどのポストス殿の発言からすると持ってかれるだけに聞こえたんだけど」
互いに顔を見合わせ、パンの爺さんが代表として説明してくれた。
「そこの坊の想像通り、わしらは一切資金を貰っておらん。
そして、儲けた分から上がりを取られている。
だからこそあいつらと縁を切りたいんじゃ。
自分らだけで、もしくはこの三組で動く分には仲良くやっていけると思うがの?
まともに金も稼げず、金を回さない奴らと組んでも損でしかないからなぁ」
うっわぁ、そりゃ関わりたくもなくなるわ。
「つまり、元々強盗ギルド自体が嫌いだけど六ギルドの都合上我慢していた。
でも、貴族からせしめることも出来なくなった強盗に集られ続けるのは嫌。
別に他の配下に回されても痛くも痒くも無い。
むしろ、そこが自前で金稼げるのなら仲良くしたいくらい。
こんな感じ?」
「的確な発言じゃの。
その通り、わしらは無駄飯食いの為に働いているわけでは無いのじゃよ。
だからこそあそこまで暴走するオブスたちとは縁を切りたい」
そう言って、僕へ向けた視線を婆さんの方に向ける。
それも怒りを纏った視線で。
「ピロヘース、わしらは元々望んでいなかった編入を受け入れてやったのじゃ。
この希望位は飲んでもらうぞ?
それが嫌ならそなたの所でオブスのバカ共を面倒見ればいい。
できるのならな」
そう言って婆さんを睨みつける爺さん。
え、そういう裏話もあるの?
「……そうだねぇ、関わりたくないという言い分は理解できる。
そして、過去に協力してくれたことも分かっておるよ」
なんだろう、普段と違う声色?
普段の声とは違う、何か……甘え?
え、まさか、そういうこと?
ちょっと聞きたいけど聞けないよなぁ、これ。
周りを見ても感づいている奴はいな……いたぁ!
ルーシー、鼻息荒い!
落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない!!
「パン、そなたのギルドを中心として強盗ギルドを維持するのは?」
「先ほど言った通りじゃよ。
ただ飯喰らいをさせることは出来ん。
とはいえ、こいつらは暴れるところが無いと金を稼ぐことができん」
「もう少しまともな対応ができる奴はいなかったのかい?」
「数の多寡じゃな。
今強盗一本で食って行こうとしている奴で一番人を集められるのがこいつだ。
まともな奴はいないわけでは無い。
だが、そいつを無理に長にしようとしたら確実に第二回暴動が始まるぞ?
また王都を血の海にするのか?
まぁ、その血はこいつらの血なんだろうけどな」
やっぱり……。
となるとどうしようかねぇ。
オブスがまともになるのは期待できない。
それに最近の王都を考えると、どうしても強盗ギルドがまともになって欲しい。
ただでさえ北部が邪魔してくる。
王都内だけでも堅固な組織にしないと冗談抜きで骨抜きにされる可能性がある。
となると、手っ取り早いのってオブスとその取り巻きを処刑。
乞食とかが分割するのは受け入れる。
そしてまともな奴を長にして少ない人数からやり直しって感じかな?
ただ問題はそいつが期待できるくらいにまともかどうかだなぁ。
パンの爺さんに聞くしかないか。
そう考えていると、パンの爺さんからとても熱い視線を感じる。
え、婆さんと僕呼んでさんぴいとか?
と、慄いていたら何か指動かしている……ってこれ何か伝えようとしてる?
僕それ使えないよ?
困惑しているのが分かったのか一旦視線を逸らす。
そして、僕からティッキィに視線を移して何か伝えようとする。
成程ね、知ってそうな人に翻訳を頼んだのか。
予想通り、ティッキィが僕の傍に近寄り、呟く。
「パンの爺さんから、この話し合いの後に時間をくれと伝えて来た」
「了解って伝えて」
ティッキィの返答に向こうも納得したのか視線を背ける。
話し合いねぇ……多分同じこと考えてそうだよなぁ。
ただ、それをカルではなく僕に?
となると……僕の正体に気づいている?
元々、乞食組は情報収集を主にしている可能性は考えてたけど……。
既にバレてるのかな?
まぁ、その時はその時だ。
そんなことをしていると、他ギルドも参加して色々話し合っていた。
だが、オブスの存在が邪魔をして進まない。
流石に時間も押してきたので、婆さんも今日ケリつけるのを諦めた様だ。
「とりあえずもう時間も遅いから今日はここまでとしようかね。
まず、元詐欺師ギルドについては今日話した方向性で承認しようかね。
だが、今後も相談してギルド代表としたい人物を探しておくれ」
「かしこまりました」
「元強盗ギルドは今のままでは承認できない。
なので、後日改めて話し合いの場を設けるかね」
「はっ!
俺に任せればそれで終わるだろうがよ!」
ザイディより馬鹿だな、こいつ。
あれはまだ事態をそれなりに理解していたぞ?
それなり、だけどな。
「で、すぐに金無くて泣き付くか暴れるだけだろう?
お前如きがどうやって部下の腹を満たすんだい?
妾達は暇じゃないんだ。
戯言に付き合ってられないよ」
そう言って解散宣言して終了。
一部の面々がチラチラ僕の方を見てから帰っていく。
具体的に言うと、生産と商業。
……これって、パンの爺さんの合図をかなりの面々が見て関心を持った?
ってことは当然カルや婆さんも感づいたよね?
まぁ、新人共が気づかなかっただけマシなのかもしれないけど。
「さて、パン。
お前のニフィへの話はここを使うかい?」
「あぁ、使わせてもらおうか。
というかピロヘース、お前は知っているのか?」
「何のことかによるねぇ。
でも、一つだけ。
国が滅ぶからニフィを怒らすな」
「まぁ、わしとて死にとうない。
お前の回答から答え合わせはほぼ出来たしな」
あ、バレましたか。
流石乞食と言いつつ情報収集担当は違いますね。
「で、ニフェール・ジーピンよ。
そなたはなぜこの場にいる?」
「一応暗殺者ギルドの若手の有望株。
兼務で裏の長?」
カルを見ると呆れてやがった。
そんな顔するなよ。
「あ~、パン爺。
こいつは俺たちを滅ぼす気は無い。
それどころかウチがやらかした件で殺さずにいてくれたんだ。
もしこいつが本気出したら、そして家ごと暴れ出したら確実に俺たちは死ぬ。
そこは分かるだろ?」
「まぁなぁ、お前の前の長がこいつの親にボコられてたしなぁ。
ティッキィもそうじゃろ?
それでもお前らが生きている時点でそこまでは想像つく」
「なら、何を知りたい?」
「なぜここまでわしらに都合のいい行動をとるんじゃ?」
都合のいい、ねぇ。
まぁ言い分は分かるけどさ?
説明しようとし始めたカルたちを手で制して説明する。
「まず、僕は王宮にも出入りしている。
その位はパン爺さんもお気づきだと思うけど?」
「あれだけ動き回れば乞食内の情報に簡単に引っかかるわな。
むしろ隠す気無いじゃろ?」
まぁ、そこまで気を使ってられないし。
「こちらにも余裕が無いんだ。
やること多すぎてね。
学園生だってのに、最近は学ぶ時間より国に手を貸すことの方が多いし」
パン爺さん、哀れそうに見ないで!
涙が止まらないから!
「詳細は省くけど、王宮側でも色々あってね。
こちらと協力して邪魔者共を潰せないか検討中なんだ。
……婆さん、今日の第一部の件を説明してもいい?」
「パンなら構わないよ」
その謎の信頼感は何?
うちの女性陣が情報吐かせたくてうずうずして……あれ、シフォル嬢も?
トレマ殿、呆れた目で見ないであげて。
乙女……かどうかは知らないけど、こういうのに興味ある人はいるんだから。
許可を貰ったので、第一部の話を説明する。
爺さん、「どこも馬鹿は同じか」とか言わないで。
多分、あいつら裏ありそうだし。
「――で、その件って実は王宮や貴族も関わってるっぽいんだ。
なので僕としてはこの件を利用して王都を平穏な場所にしたいなと思ってる。
パン爺さん、僕が今まで何してきたかある程度は分かってるんでしょ?
その中に犯罪者ギルドでもまともな奴らを潰したことあった?」
「……無いな。
むしろ、本来わしらがやらなければならない事を面倒見てもらっている気分だ」
「こちらも皆に協力してほしいことが出てくると思う。
なので、いきなり危険視しないでもらえると嬉しいかな。
すぐに信じてもらえるとは思ってないけどさ。
それと、強盗ギルドについて爺さんはどうしたい?」
爺さんは少し悩み、でも決然と言い放つ。
「オブスとその配下を消したい。
そして、一部のまともな奴らに継がせたい。
あいつらならわしらが手を貸してもいいと思っている。
ちゃんと自分たちで稼ごうとしているようだしな」
「……カル、働く気ある?」
「嫌だと言ってもやるんだろ?」
なんか僕がイジメてるような言い回し止めてくれない?
うち、ブラックじゃないはずなんだけどなぁ。
「今のうちに王都の犯罪者ギルドをまともな状態にしないとまずい気がする。
何となくだけどね」
「……北部か?」
「うん、あちらに尻尾振る奴が出てきたら正直対応しきれないと思う。
今のうちに意志統一は必須かな」
どう考えても向こうはこちらを下に見ているように感じるんだよねぇ。
「どうせ何かやっても動かないんだろ?」みたいなこと考えてるんじゃないの?
「なら、早々に処分するのかのぅ?」
「まずはオブス配下がどれだけいるのか。
それとどこを本拠地にしているのか。
その辺りをパン爺さんに調べて欲しい。
流石に以前の場所は使わないんじゃない?」
「そうじゃな、あの惨劇があった場所に集まるとは思えんし」
だよねぇ、近寄りたくもないだろうし。
「なので今の居場所が知りたいな。
追加で、パン爺さんが言ってた信じられる人物とやらを説得しといて。
そこまで僕たちがやる理由が無いし」
見捨てるような物言いだけど、強盗ギルド内の話になるんだよねぇ。
オブスを消すのは依頼者がいそうだよね?
具体的に言うと元詐欺師ギルド。
でも、強盗ギルドが今後どうするかは暗殺者ギルドが口出しするのはねぇ?
違うでしょ?
「わかった、説得はしてみる。
ニフェールとしては強盗ギルドが一枚岩の方がいいんかのぅ?」
「無理にそこまで求めない。
でも、できるなら纏まって欲しいかな。
強制する気は無いし、まずは邪魔なオブスを消す方が優先。
ちなみに、急がなくていいよ?
建国祭前には終わらせたいけど、今日明日やらなきゃいけないことじゃ無い」
建国祭にはテュモラー家の者も王都に来るんじゃない?
面倒事運んでこないはず無いんじゃないかな?
「ふむ、了解した」
「それと、ここではニフィって呼んでね?
さっきの坊でもいいけど。
一応そのために変装もしているんだから」
「あぁ、だからトレードマークの頬の傷が無いのか。
うまく隠したものよのぅ」
「これでもちゃんと隠せるように勉強したんだよ?」
パン爺さんの質問も終わったので、僕からも大事なことを聞いてみる。
「パン爺さん、ちょっと一つ聞きたいことがあるんだ。
言いづらいかも知れないけど、できれば正直に答えて欲しい」
真面目な顔で問いかけると、覚悟を決めた顔で諾を返してくれる。
「パン爺さんとピロヘース婆さんとの関係性を教えて欲しいな♪」
ブ フ ォ ッ !
パン爺さんが噴き出すと同時にうら若き女性陣が歓声を上げる。
「い、いや、それはちょっと……」
「興味津々な女性陣、取り調べ任せていいかな?」
「「「お任せ下さい!!!」」」
ルーシーにナットにシフォル嬢。
イイ獲物を見つけたとばかりにパン爺さんを追い詰めていく。
……あれ、婆さん止めないの?
「今更恥じらっても仕方ないだろう?
もうそんな歳じゃないよ。
まぁ、パンの奴は照れまくっているようだけどね」
「おや、つまらないことで。
……もしかしてパン爺さんってカルのような感じだった?」
「おい!」
カル五月蠅い!
「カルよりかはマシだねぇ。
最低でも自分から襲いに来てくれたしねぇ……。
というか、カル並とか言ったらこの事態にならないだろう?」
「確かに、そりゃそうだ」
「おいぃ!!」
カル、日ごろの行いって大事だよ?